ドローンが飛び交う未来が着実に近づいている。その前提として必須となる民間の技術やサービス開発、国による法整備も、まさに現在進行形で並走しながら加速している。NTTデータはこれまで長きにわたり、有人航空機の分野で安全運航管理を支えるシステムを提供してきた。その経験とノウハウ、そして実績を活かし、無人航空機・ドローンの世界においても社会実装に向けた取り組みを展開し、日本が抱えるさまざまな課題解決への貢献を目指している。

インフラ点検や災害対応、物流など、ドローンが期待されるシーンとは?

 いまドローンは、さまざまな分野で大きな期待を受けている。その背景には、日本が抱える少子高齢化や、労働人口減少社会という重い課題が横たわっている。
 日本全国に張り巡らされた道路や橋梁(きょうりょう)、配管、鉄塔・送電線といったインフラは、現状では大量の人員を動員する人海戦術で点検されている。もちろん、業務効率化や安全性向上により日々改善は進められているが、まだまだ人の手に頼らざるを得ない部分が大きい。国内インフラの多くは敷設から長い時間が経過し、老朽化の問題に直面している。その一方で労働人口は減少し高齢化も進んでいるため、今後は定期メンテナンスの実施自体が難しくなる。
 そこでドローンの活躍が期待されている。ドローンを利用し、実際に人間が赴かなくても遠隔操作で自動点検できるようになれば、労働人口が不足する将来においてもインフラの安全性を保つことが可能になる。
 また昨今は災害が激甚化し、洪水や土砂崩れなどの被害が日本各地で頻発している。災害発生時、迅速な救助・復旧を行うには現地の状況を把握することが必要だが、交通網の寸断や二次災害の危険も想定される。しかしドローンであれば、現地の状況を空から即座に把握し、速やかに次の行動につなげられるだろう。
 ドローンの活躍が期待されるシーンはほかにもある。物流だ。労働人口減少に加えて近年のECニーズの高まりを受け、配送の業務は厳しさを増している。今後、ドローンが人間の代わりに自動配送できるようになれば課題解決に寄与するだけでなく、過疎地域での物流支援など新たな活用の道も開けるはずだ。高齢化が進む農業でも、すでに農薬散布など一部で取り組みが始まっているが、これからは可能性がより広がるだろう。さらに、今後ドローンがより自由に飛べるようになれば、飛行地域の地理や建物、気象状況など上空でセンシングした多様な情報をもとに新たなビジネスの創出も期待される。
 しかし、ドローンは“無人”で空を飛ぶものだ。安全確保が大前提となる点は有人航空機と同様だが、ドローンはここ最近になり普及が進んできたものであるため、社会で安全な活用を担保するためのルールの確立はこれからだ。社会実装に向けて市民からの理解も求められる。

ドローン利活用推進に向けてルールの整備が進む

 いま多くの可能性を秘めたドローンのポテンシャルを、最大限活用するためのルールや法整備が進んでいる。
 ドローンを含む無人航空機は、現時点では自動車のような免許制度は存在せず、航空法によって「飛行可能な空域」や「飛行方法」などのルールを国が制定している。たとえば、高さは150m未満とする、空港周辺や人家の密集地域上空では飛行できない、といった基準があるが、こうした基準に準じない飛行を行う際はあらかじめ申請し、国土交通大臣の許可・承認を受ける必要がある。また飛行方法についても、夜間飛行や目視外飛行(人の目で見えない範囲の飛行)は同様の許可・承認が必要となっている。
 この許可・承認制度は2015年度から運用されているが、2020年の航空法改正でドローンの登録制度が導入され(2022年までに施行)、2021年6月の航空法改正では操縦ライセンスや機体認証制度などとともにドローンの飛行リスクに応じた新たな審査基準も導入される(2022年12月施行予定)など、いま法整備が進展している。ドローンの飛行形態には以下のレベル1〜4の区分がある。

レベル1 手動操縦での目視内(人の目で見える範囲)飛行
レベル2 目視内の自動・自律飛行
レベル3 無人地帯での目視外飛行
レベル4 現在認められていない有人地帯での目視外(人の目で見えない範囲)飛行

 2021年の法改正は、レベル4である人口集中地域上空でのドローンの目視外飛行に現実的な道を開くものとして注目される。
 こうした法制度の運用が開始されれば、インフラ点検や災害対応に加え、物流の配送におけるドローン利活用が進むことが想定される。制度施行当初は離島や山間部で実現が進み、段階的に人口密度の高い地域、都市部での活用に発展していくものと考えられる。
 ドローンに対してさまざまな期待やニーズが寄せられる一方、安全やプライバシーの面からドローンの活用には慎重な意見も聞かれる。ドローンの社会実装と安全な活用に向けては、民間の技術開発や市場ニーズの醸成、国の法制度、そして社会の受容性の3つが必要であり、官民の多くの人を巻き込んで議論を深めることが必須といえる。

