EVやBEV、HEV、PHVなど、数多く存在する電気自動車向けのアーキテクチャはすべて大なり小なりバッテリーを積んでおり、バッテリー制御は次世代車両には欠かせない要素である。しかし、ユースケースや構成によって使い方や制御は変化し、求められる要件も次第に厳しくなってくるため、この作り込みは一筋縄ではいかない。ここに向けてInfineonが提供するのが、こうした複数の要件に柔軟に対応できるBMS(Battery Management System)である。このソリューションの強みについて、インフィニオン テクノロジーズ ジャパン株式会社の林直樹氏と全英守氏にお話を伺った。

  • オートモーティブ事業本部 林 直樹氏、全 英守氏

Infineonが提供するBMSソリューションの全容

Infineonが提供するBMSソリューションは、BMU(Battery Management Unit)を中核に、電池セルのモニタリングとバランシングを行うTLE9012DQU、電流センサーのTLE4972とシャント電流検知用のPSoC HV PA、圧力センサーのKPxxxシリーズ、絶縁プリレギュレータのAUIR2085、絶縁トランシーバのTLE9015、さらにBMU用のMCUやPMIC、ハイサイド/ローサイド用スマートスイッチなど、BMSに必要となる主要なコンポーネントをすべてInfineonからワンストップで提供できるのが大きな強みとなっている。

  • 高電圧バッテリー マネージメント向けトータル ソリューションをご提供

まずBMSの要になるのが、セルの電圧モニターとセルバランサーであるが、ここに投入されるTLE9012DQUの構造のポイントは以下の2点だ。

  • 16bit/12chのΔΣADCを搭載、12セルのバッテリーの動向を同時に取得できる
  • これとは別にSAR ADCを搭載、こちらは12セルの電圧をΔΣADCとは別に取得できる
  • TLE9012DQU: 12チャンネル ASIL-D 対応 セル バランシング/ モニタリングIC

これはISO26262 ASIL-D対応を睨んだもので、2種類の方式で検知を行うことで正常動作を担保すると共に、冗長性を確保する仕組みだと林氏は説明する。また、メインとなる12chのADCは、物理的に12ch分を搭載している。通常こうした用途では1つのADCに12chのSwitchが入り、これで高速に切り替える方式が一般的だが、電圧変動は短時間で起きるので、切り替えが入るとそれだけで時間が遅くなり、測定したデータとバランシングするときに変化してしまう可能性があると全氏は指摘する。これを排除するために、12ch分のADCを搭載したということだ。またTLE9012DQUでは、パッケージ上でセンサー部を取り囲むように温度/歪率センサーが配されている。

  • TLE9012DQU: ロバストネスとパフォーマンス

これによって経年変化で測定値が変化しても随時自動補正が可能になり、製品寿命の段階まで当初の測定精度を維持できる。また、このTLE9012DQUは自動車向けに実績値で故障率0.1ppm未満の製造プロセスで製造されているそうだ。 このTLE9012DQUの測定結果をBMUに取り込む際に利用できるのが、2Mbpsの絶縁型UARTトランシーバであるTLE9015DQUだ。

  • TLE9015DQU: 絶縁型UARTトランシーバーIC

特徴は2本のUARTポートでRing Busを構成できること。TLE9012DQUはこのRing Busにデイジーチェーン式に接続する形で、全セルの監視が可能になる。 バッテリー監視では、圧力検知も重要である。とくにLi-Ion系のバッテリーでは白煙・発火事故が起きる可能性があるので、これを未然に防ぐためだ。バッテリーに異常が出る場合、まずセルの異常が起き、これに伴って急激にバッテリー内部の圧力が上がることで熱暴走に繋がる。これを放置すると発火を引き起こす場合があるため、その前にバッテリーの変調を圧力センサーで検知、未然にそのセルを切り離すなどの方法で事故を防ぐことは、GTR(世界統一技術規則)でも策定されている指令である。これを実現する方法として、電流電圧の測定で検出するのが現在は一般的であるが、欧州ではバッテリーセルの膨張による圧力変動を検出するというニーズが、特にOEMを中心に出て来ているということだ(林氏)。Infineonは既にこのニーズに答えるXENSIV KP2xxという圧力センサーをラインナップしている。BMS側に大気圧測定用センサーを一つ搭載、それとバッテリーパック内にも圧力センサーが配され、両方センサーの圧力を比較することでバッテリーセルの圧力変動を随時測定、GTR20指令に沿った形でのバッテリーセル監視システムを構築できる。

