コロナ禍が3年目に突入し、感染防止の制約が常態化する中、営業活動において、日本企業の「買い手」と「売り手」はどのようなコミュニケーションを交わしているのだろうか?そこには、より柔軟な顧客との向き合い方が示されている。年次調査から見えてくる最新トレンドを探っていこう。

「訪問か」「リモートか」と決めつけず、状況に応じた営業スタイルを

コロナ禍が長期化する今、企業の売上を支える営業組織はどうあるべきか。CRMプラットフォームを提供するHubSpot Japanは、2月16日に『日本の営業に関する意識・実態調査2022』を発表した。その結果からは、「売り手」と「買い手」それぞれの営業に対する考え方や行動が浮かび上がってくる。

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最も注目すべきポイントの一つは、買い手側にとっての「好ましい営業スタイル」を尋ねる設問だ。訪問営業とリモート営業の「どちらでもよい」という回答が38.4%に上り、昨年調査と比べて1.5倍となった。なお、リモート営業とは電話・Eメール・DM・ビデオ会議などを用いた非訪問型の営業手法を指す。

  • 【グラフ】売り手が考える好ましい営業スタイル
  • 【グラフ】買い手が考える好ましい営業スタイル

売り手側である営業組織は、感染予防のためにやむを得ずオンラインで営業を試みているだけで、コロナ禍が収束すればまた訪問営業に戻るものだと考えているかもしれない。しかし、買い手側に「コロナ収束後の好ましい営業スタイル」を尋ねたところ、訪問営業とリモート営業の「どちらでもよい」という回答は41.4%とさらに上昇した。今の顧客は柔軟性を増しており、決して訪問営業だけを望んでいるわけでは無いということだ。

  • 【グラフ】コロナ収束後の好ましい営業スタイル

「訪問営業とリモート営業、それぞれの価値に顧客側が気づき始めた」と、HubSpot Japanの伊佐裕也氏はこの結果を読み解く。

「リモート営業の価値はその機動力にあります。『今すぐ確認したい』という要望に、すぐさま応えることができます。コロナ禍によって半ば強制的にリモート営業を経験したことにより、案外これでも上手くいくんだな、という自信が顧客側についたのでしょう。しかし、大人数で議論したい場合など、リモートには向かないコミュニケーションもあります。売り手側は、リモート営業ありきでも訪問営業ありきでもなく、状況に応じてスタイルを使い分けていくべきでしょう」(伊佐氏)

HubSpot Japan株式会社 シニアマーケティングディレクター 伊佐 裕也 氏

HubSpot Japan株式会社
シニアマーケティングディレクター 伊佐 裕也 氏

リモート営業に限らず、デジタル環境の変化は営業スタイルにも影響を及ぼす。この10年で、買い手側が入手できる情報は飛躍的に増えた。導入事例や口コミ、利用動画、類似の他社製品など、探す気があればいろいろな情報を見つける事ができる。この「興味を持って調べている」というタイミングで価値のある情報を提供し、相手のビジネスに合わせた提案をすることが、スムーズな関係構築に繋がると伊佐氏は言う。

「たとえばHubSpotでは、Webサイトで価格表を見た方に自動でEメールを送っています。『私は営業担当の○○です。このメールは価格表をご覧いただいた方に自動でお送りしています。15分でもお時間頂ければより詳しくご説明いたします。以下のURLから私のカレンダーの空きを抑えてください』といった内容です。自動送信はスパム扱いされることも多いですが、このメールはすごく好評頂いており、顧客にとってちょうどいいタイミングで声をかけることの大切さを感じています」(伊佐氏)

リモート営業に関する悩み…意識すべきは「オンラインだからこそできる工夫」

本調査によれば、2021年12月段階でリモート営業を導入している営業組織は40.4%。上場企業に限れば46.1%に達する。およそ半数の組織がリモート営業を導入していることになるが、「相手側の感触がわからず失注が多発」「顧客企業の誰が参加しているかわからない」「和やかな雰囲気が作れない」と、自由回答欄からは試行錯誤の様子が見えてくる。特にビデオ会議に関して、どうやって盛り上げるべきか悩んでいる営業担当者は多いだろう。

