旭化成の主力製品の一つである機能性樹脂を扱う機能材料事業部門では、製品別のグローバル一貫損益の把握に課題を抱えていた。複雑化したサプライチェーンにおいて、いかに製品別の損益を事業判断に活用できるようにするか。NTTデータのコンサルティングからスタートした経営管理の高度化は、デジタル経営基盤の構築による損益把握にとどまらず、事業の将来の成長性を定量的に可視化する施策にまで発展した。関係者へのインタビューを通じて旭化成が進めるデータドリブン経営の取り組みを追った。

複雑なサプライチェーン、製品ごとの損益把握は半年に一度の重労働

旭化成株式会社 鈴木靖之氏

旭化成株式会社
パフォーマンスプロダクツ事業本部
企画管理部 機能材料企画室
室長 鈴木 靖之 氏

2022年で創業100周年を迎える旭化成。同社の繊維・化学品・エレクトロニクス関連素材を扱うマテリアル領域は、旭化成グループの中核事業である。その領域において、エンジニアリングプラスチックなどを中心として扱う機能材料事業は、製品別の損益情報管理に課題を抱えていた。機能材料事業を管理するパフォーマンスプロダクツ事業本部の企画管理部 機能材料企画室長、鈴木靖之氏は次のように説明する。

「樹脂製品は一つの工場で生産して供給するわけではなく、製造・加工から販売まで非常に長いプロセスを経て顧客の元に届きます。グループ内の工場と販売会社はグローバルに広がり、中にはある海外拠点で製造したものを別の国で二次加工し、さらに別の国に送るケースもあります。このようにサプライチェーンが長く複雑なため、製品ごとの情報管理が重要になってきます」

国内外に10拠点を展開し、1.5万件もの製品を扱っているうえ、それぞれの製品の商流がきわめて複雑であった。それゆえ、本社としては製品ごとにサプライチェーンのどの部分で利益が生じているかが見えづらい状態に。グローバルの連結製品損益の把握は、半年に一度国内外の各拠点で個別にExcelで集計したデータと、10年ほど前にスクラッチ開発したシステムを組み合わせて合算するしかなかった。
「確認の頻度が少ないうえ、固定費を加味した営業利益までは可視化されておらず精度も低かったため、この製品事業が本当に良い方向へ向かっているのか見えにくく、次の一手を考える判断材料が不足しているのも課題でした」と鈴木氏。製品ごとの利益管理が十分にできていないことで、事業判断の遅れにつながるリスクをはらんでいた。従来のシステムも予算作成に活用することはできるが実績を見ることは難しく、マーケットの先端で起きている情報をタイムリーに入手できなかった。こうした背景から、システムの更新を契機として、次世代化を目指した今回のプロジェクトが動き出した。

カギは海外拠点との合意形成とインセンティブ設計

2018年、製品ごとのサプライチェーンにおける情報を把握し、データに基づいた意思決定による経営管理の高度化を実現するため、旭化成では新たなデジタル経営基盤の整備に向けたベンダ選定を開始した。ここで出会ったのがNTTデータだ。 鈴木氏は次のように振り返る。
「NTTデータは、当社の現状を1伝えると10の反応が返ってくるといいますか、実に的確に課題をつかんでくれて、もやもやしていたものをクリアに整理できました。この会社なら当社の課題を解決できるだろうと感じ、ぜひ一緒に仕事をしたいと思いました」 旭化成の要望に対し、NTTデータはどういった形で応えたのか。のちに「JUMPプロジェクト」と名付けられたこの取り組みでプロジェクトマネージャーを務めたコンサルティング事業部の山崎研二氏はこう語る。

