コロナ禍の長期化によって、出社型勤務と在宅勤務それぞれにおけるコミュニケーションの特徴が見えてきました。ハイブリッドワークへと働き方が移行していくなか、どのような社内コミュニケーションを選んでいくべきなのでしょうか? 産業医の大室正志先生にお話しを伺いました。
出社より高い在宅勤務の満足度
──大室先生は産業医として活躍していらっしゃいますが、改めてその仕事内容を教えて下さい。
産業医という仕事は、もともとは軍医がルーツで、その後、工場や炭鉱などで結核や落盤事故といった傷病対策のために必要とされるようになりました。高度経済成長期における公害や、その後の生活習慣病、メンタルヘルスなど、時代とともにニーズは変わっていきます。当然、今はコロナ禍における働き方や会社の感染対策について多くの相談を受けています。
──マイナビニュースでは、2021年12月に働き方に関する意識調査をおこないました。そのなかで、在宅勤務の方が出社型勤務より満足度が高い傾向が見られたのですが、この結果はどのようにお感じになりますか?
実際に「在宅のほうが良い」という人は多いですよ。理由は大きく分けて二つあります。
一つは、「通勤のしんどさが無くなった」こと。郊外に家を買ったけど通勤時間が長くて大変だった、という人はそれが解消されたわけです。
もう一つは「人間関係のわずらわしさが無くなった」こと。これは業種・職種にもよりますが、エンジニアなど職人気質の人には特に喜ばれています。
日本企業に特有なコミュニケーションとは
──しかし一方で、「出社しないとコミュニケーションが上手くとれない」という悩みも見られました。出社と在宅におけるコミュニケーションのすれ違いはどう捉えるべきなのでしょうか?
コミュニケーションの悩みを考えるうえでは、まず「日本はハイコンテクスト社会」だということを自覚すべきです。コンテクストとは文脈という意味で、ハイコンテクストとは文化の共有性が高いということ。つまり空気が読めるということです。ぼくたちは言葉の裏の意味を瞬時に察しながら、いままでコミュニケーションを取ってきたのですが、そういった「察すること」が、リモートではやりにくくなってしまいました。
たとえば、上司から突然、「××の件、どうなっていますか?」とだけチャットが送られきたとしましょう。つい無意識に、進捗について怒っているのかな……? などと裏の意味を探ろうとしませんか。
「言い方」や「感情」を気にする人は、出社型勤務を望み、リモートワークを嫌がる傾向にあると思います。しかし逆に、ロジカルな人にとっては、リモートの方がむしろコミュニケーションがとりやすかったりします。
「リモートでのコミュニケーションは、発言のニュアンスや個々人のキャラクターなどが読み取りにくい」。まずはこれを前提にして、どうしていくか検討するべきでしょう。
──コロナ禍における職場コミュニケーションの工夫について、どういった事例がありますか?
一つは「ローコンテクスト化していく」ことです。要は「誰が聞いても分かる言い回しにしようね」ということです。料理のレシピに「さっと炒めて」と書いてあった場合、無経験の人は「さっと」って言われても困りますよね。「中火で2分炒めて」と言い換えれば、理解できるようになります。外国人社員が多かったり、ダイバーシティ(多様な働き方)を推進していたりする会社は、こうしたローコンテクスト化の取り組みを進めています。
もう一つは、「リモートでコンテクストを繋ぎ直す」ことです。会議以外の時間、たとえばランチで出入り自由のオンラインミーティングを開催して、自由に雑談することによって、仕事以外の個々人の顔が見えるようにしている会社もあります。あるいは、コロナの状況を見ながらオフ会なども開催しています。
大きくはこの二つの方向性から、コミュニケーションを選んでいくようになるのではないでしょうか。
ハイブリッドワークの"チューニング"
──在宅勤務と出社型勤務を組み合わせたハイブリッド型勤務。最近では「ハイブリッドワーク」と呼ばれて定着しつつある、新しい働き方が注目されているようです。
在宅と出社のどちらが良いと結論付けることはできません。個人の気質や仕事の内容、職種・住環境・通勤環境・ライフステージなどさまざまな変数がありますから、総論としてはハイブリッドワークに向かいつつ、どういう配分でやるかはそれぞれの会社に委ねられていくでしょう。
ハイブリッドワークの配分については、アンケートにも面白い結果が出ているようですね。
──「理想とする在宅勤務と出社型勤務の割合」を尋ねたところ、かなりバラバラの結果になりました。
その人の状況によって理想は変わるわけですから、リアルな結果だと思います。「在宅週3・出社週2がベスト」といった社会的なコンセンサスは生まれないわけです。会社ごと、部署ごと、個人ごとに、ハイブリッドワークをチューニングしていかなければいけない。
働き方改革の世界的な潮流として、「制度に人を合わせる」ことから「人に制度を合わせる」考えに変わっていっています。個別最適化が進んでいくのでしょう。
──ハイブリッドワークのチューニングはどうやっていくべきなのでしょうか?
