単なるデジタル技術の活用だけがDXではない。業務の変革が伴ってこそ、DXといえる。そして、企業の非競争領域である間接業務をDX化することは、効果・スピード・コストの面で大きな価値を生み出す。

国内1300の企業・グループが導入する経費精算・管理クラウド「Concur Expense」などを提供するコンカーのバイスプレジデント 橋本祥生氏は、8月27日に開催されたビジネスフォーラム事務局×TECH+フォーラム「DX Day 2021 Aug. DXの要は経営者の視座」において、DXの始め方、経費精算というアナログ業務をなくすための業務改革の心構えについて解説した。

  • コンカー バイスプレジデント 橋本祥生氏

なぜ間接業務からDXを始めるべきか

多くの企業がDXを検討・実行しているが、成果が出ているのは一部の部門や領域に限られているのが現状だ。全社的に上手くDXを推進できている企業は決して多くない。その要因は、社内制度や企業文化、推進体制、人材などさまざま。こうした状況のなか、どのようにしてDXを成功に導くべきか。橋本氏は「全社員にDXの成功体験を得てもらうことが一番の近道」と語る。そこで初めに手を付けるべきが、企業の独自性が求められない間接業務である。

橋本氏は、特に経費領域でのDXについて「企業には、さまざまな会社独自のルールがあり、その既定のルールを変えないままITを利用しようとすると、逆にオペレーションが煩雑になってしまうケースがある。DXは、そうした過去のルールも含めて変えていく取り組み」と、既存業務の単なるデジタル化ではないことを強調する。

経費領域でのDXには2つのポイントがあるという。まずは、企業文化という“組織のOS”ともいえる領域を変えていくマインドセット。もう1つは、業務自体に対する変革の姿勢だ。

経費精算はほとんどの社員が毎月実施している頻度の高い業務であり、また、現状は紙をベースに業務フローが構築されているため、デジタル化による大きな効果が見込まれる。また、間接業務は各企業の独自性が求められない領域であり、システムにおけるカスタマイズの必要性が低いため、クラウドサービスの活用が有効となる。クラウドサービスは、短期間の導入プロジェクトで新しい仕組みに変えられるというメリットがある。

「まずは間接業務から着手して、社員のみなさんに『DXってこういうことなんだ』と感じてもらってから、直接業務における本丸のDXに取り組んでみてはどうか。Concur Expenseは経費精算のクラウドサービスだが、間接業務のDXを通して組織の文化を良い意味で変えていただくサポートをしていきたい」(橋本氏)

業務変革のための具体的な打ち手

紙をベースに経費精算のオペレーションを回している企業では、経費を申請する社員、承認する管理職、監査をする経理部門それぞれの立場における業務に課題を抱えている。

たとえば、申請者からすると、大量の領収書の糊付け作業などによる時間の浪費は大きな問題だ。1人あたり毎月1時間近く経費精算に時間が取られているケースもある。また、在宅ワークが普及する一方で、紙をベースにしたオペレーションを続けていると、経費精算のためだけに出社が必要になるという弊害も生じている。さらに、承認や監査する側からすると、手入力や目視が前提となったオペレーションではミスが発生しやすかったり、不正を見つけづらかったりと、リスクの高い業務になってしまっている。

こうした課題に対して橋本氏が挙げた解決策は、法人カードやQRコード決済などを活用して現金による経費の授受を廃止し、これらのデータを経費精算システムに自動連携するというもの。管理職や経理のチェック業務においては、各企業の規程やAIによる判断によって自動的にアラートが出るようにしておけば、不正やミスの見逃しがない。また、システムでカバーできない領域については、BPOのサービスを活用するという方法がある。

「データによって可視化することで、経費の妥当性チェックや不正統制の強化だけでなく、予算管理、生産性・効率性の向上、コンプライアンス・ガバナンス・コストコントロールを実現できる。上手く活用して間接業務のDXにチャレンジしていただきたい」(橋本氏)

Concur Expenseでは、キャッシュレス、入力レス、ペーパレス、承認レスに向けた機能を提供している。具体的には、キャッシュレス・入力レスの方法として、法人カードやQRコード決済アプリ、タクシー配車アプリ、交通系ICカードと連携し、デジタル決済に対応。モバイル端末からでも経費精算や承認業務が可能なことも特徴の1つだ。また、紙でのやり取りがどうしても残る部分については、複合機によるOCRスキャンで書類の内容を自動で読み込み、Concur Expenseへデータを転送し自動入力することも可能だ。

橋本氏は同サービスについて「従来、手入力のデータは信憑性がないため目検が重要だったが、デジタルデータをそのまま取り込むことによって、システム上で企業の規程に合わせてチェックすれば済むようになる。また米国では、AIによる不正チェック機能がすでにリリースされている。同機能の日本国内でのリリースの準備も進行中」と説明する。

請求書のデジタル化も待ったなし

コロナ禍以降、在宅ワークが普及したことで、紙でやり取りされることの多かった請求書をデジタル化する取り組みへの関心も高まってきた。さらに、2022年度の税制改正、電子請求書の国際規格導入の流れ、2023年度からのインボイス制度の適用開始と、請求書に関わる法規制が変化するなか、従来のまま紙でのやり取りを続けていると、オペレーションが複雑化していくことが想定される。請求書のデジタル化を検討するのであれば、このタイミングで移行することが望ましいだろう。

こうした背景のもとコンカーは、2021年2月に請求書のデジタル化を通じて業務改革の実現を目指す「デジタルインボイス構想」を発表。パートナー企業との連携を通して、請求書のデジタル化による業務効率化、経理部門のリモートワークの実現、そして最終的にはデジタルデータを活用した高度な請求書管理とガバナンス強化を目指す。

Concur Expenseを活用したDXプロジェクトの進め方

では、具体的にどのようにDXプロジェクトを進めていけばよいだろうか。橋本氏は、Concur Expenseの導入を例に、大きく分けて次のステップで進めていくことができるとする。

1.ビジョンの策定

まずは、Concur Expenseの導入によって実現したいイメージを具体化し、目指すべきDXビジョンを決定する。コンカーでは、同社が提供する「成熟度マップ」を参考に、ビジョンから逆算して自社の状況に合わせた進め方を提案している。

なお、コンカーではこの段階から現場や経営層も含めてプロジェクトにコミットすることを推奨している。橋本氏は「経営と現場の目線を合わせて、ビジョン達成を目指していくことが重要」と説明する。

2. 効果試算

コンカーでは、導入後の効果試算もオプションで実施している。多数の国内事例をもとにした試算表に基づき、各ゴール設定に対する効果まで含めた提案が可能だという。

3.業務改革・システム導入

ITシステム導入には業務改革が必須となる。ここで重要となるのは、経営層がオーナーシップを持ってやり抜くこと。プロジェクトが失敗するほとんどの理由は、現場の反対などによって業務改革が頓挫してしまうためだ。

「経費精算業務のDXは、全社DXプロジェクトの最初の一歩となる。そのためには、トップのコミットが重要。ぶれずにやり抜いてほしい」(橋本氏)

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