現代のビジネスにおいてデジタル技術の活用はもはや不可欠だ。多くの企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組み、業務改革を推進している。法人営業の分野においても同様で、昨今の新型コロナウイルス感染症の拡大で訪問営業が制限されたこともあり、電話やメール、Web会議ツールなどを活用して非対面で営業活動を行うインサイドセールスの導入を検討する企業は増加傾向にある。とはいえ、インサイドセールスに求められる要素は多岐にわたり、どのようなアプローチで取り組めばよいのかわからず悩んでいる企業担当者も少なくない。組織と仕組みを構築してインサイドセールスを立ち上げたという企業でも、想定どおりの成果が得られていないケースはめずらしくないのが現状といえる。
そこで本稿では、インサイドセールスのアウトソーシングサービスにおけるフロントランナーであり、クラウド型のインサイドセールス支援システム「SALES BASE ISM」をリリースしたばかりのSALES ROBOTICS株式会社 代表取締役社長CEO 内山 雄輝 氏と、インサイドセールスの第一人者である、株式会社ビズリーチ HRMOS事業部 インサイドセールス部 部長 茂野 明彦氏による対談を企画。インサイドセールスの本質から、企業が陥りやすい導入時の課題、質の高いインサイドセールスを実現するためのアプローチについて語り合ってもらった。
■対談メンバー
インサイドセールスの本質とは?
―インサイドセールスを知り尽くしたお二方が考える、インサイドセールスの本質についてあらためて考えを聞かせてください。
内山氏:「インサイドセールスとは何か」と一言で語るのは難しいですね。インサイドセールスは、もともとBtoBマーケティングという広い領域の一部です。BtoBマーケティングは一般的に、3つのステップで構成されています。Webを使ってアプローチするマーケティングの部分、そこで取ってきたリードを興味がある状態にしていく部分、そして興味があるところから実際に受注まで持っていく部分、です。この一連の流れがBtoB マーケティングとなりますが、インサイドセールスはこの一部を担います。幅広い領域にまたがる活動なため、ベストな形は企業ごとに異なります。なので、私はよく「その会社に合ったベストな商談を作る活動」と説明しています。
茂野氏:内山さんが話されたように、インサイドセールスでは企業のフェーズや状態によって必要な役割が変わってきます。私は「常に変化可能な体制」、すなわちフェーズや状態に応じて役割を変化できる状態を保っていくことがインサイドセールスの本質、完成形だと考えています。マーケティング・インサイドセールス・フィールドセールスの分業体制を取るのは、スポーツを例にするとわかりやすいと思いますが、たとえば野球ならば投手。投手のなかでも先発、セットアッパー、クローザーと分業しています。サッカーでも、ゴールキーパーがフォワードの仕事をすることはありませんよね。これと同じで、法人営業活動も専門的な人材、専門的な組織を作って分業するほうが効率的です。
内山氏:打者も投手もこなすスタープレイヤーのような営業担当者がいれば、もちろん売上は上がりますが、そこには「再現性」がありません。企業として目指すべきなのはスペシャルな人に頼らない経営、誰がいなくなっても組織として同じ結果を出せる状態です。それを実現するのがインサイドセールスです。
茂野氏:企業は「売れる人材」が欲しいし「売れる仕組み」も欲しい。とはいえ、これだけ人材の流動性が高まっているなかで、企業はスタープレイヤーを営業の現場だけで活躍させ続けることができるか、そのスタープレイヤーのキャリアにとってそれが正解かと問われると、両方とも“ノー”という答えになるかと思います。ですから、企業としては再現性のある「売れる仕組み」の構築、より細分化した営業活動の仕組みを整える、すなわちセールスプロセスの見直しが不可欠なフェーズにきていると思います。
内山氏:インサイドセールスのもう1つの役割としては「営業活動のデータを企業内に蓄積する」ことがあげられます。営業活動の一連の流れのなかで得られる情報をインサイドセールスでしっかりと収集して企業のデータベースに蓄積しておけば、今後さまざまな分析に活用することができます。データがないと、いくらDXに取り組んでも意味はなくAI分析も行えません。つまりインサイドセールスとは、データサイエンスを活かすための組織構造の1つであり、今後の経営活動で重要となるデータを蓄積する手段でもあるということになります。
茂野氏:よく「テレアポとインサイドセールスは何が違うの?」と聞かれるのですが、私の定義としては、前者が「フロー型」で後者が「ストック型」と捉えています。アウトバウンドの手法を使って商談を獲得する行為を否定するつもりはまったくないのですが、内山さんが話されたようにデータが蓄積されないと再現性が得られず、最終的に効率が悪くなります。企業内のデータは重要な「情報資産」であると言われて久しいですが、その最たるものは営業活動やお客様とのコミュニケーションで得られる情報です。商談獲得に至らなかった営業活動でも、お客様とのコミュニケーションは発生しています。こうした情報を蓄積できるかどうかは、企業の競争力に直結してきます。
最初から「全部やろう」はNG、スモールスタートで成功体験を得る
―本質的なものが見えてきましたが、それを踏まえたうえでインサイドセールスに取り組む際のポイントはどこにあるのでしょうか?
