土地の利活用や施工・リフォーム、物件の運用管理などトータルで不動産事業を展開し、45年の歴史を持つ大阪府摂津市の協同建設株式会社。同社はより高い安全性、快適な住宅設備を実現するため、Claris FileMaker で「物件管理システム」を開発した。地図上からさまざまな情報を視覚的に把握できるこのシステムは、どのように作られたのだろうか。協同建設と開発を担当したClaris FileMaker 認定パートナー トップオフィスシステムに伺った。
災害から命や資産を守るために、老舗不動産建設会社が取り組むDX
協同建設は住宅・商業ビル・工場・配送センター・倉庫などの建設を手掛け、竣工後の運用・管理まで行っている。代表取締役の北本和志氏は、大手保険会社の情報開発部に在籍していた経験を活かし、積極的にDXを推し進めている。
「私は阪神淡路大震災を経験しました。また2020年から世界的に新型コロナウイルス感染症が流行しています。このような大きな災害が今後も起こり得る中で、不動産会社としても、大切な命や財産を守らねばなりません。
2018年の台風21号では関西国際空港が孤立するなどの被害が発生しましたが、その際にエレベーターが停止してしまいました。メーカーに点検を依頼しなければならないのですが、当時はどのメーカーのエレベーターが入っているかという情報を瞬時に情報把握できず、対処に時間がかかってしまいました。このような出来事からも、建物の耐久性を維持し、有事の際に迅速な対応を実現するためには適切なデータ管理が必要だと学びました」(北本氏)。
同社は賃貸マンションも数多く取り扱っており、その数は約2,100室にものぼる。建物の重要なメンテナンスは築5年目、10年目、15年目のタイミングで行われ、社内には何百棟にもわたる付随設備・空調機器・漏水対策・内装補修などのメンテナンスデータが45年分蓄積されている。しかしその膨大なデータを一元管理するのは難しく、過去にExcelファイルなどで個々の職員が個別に管理していたため、業務が属人化してしまっていたという。
FileMakerを用いたアジャイル型開発
北本氏はDX実現に向けたシステムの開発に向け、さまざまな業界で業務システム開発を手掛けてきたトップオフィスシステム株式会社の池田栄司氏に話を持ちかけた。そして打ち合わせの結果、FileMakerを使って開発を進めることに。
「北本さんからご要望いただいたのは、社内PCだけでなくiPadやiPhoneなど、外へ持ち運びができる端末でも物件情報を閲覧できることです。社員の方が現場に赴くことが多いため、どこでも管理物件の各部屋の設備や写真が閲覧できるようにすることで、効率的な働き方を実現できるシステムを目指しました。また業務の属人化を解消するために、すべての物件情報や施主・地主に関する書類といった膨大な情報の柔軟な管理が求められました。こうした要件をふまえ、FileMaker を活用したローコードによるシステム開発が最適だと判断したのです」(池田氏)。
建設業界では管理項目が非常に多く、これらを整理してから要件定義していくと開発に時間がかかってしまう。そこでトップオフィスシステムは、アジャイル開発に向いている Claris FileMaker を使って、情報整理と並行して開発を進めることにしたという。
こうして2018年3月ごろから「物件管理システム」のアジャイル開発がスタートした。プロトタイプの画面を見ながら打ち合わせが進められ、同年夏には試験運用を開始。トライ&エラーを繰り返しつつ、9月に本稼働が始まった。そのあとも随時バグの修正などが重ねられ、開発が一通り落ち着いたのは10月ごろだったという。協同建設で営業を担当している茂木祐介氏は、当時の様子を振り返る。
「実際に使ってみないと、どこが使いやすく、使いにくいのかという判断がつきません。早期に試験運用を開始してもらえたので、非常に使いやすいレイアウトになったと思います」(茂木氏)。
当初は社内にサーバーを置き、VPNで接続することも検討していたそうだが、膨大な量の図面や写真、見積書が格納される「物件管理システム」はデータ転送量が大きく、ネットワークのパフォーマンス低下が懸念される。そこで採用したのがカゴヤ・ジャパンの「FLEX クラウドサーバー」だった。採用の決め手は、地盤が強固で災害に強い京都府木津川市にデーターセンターがあり、サーバーを有人監視していることにあったという。これはとくに災害時の対応が重要な建設業界の業務をふまえた選択だ。また、データ転送量が膨大なため従量課金制ではコストが嵩む懸念があり、定額制の「FLEX クラウドサーバー」が選びやすかったことも理由のひとつだった。
Google マップ上で物件情報を見える化
約半年のアジャイル開発期間を経て実運用がスタートした「物件管理システム」。その最大の特長は、視覚的に物件の情報を把握できることだ。Google マップ上に物件のピンが表示されるのだが、入居情報や間取り、築年数、大規模改修などに応じて色分けされるため、ピンの色を見れば物件の情報が一目でわかるといった仕組みだ。トップオフィスシステムは、FileMakerとGoogleマップを連携させるAPIサービス「marble+」を組み込み、システムを構築した。