株式会社NTTデータ 山崎研二氏

株式会社NTTデータ
コンサルティング&ソリューション事業本部
コンサルティング事業部
ビジネスコンサルティング統括部
課長 山崎 研二 氏

「プロジェクトの目指すところは、機能材料事業における製品別グローバル一貫損益の可視化です。コンサルティングにおいて、まずは構想策定フェーズとして複雑なサプライチェーンの商流をすべて洗い出し、当時のスクラッチのシステムに関しても設計書をひっくり返して、最初の構想を作っていきました。そこから次はプロジェクトの準備段階に入り、グローバル各拠点の合意形成やインセンティブ設計を旭化成様と一緒になって進めました」山崎氏は、これまでの経験からグローバルにまたがるプロジェクトでは、グローバル各社で使われる仕組みにしていくことがポイントだと理解していた。「経営管理ソリューションは基本的には本社側の視点であって、各個社や現場からすると“総論は賛成だが各論は反対”になりやすい傾向があります。だからこそ個社ごとの合意形成に力を入れ、このシステムを利用すれば各個社にもこういったメリットがあるというインセンティブを丁寧に説明しながら、信頼関係を構築していきました」と山崎氏。

Anaplan+Tableauで損益情報を可視化、海外拠点にも定着

こうした入念な準備を経て、NTTデータは経営管理の具体的ソリューションとして「Anaplan」を提案する。「予算や実績を管理する経営管理ソリューションにはいくつもの選択肢がありますが、今回のケースはとにかく商流が多岐にわたり、取り扱う品目数も多い。大量のデータの複雑な計算を処理し、製品ひとつひとつの損益を高速にアウトプットできるという視点で考えたとき、Anaplanが最適だと考えました」(山崎氏)。あわせて、現場でデータ活用を推進する目的でBIツールの「Tableau」も選定した。「TableauはUIが優れ、使いやすい点を評価した」と山崎氏は話す。

旭化成株式会社 崎田雄大氏

旭化成株式会社
パフォーマンスプロダクツ事業本部
企画管理部 機能材料企画室
課長 崎田 雄大 氏

JUMPプロジェクトは2018年夏に始動。山崎氏はプロジェクト開始後も、旭化成側のプロジェクトリーダーとなった機能材料企画室課長の崎田雄大氏とともに世界各地の拠点を飛び回り、個社側の事情や要望をヒアリングしながら取り組みを前に進めていった。崎田氏は「海外拠点では相手の懐に飛び込み、気持ちをつかんでいく姿が印象的でした。いまでも私たちを通さず海外拠点メンバーからNTTデータに直接問い合わせが入ることもあるほど、信頼関係が出来上がっていたので、安心してお任せできました」と回顧する。

Anaplanの導入により、月次での製品別連結損益の可視化が実現した。「Anaplanに入っている数字を経営のKPIとしてモニタリングする利用法がかなり浸透し、意思決定にも役立っています」と鈴木氏は評価する。従来システムではできなかった営業利益ベースの把握が可能なうえ、利益シミュレーション計算も10〜20分かかっていた。Anaplanはわずか5秒前後でレスポンスするため、現場のストレスも改善されたという。
さらに、TableauはAnaplanの損益情報をダッシュボードで可視化しており、「Tableauは数字がグラフィカルに見えるので、各拠点での活用が始まっています。むしろ海外拠点のほうが習熟は早く、使いこなしが進んでいる印象です」と崎田氏。現地・現場でデータをもとにした議論ができるようになってきたと、成果を感じている。

儲かるビジネスをデータで把握する~Salesforceとの連携で次のステージへ~

JUMPプロジェクトは、厳密にいえばこのAnaplan+Tableauの導入に対して与えられたステージ1の名称だが、旭化成とNTTデータのタッグによるDXの取り組みはさらにステージ2へと移行し、拡大を見せている。データドリブンの経営判断を実現するため、Anaplanの製品別情報とセールスフォース・ドットコム社のSalesforce製品で管理する営業情報を連携するための新たなプロジェクトに取り組んでいる。
「新しいビジネスが収益にどれほど貢献するのか。これまでの経験や勘に頼った判断から、データを元に分析できるようにするため、機能材料事業の部門で導入していたSalesforce Sales Cloudと連携させることで、マーケティングと経営管理情報の融合を図れるのではないかと考えました」と、鈴木氏はプロジェクトの意図を語る。このSalesforce連携において、NTTデータ側でSalesforceの活用や業務にフィットさせる基本構想を担当しているのが、デジタルビジネスソリューション事業部の大田裕之氏だ。