内山氏:インサイドセールスと聞いて身構えてしまう人も多いかと思いますが、もっとシンプルに捉えるようにしてほしいと思います。電話でもメールでもセミナーでも、非対面の手段でお客様との接点を増やし、人に会わない状態でセールスを進めていく。その「会わないところ」、すなわち「インサイド」の部分をしっかりやっていくことがインサイドセールスに取り組む際の最初のポイントとなります。まずは「こうしなければならない」という論理を取り払って、それぞれの企業に合ったやり方を見つけていくのが成功への近道だと考えています。
茂野氏:内山さんがおっしゃったことを前提に、最終的には売上を上げることが重要になります。そのために何をすればよいのかわからないという場合は、すでにインサイドセールスを取り入れて結果を出している企業の手法を参考にするのも有効だと思います。
内山氏:インサイドセールスの導入を検討している人のなかには、インサイドセールス=The Model(ザ・モデル)と捉えている方も多いようです。The Modelは、分業化スタイルで目標設定を行い、フェーズアップさせていくという考え方ですが、基本的には自社でプロダクトを持っている会社が1つの商材を分業化して売るためのモデルです。複数の商材を販売している場合には成り立たないケースも多いのが現状です。また、インサイドセールスを導入した直後は、担当者は1人か2人というのがほとんどであり、その少ない人数でたとえば5つの商材を扱うとなった場合には、切り分けや優先順位の判断が難しく対応できなくなってしまうはずです。
茂野氏:基本的に「仕組み化する」「自動化する」というのは、成功事例ありきで、それを効率化しましょうというプロセスだと思っています。なので、複数の商材を持ってインサイドセールスを立ち上げなければならない場合は、まずは1つから始めるのがよいと思います。
内山氏:確かにいきなり全部インサイドセールスでやろうとしても失敗する可能性が高い。1つの商材から始めて結果を出すのが重要ということですね。
茂野氏:そうですね。成果を出さないと営業サイドの理解も得られないので、まずは一番売れ筋の商材、主力製品から始めて「このプロセスだったらうまくいくね」というのを見つけます。正しく成果を出して、それを他の商材に広げていこうというときに、1つのチームで複数の商材を扱うのか、チームを分けて担当するのかといったことを考えていくのが効率的です。最初から「全部やろう」はやめたほうがいいと思います。
経営層と現場のギャップを埋め、営業担当者の意識も変革
―営業担当者からの理解を得られなかったり、現場が求めるインサイドセールスと経営層が考えるインサイドセールスにギャップがあったりと、インサイドセールス導入時の課題は少なくありません。どのように解決していけばよいのでしょうか。
茂野氏:経営層と現場にギャップが生じるというのはインサイドセールスに限った話ではありませんが、インサイドセールスで考えると、経営層は仕組みやツールを入れることでうまくいくと思っているケースが多い。確かに仕組みやツールは必要ですし導入は大変です。しかし新しい仕組みやツールを導入してもうまくいくとは限りません。特に長い時間をかけて営業活動の仕組みを構築してきた企業の場合、営業担当者がインサイドセールスからのリードのパスを受け取らないケースもあります。プロセスを分けてパスを出すだけでなく、セールスまで含めたすべてのプロセスを変えるところまで踏み込むプロジェクトであることを経営層が理解して、現場に落とし込んでいく必要があると思います。
内山氏:実際、インサイドセールスを入れると営業担当者は苦労します。売上さえ立てばいいと自由にやっていたところに、プロセス全体のルールが定められ、それに従って商談が送り込まれてきて、何%の確率で受注につなげるといった目標設定のもとに回していかなければなりません。これを窮屈に感じる営業担当は非常に多い。自分の営業活動が可視化されてしまうため、ごまかしや言い訳もできなくなります。
茂野氏:インサイドセールスの目的は、企業が永続的に売上を出すための仕組みと仕掛けを作ること、つまりは企業変革の領域にまで踏み込むことになります。純粋にプロセスを分けることではなく、営業のやり方のルールを変えましょうという話です。ですから、営業担当者も新しい仕組みやツールに即して変わる必要があります。仮に、SFAやCRMなどを活用した最新の営業プロセスに対応できず、営業活動のデータを企業に蓄積することができなければ、将来のキャリアアップが難しくなるケースもあります。
内山氏:アメリカでは、SFA、CRMが使えるというのはセールス&マーケティングに携わる人の社会常識で、それらを使えない人は営業担当者としていい評価は得られません。日本はその面ですごく遅れていると思います。
茂野氏:日本は変化に対するストレスが大きい。SFAやCRMは「営業活動を楽にする」ためのツールなのですが、その良し悪しは関係なく「変化が起こること」を避けるケースも多いのが現状です。とはいえ、十数年前はPCを使わない業務がたくさんありましたが、今はどんな業務でも当たり前のようにPCを使っています。それと同じで営業活動も変化に抗うことはできないので、迅速に適応するのが最適解と言えます。
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