  • バッテリー熱暴走検出のための圧力センサー

さらに、バッテリー全体での電流監視も当然必要になる。これに向けて同社は既にTLE4971というコアレス電流センサーを提供しているが、とくにBEV向けに関しては2種類の電流測定方式を使う要望が多いと林氏。この測定には同社のPSoC HV PAシリーズ+AUIR2085が利用可能である。たとえば、ハイサイドにTLE4971、ローサイドにシャント抵抗を配してPSoC HV PAを利用して電流測定を行うという形で、これもISO26262 ASIL-Dの達成に必要な冗長性の確保と、異なる手段で測定を行うことによる信頼性の担保に貢献することになる。

  • 電流センサー シャント抵抗検出とホールセンサー

こうしたセンサー類からのデータを基にバッテリー制御を行うのがBMUである。Infineonがここに提供するのがTriCoreという1999年から提供している信頼あるアーキテクチャである。BMU向けにはAURIXの第2世代であるTC3xファミリーというTriCoreベースのMCUが用意されているが、TriCoreシリーズは通算8億4500万個以上、AURIXシリーズに限っても3億2000万個以上が出荷されている実績を持っている。もちろんAURIX TC3xファミリーをそのまま使っても、一からBMSを構築、カスタマイズするのは大変であるが、ここに関しては既にCDD(Complex Device Driver)を含めた開発キットが同社から提供されている。

  • TLE9012DQU: AURIX™ 第2世代向けCDD(Complex Device Driver) を用意

全氏によると、CDDというのはデバイスドライバに加えてBMSの構築に必要なミドルウェアに分類されるようなソフトウェアをセットにしたものであり、顧客でのアプリケーションソフトウエアの開発をサポートすることができている。現在はBMSの評価用ソフトウェアと、AUTOSAR準拠のRTE(Run time Environment)/BSW(Basic SoftWare)を前提としたリファレンスソフトウェアを提供中である。また、これとは別に、独自の(AUTOSARのライセンスが不要な)BMSソフトウェアについても今年第3四半期にはトライアル版を、第4四半期には量産版をそれぞれ提供予定であり、これらを利用することで迅速にBMSの開発が可能となる。 また、仮にバッテリーの状況を長期に渡って記録・保存したい場合、AURIX TC3xファミリーに外付けする形でFRAMを接続することで、10年以上の記録を保存することも可能である。

次々世代まで利用可能なBMSを実現

余談になるが、Infineonは現在、第3世代のAURIX TC4xファミリーを開発中である。現在はファーストシリコンを主要顧客向けに提供中という段階で、量産開始は2024年後半を予定しているが、このAURIX TC4xでは大幅にプロセッサ性能も上がり、大容量FlashやPPU(並列処理ユニット)、CAN-XLなど様々な新技術が搭載、AIの利用も可能になる。このAI技術はBMS向けにも、予測制御や仮想センシング、SoH(State of Health)/SoC(State of Charge)アルゴリズムのさらなる進化などに利用可能とされており、次々世代のBMSに要求されるニーズの対応に向けた対策が可能になる。つまり現状のBMSプラットフォームをベースにBMU用のマイコンをAURIX TC4xに変更することで、次々世代まで利用可能なBMSができあがるという訳だ。

話を戻すと、AURIX TC3x向けのPMICとして今年発表されたのがTLF35585である。TLF35585は汎用PMICであり、EooC(Safety Element out of Context)としてISO26262 ASIL-Dを取得しており、出力の強化や待機時消費電力の削減、AEC-Q100 Grade 0への対応など特徴は多いが、BMS向けとしてはMCUの監視機能も持っており、MCUに障害が発生したらそれを検知してバッテリーからの電力供給を止めることもできる。

  • バッテリー マネージメント ブロック図例

ただ、たとえば走行中にMCUが障害を起こしたとして、直ちに電力供給を止めたら、いきなり道の真ん中で車が停止することになりかねない。そこで、障害を検知してからバッテリーからの電源を遮断するまでに、一定の待ち時間を持たせるといったことも可能になっている。 ここまでに説明した以外のコンポーネント、たとえば電源遮断用リレーを駆動するリレードライバなどについても、同社から適した製品が提供される。既に全製品提供可能であり、もちろん評価用ボードも用意されている。また、先に説明したように、要となるBMU用の評価・開発用のソフトウェアも既に提供されている。すべてのコンポーネントがInfineonからワンストップで提供され、しかも今すぐ開発をスタートできる。BMSの開発予定がある方は、一度InfineonのBMSソリューションを検討してみてはいかがだろうか。

  • オートモーティブ事業本部 全 英守氏、林 直樹氏
セル モニタリングおよびバランシング用TLE9012DQU
TLE4972電流センサー
PSoC™ HV PA (High Voltage Precision Analog)
AUIR2085絶縁プリレギュレーター
TLE9015DQU絶縁UARTトランシーバー/ レシーバー
AURIX™マイクロコントローラー
TLF35585 PMIC
PROFET™ハイサイド スイッチ
HITFET™ローサイド スイッチ

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