京王電鉄では新型コロナウイルスの影響により、外出する機会が減少し、それに伴い人との交流や体を動かす機会が減少することが、街の活気がなくなることに繋がりかねないことを課題として捉えていた。
このような課題をテクノロジーの力で解決しようとする取り組みが、「街の花咲かプロジェクト」である。プロジェクトの主体となるのは日本オラクル、京王電鉄、そしてNTTコミュニケーションズ。東京都日野市の協力のもと、高幡不動エリアにてプロジェクトの実証実験が行われた。
「街の花咲かプロジェクト」とはどのような取り組みで各社が協働する背景にはどのような狙いがあるのか。2月24日に開催されたOracle Cloud ウェビナーに、日本オラクル DX推進室 シニアマネージャー兼ジョージ・アンド・ショーン共同創業者/代表取締役・井上憲氏、京王電鉄 戦略推進本部 沿線価値創造部 企画担当課長・澤昌秀氏、NTTコミュニケーションズ ビジネスソリューション本部 第四ビジネスソリューション部 カタリスト 清水邦彦氏が登壇。同プロジェクトにおける各社の取り組みについて語った。
シニア層の外出を促進し、京王線沿線周辺の街を活性化
「街の花咲かプロジェクト」は、主にシニア層の健康増進と街のコミュニティ活性化を目的とした実証実験である。都内高幡不動エリアのUR高幡台団地、UR百草団地に居住する高齢者100名にビーコン(発信機)を配布し、ビーコンを持った人同士がすれ違ったり、実証実験参加店に来店したりすることでポイントがたまる取り組みだ。
たまったポイントは高幡不動駅前にあるフラワーショップに提示することで、花に交換したり、団地内の花壇に花の苗を寄付したりできる。ポイントをためるというお得感と、すれ違いや来店によりたまるイベント感を演出することで、シニア層の外出を促し健康増進や街の活気につなげていく狙いがある。
同プロジェクトの主体となったのが京王電鉄だ。京王線沿線には聖蹟桜ヶ丘、めじろ台、京王多摩センターといった駅があり、その周辺には住宅地が広がっている。京王線沿線は長年、都心部で働く人々にとっての住む場所であり続けていた。だが、近年は状況が少しずつ変わってきたと、京王電鉄の澤昌秀氏は話す。
「沿線周辺の住宅地はずいぶん古くなり、若い世代が流入しなくなっています。少子高齢化も進み、街の活動量の減少という課題が生まれているのです」(澤氏)
そうした課題解決に取り組むため、京王電鉄が2012年に設立したのが澤氏も所属する沿線価値創造部だ。京王線沿線を「住んでもらえる、選んでもらえる沿線」にするために、沿線価値創造部は様々な取り組みをこれまでに行ってきた。そんな中、状況を一変させる出来事が世の中を襲った。新型コロナウイルス感染症の拡大である。
外出自粛や、テレワークなどによる巣ごもりは、街から人を遠ざけ、イベントや地域活動の中止は他者と関わる機会を奪っていった。京王線沿線でも、高齢者を中心に出歩く人が減少し、街の活動量は大幅に減少した。街の活気が減少すれば、街のイメージや沿線価値は低下してしまう。また、シニア層のメンタル不調や健康不安が増長する恐れもある。
そこで京王電鉄が取り組んだのが、withコロナにおける沿線活性化施策だった。街をどう活性化していけばいいのか、ポイントになったのがシニア層に何を提案するのかという点である。
「私たちは、京王グループで提供する移動販売や家事代行サービスといったビジネスを通じ、日々シニア層と接しています。その中で感じるのは、高齢者扱いされたくないシニア層が多いということです」(澤氏)
「見守り」など、いかにも高齢者向けといったキーワードは、実は高齢者にはあまり好まれない。また、仕事はリタイアしていても、社会の一員として役に立ちたいという思いを持っているシニア層も多い。
それなら、イベントのような特別なことでなく、街に出歩くという日常生活によくある行動の中で参加していただける機会があったらどうか。そしてそれが自身の喜びや地域貢献につながる仕組みであれば、街の賑わいや消費の活性化につながるのではないか。そんな仮説から生まれたのが、「街の花咲かプロジェクト」だった。
