手作り無添加のペットフードを提供することで、ペットの食事に新しい価値観を吹き込んだ株式会社ランフリー。「WAN to ONE」の企業理念のもと、ペット一頭ごとの好みや健康状態にあわせて、100品目以上の食材から細やかにカスタマイズされたオーダーメイドレシピを用意するシステムは「Claris FileMaker」で開発されているという。今回はオーダーメイドフードサービスの魅力とその運用を支える基幹システムの特長について、ランフリーとシステムを開発したパットシステムソリューションズ有限会社(以下パットシステム)に伺ってみたい。
登場人物
■株式会社ランフリー
執行役員 経営企画本部長 熊木 淑江 氏
経営企画本部 曽我部 滉也 氏
販売管理室 室長 田所 理紗 氏
製造管理室 テクニカル チーフ 吉田 直正 氏
■パットシステムソリューションズ有限会社
代表取締役社長 中村 孝仁 氏
顧客の心をつかんだ手作り無添加のペットフード
ランフリーはペットフード業界で”ペットの食事”にまつわるさまざまな悩みを聞いてきた同社の代表取締役の曽我部 裕氏が2006年に設立した。人が食べられる食材のみを使い、ペットの個性に合わせてオーダーメイドでおいしい「お食事」を作ることが最大の特徴だ。家族の一員であるペットに「良いものを食べてほしい」と考える飼い主から高く評価されている。
「我々が提供しているのは、ペットフードではなく『お食事』です。食材そのものの味を生かし、季節に応じて旬の食材を使用しています。自分たちが食べられないものはお客さまに出せません。作ったフードは実際にスタッフが口にし、味や安全性を確かめています。真正直に良いものを使っているという自負があります」と、製造管理室の吉田 直正氏は品質について熱く語る。
顧客からの相談はさまざまで、たとえば肥満気味や尿石症の疑いがあるペットに向けたレシピを作成しているという。おいしさのみならず、ペットの日々の体調を整え、病気の回復を助けてくれる同社の食事は、動物病院の療育においても効果が期待できるだろう。現在はほぼ犬用の注文だが、猫用はもちろん、ウサギやハムスターなど、さまざまなペット向けの食事にもリクエストがあれば対応可能。
「市販されているものと比べて、当社のフードの価格は間違いなく高いといえます。そのため、サービス開始当初は比較的生活に余裕のある方の利用が中心になると想定していました。しかし実際は『より安全で質の高いものを食べさせてあげたい』という強い気持ちから購入に至る方が多いように感じます。感謝の言葉をいただくことも多く、お客さまの愛するペットの健康に貢献できていることを実感しています」と話すのは経営企画部の曽我部 滉也氏だ。
小さい店舗からスタートしたランフリーは顧客からの支持を着実に得て次第に事業を拡大。生産拠点となる工場を作り、通販の売り上げも右肩上がりで伸びていった。その一方で、ペット一頭一頭に合わせた食事をオーダーメイドするという仕組み上、レシピは膨大な数にのぼる。それらはすべてExcelと紙媒体で管理し人の目でチェックしていたため、事業が拡大するにつれてヒューマンエラーの多発を招いていたという。この問題を解決するための糸口として曽我部 裕 氏が目を付けたのが、FileMakerだ。
売上は右肩上がり、一方で限界を迎える内製システム
曽我部 裕氏は2015年、従業員とともに自らFileMakerの公式トレーニングを受講。そして以前からあった顧客管理、レシピの記録、納品書作成を行うシステムをインハウス開発した。この内製システムは数年間利用されたが、実際のところ手作業が多く残されていたという。たとえば、Webサイトで受けた注文はすべて紙で出力し、それをもとに在庫を確認、足りない商品はExcelの製造指示書に入力するというフローになっており、入金確認もExcelで行われていた。しかし売上が伸びるにつれ、このやり方にも限界が訪れる。FileMakerの公式トレーニングを受講しながら、さらなる解決策を模索することになったのだ。製造・在庫管理を担当している吉田氏と、受注・顧客管理を担当している田所 理紗氏は、当時の状況についてそれぞれ以下のように話している。
「すべて紙に出力されたデータをもとにフードを製造していましたが、生産量が増えていく中で1日に作る品種も非常に多く、ひとつのレシピに対して基本的には20品目以上の食材を使いますから、現場の負担も大きくなっていました。こうした状況から、とにかく『現場から紙を無くしたい』と強く考えるようになりました」(吉田氏)
「従来の内製システムでは、顧客やレシピなどのマスターデータが個々に独立しており、互いに紐付けされていませんでした。この状況を改善するために私もFileMakerのトレーニングを受けたのですが、逆に『自分たちで開発するのは限界』ということがハッキリとわかってしまいました」(田所氏)
