近年で「転換期」と呼べる時期があるとしたら、それは2020年だったといえるだろう。世界を襲った新型コロナウイルス感染症により、あらゆるビジネスの枠組みは一変した。特に影響を受けた業界の1つが、小売・販売業だ。実店舗を閉めなければならない事態を誰が想像しただろうか。2020年4~5月の2ヶ月間にわたり、町からは店舗の明かりが消えた。
失われた売上を少しでも補填するために、あらゆる事業者がECに活路を見い出した。半ば強制的にオンラインビジネスは伸長し、数年分のインターネットシフトがたった1年に凝縮して起こったといえる。
一度動き始めた流れは止まることはない。実店舗が営業を再開した後も、多くの事業者はECに注力し続けている。だが、そのすべてがうまくいっているわけではない。実店舗の売上はコロナ禍以前ほどには戻らず、ECも実店舗の売上減を完全に補填できるところまでは伸びず、どちらも中途半端なまま全体として収益を落としてしまった事業者も少なくない。
逆にコロナ禍においても成長を続ける事業者もいる。苦戦する事業者と、ピンチをチャンスに変えた事業者。両者を分かつのは何か。どうすれば小売・販売業を成長させられるのか。そのポイントとなるのが「ユニファイドコマース」だ。
一貫した購買体験を顧客に提供できる「ユニファイドコマース」
「ユニファイドコマースとは“統一された商取引”のことです。お客さまにより心地よい購買体験を届けるために、今後欠かせない考え方になるでしょう」と話すのは、大手システムインテグレーターであり、金融機関などのシステムも手がけるTIS株式会社の古井戸一郎氏だ。
古井戸氏はかつて、大手スポーツメーカー在職時にEC事業構造の変革を担当。コロナ禍のなかで自社ECサイトのシステム改修や基盤の作り変え、オペレーションの改善など全面的な見直しをおこなった。TISには2021年7月にジョインし、現在はユニファイドコマースの事業化推進、社内外での啓蒙活動に取り組んでいる。
TIS、そして古井戸氏が提唱するユニファイドコマースとはなにか。「オンラインとオフラインを区別せず、事業者が提供する購買体験を一貫性を持って顧客に提供するという考え方です」と同氏は語る。
ユニファイドコマースを理解するためには、反対にユニファイドコマースが実現できていない例を考えるとわかりやすい。たとえば、アパレルブランドで買い物をするとしよう。顧客はスマホでECサイトを見て、とある商品がほしくなった。ECサイト上では「在庫あり」という表示になっていたが、サイズ感がわからないため、まずは近くの実店舗を訪れて試着することにした。
ところが、実店舗にはその商品がなかった。ECサイトには「在庫あり」になっていたが、それはあくまでもECサイト用の倉庫にあるというだけで、店舗には在庫がなかったのだ――このような経験をしたことがある人は多いのではないだろうか。
また、逆に実店舗でとある商品を購入したとする。自宅に戻り、同じブランドのECサイトを開いてみると、「あなたへのおすすめ」として先ほど買ったばかりの商品がレコメンドされる――これもまた、よくあることだろう。
「これまでの小売・販売業の多くは、店舗は店舗、ECはECと、オンラインとオフラインで顧客体験が分かれてしまっていました。しかし、それではお客さまによりよい体験を提供できているとはいえません」(古井戸氏)
顧客からすれば、オンラインなのかオフラインなのかは関係ない。同じブランドである以上、統一された購買体験ができなければ不便であり、不快感を覚えるものだ。しかしユニファイドコマースが実現できれば、オンラインとオフラインの垣根が取り払われ、一貫した購買体験が顧客に提供される。
「たとえば、ECサイトでよく商品を購入している顧客が店舗に足を運んだとき、ECサイトの購買履歴をもとにスタッフが適切な接客をしてくれる。逆に実店舗をよく利用している顧客がECサイトを訪れると、実店舗の購買履歴をもとにしたおすすめの商品がレコメンドされる。このように顧客一人ひとりに合わせた接客を実現し、オンライン・オフラインを通じて一貫性のある購買体験を提供できれば、機会損失も起きず、ブランドに対する顧客のエンゲージメントも向上していきます」(古井戸氏)
業務の観点からユニファイドコマースを端的に説明するための言葉として、古井戸氏は(1)顧客情報一元化による正しいお客様理解、(2)在庫・販売情報の一元化による“在庫切れ”解消、(3)パーソナライズされた情報の提供という「3つの縦軸」を挙げる。(図2参照)
ユニファイドコマースの実現を妨げる「システム面の課題」
