企業向けLinux製品において圧倒的なシェアを誇るRHEL(Red Hat Enterprise Linux)のほか、仮想化プラットフォーム、クラウド・コンピューティング分野でもオープンソースソフトウェアの成果をエンタープライズ領域に展開する、ソフトウェア・ソリューション・カンパニーのRed Hat。Red Hatは、教育機関向けのトレーニング・プログラム「Red Hatアカデミー」をグローバルに展開している。日本においても5年前から提供を開始し、国内教育機関が“ビジネスで活躍する技術を備えた人材の育成”を実現するための支援を行っている。
Red Hatアカデミーの興味深い取り組みの1つが、2021年6〜8月にかけて実施された「岩崎学園 Red Hatアカデミー特別講義」だ。この施策は、5年前当初よりRed Hatアカデミーのプログラムを授業に取り入れてきた岩崎学園との共同体制で展開。300名を超える学生が参加、学生からは「インフラエンジニアの“リアル”を知り、インフラに興味がわいた」「実践的な技術と考え方を習得でき、更なる学びを深めたい」といった声が聞こえてくるなど、大きな成功を収めている。
本稿では、今回の施策における学校側の責任者である学校法人岩崎学園 情報科学専門学校の武藤 幸一氏と、Red Hat グローバルラーニングサービスの松橋 治氏に、この取り組みの目的と得られた成果、今後の展望について話を伺った。
最新のインフラ技術を身につけ、インフラのもつ創造性を知って欲しい
1927年に横浜洋裁専門女学院として設立され、現在はファッション、デジタルクリエイティブ、AI・IoT、リハビリ、看護、保育、医療事務などの分野で専門学校を運営している学校法人岩崎学園。近年では“分野融合”を重要なミッションと位置付け、リハビリ×ITやデジタルクリエイティブ×ファッションなど、異なる学校の学生が連携することで、学園全体で発想力豊かな人材の育成を目指している。今回のRed Hatアカデミー特別講義は、同学園が運営する情報科学専門学校の学生に向けたプロジェクトとなる。同校で実践IoT科の学科責任者を務める武藤氏は、その経緯をこう語る。
「ITの進化にともない、エンジニアに求められるスキルも変わってきています。インフラ関連は特にその傾向が強く、『とにかく作って、試して、ダメなら作り替える』といったアジャイルな開発手法が求められており、多くの時間とコストを費やして構築するという従来のスタイルが合わなくなってきました。ところが学校の授業は、どうしても以前から教えてきた内容から抜け出すことが難しく、OpenShiftやコンテナなどの最新技術を教えられる環境を整えられていません。こうした状況に危機感を覚えていたこともあり、今回のお話をいただいたときには『やってみましょう!』とすぐに決断しました」(武藤氏)
同校では、さまざまなアンケートを通じて学生から生の声を集めているが、学生たちのインフラに対する認識は「激務」「障害対策に追われる」などネガティブなイメージばかりだったと武藤氏。「そうではなく、インフラエンジニアの世界はもっとクリエイティブなものだと学生に知ってもらいたい」という思いも、特別講義を実施した要因になっていると話す。
Red Hat 側の企画責任者である松橋氏は、次のように振り返る。「コンテナ、Kubernetesがビジネスの世界で重要な技術になっていることから、来年度のカリキュラムに組み込んでみてはと声をかけたのが、そもそものきっかけでした。武藤先生から『今の時代、インフラ/プラットフォームに興味のあるエンジニア志望の学生はほとんどいない』という現状を伝えられ、ならば『実際に学生に触ってもらい、理解してもらう場』を提供したいと思いました。いきなり実践的な講義にしてしまうと不安に感じる学生も多いので、ビジネスやコミュニティで活躍する現役エンジニアの協力を得て、インフラの本来の価値を伝え、インフラに対する興味喚起を促して、学生が自主的に参加したいと思うような構成にしました」(松橋氏)
2回の業界セミナーで学生の興味を引き出し、夏期特別講義で実践的スキルを伝える
今回の施策は、2021年6月に開催された「業界セミナーDay1」を皮切りに、7月「業界セミナーDay2」、8月「5日間夏期特別講義」という3つのフェーズで展開された。
業界セミナーDay1のテーマは「エンジニアの価値を磨くためのLinux+1」 「インフラ開発の最前線にいるRed Hatのエンジニアに登壇してもらい、プラットフォームを扱うエンジニアのやりがいや楽しさ、自身が大切にしていることなど、給料や転職といったリアルな部分にまで踏み込んで、赤裸々に語ってもらいました」(松橋氏)
