コロナ禍により、業種や規模を問わずテレワーク環境の導入は一気に加速した。導入から1年以上が経過し、さまざまな課題が見えてきたという企業も多いはずだ。今後もテレワークの利用が継続していくと考えられているなか、8月26日に開催された「中堅企業異業種交流会2021 夏 オンライン」(主催:デル・テクノロジーズ)。コミュニケーション、マネジメント、モチベーションそれぞれの分野の専門家が登壇し、テレワーク環境における課題と、その解決方法について語られた。本稿では、3つの基調講演の内容を中心にレポートしていく。

テレワーク時代のコミュニケーションは、「雰囲気づくり」と「ツールの使い分け」が大切

基調講演の1stステップでは、ことば経営 代表 中小企業診断士の中村 かおり氏が登壇し、「テレワークのコミュニケーション」をテーマに話を展開。報道記者や書籍編集者として経験を活かし、NLPマスタープラクティショナーとしても活躍している中村氏は「コロナ前」と「コロナ後」のコミュニケーションの変化についてこう語る。

  • ことば経営 代表
    中小企業診断士
    中村 かおり 氏

「直接会って話すことができないコロナ後のコミュニケーションでは、交わされる情報量が減り、意思疎通が難しくなりタイムラグも発生しています。相手の状況が見えづらいため、その人に合った適切な伝え方を選択することは困難です」

デルの調査によると、テレワークを実施したことで明らかとなった課題として「コミュニケーションがとりにくい・難しい・時間がかかる」という回答が圧倒的に多かったという。これを踏まえ、中村氏はオンラインコミュニケーションで解決しなくてはならない課題を「チームワークを高める円滑な意思疎通」と「メール、チャット、Web会議の効果的な活用」の2つと定義。これらの課題に対する対処法として「コミュニケーションしやすい雰囲気づくり」から始めることを推奨する。

「チーム内でなにを話しても無知・無能・邪魔・否定的だと思われないと信じられることを、米国のエイミー・C・エドモンドソンは『チームの心理的安全性』と定義しています。これはテレワーク環境でも不可欠なものといえ、チームの心理的安全性がない状況では『無知だと思われたくない』『無能だと思われたくない』と感じて、必要なことでも発言・行動しなくなります」チームの心理的安全性を育てることが、チームが成果を出すために必要と中村氏。その実現には「話しやすさ」「助け合い」「挑戦」「新奇歓迎(異質な存在も受け入れる)」を意識することが大切と語る。

さらに「コミュニケーションしやすい雰囲気づくり」において重要な、もう1つのポイントとして中村氏があげたのは「自身の持つバイアスを自覚する」こと。バイアス、すなわち自分のなかで思い込んだり、信じ込んだりすることは誰にでもあることだと中村氏は語り、無意識に誰かを「評価している」と解説する。

もう1つの課題である「メール、チャット、Web会議の効果的な活用」では、受け手の解読を前提にするのはなく、受け手にわかりやすい言葉・構成で伝えることが鉄則と中村氏。そのうえで、それぞれの特徴を理解して使い分けることが重要と話を進める。

  • メールのポイント

講演ではメールとWeb会議を例に、前者では「送る目的を整理する」「短文で書く癖をつける」「一瞬で用件が『伝わる』タイトル」といった工夫、後者では環境整備(安定した通信環境の確保、イヤフォン・ヘッドセットの活用、雑音対策など)を行い、「アイコンタクト」「発言前に名乗る」「話は簡潔に」などを意識して議論を行うのがポイントであると解説された。

時間志向の働き方から成果志向の働き方へ、テレワーク化におけるマネジメントの在り方とは

2ndステップに登壇したのは、SHIMAオフィス代表 中小企業診断士の島吉 正人氏。「テレワークのマネジメント」をテーマに、テレワーク環境におけるプロジェクトマネジメント、人材マネジメントのあり方について話を展開した。島吉氏は経営者や管理者に求められる「機能」として、変革を推し進める機能である「リーダーシップ」と、効率的・確実に組織を運営する機能である「マネジメント」の2つを挙げる。

  • SHIMAオフィス 代表
    中小企業診断士
    島吉 正人 氏

「昨今のコロナ禍によりテレワーク導入が進んだことで、業務の個業化が進行。業務の進捗状況が見えづらくなり、チームワークの“ズレ”が発生しました。これにより、経営資源の効率的活用が困難になり、生産性の低下を招いています」島吉氏は、テレワークが普及したことで生じたマネジメントの課題をこう解説し、その解決策として、ITツールの活用やコミュニケーションの工夫でマネジメントの最適化を図ることが有効と語る。

「生産性向上のためには『プロジェクトマネジメント』と『人材マネジメント』の課題解決が不可欠です。テレワークのプロダクトマネジメントでは、異なる場所で働くため進捗状況が見えづらく、ボトルネックも放置、問題の発見も遅くなるといった課題を抱えています。

人材マネジメントも同様で、テレワーク環境下では細やかな管理が難しく、ITツールによる過剰監視(マイクロマネジメント)により『やらされている感』が増大。組織としての一体感も希薄になっています」