今後の外部連携も考えてオラクルのブロックチェーンサービスで管理
冒頭でも紹介したように、街の花咲かプロジェクトはビーコンをシニア層に配布し、ビーコン所持者同士が街ですれ違ったり、指定の店舗を訪れたりすることでポイントがたまる取り組みだ。スマートフォンではなくビーコンを使ったのは、シニア層の中にはスマートフォンを持っていない層や、持ってはいるが電話しか使っていない層が多くいるからだと澤氏は説明する。スマートフォンを持っていない層が取り残されないように、極力シンプルなシステムが必要だった。
そこで、ビーコンを提案したのが日本オラクルだった。ポイントをためるには、ビーコンタグを持って出かけるだけ。複雑な操作は一切必要なく、気づくと勝手にポイントが付与されている。ビーコンならではのシンプルな仕組みが、シニア層にも受け入れられた。
さらに、同プロジェクトには、ビーコン参加者であるシニア層に加え、専用スマホアプリで参加する「サポーター」もいる。サポーターは専用アプリをインストールしたスマートフォンを所持していれば、同じように参加者同士とのすれ違いや、店舗への訪問をすることでポイントがたまり花と交換できる。スマートフォンが使えない層と、スマホアプリを使いこなす層をビーコンが橋渡しするわけだ。
このアプリを含めた出歩き促進プラットフォームはOracle Cloud Infrastructureのクラウドサービスで構築し、実行している。Oracle Visual Builderでアプリを開発し、Oracle Autonomous DatabaseやOracle Blockchain Platform Cloudでお客様情報やポイントを管理している。キーポイントはブロックチェーンで管理し、他社とのポイント連携など、今後様々なサービスと連携しやすい環境を構築していることだ。
また、せっかく出歩くのであれば、目的もほしいところである。そこで、京王グループが運営する移動販売車の出番となる。
「移動販売車に出かけたことをきっかけに、地域住人や店舗ドライバーとのコミュニケーションが発生し、外出のワクワク感が創出されます。また、移動販売車での購買をより手軽にするために、移動販売車で購入した商品の配送を行うことも検討しています」(井上氏)
移動販売車をきっかけに生まれるコミュニティ
同プロジェクトの重要な軸となる移動販売車を中心としたコミュニティの形成。これをテクノロジー面から支援するのがNTTコミュニケーションズである。
「NTTコミュニケーションズはフードテック領域で、食の自給率の低下やフードロスの軽減といった『食の持続可能性の追求』に取り組んでいます」と話すのは、同社カタリストの清水邦彦氏だ。
同社は、生産者や飲食店向けの需給予測サービスに加えて、消費者・生産者・飲食向けに情報提供を行うコミュニティサービス「SMART FOOD COMMUNITY」という構想を描いている。SMART FOOD COMMUNITYでは、食材や生産者、飲食店、消費者などの情報が可視化され、食の情報を中心にコミュニティが生まれ、発展していく。まさに、“地元の食のオープンコミュニティ”である。
生産者と消費者がコミュニティでつながることにより、産地直送という流通も一般的になると清水氏は予想している。
「産直が生産者や消費者にとって価値のある方法なら、その中で協力してくれる仲卸業者さんも出てくるはず。その中で、既存の市場流通と産直が融合していくかもしれません。一旦は、産直をやっていきたいと考えています」(清水氏)
コロナ禍で大きな影響を受けた京王線沿線周辺の街。シニア層の外出を促進し、街に賑わいと消費の拡大をもたらす「街の花咲かプロジェクト」は、3月15日でひとまず実証実験を終えた。
同プロジェクトが今後、京王線沿線の街にどのような変化をもたらすのか。新たな展開にも期待したい。
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