「とくに重要なのは、外壁や防水の修繕状況を色分けして表示できることです。たとえば前回の修繕から5年、10年が経過していることが視覚的にわかれば、優先的に修繕を行ったり、あらかじめオーナーさんと相談して修繕の予算を組んだりなど、適切な対応がとれます。このように修繕漏れを防ぎ、強度を維持することは地震などの災害時に人の命を守ることに繋がります」(北本氏)。
入居率5%増・総粗利20%増……事業に大きな影響をもたらした物件管理システム
こうして完成した「物件管理システム」は導入から3年が経ち、いまも協同建設の基幹業務を支えている。その導入効果は目に見える形で表れているという。
「当社は賃貸マンションを40年にわたって管理してきましたが、入居率が大きく改善されました。導入前の2018年度では約2,100室の入居率は平均93%でしたが、2019年度に平均96%、2020~2021年には平均97.8%、そして2021年末には平均98.7%に到達しました。それに伴い不動産部門の総粗利が20%増加し、経営的にも非常に大きなROIを出しています」(北本氏)。
同社は「物件管理システム」を活用して設備と入居の傾向をつかみ、空いた部屋に対してWi-Fiや宅配BOX、モニターつきインターフォン、追い焚き機能、テレワークスペース、趣味の部屋など、現代のニーズに合わせた設備投資の提案を実施したという。コロナ禍においては入居者の入れ替え時に、室内の消毒と抗ウイルス剤を含んだ塗料を採用するなどの感染対策も行っている。こうした取り組みが高い評価を受け、わずか3年で入居率は約5%も上昇したのだ。
さらに建物の安全性も今まで以上に向上しているとのこと。国土交通省は分譲マンションが本来の強度を維持できるよう、「長期修繕計画標準様式」「長期修繕計画作成ガイドライン」を策定している。この長期修繕計画で求められる修繕周期も、システム上の色分けで把握できるようにしている。
「当社は200棟以上の物件を扱っていますが、地震や台風などの災害でこれまで倒壊などを起こした建物は一つもありません。これは日頃から細かな確認やしっかりと修繕を行った結果だと思います」(北本氏)。
物件管理システムが実現した働き方改革
事業貢献にとどまらず、「物件管理システム」は協同建設の社員の働き方も大きく変えているという。営業担当者として現場で働く茂木氏はシステムがもたらした影響について次のように語る。
「システム導入前は、社員が個別にデータを管理している状況でした。そのため情報を探すのに時間がかかり、正確性を担保するために情報精査も求められました。しかしシステムを導入することで、いつでも・どこでも・だれでも正確な情報を見られるようになりました。これにより業務の効率性は大幅にアップし、各マンションが抱える課題解決にあてる時間を創出できました」(茂木氏)。
物件情報を一元化することで顧客と問題意識を共有できるようになり、商談もスムーズに進むようになったという。また、自宅でも外出先でも情報修正ができるため、情報の鮮度アップにもつながった。コロナ禍においてはスムーズなテレワーク移行を実現。情報をデジタル化したことで属人化を解消し、若手社員の活躍の機会を作ることにも繋がったそうだ。
マルチデバイスにおいて使いやすさを実現するために、トップオフィスシステムの池田氏はUI/UXなど現場中心のデザインにも気を配っている。PCとiPadはある程度共通したUIを使えるが、iPhoneは画面が大きく異なるため、FileMaker 上で接続デバイスを自動判定して専用のレイアウトを表示するようデザインしているという。こうした細やかな対応もふくめ、協同建設はトップオフィスシステムを高く評価している。
「トップオフィスシステムさんはいつもすばやくレスポンスを返してくれたので開発もスムーズに進みました。システム稼働率も高く非常に満足しています」(茂木氏)
課題に対し、不動産の視点を持って貢献する協同建設
デジタル化によって新しいサービスの開発に目を向けられるようになった協同建設は賃貸マンション居住者に向け、さらなるサービス拡充も検討している。そのひとつが、周囲に頼る人のいない共働き世帯の子育てを支援するヘルスサポート(ネット診断)&薬の宅配(処方箋発行)サービスだ。さらに北本氏はアフターコロナにおける建設業界の動向を次のように予測している。
「コロナ禍が終息に向かえば景気が上向きになり、資材は高騰するでしょう。インバウンドが復活すれば、商品を保管する倉庫や生産する工場が必要になりますが、5年前に比べ資材の価格は約5割上がっています。こうした課題に対し当社では一体成形のパーツを用いた建築に着目しています」(北本氏)。
このように社会情勢を不動産の視点で捉え、積極的に課題解決に努める協同建設の姿勢が、DXの取り組むきっかけとなり、結果として自社の売上拡大や働き方改革へとつながり、新しいサービスへの投資に向かっている。最後に北本氏は、不動産は毎日の暮らしにおいて重要なインフラということを忘れずに引き続き邁進し、社会に貢献していきたいと、力強く意気込みを語ってくれた。
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