2021年9月7日、成蹊大学Society 5.0研究所開設記念フォーラム「Society 5.0を生きる」がオンラインで開催された。Society 5.0の実現に向け、いま産官学のプレイヤーたちはどのような考え方のもとで、何をなしていけばいいのか。成蹊大学主催のもと、三菱グループからゲストを招いてフォーラムが展開された。

多彩なプレイヤーの連携でSociety 5.0に進む

最初に成蹊大学 学長の北川 浩氏が登場し「Society 5.0における教育」に関する報告を行った。北川学長は成蹊大学と三菱グループの歴史的なつながり、および三菱創業150周年記念事業委員会の支援により2020年にSociety 5.0研究所が開設されたことを紹介。研究所の取り組みの中から人材育成プロジェクトの考え方を説明した。

北川学長は「Society 5.0における人材には、コラボレーション力と、絶え間ない変化の中で学び続けるための基礎の基礎、そして倫理観が重要になってくると考えます」と語った。

  • 成蹊大学
    学長 北川 浩 氏

続いて、成蹊大学 Society 5.0研究所 所長の佐藤 義明氏から研究所の紹介が行われた。研究所は北川学長が言及した人材育成に加え、学融合研究、連携実践活動を3本柱としている。佐藤所長は学融合研究について「理系と文系の専門知識を融合させ、課題解決のための総合知を創造する」、連携実践活動は「社会課題解決の現場で産官学が連携し、解決を試みる」とそれぞれのミッションを解説した。

そのうえで「研究所はイノベーションコミュニティの一員として、Society 5.0構築を推進します。専門・年齢・ジェンダーが多様な所員で構成され、関心を同じくする研究活動を結びつけ、広く産官学の志を同じくする人と共に取り組んでいきます」と語り、AIなどによる無人化研究、少子高齢社会対応の会話エージェント構築、悩み相談アプリ開発によるネガティブマインド解消支援という3つのプロジェクトを紹介した。

  • 成蹊大学Society 5.0研究所
    所長 佐藤 義明 氏

続いて、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)取締役 代表執行役社長 グループCEOの亀澤 宏規氏が「MUFGが描く金融の未来~AIやデジタル化がもたらす革新~」と題して、特別講演に登壇。亀澤氏は初めに、変革とは「デジタル」「サステナビリティ」「カルチャー」を掛け合わせたものだと話した。

まずデジタルについては、技術の進化などの環境変化と共に金融機関のビジネスが変わってきたとしたうえで「MUFGが取り組むDX(デジタルトランスフォーメーション)には既存ビジネスの高度化と新規ビジネスの2つがあります。前者は店舗での新たな顧客体験提供やオンラインでの顧客接点拡大、後者では外部と連携した次世代金融サービスの創出、新ビジネスへの挑戦、オープンイノベーションの実現に向けたスタートアップ支援などを行っています」と話した。

  • 株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)
    取締役 代表執行役社長 グループCEO
    Global Open Network株式会社取締役会長
    亀澤 宏規 氏

サステナビリティについては、「気候変動・環境保全、少子高齢社会、インクルージョン&ダイバーシティの3つが最重要課題」と語り、それぞれに対する戦略や施策を解説した。

環境課題に対しては脱炭素社会への移行に向け、ファイナンスを通じた取り組みとアセットマネジメント事業を展開し、自社においても2021年度中に国内拠点で100%再生エネルギー化を実現する予定だとした。加えて、少子高齢社会に対応するサービス提供や、インクルージョン&ダイバーシティにおける女性活躍推進、LGBTへの取り組みなども説明した。

  • MUFGのサステナビリティ経営と10の課題

カルチャーに関しては「エンゲージメント醸成が重要。組織風土が変革されないとデジタル、サステナビリティも進みません」と語り、経営陣と社員との対話や、社員の挑戦を後押しする各種制度などの取り組みを紹介した。

最後に亀澤氏は「MUFGのパーパス(存在意義)を『世界が進むチカラになる。』に設定しました。これからもパーパスを起点として、さまざまな事業戦略に取り組んでいきます」と話し、特別講演を締めた。

変化する社会における課題解決とDX推進の処方箋

第2部では冒頭に、三菱総合研究所(MRI)リサーチフェローの村上 清明氏からコメントが披露された。

  • 株式会社三菱総合研究所
    (MRI)リサーチフェロー
    村上 清明 氏

村上氏はあらゆるビジネスに共通するポイントとして「サステナビリティ」「融合と連携」「流動性」を挙げた。サステナビリティに関しては「世界の人々が日本人と同じ生活をしたら地球が2.8個、アメリカ人と同じ生活なら5個必要といわれます。実物の地球は1つしかありませんが、残りを補えるものとして、人間はサイバー空間という無限の新天地を見つけました」と話した。

融合と連携では、今後さまざまな産業が融合し、多様な機能がつながる社会がやってくると解説。また流動性については「金は天下の回りものといわれますが、未来ではデータも同じように動き、人材も価格も流動的になります」と語り、大きな社会変化がこれから起きる中で、日本企業にも社会課題解決に向けた可能性が次々に生まれるとの予測を示した。

第2部では引き続き、亀澤氏をトークゲストに、村上氏をコメンテーターに迎え、視聴者からの質疑応答とフリートークが繰り広げられた。ファシリテーターは北川学長が務めた。