飛行の申請を利用者・審査側の双方でスムーズにする「DIPS」

 ドローンの利活用推進には官民の双方の連携が求められるが、これまで50年にわたり有人機の航空管制領域のシステム開発で実績を重ねてきたNTTデータも、ドローンが飛び交う時代の『空の安全』に貢献できると考えている。
 ドローンに関するシステム開発に携わる航空システム統括部の羽鳥友之氏は、次のように語る。 「有人機におけるシステム提供は、空の高い領域の安全を担保する取り組みでした。そこに低空を飛ぶドローンが登場し、しかも従来の有人機より多くの機体が密度高く飛ぶ日常を想定すれば、その安全確保は難しいテーマになります。幸いNTTデータにはこれまで有人機で培ってきた知見や技術が蓄積されているので、それらをドローンにも発展的に応用することで、数多くの機体が安全に飛行する仕組みを生み出せると考えています」
 機体の故障などのインシデントが発生した場合を考えると、いうまでもなく有人機は人が操縦するため、最終的にはパイロットのその場の判断で事故等を回避することも可能。対してドローンはその場での人の判断で衝突・落下を避けることが困難なため、安全確保のためには運航基準を作ることに加え、新しい自動化技術を確立していくことが必要だと、羽鳥氏は指摘する。

  • 株式会社NTTデータ 羽鳥 友之 氏

    株式会社NTTデータ
    第一公共事業本部 第一公共事業部
    航空システム統括部 開発担当
    アビエーションビジネススペシャリスト
    羽鳥 友之 氏

  • 株式会社NTTデータ 浜口 航 氏

    株式会社NTTデータ
    第一公共事業本部 第一公共事業部
    航空システム統括部 開発担当
    課長 浜口 航 氏

 実際に、NTTデータはドローンの世界においても安全と普及を後押しするシステムを提供している。前述のようにドローンには飛ばしてよい高さや地域、飛行方法が定められており、それ以外の飛行については事前の許可・承認が必要だ。従来、申請は紙の書類で行われてきたが、この申請をオンラインで行える国土交通省のドローン情報基盤システム(DIPS)の開発と運用を、NTTデータが受託している。
 DIPSの運用は2018年にスタートした。開発と実際の運用に携わる航空システム統括部の浜口航氏は、導入の背景をこう話す。 「2018年頃はドローンの利活用が急速に進み、申請件数も爆発的に増えていました。紙による申請は、利用者側にとって手続きが面倒なだけでなく、申請書類を審査する地方航空局(東京・大阪)などの担当職員にとっても大きな負荷となっていました」

ドローンが飛行する『空の安全』に向けて取り組みは拡大

 DIPSが導入されることで、利用者側・審査側双方の負担を解消し、申請から審査、許可・承認までをワンストップで効率的に実施できるようになった。「開発にあたっては、利用者目線でユーザーの利便性を改善するとともに、審査する職員の目線も持ち、両方がWIN-WINになるシステムを作り上げるよう心がけました。航空局職員の皆様に地道にヒアリングして紙の運用をシステムに落とし込み、毎日何時間も打ち合わせを行いながらブラッシュアップしていくのは大変でしたが、空の安全に貢献している意識を強く抱きながら取り組めました」と浜口氏は振り返る。
 運用面では、ドローンは幅広い年代や立場のユーザーが利用するため、制度の理解度や情報システムへの習熟度も人によって異なり、高度な問い合わせもあれば、そもそもWebの使い方がわからないといった多岐にわたる質問があったという。こうしたさまざまな粒度の声を受け、機能面の改善やマニュアルの充実にも継続して取り組んでいる。
 その成果として、国土交通省発表の数字を見てみよう。2018年前後は前述のようにドローンの活用自体が激増していた時期で、DIPS導入前の2017年度の申請数は前年度比1.4倍増えていた。これに対し、導入後の2018年度は同比1.8倍増となった。申請の実態を見ると約9割がオンラインに移行しており、NTTデータとしてはWeb化により利便性が上がったことも申請数が増えた要素の一つと捉えている。

 浜口氏は今後についてこう語る。
「NTTデータはシステム開発を通じてドローンが安全に飛べる社会の実現に貢献し、業務効率化や新ビジネス創出といった課題解決を支援していきます。当社は官民双方のプレイヤーと接点を持っているため、ドローンの発展に向けハブの役割を果たせると考えており、知見や技術に加えてその強みも意識しながら取り組んでいきたいと考えています」

 NTTデータではDIPSに加え、ドローンを活用する事業者と空域管理者向けの管理機能を備えた「airpalette UTM」というシステムも提供している。ドローンが飛び交う時代を見据え、ドローンの安全・安心な飛行と活用範囲の拡大をサポートする取り組みに、さらに力を入れていく。

ドローンのある社会のつくりかた(後編)― 先進事例にみる社会実装の可能性
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