北海道の農畜産物や資材などの貨物輸送を行い、道内の農畜産業を支えているホクレン運輸株式会社。その中核を担う苫小牧支店の業務管理システムはローコード開発プラットフォーム Claris FileMakerで作られているという。今回は同社のサービスとシステムの特長、そしてFileMakerに対する思いを、苫小牧支店の支店長代理 新 昇二氏と 業務課高橋 勝輝氏にうかがった。

  • トラックの前に立つ高橋 勝輝氏と新 昇二氏

    高橋 勝輝氏(写真左)と新 昇二氏(写真右)

北海道の農畜産業を支えるホクレン運輸

ホクレン運輸は、生産者の営農活動を支え、消費者へ食の安定供給を行うことで、 人にやさしい、人においしい「食」をつくる、ホクレン農業協同組合連合会の子会社として、農畜産物の輸送を行っている。中でも生乳は道内の乳業工場のみならず本州への輸送も担い、北海道の豊かな恵みを全国に届ける起点となっている。

  • 北海道の草原のなかを走るホクレン運輸のトラック

苫小牧支店はそんなホクレン運輸の重要拠点のひとつで、主な業務は大きく分けて「生乳の輸送」「石油の輸送」「家畜飼料の輸送」の3つだ。飼料運搬用や生乳輸送用など約120台の輸送車両を保有し、30名の運転手が安定輸送に励んでいる。

同支店の業務を支える管理システムはFileMakerで構築されている。車両や従業員情報、勤怠、予算管理といった「管理セクション」、被服管理、業務マニュアルの格納などの「庶務セクション」、輸送先情報、輸送計画、生乳や飼料・肥料などの品目管理といった「輸送セクション」の3つのセクションで構成されている。

会社にパソコンがない時代から始まったシステム開発

ホクレン運輸にFileMakerが導入されたのは実に28年前だという。当初FileMakerの導入を進めた新 昇二氏にシステム開発を始めた経緯について語ってもらった。

「私はホクレン運輸が設立されて間もないころに入社しました。当時会社にパソコンが普及していない時代でしたが、たまたまMacintoshがあったのでLotusなどを使用していたことを覚えています。私は情報処理の勉強をしていたのもあり、FileMakerを業務に役立てられないか考え、当時のファイルメーカー Pro 2.1から使い始めました」(新氏)

まさにホクレン運輸におけるFileMakerの伝道師とも言える新氏。大きなシステムは外部に発注しつつ、小回りがきくシステムはFileMakerを用いて自社で開発してきたそうだ。2015年に苫小牧支店勤務になった新氏は、データが基本的に紙やExcelで管理されている状況を見て限界を感じ、最新のFileMakerへのバージョンアップを目指したのだ。

こうして新氏はFileMakerワークショップに参加。そこでのちに「伺い書システム」の開発を担当するClaris認定パートナー企業 株式会社DBPowersの有賀 啓之氏と、のちに社員として入社し「飼料輸送依頼システム」の開発を担当する高橋 勝輝氏の2人のキーマンに出会うことになる。

  • 新 昇二氏のインタビュー風景

最新のFileMakerで生まれ変わった「伺い書システム」

DBPowersはFileMakerのシステム構築と運用支援、トレーニングを主な事業とした北海道の開発会社だ。医療関係のシステムを得意としており、10年ほど前には道庁が主導した行広域での健康情報管理システムや、北海道の新型コロナウイルス感染症入院調整システム(Covid Chaser)の運用も手がけている。代表取締役を務める有賀氏は2013年に公立千歳科学技術大学の非常勤講師となり、FileMakerキャンパスプログラムを開講した。

  • DBPowers 代表取締役 有賀 啓之氏

    株式会社DBPowers 代表取締役 有賀 啓之氏

実際にDBPowersがホクレン運輸 苫小牧支店のシステムに関わったのは2018年、FileMaker Pro 6.0で作られていた「伺い書システム」の再開発とFileMaker Serverの導入だ。これは各種運搬車両の保守や修理をする際の社内申請書類を作成すると同時にその予算や経費の集計を行うものだ。これまでインハウス開発がメインだったが、DBPowersに開発を委託した理由について、新氏は次のように説明する。

「伺い書システムはもともとFileMaker Pro 6.0で開発されており、最新バージョンで作り直さなければなりませんでした。しかし私が開発する時間を作るのが難しく、保守を含めてワークショップで出会ったDBPowersの有賀さんにお願いすることにしました。大きなプロジェクトでしたが、DBPowersさんはかゆいところに手が届く素早い対応をしてくれたので、スムーズに開発を進められました。いまも保守とバージョンアップをしてもらっています」(新氏)

  • 伺い書システムの画面

    トラックを修理したいときに修繕の伺い書を作成する「伺い書システム」

現在、伺い書システムは苫小牧支店のみならず、帯広の道東営業所、東京営業所の3拠点で利用されている。今回の再開発により、拠点をまたいで一元管理できることが大きなメリットだという。

