改正銀行法の成立をはじめ外部環境が大きく変化していく金融業界において、今後のビジネス競争を勝ち抜くためには、データを利活用して意思決定の確度を上げ、ビジネスの打ち手の高速化を図ることが必要不可欠である。
7月14日-16日にオンライン開催された「TECH+ EXPO 2021 Summer for データ活用」で、セールスフォース・ドットコム Tableau,金融営業本部 本部長 福島隆文氏は、世界中の金融機関で採用されてきたデータドリブン文化の醸成を成功するための最新フレームワークについて、事例を交えながら紹介した。
データドリブン意思決定ができている状態をいかに実現するか?
福島氏はまず、データドリブン意思決定(Data Driven Decision Making, 以下DDDM)ができている状態を「企業全体レベルで各種業務の目的やイニシアチブに合致する意思決定をファクト(データ)とメトリックス(先行指標、遅行指標)に基づき実施できている状態」と定義。大きく分けて「生産性・コスト削減」「事業成長」「カスタマーサクセス」「リスク・コンプライアンス」という4つのポイントにおいてデータで確実な意思決定をしていくことであるとする。
DDDMが実現できると、自信を持って意思決定ができるようになるほか、データに基づいた予測によって先手を打つことが可能となるため、プロアクティブに活動できる。また、効率化によるコスト削減といった効果も期待できる。
しかしながら、こうした状態に至るまでの道程は険しい。DDDM浸透のボトルネックとなっているのは、企業文化の変革だ。旧態依然のデータ利用プロセスを前提とした考え方では、DDDMに向けた取り組みは根付きづらい。こうしたボトルネックを、世界の金融機関はどう克服しているだろうか。4つの金融機関の事例から見ていきたい。
事例1:JPモルガン・チェース
福島氏がまずあげたのは、米JPモルガン・チェースの事例。意思決定の遅れが収益に大きなインパクトを及ぼすという危機感があるなか、従来は事業部門自らがデータを集めてExcelやSASといった既存のツールでデータ分析を行っていたが、企業全体に存在しているデータを利活用できていないという課題を抱えていた。一方で、全社のデータを管理しているIT部門は例外のプロセスを認めることに消極的で、日々刻々と変わるニーズへ迅速に対応したい事業部門との間で軋轢が生じてしまっていた。
こうした状況を解決するために同社は、TableauでPoCを実施し、データの利活用が企業の競争力にいかに役立つかということを証明。約400名のユーザーが取り組み、経営層を上手く巻き込んでIT部門に協力を仰いだことで、IT部門が運用している企業全体のデータ分析が可能となるプラットフォームへとスケールアウトすることに成功した。
この事例について福島氏は「IT部門と事業部門の連携が必要不可欠だったことがわかる事例。結果として社外からでも必要なデータを必要なタイミングで閲覧できるようになったことで、スピーディーな意思決定が実現できている」と説明する。
事例2:バンク・オブ・アメリカ
Tableau導入前は、ビッグデータがあれば何でもできると思われていた“ビッグデータ神話”のもと、多くのデータを社内に集めていたというバンク・オブ・アメリカ。当時はまだAIの利活用が盛り上がっておらず、できる範囲でExcelなどの身近なツールを利用してデータ分析を行っていたが、思うようなビジネス施策につながらず、データは役に立たないという認識が社内に広まってしまっていた。
課題解決のポイントとなったのは、人数の大小関係なく課題を抱えている部門において地道に小さな成功体験を積み重ねていくことだった。
「どうやったら大きな成果を生めそうか、多くの人数を巻き込めるか、という発想になってしまいがちだが、データの利活用を全社に広げていくための近道はない。勝手にいろいろな機能を付加して提供してしまうと事業部門から反感を買う結果になってしまう。現場の課題に寄り添ってその効果を判断したうえで提案していくことが重要」(福島氏)
さらに同社では、実際にビジネスの成果として現れてきた際に経営層に働きかけることで、優秀プロジェクトへのさまざまなアワードを提供するなど、DDDMが正しい取り組みであるという認識を全社的に浸透させた。こうした活動が実を結び、同社は24カ月でTableauを6万ユーザーに展開し、データ利活用の浸透に成功した。
事例3:ネーションワイド・ミューチュアル・インシュアランス
米国の保険会社であるネーションワイドでは、データを利活用しようとするなかでIT部門がレポートファクトリー化してしまい、事業部門からの要求に対して必要なデータを必要なときに分析できなかったり、分析終了までに長い時間を要してしまったりといった問題が発生していた。また、ビジネス課題の詳細を把握していないIT部門がレポートを作成しても、事業部門が意図するものと異なるアウトプットになってしまうこともしばしばあったという。
この事例は、“Single Source of Truth”(信頼できる唯一の情報源=データレイク)を構築したことが課題解決のポイントとなった。これにより、データ分析ニーズを有するユーザー自身がTableauを活用し、信頼性の高いデータでの分析を可能とすることで、迅速な意思決定に結びついた。さらに、事業部門が自らデータ分析できるようなリテラシーや分析スキルを身につけるための取り組みをIT部門が主導して提供したことにより、Tableau導入1年目には、ある事業部門においてデータ分析に要する時間が年間800時間削減されたという。
事例4:UBS
データ分析ツールを全社展開する際の課題を乗り越えたのは、スイスの金融機関であるUBSだ。スケーラビリティを考慮せずにツール導入のグローバル展開を行うと、パフォーマンスやメンテナンスの面で問題が生じやすい。そこで同社では、データ利活用に向けたCoE(Center of Excellence)を組織し、ユーザーへの教育やリソースの管理体制などの整備、経営層向けのトレーニングの実施によって、全社的なデータリテラシーの底上げに継続的に取り組んだ。結果として、ユーザー数500人から1万3000人へのスケールに成功したという。
DDDM実現に向けたフレームワークを提供
こうした事例を踏まえて福島氏は、DDDMを実現するポイントを次のように説明する。
「ポイントは大きく4つ存在する。1つ目に、経営層がDDDMへ対してコミットすることが大事。なぜDDDMが必要なのか、DXの成功にもはやデータ利活用が欠かせないことは言うまでもなく、DDDMの実現はつまるところデータドリブン文化の醸成である。その上で、その醸成を力強く継続的に推進するためのCoEの組織化が必要となる。2つ目に、必要なときに必要とする人が必要なデータを迅速に利用できる分析環境の提供が求められる。3つ目に、用意された分析環境を使い倒すための、データ分析スキルおよびデータリテラシーを社内に浸透させための教育体制構築と継続的な実施が非常に大事。最後に、データ利活用を通じて得られた成功事例やノウハウを、全社で共有できる円滑なコミュニケーションの場を仕組みとして提供すること。この4つのポイントを継続的に回し続けられるかに、データドリブン文化醸成の成否が掛かってくる」(福島氏)
Tableauでは、「Tableau Blueprint」として、先に述べた4つのポイントを軸にDDDMを実現するための体系的なノウハウやベストプラクティスをフレームワークとして提供しているので、ぜひ活用してほしい。また、DDDM実現へ向けた現時点での自社の成熟度をチェックするツールとしてTableau Blueprint アセスメントも公開している。こちらのページから無料で試すことが可能なので、合わせて利用してみてほしい。
[PR]提供:セールスフォース・ドットコム