内製での開発に限界を感じたところで相談に乗ってくれたのが、たまたまFileMakerの公式トレーニングで出会ったパットシステムの中村 孝仁氏である。2017年にランフリーはパットシステムにシステム開発業務を委託し、基幹システムの開発がスタートした。
土を耕すところから始まり、誕生した基幹システム「Edit(エディット)」
ランフリーが求めたのは、顧客管理・レシピ管理・受注管理・出荷/在庫管理・製造管理といった一連の業務の連携と一元管理を実現し、実際にフードを作る製造現場の作業効率を考慮した”できるだけシンプル”なシステムだ。中村氏は開発当時の苦労を次のように語る。
「当初は顧客だけ、レシピだけを個別管理しているデータのみで、それ以外はすべてアナログデータだったため、土を耕すところから始めなければなりませんでした。最終的なシステムの形を決めるために、開発前のヒアリングとシステムのルール作りに注力しました」(中村氏)
こうして2018年、ついにランフリーの基幹システム「Edit(エディット)」(Eat・Diet(Doctor)・I・Together)が導入された。しかし大変だったのは導入後の半年間だったという。田所氏と吉田氏は新しいシステムに戸惑う当時の現場の状況を振り返る。
「入力を間違えた・印刷がおかしいなど予期せぬトラブルだらけで、マニュアルを作ったり、マンツーマンでトレーニングをしたりと、とにかく従業員に使い方を覚えてもらうことに必死でした」(田所氏)
「製造システムにおいては、レシピが紙からiPadやiPod Touchに一部変わりました。"シンプルに"という要望にしっかり応えてくれたので、現場としてはとても扱いやすい印象を受けました。しかし製造の準備段階で受注システムと連携する必要があり、この部分の仕組みが複雑で理解するのに多くの従業員が苦労していました」(吉田氏)
Editがもたらしたランフリーの変革
運用を軌道にのせるまでの苦労はあったものの、Edit導入後はランフリーの業務プロセスが大きく変わった。現在は商品の受注・在庫引き当て・納期判断・出荷までの販売管理から、製造管理までEditによって連携・自動化されており、もはやこれなしでは業務が回らないという。
「受注から出荷までが一気通貫で行えるようになり、販売を担当する従業員の負担は3分の1から4分の1まで減ったと思います。さらに、これまで紐付けられていなかったペット情報と顧客情報が結びつきました。これによってお客さまからの問い合わせに対してすぐにお答えできるようになりました」と業務効率化だけでなく、サービス向上においても効果を実感する田所氏。
また、社内の状況も一変した。以前はExcelで管理していたため、一人がファイルを開くと他人が開けない状況があったが、このような不便が解決したという。また紙媒体をもとにした製造では見間違いが発生しがちだが、現在ではそうしたトラブルも減少したそうだ。
「以前は商品の在庫管理を完全にアナログで行っており、それこそ"正"の字で確認していたような状況で、在庫にズレが生じることもままありましたが、現在は入庫されればリアルタイムに数値が自動で反映されますし、製造計画も立てやすくなりました。また、オーダーメイドフードである以上、食材を間違えないというのは絶対条件です。iPadは大きすぎず、レシピの取り間違いもないため、見やすくなったと従業員からも好評です」(吉田氏)
効率化できるところを見定め、”手作り無添加のオーダーメイドフード”を追求
ランフリーは順調に売り上げを伸ばしており、現在は店舗・通販合わせて年間約4万件もの受注があるという。その背景には、コロナ禍でペットを飼う人が増えたことも関係していると考えられるが、同社は今後どのように事業を展開していくのだろうか。役員の熊木 淑江氏に伺った。
「ペットは家族の一員であり、自分の子どものようにかわいがっている方も多いと思います。ランフリーは、そんな飼い主さんのお気持ちに寄り添って事業を行ってきましたが、まだまだ手が届かないところも多々あります。当社の売りは"手作り無添加のオーダーメイドフード"というもっともアナログな部分ですが、効率化できるところを見定めてさらなるニーズに答えていきたいと思います」(熊木氏)
また、旬の食材を多数使用するという事情もあって、Editではまだ仕入れと発注の業務がシステム化されていない。今後はこうした業務もEditに組み込んで、より生産性を高めることを目指していくという。
同社のように多くの商材を取り扱うことで運用が煩雑化し、管理方法に不安を抱えている企業も少なくないだろう。ランフリーはFileMakerによるシステムを構築することで、ビジネスチャンスを逃すことなく、業務の効率化やサービスの向上を実現した。事業規模の拡大に伴う課題を感じている企業にとって、同社の取り組みは価値ある事例となりそうだ。
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