製造業設計部門の新常識、「モバイルワークステーション」の位置付け
コンピューターは毎年性能向上するものだが、ここ数年の進化は製造業の設計部門の感覚を大きく変えた。PC単体の性能向上には2つの方向性がある。ひとつはハイエンド機を「これまで以上の性能」で動かすこと。もうひとつは必要な性能を維持しながら「小型化」するというものであるが、ここ数年はこの2つがバランスよく進化した。さらに3D CADのソフトウェア技術がここにうまくかみあった結果、ある閾値を超えた。製造業の設計部門が使う3D CAD用PCはこれまでデスクトップ型が常識だったものが、いまやモバイルワークステーションから選ぶのが常識となったのである。
筆者は複数の企業で同時並行的に3D CADやCAEの立ち上げ支援を行っているため、この変化がバタバタと進む様子がよく分かった。ある企業のPC選定担当者が3D CAD用PCをモバイルワークステーションから選びはじめたかと思うと、ほかの企業でもそのような場面に次々に遭遇した。もちろん私自身もいまや3D CAD用PCはまずモバイルワークステーションから選ぶ。考えてみれば、オフィスと現場、そして出張先やテレワークの自宅を行き来する設計者には本来モバイルワークステーションが適しているのは明白だ。これまでは3D CADが求めるスペックと現実的なPC性能の都合上、仕方なくデスクトップ型から選んでいたケースも多いだろう。
モバイルワークステーション検証スペックと3D CAD
では、モバイルワークステーションで3D CADを動かす場合に、気を付ける点はどこだろうか。ほんの数年前までスペック重視でデスクトップ型から選ぶことが常識だった分野に対して、新常識だからといってモバイルワークステーションなら何でもいいのだろうか?この疑問にこたえるべく、Lenovoの最新モバイルワークステーションThinkPad P1 Gen4の「エントリースペック」と、大規模アセンブリ性能と点群に定評のあるAutodesk Inventorの組合せがどこまで使えるのか検証してみた。
確認したのは、特にマシンパワーを必要とする「点群」・「大規模アセンブリ」・「解析」の3分野である。
「エントリースペック」=最小構成でありエントリーモデルということである。参考までにスタンダードモデル、ハイエンドモデルとともにスペックの一覧を以下に示す。主要なスペックとしてはCPUがIntel Core i7-11800H、ストレージは256GB M.2 SSD、GPUはNVIDIA T1200 Laptop GPUである。
なお、今時ワークステーションの世界では最低16GBが定石化しつつあるため、Lenovoの構成では8GBも組めるが、実用レベルのエントリーという意味で16GBでの検証を行った。
まずは7500万点の点群
最近は装置設計分野でも点群の利用が広がりつつある。設計前の現地調査では、メジャーで一か所ずつ計測していた作業が、レーザースキャナーで正確な3Dモデルを得ることで、測り忘れもなく、干渉物も高精度で把握できるようになる。一方、スキャンデータの容量は大きく、新たなスペック問題が発生するケースもあるため、まずはこれを検証する。
以下はLeica BLK360 3Dレーザースキャナーで取り込んだ7500万点の点群と360°写真をAutodesk ReCap Proで表示して、Inventorにインポートするために変換した例だが、カクつくことも落ちることもなく、ごくごくスムーズに作業が完了した。
さらに、この点群をまるまるInventorに取り込んでみても、表示はいたってスムーズである。
そのまま、この施設の一部に壁に沿ったレールと昇降機をモデリングした。レスポンスの低下など全く感じることなく安心感をもって設計できた。
さらに大規模アセンブリを配置して編集してみた
広大な範囲の点群に、さらに部品点数約5000点のアセンブリを3つ配置した。簡略化などの下処理をしていない工作機械の設計モデルそのものである。画は断面を切っているシーンであるが、中身がしっかりつまっていることがわかる。断面を切る操作もスムーズで、この後この工作機械のある部品の形状を変更したが、いたって「普通」だった。
これはPC性能の向上とCADのグラフィック技術の「劇的な」進化で得られた結果であり、数年前までデスクトップPCでも難しかった大規模アセンブリの編集が、目の前で「普通に」できているということである。なんともあっけない結果であるが、これこそが設計者が長年求めていたものである。言葉にすれば、「大規模アセンブリでも普通に設計したい」ということである。普通とはすなわち、簡略化などの手間のかかる操作や、大きくて高価なデスクトップ型ワークステーション無しに2次元設計の時と同じような機器や手軽さで3次元設計するということだ。気づけば今まで必死に求めていたこの「普通」が目の前のエントリーモデルの中にあった。
技術の進化とはむしろこのような「普通になること」であると改めて気づかされた瞬間になった。
構造解析してみた
最後に、一般的な機械設計でよく行われる規模の構造解析の計算時間も確認した。メッシュ数約3万で10秒とごくごく一般的な、良い意味で普通の結果であった。エントリーモデルでどこまでできるかという本テーマに対しては100点と言える結果である。
以上が、最新モバイルワークステーションLenovo ThinkPad P1 Gen4の「エントリースペック」でAutodesk Inventorはどこまで使えるのか検証してみたら、「普通になんでも使えてすごい」という報告である。
もちろん、これ以上の規模の点群やアセンブリや解析、上記とは異なるCADやシミュレーションソフトを併用する場合には、それに応じてスペックアップした機種やデスクトップワークステーションが必要だ。また、VRでのコラボレーション、AI、IoTなどの要素技術をベースとしたデジタルツイン時代のモノづくりにも上位スペックが必要だろう。
Lenovo ThinkPad P1 Gen 4は、薄型軽量ながら、Xeon W-11855M、64GBメモリー、NVIDIA RTX A5000 Laptop GPUまでサポートするので、次世代型モノづくりに向けた投資としても十分な役割を果たしてくれるものと期待したい。これらの内容が今後の皆さんの活躍のヒントになることを祈るばかりだ。
筆者プロフィール
デジプロ研 CAD/CAEコーディネーター 太田 明
3次元設計/CAE導入立上げコンサルタント、元半導体製造装置エンジニア
Inventor & Fusion 360勉強会、SBD利用技術研究会(SOLIDWORKS系CAEユーザー会)幹事の他、SOLIDWORKSユーザー会、AUG-JP(Autodesk系ユーザー会)、CUG(土木系BIM/CIMユーザー会)などにも積極的に参加。ユーザー同士の学び合いを通して本当に使える3次元設計のノウハウを日々探求している。
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