コロナ禍の影響もあり、厳しさを増す小売・販売業。そんな中で注目を集めているのが、小売事業におけるマーケティング手法「ユニファイドコマース」です。 本稿では、ユニファイドコマースの概要や、よく似た概念であるオムニチャネルやOMO、O2Oとの違い、ユニファイドコマースを実施するメリットや実際の事例などをご紹介します。
ユニファイドコマースとは
ユニファイドコマース(Unified Commerce)の「ユニファイド」とは「統合された」という意味です。「コマース」は、電子商取引をEコマースと呼ぶことからもわかるように「商取引」のことです。
つまり、ユニファイドコマースを直訳すると「統合された商取引」となります。この場合の「統合」とは、オンラインやオフライン、さらに商品在庫や顧客の購買履歴、ECサイトにおける行動データやアプリの活用データなど、販売や顧客のデータのすべてを統合することです。それにより、顧客の一人ひとりに最適な購買体験を提供し、顧客満足度を向上させ、LTVを高めていくことがユニファイドコマースの狙いとなります。
ユニファイドコマースのメリット
ユニファイドコマースは顧客と事業者の双方に多くのメリットをもたらします。まず、顧客にとっては、オンライン・オフラインを問わず、一貫した接客・サービスを受けられるメリットがあります。
たとえば、いつもECショップから購入している化粧品を実店舗でも購入したとします。実店舗を訪れるのは初めてだったため、その店舗のスタッフからすればあなたは初対面の顧客です。しかし、その店舗がユニファイドコマースを実現していれば、アプリを読み取ったりすることで、あなたがECショップでいつも化粧品を購入している常連だということがわかります。そうすれば、スタッフもあなたに合わせた接客を実店舗でもしてくれるようになるというわけです。
逆に、実店舗でいつも購入している商品を初めてECショップで購入する場合にも同じことがいえます。データが統合され、ユニファイドコマースが実現できていれば、ECショップを初めて利用した場合でも実店舗での購買履歴が反映され、顧客一人ひとりにパーソナライズされたおすすめ商品やキャンペーン情報などが届くのです。
オンライン・オフラインを区別することなく、自分自身が“同一の顧客”として認識され、一貫したサービスを受けられることは、顧客に深い満足感をもたらします。
ユニファイドコマースは事業者にとっても大きなメリットがあります。顧客の満足度を高めることは、その後の顧客の購買行動に良い影響を与え、長期的なロイヤルカスタマーの育成へとつながります。
また、統合されたデータはビジネスの精度をより高め、商品開発やキャンペーンの考案などに役立つでしょう。
オムニチャネル、OMO、O2Oとの違い
ユニファイドコマースとよく似た概念として、オムニチャネルやOMO、O2Oといったマーケティングの考え方があります。これらはユニファイドコマースと一見似ていますが、細かい点で違いがあります。
ユニファイドコマースとオムニチャネルの違い
オムニチャネルとは、すべてのチャネル(顧客との接点)の区別をなくすことで販売機会の損失を防ぐマーケティング手法です。具体的には、店舗在庫とECショップの在庫データを統合することで、販売機会の損失を防ぐといった施策がオムニチャネルの代表例です。
オムニチャネルを導入することで、「店舗で商品が売れて在庫がゼロになったのに、ECショップの在庫に反映されておらず、顧客から注文がきて在庫状況を確認し慌てる」といった事態が起きることを防げるのです。
ただし、オムニチャネルはユニファイドコマースのように、「すべてのデータを統合し、顧客一人ひとりに最適なサービスを提供する」というところまでは至っていません。オムニチャネルはあくまでも「チャネル」の統合に留まる考え方だからです。もちろん、ユニファイドコマースを実現する上で、オムニチャネルは欠かせません。その意味で、ユニファイドコマースはオムニチャネルがより発展した手法ともいえるでしょう。
ユニファイドコマースとOMOの違い
OMOとは、「Online Merges with Offline」のことです。「オンラインとオフラインの統合」という意味で、ユニファイドコマースに近い概念といえます。ただし、OMOはあくまでも「売上の向上」をゴールにおいた考え方です。一方でユニファイドコマースは、「顧客体験の向上」をゴールにおいた考え方です。両者は、目指すところが異なるという点で区別されます。
ユニファイドコマースとO2Oの違い
O2Oは「Online to Offline」のことです。「オンラインからオフラインへ」という意味の通り、オンラインからオフラインへ送客することを目的としたマーケティング手法です。
たとえば、実店舗で行うキャンペーン情報をメールマガジン等で顧客にお知らせするといった施策がO2Oです。あくまでも主体となるのはオフラインであり、オンラインはオフラインへ送客するための手段として捉えます。
ユニファイドコマースのようにオンラインとオフラインを統合するのではなく、オンラインとオフラインを区別するのがO2Oの特徴であり、両者の違いといえます。
ユニファイドコマースの導入事例
最新のマーケティング手法であるユニファイドコマースですが、すでにビジネスに導入し、成果を上げている企業もあります。ここではユニファイドコマースの事例についてご紹介します。
ベイクルーズ
ユニファイドコマースの成功事例としてよく語られるのが、ベイクルーズです。アパレル事業をはじめ、ライフスタイル関連事業などを展開するベイクルーズは、早くからオムニチャネルに着目し、現在はユニファイドコマース戦略を強力に推進しています。具体的には実店舗とECを1つのプラットフォームとして捉え、顧客データなどを統合。多くのエンジニアやマーケティングチームを自社内に配置し、スピード感を持ってユニファイドコマースに取り組んでいます。
同社はECをビジネスの軸にしており、ユニファイドコマースを推進して以来、売上は毎年右肩上がりで増加。多くの小売業や販売業が苦戦を強いられる中、ユニファイドコマース戦略でビジネスを成功に導いています。
TSIホールディングス
ナノ・ユニバースなどのアパレルブランドを有するTSIホールディングスも、ユニファイドコマースに注力して成果を上げている企業です。ユニークなのは、オンラインで受け付ける「試着予約」サービス。顧客はオンラインで試着したいアイテムや店舗、対応スタッフなどを指定し、来店するという流れです。オンラインとオフラインを統合し、顧客体験をより向上する試着予約サービスは大ヒット。試着したアイテムの購入率も約8割と非常に高いものだったといいます。
三越伊勢丹ホールディングス
伝統ある老舗百貨店、三越伊勢丹ホールディングスもユニファイドコマースを導入し、成果を上げています。かつて三越伊勢丹のECショップはあくまでも実店舗の補完という位置づけだったそうですが、現在は実店舗とECを統合し、同じ商品がどちらでも同じように購入できる「シームレス体験」を打ち出しています。
ワコール
女性下着をメインに販売するワコールは2004年からEC事業を展開していました。しかし、オンプレミスではサーバが落ちたり、インフラ管理に負荷がかかったりといったデメリットがあったことから、クラウドへとシステムを移行。システムが安定したことで売上も伸び、現場からの注目も集まったことでユニファイドコマースへの取り組みが始まったといいます。
まとめ
ユニファイドコマースは「統合された商取引」のことで、オムニチャネルやOMO、O2Oといったマーケティング手法を発展させた考え方です。顧客データを統合し、顧客一人ひとりに最適化したサービスを提供、オンラインとオフラインを区別せずシームレスな購買体験を実現することで、顧客満足度を高め、LTVを向上することが期待できます。
小売業・販売業にとって、ユニファイドコマースは、今後のビジネスを成長させるための鍵を握るマーケティング手法といえるでしょう。 次回はユニファイドコマースをテーマにビジネス支援を行うTISに話をうかがいます。
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