議決権電子行使プラットフォームを提供している株式会社ICJ では、これまでWebデータベースパッケージソフトなどで運用していた、社内業務管理のためのデータおよびその管理用アプリケーション を、テラスカイの提供する画面開発ツール「SkyVisualEditor」を活用してSalesforceに移行した。Salesforce標準の開発機能では実現が難しいインターフェースを実現することで、利便性と業務効率の向上に貢献している。今後もSkyVisualEditorによる内製で社内業務をSalesforce上に順次集約し、さらなる生産性向上を図っていく計画だ。

株式会社ICJ(以下、ICJ)は、上場会社が開催する株主総会のプロセスのデジタル化を図る「議決権電子行使プラットフォーム」を運営している。従来、株主総会の開催にあたっては、株主宛に招集通知や議案書といった文書が送付され、株主による議決権の行使は「行使書」の返送で行われるというのが基本だった。

しかし、こうしたアナログな文書によるプロセスは、通知から株主の意思確認までの時間が長くなり、その準備から実施にかかるコストも大きくなりがちだ。こうしたプロセスを効率化し、上場会社と株主との間のコミュニケーションを充実させることを目指しているのが、ICJが運営する議決権電子行使プラットフォームだ。

ICJで総務部長とデジタルソリューション部長を兼任で務めてきた宮司和幸氏(公開時現在は総務部長職) は議決権電子行使プラットフォームの加入者が増えている背景をこのように説明する。

「2015年に金融庁と東京証券取引証券所が、上場会社向けの企業統治の指針、『コーポレートガバナンス・コード』を策定しました。そこで、上場会社は株主総会において株主の権利行使に係る適切な環境整備を行う旨が示されたのですが、さらに、その改訂が行われる中で、特にプライム市場の上場会社について議決権電子行使プラットフォームの利用を促進する旨も示されました。こうした流れの中で、当社のサービスを利用する上場会社や国内機関投資家が急速に増えてきています」(宮司氏)

現在では、約1,600の上場企業がICJの議決権電子行使プラットフォームに加入しており、証券市場における重要なインフラのひとつとなっているという。

  • 提供:株式会社ICJ_2022 年 3 月末の議決権電子行使プラットフォーム参加状況等について

    議決権プラットフォーム参加社数の推移

情報提供:株式会社ICJ
https://www.icj.co.jp/icjv1/wp-content/uploads/2022/04/ICJ_Press-release_20220407.pdf
2022 年 3 月末の議決権電子行使プラットフォーム参加状況等について(引用日:2022年5月27日)

既存アプリケーションのサポート終了に伴い内製でのSalesforce移行を決断

同社では、2004年のサービス開始以降、事業規模の拡大に合わせて、社内業務のIT化と効率化を段階的に進めてきた。まずは表計算ソフトのファイルによる業務進捗 の管理からスタート。顧客数とデータ数の増大に合わせて、オンプレミスのWebデータベースパッケージを導入し、業務現場のニーズに合わせて、カスタマイズを繰り返しながら利用してきたという。

しかし近年になって、このオンプレミス版Webデータベースパッケージのサポート終了がベンダーより発表される。ICJでは、業務実施や作業管理のための新たなツールを検討する必要があった。

「新しいツールを検討するにあたり、現行の業務プロセスをそのまま移行するだけではなく、業務の効率化や、請求業務のような他の業務とのシステム連携なども推進していきたいと考えていました。利用していたツールのSaaS版なども検討しましたが、他システムとの連携や業務の効率化を進めるうえでは標準機能が不足しており、より機能が豊富で、社内での活用実績もあるSalesforceを活用しようと考えました」(谷口氏)

そう話すのは、デジタルソリューション部 開発チームの谷口恵理子氏だ。同社では、既に機関投資家向けの総会招集通知一覧サービス「Arrow Force」の提供基盤として、Salesforceを採用していた。「Arrow Force」は、SaaSであるSalesforceの特長を活かしながら、要件定義からサービスリリースまでを約5カ月という短期間で実現したプロジェクトだった。ただ、これまでSalesforceは、あくまでも「Arrow Force」の提供基盤としての活用が中心で、社内業務などには活用が広がっていなかったという。