「学生は実際の業務従事者、特に外資系企業社員の考え方に触れる機会が日頃少なく、アウトプットの大切さや小さな夢から積み重ねる価値など、今後の学生生活や社会人になるにあたって大事な考え方を得られたと思います」と武藤氏は振り返る。
業界セミナーDay2は「なぜ今Kubernetesを学ぶのか?」。 実はDay2パネリストの1人は、岩崎学園の卒業生だったと松橋氏。ロールモデルにもなる先輩やコミュニティ・リーダーとの活発な質疑応答に、「自分たちがしたことが会社の標準になる、と言う話にインフラエンジニアの面白さを感じた」「顧客に価値を提供できるようにスキルを身につけたい」など、学生はインフラに対する興味を膨らませ、将来を考える上で有意義なヒントを得たようだ。
2回の業界セミナーのあと、最終フェーズとなる夏期特別講義の参加者募集が行われた。Red Hatアカデミーでは、企業向けプログラムであるRed Hatトレーニングと同じラボ環境やコンテンツを提供しており、今回の特別講義も企業向けの「Red Hat OpenShift I: Containers & Kubernetes(DO180)」コースを採用。受講者の定員は15名だったが、業界セミナーを通して多くの学生がインフラ/プラットフォームに対する関心を高め、予想をはるかに超える応募が集まったという。
「当初、参加を希望する学生が15名も集まるのか不安だったのですが、2回のセミナーが功を奏して55名も希望者が集まりました。定員を増やせないか相談しながら、苦労して33名にまで絞り込みました」(武藤氏)
「Red Hatのトレーニング・プログラムは、全員にしっかりと技術を伝えるため講師1人が教える人数に上限を設けているのですが、今回は意欲ある学生のため何とか上限を外したいという思いがありました。社会人向けのコースにアレンジを加え、3日間で行う内容を5日間に伸ばして構成するなど工夫を行い、学生33名全員が夏期特別講義を高いモチベーションで学習できる環境を整えました。武藤先生にも準備段階から意見を伺い、先生の思いも反映した講義内容になりました」(松橋氏)
Red Hatアカデミーと岩崎学園のタッグが、企業で活躍する人材の育成を支援
今回の施策のコアとなる5日間にわたる夏期特別講義は、連日10:00~17:00という夏休みの集中講義としてはかなりハードな内容だったが、誰1人脱落することなく完走することができたという。
武藤氏は「講師の方と何度も打ち合わせを行い、トレーニング内容に、現場の仕事を知らない学生に向けた補足を入れていただきました。このため学生は『自分が何をやっているのか』という部分で迷子にならずについてこられたのだと思います」と入念な準備にその成功の要因を推察する。
受講者のアンケートでは、「よかった」「有意義だった」というありきたりな意見ではなく、「今まで学んできたものと根本的に考え方が違うので非常に難しかった」「今回学んだものは次の勉強に必ずつながると思う」といった具体的な意見が多かったと、と手応えを感じた武藤氏。「数年しか在籍しない学生にすべてを教えることは不可能です。そのため、こちらから一方的に教えるのではなく、次に学生が何をすればいいかの指標を与えたい」と語り、その意味でも本施策の成果は大きいと力を込める。Red Hatも、今回得られたノウハウを活用し、企業向けのトレーニング・プログラムでもニーズに応じて参加人数を増やせないかと考えているという。
岩崎学園では、特別講義で学生が得たものをどう活かしていくかが今後の課題と捉えている。「理想としては、インターンシップを利用し、身につけたインフラのスキルを企業の中で活かせる場を提供できればと考えています」と武藤氏は展望を語る。松橋氏も「オープンソースを扱うニュートラルな立場から、企業と教育機関の橋渡しができるのでは」と期待を口にする。
世界保健機関 (WHO)の例が示すように、社会の課題を解決する基盤がインフラであり、VUCAの時代、特にその基盤をいかに素早くデザインし実装できるかがビジネス成長のドライバーになる。 「ビジネスで活躍する技術を備えた人材の育成」を目指すRed Hatアカデミーと、「1つの分野にこだわらない、発想力豊かな人材の育成」を目指す岩崎学園の連携が生み出す“未来”には、今後も注視していく必要があるだろう。
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