伊藤忠エネクスグループで個人向けの電力事業とモビリティ事業を展開するエネクスライフサービスは、主にパートナーと展開している電力事業における顧客情報管理と関連業務について「Salesforce Service Cloud」および「Salesforce Sales Cloud」を導入して一元化を行った。従来、表計算ソフトで行っていた業務をクラウド化したことで、業務全体で約300時間/月の効率化を実現。Salesforceを導入してから、その後1年間で4倍以上に拡大したパートナーと、顧客情報の迅速かつ効率的な共有を行える環境を整えている。
政府が2000年より段階的に行ってきた電気事業に対する市場参入の規制緩和、いわゆる「電力自由化」により、消費者はさまざまなプランやサービス内容に基づいて、自由に電力会社を選択できるようになった。2016年4月1日に行われた「全面自由化」では、対象が家庭や商店向けの電力にまで広げられ、現在では多様な企業が個人向けの電力販売を行っている。エネクスライフサービスは、エネルギー商社である伊藤忠エネクスが個人向け電力事業の展開のために、2016年に設立した子会社だ。
「電力の小売全面自由化によって、契約口数で約8500万件、8兆円規模の市場が新たに開かれたことになります。エネクスライフサービスでは、特色のあるプランを提供するパートナー経由での販売を中心に、2020年10月からはWebでの切り替え申込が可能な『TERASELでんき』という直販ブランドを展開し、個人のお客様へ電力販売を強化しています」(西羅氏)
そう話すのは、エネクスライフサービス、カスタマーサービス部の部長(現:社長補佐)を務める西羅正一氏だ。同社のパートナーには、自動車ディーラーをはじめ、ケーブルテレビ会社、ガス会社、石油小売会社、マンション管理会社、プロサッカーチームなど、さまざまな業種、業界の企業が名を連ねる。たとえば、自動車ディーラーでは、電気自動車を購入したオーナーに対し、自動車充電向けの電力プランを提供している。また、プロサッカーチームがサポーター向けに販売するプランには、契約者が支払った電気料金の一部を選手の育成支援に充てるものもある。パートナーが提供する多様な料金プランに対応しながら、契約者の管理や料金請求といった手続を行っていくことは、電力事業における同社の主要な業務の一部となっている。
表計算ソフトと手作業による業務プロセスが事業成長の足かせに
パートナーとの協業による電力販売は、同社設立直後の2017年1月に開始された。当時は個人向けの電力販売が可能になったばかりであり、同社も文字どおり「ゼロ件」から契約者を集めていく状況だった。
カスタマーサービス部 システム課 課長の高辻幸長氏は「パートナーが共通で利用する電力向けの基幹システムはありますが、申し込みの受付やステータス管理、契約書の発行、各お客様の契約情報の管理や料金請求といった、パートナーごとに行わなければならない業務については、十分なシステム化が難しい状況で事業をスタートせざるを得ませんでした。そのため、先ずは表計算ソフトを使って、パートナーごと、お客様ごとの情報を管理するところからはじめました」と当時の状況を振り返る。
しかし、事業開始から半年を経過したころには、契約件数は1万件を越える。当初3社だったパートナーも増え、料金プランのバラエティも増していった。表計算ソフトによるデータ管理や業務プロセスの遂行は、システム面でも、現場の作業負荷の面でも、人海戦術にて乗り越えてきたという。
「事業を成長させていくにあたって、表計算ソフトによる現場での情報管理や手作業での業務プロセスがブレーキになることは、早い段階から見えていました。電力系の基幹システムとシームレスに連携ができず、情報が分散してしまうことで、関係する部署やパートナーとの間でリアルタイムにお客様の状況を共有することも難しい状況でした。経営が目標に掲げる規模へ事業を拡大していくためにも、システム化は必須でした」(高辻氏)
Salesforceの高い専門性を持つテラスカイを開発ベンダーに選定
同社では、表計算ソフトをベースとした情報管理からの脱却を目指し「電力CIS※1やSW支援システム※2などの各種関連システムとシームレスに連携できること」「管理している情報をパートナーとコールセンターなどBPO先ともリアルタイムに共有できること」「適切な相手が必要な情報のみにアクセスできる権限付与が可能なこと」などを要件に、新たな業務システムの導入を検討。最終的にSalesforceの採用を決定した。
Salesforce選択の理由について「パートナーやコールセンターにも同じシステムを使ってもらうことを考えると、クラウドのシステムがベストでした。中でもSalesforceは、業界でのシェア、実績ともに申し分なく、セキュリティ面でも十分な要件を確保できること、さまざまな現場のユーザーにとって分かりやすいUIを構築できることがメリットになると判断しました」と話すのは、同社カスタマーサービス部でシステム課の主任を務める志賀村功氏だ。
開発にあたっては、テラスカイを開発ベンダーに選定した。提案内容や費用感、開発体制を総合的に判断したという。
「自社にはSalesforceによる開発経験がほぼなかったため、われわれのビジネスプロセスを十分に理解し、かつSalesforceによる開発実績が豊富である必要がありました。テラスカイは、Salesforceの有資格者が多く在籍していることに加えて、われわれのシステムに対する要望をよく理解し、将来的なビジョンまでを含めた提案があったことが、決定の大きな理由になりました」(志賀村氏)
※1:電力CIS…顧客情報管理システム
※2:SW支援システム…需要者の契約変更手続きを行う電力広域的運営推進機関のシステム
テラスカイ子会社のSalesforce認定アドミニストレーターが参画し継続的改善を実現