同社では、社内業務向けにSalesforceを利用していくにあたり、現場のニーズに合った画面やデータ連携の仕組みを迅速に作り上げ、変更要求にも柔軟に対応しながら、活用範囲を拡大していくことが必要だと考えた。これを念頭に、デジタルソリューション部 開発チームでは、Salesforce内製化の体制を作っていくことを決めていた。

標準では対応できない画面作成に「SkyVisualEditor」を活用

開発チームでは、当初Salesforce標準の「Lightning Platform」での運用を検討したものの、早々に問題に直面する。

「機能の検証を始めてすぐ、Salesforce標準では当社の業務に合ったアプリケーションの構築は難しいことが分かりました。たとえば、Lightning Platformのリストビューでは、1画面の最大表示項目数が15件までという制限があるのですが、管理日程 や各業務の作業進捗を管理する場合、この項目数では少なすぎます。また、リストビューのデータ検索についてもすべてのデータがヒットするわけではなく、上位2,000件を超えるデータは表示できない、数式項目の検索ができないなどの問題があり、何らかの対応が必要になりました」(谷口氏)

そのほかにも、データの編集にあたって、変更が必要な部分だけをフォームとして画面に出したり、複数のオブジェクトを統合して1つのデータのように画面上に提示したりといったことも、標準のノーコード開発では難しい。そのため同社では、より柔軟性の高い開発手法を検討する必要があった。この課題を解決したのが、テラスカイが提供するSalesforce向けの画面開発ツール「SkyVisualEditor」だった。

テラスカイは「Arrow Force」の開発に関わったパートナーでもあり、谷口氏はテラスカイのイベントなどを通じて「SkyVisualEditor」にも関心を持っていたという。「Salesforceでこうしたことをやりたいと考えているが、SkyVisualEditorで可能か」と相談をする中で「これなら実現できそうだ」という感触を得たという。

「私たちのイメージしていた機能や画面が、SkyVisualEditorで実現可能なことをサンプル画面なども示しながら説明してもらえました。実際の開発は、現在、社内の開発チームに所属する3人の担当者で行っているのですが、コンポーネントの組み合わせで簡単に実現したい画面を作ったり、修正したりすることができています」(谷口氏)

内製の機動力を生かしユーザーが使いやすいアプリを開発

同社では、2020年10月より「SkyVisualEditor」による画面開発を本格的にスタート。以前に利用していたWebデータベースパッケージから、3つのアプリケーションを移行したほか、個別のインストール型アプリケーションとして展開されていた営業部向けセールス管理 システムも、SkyVisualEditorを利用してSalesforce上へ集約したという。

「既存アプリケーションの移行は、Salesforce活用の“第1フェーズ”と位置付けています。このフェーズでは、業務プロセスやユーザーの操作性をなるべく変えないように、かつ、新たな機能やシステム連携によって効率化できる部分については積極的に取り入れながら移行を進めました」(谷口氏)

たとえば、旧ツールで1つ1つの検索条件を「個別リンク」として表現していたために数が増えすぎてしまい、画面としても見づらく必要なフィルタを探し出すことが難しくなっていたが、URLパラメータで検索条件を設定した画面をSkyVisualEditorで作成し、ユーティリティバーに配置することで、シンプルな画面レイアウトと相対日付を使用した検索条件の共有を可能にした。また、フィルタリングのUI、レコードのリストビュー、選択レコードの詳細データについては、ページ遷移を行わず、ひとつの画面上にまとめて表示されるようにしたことで、業務効率を向上させている。営業部向けのセールス管理 システムについては、SkyVisualEditorのタブ機能などを駆使し、既存アプリケーションとほぼ同等の画面を再現して、ユーザーがスムーズに移行できるようにした。