FileMaker WebDirectを用いた「飼料輸送依頼システム」

公立千歳科学技術大学出身の高橋氏は、在学時代にFileMakerに出会い、教授のすすめで有賀氏のワークショップに参加していたという。卒業後もFileMakerを使って地元で働きたいという高橋氏の意志が有賀氏から新氏伝わったことでホクレン運輸への入社が決まり、現在は飼料輸送に関わる業務を担当している。

飼料輸送では、バルク車と呼ばれる車両で親会社のホクレンから農場へ230種類にも及ぶ家畜のえさ(飼料)を輸送している。FileMakerで構築された「飼料輸送管理システム」で輸送品目、出荷先、トラックごとの重量や積載量、乗務員などを一元管理し、注文受付はFAXと電話で対応していた。そこから注文内容をシステムに手入力するのだが、この際にヒューマンエラーが頻繁に生じていたという。

  • 「飼料輸送管理システム」のメニュー画面

    「飼料輸送管理システム」のメニュー画面

これを改善するために顧客に注文内容を入力してもらう「飼料輸送依頼システム」がFileMaker WebDirectで開発されたのだ。FileMaker WebDirectとは、FileMaker ベースのカスタム App をWeb ブラウザで直接実行するもので、誰でもアクセスできる汎用性が高いシステムを構築できる。「飼料輸送配送管理システム」と連携し、注文受付から配車までシームレスに行えるうえに、顧客からも配車ステータスを確認できるようになった。

  • 「飼料輸送依頼システム」で入力された内容を「飼料輸送配送管理システム」に取り込んでいる画面

    「飼料輸送依頼システム」で入力された内容を「飼料輸送配送管理システム」に取り込み、さらに配車ステータスを「飼料輸送依頼システム」に反映できる。

高橋氏はシステムの開発経緯を次のように語る。
「FAXと電話の対応がとても大変だったので、システムで改善したいという想いから開発を始めました。最初はGoogle フォームで運用するなど試行錯誤を重ね、2021年6月頃からFileMaker WebDirectでの開発に取り掛かりました。FileMaker WebDirectは初めてだったので不安もありましたが、新さん、有賀さんにアドバイスをもらいながら開発を進め、4カ月で8割方完成させることができました」(高橋氏)

  • 新氏、髙橋氏、有賀氏 3人で相談している様子

中でも高橋氏が特に注力したのがUI・UXだ。システムの扱いに慣れていない人でも使いやすいよう、絵が得意な妹さんに協力してもらいながら、文字だけではなくアイコンやイラストを活用することで、直感的に操作できるUIを目指したという。

  • 「飼料輸送依頼システム」の画面

    工夫が凝らされた「飼料輸送依頼システム」のUI

「まだ実運用を行っていないので効果測定はできていませんが、受付期間を過ぎてからの注文は確実に防止できると思います。これまでは締め切りを過ぎてからFAXで輸送依頼が届くことがあり、これを正確に処理するには作業がさらに煩雑になるので大きな課題でした。このシステムでは締め切りを過ぎた依頼は入力できないようになります。将来的にはFileMaker WebDirectの特性を活かし、iPhoneやiPadなどを用いて出先から利用できるようにしたいと考えています。これにより、たとえば乗務員が生産者の元を訪れた際に、その場で飼料の残量を確認し、追加発注するといったことも可能になります」(高橋氏)

  • 高橋 勝輝氏のインタビュー写真

FileMakerを社内で継承していくために

ホクレン運輸にとって、なくてはならない存在となったFileMakerだが、導入当初は社内で反対の声も上がっていたという。なぜならFileMakerを扱える人が社内におらず、属人化してしまうからだ。

「FileMakerの運用における属人化の課題を解決すべく、後任の担当者を探していたところで高橋くんに出会いました。実際に一緒に働いてみると、FileMakerの用語が通じるので意思疎通がうまくいき、非常に助かりました。今後はさらに彼が知識を深め、FileMakerを社内に広めていってくれることを期待しています」と新氏はこれからのホクレン運輸のFileMaker活用と展望、そして高橋氏への期待について力説する。

苫小牧支店はFileMakerの特長をしっかり捉えたうえで、さまざまな業務管理システムを構築し、業務効率化を実現している。これはFileMakerに対する想いと深い理解があってこその賜物だといえる。最後に新氏と高橋氏はFileMakerの魅力について次のように語ってくれた。

「大学の研究室でFileMakerを使ったのですが、画面の作りやすさやシステムの構成、プログラミングのしやすさが他のプログラミング言語に比べて圧倒的に優れていて、簡単にアプリケーションを作れることに感動しました。開発もとても楽しくて、学校が休みの日もFileMakerを触っていたぐらいです。FileMakerに出会えて本当によかったと思います」(高橋氏)

「私が苫小牧支店にきて6年になりますが、運送業ならではの複雑なシフト・タスク管理や、事務作業の重複など、FileMakerでさまざまな業務課題を解決してきました。こんなに便利なのになぜみんな使わないんだろうと思うぐらいですね(笑)。FileMakerとは20年以上の付き合いがありますが、できることの幅が非常に広く簡単にシステムを構築できるので、いつも助けられています」(新氏)

  • トラックの前でiPhoneを操作する新氏と高橋氏

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