最初の質問は「日本では新しいことに取り組むのが難しいが、効率的にDXを進めるための組織づくりとはどういうものか」。経営の立場にある亀澤氏はこう答えた。

「MUFGではまずビジネスへのデジタルの活用を検討する部署をつくり、次に会社全体でDXを推進するための組織横断的な部へ位置づけを変えた経緯があります。2021年4月には、顧客担当部門の一部を統合してデジタルサービス事業本部を設立し、一緒に取り組む形に変えました。さまざまな考えの方がいますが、それぞれ理由がある。その理由をきちんと聞き、コミュニケーションをとりながら改革を進めていくことが重要です」(亀澤氏)

一方、村上氏は「DXには創造と破壊の両面があり、破壊される側は反対します。明治時代、前島密が郵便制度を作りましたが、全国の飛脚は職を失うと反対しました。そのとき前島は新たに物流会社をつくり、それが後々、日本の工業化に役立って、いまは日本通運という会社になっています。DXは変革で浮いたリソースを別のものに使うことが大事で、その創造の部分がないと単なる破壊になってしまいます」と指摘した。

北川学長はこれを受けて「ロボットなど労働を代替する技術が出てくると、人の仕事がなくなるのではという話になっていくので、新たな仕事が生まれることを伝えられるかがポイントになると思います」と話した。亀澤氏は「新しい仕事に対応するためにも、勉強し続けなければいけません。会社としても社員に対するリスキルの機会の提供は、DXとセットで行わなければならないと考えます」と語った。

これからの時代に求められる人間力と教育の役割とは

次の質問は「日本のITは中国やアメリカに比べて遅れているといわれるが、本当にそうなのか」。亀澤氏は「日本は、技術そのものは進んでいても、ビジネスにする部分でのスケール感や、リスクテイク力は劣っているかもしれません」と答えた。

その背景として亀澤氏は、日本社会では丁寧なサービスが求められることと、ミスをしたときの対応に難しい部分があるとし「たとえば、システム障害が起きると日本は大騒ぎになりますが、アメリカではさほど問題にならないことも多い。そうした社会の受容性を前提にすると、安心・安全を高めれば使い勝手は下がるというこのバランスを社会としてどう考え、リスクテイク力を高めていくかが課題です」と指摘した。

北川学長は「そうした日本社会でも、今後はデジタル的なものがどんどん出てきます。その状況でどのような人が活躍するのでしょうか」と投げかけた。亀澤氏は「オープンマインドで常に多様な意見を聞き、自分の頭で思考できる人が向いていると思います。また、新しいことを拒否せず、変化を楽しんでみようという人がいいのでは。流行りの言葉でいえばイントラパーソナル・ダイバーシティ、つまりひとりの中にダイバーシティを持てる人材が増えると、組織も強くなります」と語った。

村上氏は「安定期と変革期では活躍できる人が違います。安定期に活躍するのは物事を正しく行う人。一方、変革期にイノベーターとなるのは正しいことを行う人です。前例のない事態が起きたとき、いま何をすべきかを前例を取り払って考えることを教えていかなければなりません」と応じた。

話題が教育に関わってきたところで、北川学長は「Society 5.0人材をつくっていくにあたり、どういった教育が求められるのか」との質問を提示した。これには村上氏が「冒頭の学長の話にもあったように、新しいものを学ぶ力を身につけることが大切。いま学んだスキルは社会に出たとき通用しなくなっている可能性が高い。だからこそ教育には、新しいことを学ぶための基礎を身につけさせることが求められます」と答えた。

北川学長は小学校でプログラミングが必修化されたことを引き合いに出し「プログラミング言語をいくら覚えても、社会に出る頃には使えなくなっている可能性が高い。むしろ、プログラミングで手順を考えることが学びになると思います」と話題を展開。そのうえで「全員が同じ教材を同じスピードで学ばなければならないのは、考え方によっては異様。AIが進歩する中で、教育がパーソナライズされる流れも出てくるでしょう」と教育の多様化に言及した。

村上氏は同意を示し「これまでの教育は工業社会で大勢の工員をつくるためのもの。これからの教育は、学び続けるための基礎教育を除けば、個性を伸ばす教育になっていくと思います」と応じた。社員教育にもパーソナライズの方向性は考えられると北川学長から話を向けられた亀澤氏は「多くの情報が入ってくる中、自分の頭で思考できるようにする教育が大切。もちろん会社でも研修はしますが、やはり学生の間に地頭をしっかりとつくり、会社ではそれを活用していくという考え方がいいのでは」と答えた。

最後に北川学長が「Society 5.0という明るい社会がくることを祈り、成蹊大学でも研究・教育を続けていきたい。みんなで前を向き、一緒に進んでいければと思います」と結び、フォーラムは幕を閉じた。

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今後のイベント

Society 5.0研究所主催 第1回オンライン講演会
「DX, データサイエンス,未来社会」

講演者:中央大学 樋口知之氏
日時:2021年10月9日(土)10:00~11:30


※第2回「Society 5.0を支えるスーパーコンピューター」
(講演者:公益財団法人 計算科学振興財団 西川武志氏)は
11月24日(水)19:00~20:30を予定



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