Salesforceでの新業務システムの構築は2020年1月にスタートした。このプロジェクトは、パートナーやBPO先を含めた業務全体を大きく変える内容になるため、「申し込み手続きの管理」「請求関連の管理」「解約手続関連の管理」という形で、段階的に機能をリリースしていった。
「これまで表計算ソフトで行ってきた業務を、Salesforceに置き換えていくための要件定義にはかなり苦労をしました。Salesforceの仕様や機能に関わる部分については、テラスカイに意見を求めながら作業を進めていきました。テラスカイには、スケジュール面や、仕様上実現が難しい要件に対する代替策の提案などで、柔軟に対応してもらいました」(志賀村氏)
開発作業と並行して、同社とテラスカイでは、パートナー、BPO先を集めた新システムの説明会やマニュアル作成などを行い、移行の準備を整えていった。この過程でパートナーから出された改善要望のフィードバックなどについても、必要に応じて開発中の環境へ随時反映していったそうだ。
新機能のリリースは2020年10月に「申し込み手続きの管理」、2021年6月に「請求関連の管理」、2021年10月に「解約手続関連の管理」というスケジュールで行われた。現在も、活用レベルの向上を目指した取り組みは引き続き行われている。
「フィードバックを本番環境へ迅速に反映できるのは、Salesforceならではのメリットだと実感しています。現在も、新たにリリースされた機能について、マニュアルや説明会だけでなく、直接パートナーのところに出向いて説明する取り組みを行っています。テラスカイのグループ会社、テラスカイ・テクノロジーズ(Salesforceに特化した人材派遣サービス企業)のスタッフにも課題解決してもらっています。担当者からの簡単な要望については、目の前で即座に修正できるケースもあり、感心してもらえることも多いです」(高辻氏)
約2年にわたる共同の取り組みを通じて、エネクスライフサービス側にはSalesforceについての知見が、テラスカイ側には電力小売業務についての知見が蓄積されているという。今後、システムの改善や発展のスピード感もさらに増していくだろう。
約300時間/月の業務時間削減-パートナービジネスにも変化
表計算ソフトで管理していたデータと業務プロセスを、Salesforceに移行した効果は「極めて大きい」と同社では評価する。
「データの可視化と共有に加え、業務の進捗状況、お客様ごとのステータスのチェックや管理が一元化されたことは非常に大きいです。概算になりますが、データの加工や参照、問い合わせ対応、情報共有のためのレポート作成といった、業務全体での作業は月間300時間ほど効率化されました。この成果は、今後パートナー数や契約者数が増えるほど大きくなっていくでしょう」(高辻氏)
また、パートナーとのビジネスの進め方にも変化が生まれているという。
「お客様の状況について、パートナーと同じデータをリアルタイムに共有しながら話ができるようになったことは、非常に大きなメリットと感じています。以前は、お客様の契約や離脱の状況について、タイミングによってパートナー側が持っているデータと当社で管理しているデータに違いが生じていました。今では、必要な時に、可視化された同じデータに基づき議論ができる環境になっています」(西羅氏)
同社では、設立からSalesforce導入までの約5年間に22社のパートナーを持っていたが、Salesforce導入後の1年間で、その数を93社まで増やしている。1年でそれまでの4倍以上にまで、一気にパートナーを拡大できた背景には、Salesforceによる業務の一元化も影響しているという。
「Salesforce上の権限設定で、特定のパートナーが必要なデータのみを見られる仕組みが用意できたこと、最新のお客様の状況を当社とパートナーの双方で効率的に共有できるようになったことが大きいと思います。この新しいシステムがなければ、急速なパートナー拡大へは対応できなかったでしょう」(西羅氏)
シェアードサービス化やデジタルマーケティングの展開を視野に入れる
同社では、新たに構築したSalesforceによる業務システムの活用範囲を、今後さらに拡大していくことを視野に入れている。その1つは、現在利用している電力事業だけでなく、他の事業部門や関連会社におけるバックオフィス業務の統合。もう1つは、マーケティング観点でのデータ活用だ。
「今回構築したシステムを基盤にした、業務の効率化や改善は今後も続けていきたいと考えています。将来的には、他の事業や関連会社のバックオフィス業務の効率化をサポートするシェアードセンター的な仕組みを作ることで収益化を図りたいという構想もあります。もうひとつは、蓄積されたデータのデジタルマーケティングへの展開です。まだご契約をいただけていない潜在的なお客様に、われわれのサービスをどう訴求するか。現在のパートナーが提供している付加価値に加えて、われわれ自身の付加価値がどうあるべきかを考える体制を、Salesforceを中心に作っていけるのではないかと考えています」(高辻氏)
エネクスライフサービスでは、Salesforce活用範囲の拡大を目指すにあたり、テラスカイの知見に基づく提案やサポートにも期待をしているとした。
「今回のプロジェクトは、2016年の会社設立以来、初のシステム開発案件でした。われわれ自身の知見が少なかったこともあり、苦労した部分もありましたが、約2年の間に知見が蓄積され、テラスカイにも、われわれの業務を十分に理解してもらえたと感じています。今後の取り組みについても、特にSalesforceの使い方に関して、われわれだけでは気づくことができない部分を埋めるような提言を通じて、広く支援をいただけることを期待しています」(西羅氏)
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