「そもそも自分たちはどういうコンテクストの会社だったのか」「リモートによってどんな変化が生じており、今後はどうやっていきたいのか」から、考えていくべきです。社風と照らし合わせて、どういったコミュニケーションの取り方が自社のビジネスにとって望ましいのかを、決める時期に来ていると思います。
既にオフィスを持たずにフルリモートで回っている会社もありますし、考えた結果、「全員必ず出社すること」と決める会社があっても良いと思います。大事なのは、我が社はどんなコミュニケーション手法を使うのかということを示し、その社風に合う人を穫っていくことです。
その場合、自社におけるコミュニケーションとは何か、も明示する必要がありますね。
自社にとって「コミュ力」とは何か?
──それは、コミュニケーションを定義するということでしょうか?
「コミュ力」って言葉がありますが、あれほど便利に使われている言葉も無いと思います。ある人にとっては、凄く愛想が良く応対できることがコミュ力ですし、別のある人にとっては、ロジカルに分かりやすく話せることがコミュ力です。感情を伝えることと、情報を伝えることが、両方コミュニケーションと呼ばれています。
コミュニケーションという言葉の裏に潜むこうした要素を因数分解したうえで、「我が社はこういうコミュニケーションを重視する」「だからハイブリッドワークではこうする」と決めていく必要があります。
──会社組織においては、誰がどのようにそうした「自社のコミュニケーション方針」を定めるものなのでしょうか?
人事戦略としてコミュニケーションを分析する立場にある人間といえばCHRO(最高人事責任者)だと思いますが、一般的には人事・総務でしょうか。もちろん経営層を巻き込んで行うことが前提ですが。
──全社でコミュニケーション方針を決めていく中で、上司と部下のような、社内の世代間ギャップはどのようにとらえていくべきでしょうか?
ローコンテクストな会社のマネージャーは大変だと思います。「あのアレどうなった?」だけでなく、いちいち「××の件の〇〇について、この日までに進捗を報告してください」と尋ねなければなりませんから。
しかし、背中で語ったり、見て覚えろというような"親方"として振る舞ったりすることは、もう無理だと諦めた方が良いと思います。それは日本に限らず、世界的な潮流です。これからのマネージャーは、塾の先生になったつもりで、「何か困っていることある? どこが分からない?」と聞いて回る立場にならなければなりません。自分が喋るのではなく、部下の話を上手に聞き出せること。それがこれからの時代の上司に必要な素質となるでしょう。
──ありがとうございました。
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今、ケアすべき心身の問題とその解決策を大室先生に教えていただく連載はこちら。
産業医に学ぶニューノーマル時代のビジネスヘルスケア
第1回 ニューノーマル時代の心のケアは、いかに対面に近いコミュニケーションをつくれるか──産業医 大室 正志先生インタビュー 前篇
第2回 長時間労働から、“長期間”労働の時代へ……、いまビジネスパーソンがすべき身体のケア――産業医 大室 正志先生インタビュー 後篇
インテル® vPro® プラットフォーム
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