このように、ユニファイドコマースは事業者にとって大きなメリットをもたらす考え方である。では、今すぐにすべての事業者がユニファイドコマースを実現できるのかというと、そう簡単にはいかないのが実情だ。
ユニファイドコマースを実現するための障壁として古井戸氏が指摘するのが、システムにおけるフロントエンドとバックエンドの問題である。
ECサイトにおけるフロントエンドとは、トップページや商品一覧ページ、商品詳細ページといった顧客が直接目にするページのことだ。一方、バックエンドとは、在庫管理や受注管理など、顧客が目にするわけではないがECサイトの運用に欠かせない裏のシステムのことである。
「これまで、フロントエンドとバックエンドは密接に結びついていることが一般的でした。たとえば、ECサイトを簡単に構築できるソリューションパッケージなどでは、フロントエンドとバックエンドが一体化した機能として提供されています。そのため、フロントエンドの大幅な改修やシステムの入れ替えをおこなう場合、バックエンドも一緒に改修・入れ替えを行う必要があったのです」(古井戸氏)
ユニファイドコマースを実現するためにECサイトのデザインを変更したいが、そのためにバックエンドのシステムも大きく変わるというのでは、リソース的にも費用的にも負荷が大きすぎる。「肥大化したシステムの問題が、ユニファイドコマースの実現を妨げているのです」と古井戸氏は言う。
システム課題を解決する「ヘッドレスコマース」とは
そこで、TISが提案しているのが「ヘッドレスコマース」である。ヘッドレスコマースとは、フロントエンドとバックエンドを切り離して構築するという考え方だ。フロントエンドとバックエンドが別々に構築されていれば、フロントエンドを改修する際もバックエンドに大きな影響はない。そうなれば、今後、顧客体験を革新するテクノロジーが新たに登場した際、積極的に導入しやすくなるというメリットが生まれる。
「ECに留まらず、今後はどんどん新しい顧客体験が出てくるでしょう。たとえばVRゴーグルを着けて買い物をすることもあれば、IoT冷蔵庫が庫内をチェックして足りないものをレコメンドしてきたり、自動発注したりする顧客体験が生まれるかもしれません。しかし、フロントエンドの顧客体験がいかに進化したとしても、在庫管理や受注管理といったバックエンドの仕組みは変わりません。フロントエンドをバックエンドから切り離すことで、フロントエンドにおける顧客体験を改善しやすくなり、ユニファイドコマースの実現が可能になります」(古井戸氏)
業務の観点からは、先ほどの「3つの縦軸」でユニファイドコマースの概念を説明することができる。そこにシステムの観点から「3つの横軸」と、顧客との接点であるタッチポイントを加えることで、「ユニファイドコマースを実現するために必要となるシステム構成と、データの循環を理解することができます」と古井戸氏は力を込める。
このようなヘッドレスコマースからユニファイドコマースまでの流れをトータルで支援できるのが、これまでSIer(システムインテグレーター)として数々の企業のシステムを手がけてきたTISの強みだ。
「業界や会社が違っても、実はバックエンドのシステムというのは共通点が多い。売っているものが服でも化粧品でも、在庫管理や受注管理などでやることは同じですよね。それなら、そのバックエンド部分は我々TISが共通基盤を用意して、事業会社様はそこに乗っていただければ、ユニファイドコマースが実現できるのです」(古井戸氏)
TISが抱く「ユニファイドコマース」への想いと未来像
TISはこれまでに培ってきた技術力を生かし、様々な業界においてユニファイドコマースを推し進めていくという。ユニファイドコマースにより、顧客一人ひとりを理解したサービスやビジネスが実現できれば、その先に見えてくるのは「必要なモノを必要なだけ作り、必要な人にしっかりと届けられる社会」だと古井戸氏は考えている。
「ユニファイドコマースが将来的にもたらすのは、無駄な生産をしないエコな社会です。社会貢献という意味でも、我々はユニファイドコマースをこれからも推進していきたいと考えています。いずれは、ユニファイドコマースといえばTIS、と言われるくらいの存在になりたいですね」(古井戸氏)
ユニファイドコマースは、事業者や消費者にメリットをもたらすだけでなく、社会全体の課題解決にもつながるイノベーションなのだ。そんな「ユニファイドコマース」に熱い想いを見せるTISのビジネス展開から、これからも目が離せない。
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