福岡市西区の風光明媚な丘陵にキャンパスを構える中村学園三陽中学校・高等学校は、地域でも他に先駆けて教育へのICT導入を意欲的に進める私立男子校だ。全生徒がiPadを活用し、アクティブラーニングやルーブリック評価といった取り組みと併せて、学力向上を実現している。同校では1人1台のiPadを、アイキューブドシステムズの「CLOMO MDM」で管理している。本稿では同校のMDMを活用する取り組みにフォーカスしていきたい。
生徒たちを“その気”にさせる!がICT活用の鍵
中村学園三陽中学校・高等学校は、「人間教育」「情報教育」「国際教育」の3本を教育の柱に掲げ、他校とは異なる特色を持った教育の実践を志している。 「人間教育」の根底にあるのは学力の優劣ではなく、「何よりも人物ができている」こと。この人間性の向上を目指し、自主的に学ぶ姿勢を身につけて学力を上げるため、同校ではアクティブラーニングとルーブリック評価を採用した。そして「情報教育」においては、2016年から全生徒にiPadを導入し、学校の授業はもちろんのこと家庭学習にも活用している。このiPadをベースに、ICTをフル活用して「国際教育」を追求しているのも同校の大きな特徴だ。 「本校ならではの色を出したいと考えたとき、とにかくICTについては他校に負けないようiPadを1人1台使うスタイルにしました」。そう語るのは、中高の双方で校長を務める梶原美隆氏だ。
梶原校長が着任した2015年、同校の学力のレベルは決して高くなかったという。そこで校長はiPadの導入を決断し、アクティブラーニングとルーブリック評価を導入することで学力向上を図った。 「当校では、学んだ力(試験の成績)ではなく、学ぼうとする力(学ぶ意欲・学ぶ態度)を重視しています。つまり、生徒たちを“その気”にさせることが大切。私たちは教えるという姿勢ではなく、アクティブラーニングでの自主的な学びを後押しします。加えてルーブリック評価で、日頃の授業や課題・宿題に熱心に取り組んだことや、どこまで理解できるようになったかを評価基準としています。中間テストを廃止しましたが、成績は伸びているという成果が数値として表れています」
このアクティブラーニングとルーブリック評価を軸とした取り組みを、ICTが支えている。たとえば英語ではEラーニング教材を活用して「聴く」「話す」「読む」「書く」の4技能を伸ばしており、講師とマンツーマンのオンライン英会話、英検受検の推奨、留学プログラムといった仕掛けも用意している。 「英語は毎日どれだけ接するかで力が変わってきます。日々シャワーのように英語を浴びれば力は伸びるというのが私の信念です。iPadがあれば、動画を使った多彩な教材で英語と接する機会をどんどんと増やせるので、とても大事なツールですね。このほか、数学や国語などさまざまな教科でEラーニング教材を活用しています。iPadによって学習の進捗が視覚化され、リアルタイムで成果を測れる点もポイントですね」
同校においてICTは、保護者への連絡や一部の申請手続き、面談の予約など、まさに学校のあらゆる場面で使われている。授業風景を見るとすべての生徒が机の上でiPadを開いているのはもちろん、教員が教室で行う授業を配信し、自宅で学ぶオンライン授業も活発に展開されており、100%ペーパーレス化を達成している。
最適な管理体制とは?辿り着いたのはBYAD + CLOMO MDM
iPadは学校購入やBYOD(Bring Your Own Device)ではなく、LTE版のiPadを指定して各自に購入を斡旋するBYAD(Bring Your Assigned Device)の形態を取っている。 梶原校長は個別の指定購入というスタイルにこだわり、その理由を次のように話した。 「全員が同じ端末を同じ環境で使えるということが重要です。同じ教材を用意したとしても、生徒によって機種が異なると、教材を使える生徒と使えない生徒がいたり、使えるとしても見え方が違う、操作方法が違うといったことも起こります。これでは生徒が戸惑いますし、教員の側も困るでしょう。同じ端末・同じ環境であればその問題が起きませんから、ICTを存分に活用した教育を展開できる。これが最大のメリットですね」
同校では2020年まで校内の15教室でWi-Fiを利用できる環境だった。LTE版のiPadを指定することで、Wi-Fiのある教室ではWi-Fiでつなぎ、それ以外の教室ではLTEを利用することが可能になる。また、すべての家庭がWi-Fi環境を整備しているわけではないため、自宅にWi-Fiがない生徒もLTEを利用できれば家庭学習に困らない。さらに2021年3月に全教室のWi-Fi環境がほぼ整ったが、LTE版は依然として家庭や外出先などで力を発揮している。 このようにICT活用に力を入れ、かつ全生徒に同じ端末を利用させることで教育を推進していく方針を持った同校にとっては、すべての端末を常に同じ設定で使えるように管理することが重要になってくる。同校がMDM(モバイルデバイス管理)のシステムを導入した理由がここにある。