マイクロマネジメントは長期的に見ると悪い結果をもたらし、仕事に対する熱意も失わせるため、時間志向の働き方から成果志向の働き方への変換を図ることが重要と島吉氏は解説する。「生産性は仕事に対する熱意から生まれます。そこで成果志向の働き方へとシフトし、社員が進捗状況を報告する頻度を増やしていくことが効果的です。またコミュニケーションと同じくマネジメントにおいても、心理的安全性が重要になります。職場で何を言っても、どのような指摘をしても、拒絶されない組織の雰囲気を作り出すことで、情報交換がスムーズになり、多様な能力を持った人が集まりやすくなります」

講演では、テレワークのプロジェクトマネジメント例を解説。グループウェアやタスク管理ソフト、バーチャルオフィスといったITツールを活用し、各メンバーの業務進捗状況の共有&見える化を実現した中小企業での適用例も紹介された。

  • 中小企業での適用例

単にITツールを使うのではなく、共有方法などの「ルール決め」と「メンバーの合意」を意識して進めることが必要となるという。さらに、ツールを使った頻繁なオンラインコミュニケーションも、チームの絆を深めるためには有効と島吉氏。マネージャーがチームメンバーとコミュニケーションをとる際には、「うまくいっていることは何か」「改善すべきことはなかったか」「何を学んだか」「行き詰まっていることはないか」の4つの質問で、個々人の状況を正確に把握することが重要と力を込める。

最後に島吉氏は、テレワークの人材マネジメント(評価精度)では、プロセス重視からプロセスと成果のバランスで評価を実施し、目標管理制度(MBO)による自主的な業務目標とその達成度に基づいて評価を行うことが効果的だと語った。

テレワーク環境におけるモチベーションやエンゲージメントの高め方を分析

基調講演の3ndステップでは、ビットフロー・マネジメント株式会社 代表取締役 中小企業診断士・CISSPの原 一矢氏が登壇。「テレワークのモチベーション」をテーマに、テレワーク環境におけるモチベーションやエンゲージメントの高め方について解説した。

  • ビットフロー・マネジメント株式会社代表取締役
    中小企業診断士・CISSP
    原 一矢 氏

原氏は、チームのモチベーションを高めるためには「成熟したパーソナリティ」「組織の生産性向上」「持続的幸福」それぞれに向けた働きかけが重要と話を展開する。原氏は、マズローの欲求段階説、アルダファーのERG理論、マグレガーのX理論・Y理論、アージリスの未成熟=成熟理論などについて言及。すべての組織構成員が自分自身の成長を常に望んでいるわけではなく、成長を志向していない人(パーソナリティが未成熟なヒト)が多いことから、テレワーク下でモチベーションを高めるには、働く人それぞれのパーソナリティへの働きかけが必要になると語る。

  • マグレガーのX理論・Y理論

「テレワーク下におけるマネジメント層の役割は、組織構成員の状態や特性を把握し、パーソナリティが未成熟な層に対して成熟に向かわせること。具体的にはマネージャーが『聞き手』となって部下の自己開示を促し、適切なフィードバックにより高次欲求への目覚めを促していきます」

2つ目の「組織の生産性向上」へ向けた働き方に関しては、フレデリック・テイラーの「科学的管理法」、エルトン・メイヨーの「人間関係論」、チェスター・バーナードの「経営者の役割」に言及。組織の成立要件には「コミュニケーション」「共通目的」「貢献意欲」の3つが不可欠であり、現場でのコミュニケーションに依存した組織は、テレワーク下で成立要件を満たせなくなり、離職が増える傾向があると警鐘を鳴らす。

原氏は、求心力(組織開発)と遠心力(多様性)が釣り合っているのが、環境変化に強い強靱な組織であると語り、テレワーク環境の課題はこのバランスが崩れたことによるものと解説。こうした状況の中でも生産性向上の働きかけが重要となり、その実現には「働き方改革」が重要な役割を担うと力を込める。「モチベーションと生産性には相関関係があります。現在の日本や企業の課題は『生産性が低い』ことなので、モチベーションを上げるための『働き方改革』が必要となります。そこでは『共通目的』や『貢献意欲』の見直しがポイントになると思います」

さらに3つ目の「持続的幸福」に向けた働きかけでは、「個人は何のために働くのか?」という問いに「幸福」と回答して解説をスタート。現代人が幸福感を感じる事項として「充実した余暇」や「健康状態」「家族関係」「自由な時間」「友人関係」などを提示し、幸福度の高い人は労働生産性も高いと話が展開された。原氏は、持続的幸福を実現してモチベーションを高める方法として「脳を健康に保つ」ことが重要と語る。同じ姿勢でPCを長時間使い、太陽を浴びることが少ないテレワークのスタイルを見直し、有酸素運動などを日課に取り入れて脳の活性化を図ることを推奨し、講演を締めくくった。

交流会の参加者からは、テレワーク環境の課題解決方法が見えてきたとの声も

「コミュニケーション」「マネジメント」「モチベーション」をテーマに、テレワーク環境における課題と、その解決方法が提示された本セミナー。後半ではオンラインの異業種交流会が行われ、インタラクティブな交流が図られた。交流会参加者に向けたアンケートの回答では、「とても有意義なセミナーだった」「参考になった」という声が大半。自社におけるテレワークの課題解決のヒントが得られたという意見も多く、参加者にとって非常に有意義なセミナーであったことが確認できた。

デル・テクノロジーズでは、次回の「異業種交流会2021 オンライン 秋」を2021年11月中旬に開催する予定。アフターコロナ時代における企業の在り方を模索している企業は、参加を検討してみてはいかがだろうか。

[PR]提供:デル・テクノロジーズ