  • SkyVisualEditorで作成した画面の一例

    SkyVisualEditorで作成した画面の一例:ユーティリティバーに検索条件を設置し、相対日付による検索をスムーズに

そのほか、これまで手作業によるデータインポートが必要だったプロセスについては、Salesforceとデータ連携基盤の「DataSpider Servista」との組み合わせで、自動的にデータが同期されるように改善された。同社では「Arrow Force」の一部として「DataSpider Cloud」を採用し、その後、オンプレミス版の「DataSpider Servista」を導入している。オンプレミスでの運用は、新規サービスの開発依頼に対応する際にデータ活用が柔軟に行える点や、テスト時や障害対応時の設定変更が容易でスピーディーに対応ができる点で、メリットが大きいという。今では開発メンバー全員が、DataSpiderのスクリプトを組んで活用を進めているそうだ。

新規アプリケーションの開発は、開発チームがSkyVisualEditorで画面を作り、それをユーザーに検証してもらいながらフィードバックを反映し、改善を繰り返すという「アジャイル型」で進められている。谷口氏は「インライン編集や一括編集などの操作を行えることや、手作業で登録していたデータが自動連携され業務開始時にすでにセットされているようになったこと、複数サイトを開かなくても作業を行えるようになったことを評価してくれているユーザーは多い」と話す。

こうした、ユーザーニーズに合ったアプリケーションの提供は、Salesforce、DataSpider Servista、そしてSkyVisualEditorの組み合わせで実現される「内製での開発体制」があってこそのものだ。同社では、この体制を作るにあたってのテラスカイのサポート体制についても高く評価している。

「Salesforce開発についての知見の蓄積と、開発のスピード感を高めていくという観点で、当初から内製化を意識していました。その中で、SkyVisualEditorを使いこなしていくために、テラスカイには実装方法の相談など、必要なポイントで随時プロフェッショナルサポートをお願いしています。SaaSのプロジェクト管理ツールを介して迅速に質問への回答がもらえ、場合によっては、簡単なサンプルなども提供してもらえるなど、チケットを有効に活用させていただいています」(谷口氏)

開発体制を強化しながら「デジタル化」と生産性向上を加速

既存の業務ツールをSalesforceへ移行する“第1フェーズ”の目処が付き、同社では次の段階である“第2フェーズ”への準備を進めている。第2フェーズでは、まだ社内に多く残されている表計算のファイルベースで管理されているデータ、売上管理・請求業務のデータなどをSalesforceに集約し、さらに業務効率とサービス品質を高めるための仕組み作りを進めていくという。

「社内の業務をさらに細かく見ていくことで、デジタル化による効率アップが可能な領域はまだまだ見つけられると思います。それらを洗い出しながら、より便利になる他システムや他部門の業務との連携を考え、新たなアプリケーションとして実装していくことを目指しています。そのための開発環境として、SkyVisualEditorの今後の機能改良には期待をしています」(谷口氏)

同社では、今後もアプリケーションを最大限に活用するために、開発を内製で行える体制を強化したいとする。ユーザー数や事業の急速な拡大には、Salesforceの活用と、Salesforceを迅速に開発できる組織が必要だと考える。

「上場会社と投資家との間のコミュニケーションが促進される中で、議決権電子行使プラットフォームを提供するICJの事業規模は急拡大しており、同時にその役割の重要性も高まっています。今後も増えていくユーザーからの期待に、限られたキャパシティの中で責任を持って応えていくためには、ITをフルに活用した生産性の向上や業務の効率化は必要不可欠です。現在は3人の開発チームによる内製で、そのための仕組み作りを進めていますが、その仕組みを実際のオペレーション業務に反映し、そこでまた見えてきた課題についてデジタル化を図ることなどを繰り返しながら、さらなる生産性の向上や業務の効率化を目指していきたいと考えています」(宮司氏)

  • 株式会社ICJ 総務部長 兼 デジタルソリューション部長(公開時現在は総務部長職)  宮司氏とデジタルソリューション部 開発チームの谷口氏

    株式会社ICJ 総務部長 宮司氏とデジタルソリューション部 開発チームの谷口氏

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