株式会社NTTデータ 大田裕之氏

株式会社NTTデータ
コンサルティング&ソリューション事業本部
デジタルビジネスソリューション事業部
CRM統括部 Salesforce担当
課長代理 大田 裕之 氏

「Salesforceは今まで各営業の頭に入っていた暗黙知を統合し様々な軸で見える化・分析・アクションに繋げられる優れたソリューションです。一方でSalesforceに情報をインプットする作業がどうしても必要になります。営業からすると作業が増えるわけですから、使いづらい、面倒だと感じるケースが多いです。ましてや今回のプロジェクトのそもそもの目的は経営管理の高度化ですので、日頃の営業活動からは離れていると感じられるのも仕方ありません。そのため、営業の現場にもSalesforceを使うことで、自動化による効率化や情報の見える化によるデータ活用といったメリットを感じてもらい、山崎の部署と連携しながら機能の作り込みと定着化を進めているところです。将来的には、普段の営業活動の業務においてSalesforceの活用を特別に意識することなく、自然とその情報が経営管理の高度化に繋がる世界観を目指しています。」

取り組みの進め方について、崎田氏は「アジャイルな対応で、営業から要望が出たらそれを1日程度で実装してくれるので、現場としても思ったより使いやすいと感じる人が増えてきた印象です」と話す。
AnaplanとSalesforce製品の連携と活用は、営業現場では上記のとおり道半ばであるものの、経営管理における活用は順調に進んでおり、2022年度から始まる新中期経営計画の策定に向けたモニタリングに使い始めている。今後は、営業から経営管理までデータが一気通貫で流れる仕組みの構築を目指していくという。 JUMPプロジェクトからSalesforce連携までの取り組みを振り返る視点から、山崎氏は最後に次のように語った。
「旭化成様のメンバーのシステム活用に向けたモチベーションが高く、周囲や各拠点を巻き込む取り組みを推進していただけたからこそ成功につながっています。また、プロジェクトとプロジェクトもぶつ切りではなく、同じメンバーで全体的なゴールを共有しながら進めてきたことが、取り組み全体に大きな広がりを生んでいます。当社でも、経営管理とSalesforce担当が一緒に仕事をするのは初めての経験でしたので、今後につながっていく可能性を実感しました」 旭化成では今回の取り組みをDXの先行施策と捉え、使われるシステム・愛されるシステムとして発展させることを目指していくという。NTTデータも、旭化成のDXを引き続きサポートしていく考えだ。

本記事の中でご紹介している各オファリングの詳細はこちら

●旭化成の機能材料事業におけるデジタル経営基盤を構築、国内外10拠点の経営情報を一元化
>>https://www.nttdata.com/jp/ja/news/release/2021/093002/

●NTTデータグローバル経営管理ソリューションについて
>>https://www.nttdata.com/jp/ja/lineup/global_management/

●NTTデータSalesforceオファリングについて
>>https://digital.nttdata.com/cx/salesforce/

●旭化成 機能材料事業について
>>https://www.asahi-kasei-plastics.com/

■企業紹介

旭化成株式会社

1922年旭絹織株式会社として創業。2022年で100周年を迎える。ケミカル・繊維を柱に事業を発展させ、現在のグループの事業は「マテリアル」「住宅」「ヘルスケア」の3領域に分けられる。近年は競争力強化に向けてデジタル活用に力を入れ、2019年からの現中計でもDX推進を掲げている。その取り組みが高く評価され、経済産業省が選定する「DX銘柄2021」にも選ばれた。

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