  • 【調査結果】日本の営業組織のデジタル化状況

「我々としても同じように悩んでいる段階で、いろいろ試すことが重要だと思っています。リモート営業しか知らないという新卒社員がいれば、どういう体験ならば心地よいのか、聞いてみるのも良いでしょう。かんたんな工夫としては、名刺交換の代わりとして『打ち合わせを始める前に自己紹介をする』とか、リアクションが見れるよう『カメラをオンにしてくださいと、事前に依頼しておく』などがあります。また、リモート営業の場合は移動時間が浮くのでその時間を、準備や宿題対応のために充てることも有効です」(伊佐氏)

オンラインでのコミュニケーションを工夫することで、訪問営業を深化させることもできると、伊佐氏は続ける。

「訪問が決まった場合、その会議に誰が参加するのか?どんな議論をすべきか?どう会議を進めるのか?といったことを事前にオンラインですり合わせておくのです。そうすれば、いざ対面した時より濃い議論ができるようになります」(伊佐氏)

  • オンラインだからこそできるアイデア一覧

コロナ禍でも「信頼」を獲得するには?

本調査は、日本企業の購買意思決定において「信頼できる企業であること」が最も重要な要素であることも明らかにしている。さらに、昨今のコロナ禍によって「信頼の重要度が増した」と答えた買い手は、48.2%と約半数に上っている。

では、どうすれば企業間の信頼を獲得できるのだろうか?信頼に繋がる要素の回答トップ3は下記の通りである。

1位:営業担当者が自社の要望を的確に実行してくれる(60.8%)
2位:営業担当者が自社のことを真剣に考えてくれていると思う(55.0%)
3位:企業として言っていることと実際の行動が一致している(49.9%)

この結果から、営業担当者の行動が見定められていることは当然として、企業レベルの言行一致が信頼獲得に不可欠だということが見えてくる。ちなみに「広告」が信頼に繋がるという回答は5%程度。有名タレントの起用や露出回数の多さは、知名度を向上することは出来ても信頼醸成には繋がらないようだ。

この結果を見た伊佐氏は、「組織として顧客に向き合う」ことの重要性を強調する。

「どんなに営業担当者の印象がよくても、サポート電話でたらい回しにされてしまったら、その企業を信頼することは難しいでしょう。デジタル化によって顧客接点が多様化した今、会社単位で顧客情報を管理して、『会社対顧客』の関係性を築いていくことが重要です」(伊佐氏)

しかし、調査結果においては「顧客の管理方法が『明確ではない・わからない』組織」が3割を越えている。いったいどのように組織として顧客に向き合うべきなのだろうか?

「こうした場合、CRM導入しようという話になりがちなのですが、それ以前に考えるべきことがあります。『自社の営業部門とマーケティング部門やカスタマーサポートの間にどんなすれ違いがあるだろうか?』『顧客に価値を届ける上で現状の戦略にどんな課題があるだろうか?』こうした問いを突き詰めていき、顧客視点で考える文化を醸成することが重要です。これを具体化し社内に浸透させることによって始めて、CRMツールは有効に働きます」(伊佐氏)

従業員のモチベーション維持はある意味、顧客に対する向き合い方と同じ

営業組織における社員教育やマネジメント面での課題は「従業員のモチベーション維持」が45.2%と最も多かった。「1年前と比較した職場での精神状態」について、営業担当者の約4人に1人は「悪くなった」と回答している。

  • 【グラフ】営業組織における社員教育やマネジメントの課題

また、会社のメンタルヘルスへの取り組みについては、経営者と営業担当者でのギャップも見られた。会社が積極的に取り組んでいると感じている割合は、経営者は48.7%であるのに対し、営業担当者は24.5%にとどまる。

「メンタルヘルスの向上には正解がありません。一つ施策をやったからといって安心せず、常に従業員の状態を確かめて実践し続けることが大切です。その姿勢はある意味、顧客への向き合い方と同様です。顧客のニーズを拾い、提案して、振り返ること。従業員にヒアリングして、施策を実行し、フィードバックを受けること。どちらも同じようにサイクルを回していくべきでしょう」(伊佐氏)

長期化するコロナ禍は、世界中の人々に悩みと苦しみをもたらしている。その上で、最後に伊佐氏は、変化へのポジティブな提案を投げかけた。

「環境の変化は、新しいことをやってみるチャンスでもあります。今回の調査からは、買い手・売り手の両方が、考え方や行動を少しずつ変えている様子が浮かび上がってきました。『リモート営業をやってみたら、案外悪くなかった』という声が多く見られたように、最初の一歩を踏み出してみれば、きっとポジティブな発見もあると思います。困難な時期が続いていますが、ぜひ一緒に、コロナ後の世界のありかたを考えていきましょう」(伊佐氏)

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