「端末を使える時間の制限や、インターネットサイトの最低限のフィルタリングは実施したいとの思いがありました。そこでMDMの存在を知り、導入してみようと考えたのです」 実は当初は他ベンダーのMDMを利用していたが、紹介によってCLOMO MDMを知る。 CLOMO MDMは、特別な知識やトレーニングなしで多数のデバイス(PC・タブレット・スマートフォン)の一括設定や機能制限、データ消去、アプリケーション管理、さらには利用状況の確認まで、すべてリモートで実行できるシステムだ。同校のように多数の端末を同じ状態で保ちたい場合、その管理運用において便利に活用できるのが大きなポイントだった。同校ではCLOMO MDMの見やすく操作しやすい管理画面から、全生徒のiPadの設定・使用状況を一括して管理している。 「以前のMDMにとくに不都合があったわけではないのですが、CLOMO MDMにはより柔軟性の高い機能が装備されているとのことで、興味を持ちました」と梶原校長。具体的には、たとえば以前のMDMではあらかじめ用意された機能しか利用できなかったのに対し、CLOMO MDMではパソコンからプロファイルを独自に作成し、管理する全端末に一斉適用できる。
どう向き合う?遊びアプリや深夜利用。健全な教育環境を”適切な制限”で実現
同校はCLOMO MDMで、生徒端末でのApp Store利用やアプリ内課金といった機能の制限を適用。生徒に必要なアプリの配信・アップデートにはCLOMO MDM Agentアプリを利用している。また、プロファイルは端末ごとに個別設定を適用することも可能なので、iPadを学習以外の用途に使うことの多い生徒に対してはアプリやインターネットの厳しい制限を掛けているという。 CLOMO MDMの「ワーク・スマート機能」も重宝しているとのこと。同機能は設定時間以外の端末利用を禁止・制限するもので、たとえば企業が時間外労働の業務を制限したいときに利用できる。同校のiPadは家庭でも使えるわけだが、そうなると生徒が夜通し利用し、翌日の勉強に影響が出たり、さらには体調を崩したりする可能性もある。こうした懸念から端末の持ち帰りをさせていない学校も多いが、同校はワーク・スマート機能によって課題を解決している。 「午前0時から朝5時までiPadを使えないように設定しています。一部の保護者からもう少し遅い時間まで使えるようにしてほしいという声もなくはないのですが、午前0時になったら就寝し、また朝早く起きて勉強すればいいのですから、とにかく夜中の5時間は使わせないようにしてくださいとお願いしています」
そもそもMDMは端末の利用制限やフィルタリングを意図して導入したと話す梶原校長だが、CLOMO MDMを活用する過程で意外な利便性にも気づいたという。 「iPadを紛失する生徒や、パスコードを忘れてしまう生徒がいるんですね。そんなとき、iPadの位置情報を確認できたり、パスコードを制御できたりする機能が便利です。これは本当に思わぬ効果でした」 CLOMO MDMを利用した管理は、梶原校長ともう一人の担当者が行っているとのこと。操作方法もわかりやすいため、以前のMDMから切り替えた際はスムーズに使い始められたという。 「機能は十分ですし、使い勝手もレスポンスも良好なので、いまのところ困っていることはありません。私が生徒の端末管理で行いたいと考えることはCLOMO MDMでほぼすべて実現でき、それに対する教員からの評判もいいので、満足しています。ひとつ欠点を挙げるなら、生徒の側で設定を削除できるので、こちらが設定したすべての制限が一時的に無効になってしまうことですね。もちろん設定を削除した端末は管理画面からすぐ確認できますし、いまは削除すると校内のWi-Fiにつなげない仕組みに変えたので、勝手に設定を外す生徒はまずいなくなりました(笑)」
CLOMO MDM導入を振り返り、梶原校長は「繰り返しになりますが、同じ端末を同じ環境で使えることは教育においてとても有利です。他校のように端末によって対応が変わるということが当校では起きませんから、教育にiPadを活用するというその一点に集中できます。しかもCLOMO MDMなら柔軟な設定が可能なので、生徒の端末管理では必要十分と感じています」と評価する。 アイキューブドシステムズに対しては、現在も困りごとが起きた際に担当者が実際に訪問するので安心を感じるとのこと。「今後は各校独自の悩みや実情に対応するためサポート体制をさらに充実させ、『学校のことはアイキューブドシステムズに頼めばすべて解決する』という存在になってほしいですね」と、梶原校長は同社への期待を語ってくれた。
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