売上が9割減となるなか、現場主導で新たな取り組みを次々と実施

国内外で51施設のリゾート・温泉旅館などを運営する総合リゾート運営会社の星野リゾート。1914年、長野県軽井沢に星野温泉旅館を開業し、今年で107年を迎えた同社は、独創的なテーマが紡ぐ圧倒的非日常「星のや」、ご当地の魅力を発信する温泉旅館「界」、自然を体験するリゾート「リゾナーレ」、テンションを上げる都市観光ホテル「OMO(おも)」、ルーズなカフェホテル「BEB(ベブ)」など、多様な旅のニーズの創造を通じて、世界に通用するホテル運営を目指している。

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    星のや軽井沢

旅行業界はコロナ禍で大きな打撃を受けた。星野リゾートも1回目の緊急事態宣言以降、各施設の売上が大幅に落ち込んだが、そうしたなかでもITシステムを活用して現場が自ら、さまざまな施策を推進できるようにすることで、ニューノーマルに対応してきたという。たとえば、大浴場の混雑状況を可視化する仕組み(温泉IoT)を開発し、顧客が安心して施設を利用できるようにした。また、GoToトラベルキャンペーン向けシステムを先行して開発し、1カ月ですべてを完成させた。

こうした施策を支えてきた重要な取り組みのひとつが「全スタッフIT人材化」だ。情報システムグループ グループディレクター 久本英司氏はその狙いをこう話す。

株式会社星野リゾート 情報システムグループ グループディレクター 久本英司氏の写真

株式会社星野リゾート 情報システムグループ グループディレクター 久本英司氏

「グローバルチェーンと肩を並べ、世界で通用するホテル運営会社を目指すことが星野リゾートのビジョンです。そのために情報システムグループでは、大きく『数千名のスタッフを支える安全安心安定な情報資産の基礎』『独自の運営力を支えるIT化能力を備える』『顧客体験のあるべき姿を探索し、想像し、進化させる』という3つの取り組みをピラミッド構造でとらえています」(久本氏)

コロナの影響もあり特に力をいれているのが、ピラミッドの一番上に相当する「顧客体験」に関する取り組みだという。デジタル時代の顧客体験を創造し、スタッフ体験を深化させることが星野リゾートのミッションであり、そのミッションを進める能力を「ITケイパビリティ」と定義している。そして「全スタッフIT人材化」はその重要な要素であると久本氏は語る。

競合との差別化を図るべく、IT化をスタッフ自らが推進

同社では、備えるべきITの要件を独自に定義し、ITを使って競合他社と差別化していくことを明確化した。ここでいう競合とは、グローバルでホテルを経営する大手事業者だ。そこには売上高が星野リゾートの数十倍、数百倍に達する企業も含まれる。そうしたグローバルチェーンはIT人材を多く抱えており、大規模にITを活用しながら効率化を進め、資本の力で競争力を高めている。 

これに対し、星野リゾートは、ローコード・ノーコードツールを使って、スタッフ全員がITの力を活用できるようにすることを目指した。それが「全スタッフIT人材化」であり、星野リゾートで働く人材の力こそが「競合との差別化ポイント」となる。久本氏はこう説明する。

「全スタッフIT人材化を目指した一番の背景は、グローバルチェーンに対抗するためにサービスチーム全員をIT人材化し、現場運営のIT化をスタッフ自ら推進できる世界を目指したことにあります。星野リゾートの就業規則の前文では『イノベーションを通じて新しい運営方法を創造すること』『顧客に近いスタッフが変化を恐れず挑戦すること』『フラットな組織文化を重視すること』をうたっています。これらの取り組みを具体的に実現するための仕組みのひとつがローコード・ノーコードツール『kintone』でした」(久本氏)

kintoneは、サイボウズが提供するローコード・ノーコード開発プラットフォームだ。最小限のコードあるいはコードをまったく使わずにアプリケーションを開発できるため、現場のスタッフが自分たちのニーズに合ったアプリケーションを容易に開発できるようになる。

  • kintoneで作成できる顧客管理システム

さまざまなローコード・ノーコードツールのなかでkintoneを採用した理由は「クラウドサービスであること」「ノーコードであること」「ユーザーコミュニティが充実していたこと」「日本製だからこその親しみやすさ」「コミュニケーション基盤を最初から組み込んだ製品コンセプト」「グループウェアを提供し続けてきたベンダーの信頼度」などにあったという。

「2014年の導入当初は、現場からの理解が得られにくい場面もありました。特に利用開始当初は、あえてルールを設けず自由に使えるようにしていたため、管理が難しくなるほど荒れてしまったり、開発が思うように進まなかったりしました」(久本氏)

だが「全スタッフIT人材化」を社内に対して言い続け、地道な取り組みを進めた結果、現場への定着が徐々に進んでいったのだ。

kintone導入で「業務スピードの向上」や「データ活用の展開」などの効果を実感

kintoneは現在、大きく3つの領域で活用されている。1つめは、「データプロセスコミュニケーション」領域だ。これは、データやプロセスを軸とした社内のコミュニケーションにかかわる領域のことだ。IT化を推進すると、一度入力したデータやプロセスを他の部署でも活用できるようになり、全体の業務の効率化が進み、全社的なコミュニケーションがしやすくなる。

  • kintoneの3つの活用領域

「特にkintoneは、プラットフォーム上にグループウェアのようなコミュニケーション機能が備わっているため、どのような機能が必要か、どう改善していきたいかなどをkintoneだけで議論することができます。サイボウズがグループウェアで培ってきたノウハウを生かせる点はkintoneならではだと思います」(久本氏)

現在は、出張申請など、100を超えるワークフローの申請プラットフォームや、社内公募・年次評価のプラットフォームとして活用されている。

2つめは、冒頭で触れた「温泉IoT」や「GoToトラベルキャンペーン向けシステム」のような「アジリティプラットフォーム」の領域だ。これは、基幹業務の一部を開発したり、システム設計の際の一部品を開発したりするケースとなる。通常、こうした基幹システムと連携するシステムは、アプリケーション側でも作り込みが必要になり、現場のスタッフだけでは開発が難しい。だが、kintoneは簡単なアプリ開発から技術的に難易度の高い基幹システムとの連携まで、幅広くカバーできる。ビジネス環境が変化しても、すぐにそれに合わせたアプリケーションとして改善していくことができるため、ビジネスのスピードとアジリティを速められるのだ。これまでに、海外施設の予約決済システムをゼロから新規に作り直した事例もある。

3つめは、「業務改善」の領域だ。これは現場で作って活用するためのシステムであり、たとえばその日に発生したミスをチームで共有するための日報や、ダイニングサービスのスキルを可視化するためのツールなどがある。また、身の回りの改善だけではなく、貸別荘の管理システムをkintoneで再構築した事例もある。貸別荘は事業として独立性が高く、必要な機能も独自の部分が多い。ユーザーサポートチームの小竹潤子氏は、こう話す。

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株式会社星野リゾート ユーザーサポートチーム 小竹潤子氏

「貸別荘の管理システムでは、部屋のクリーニングが必要か、暖炉の薪き割りが必要かなど、お客様ごとに個別にカスタマイズする項目が多くなります。kintoneを利用すると、そうしたサービスの品質にかかわる部分の作り込みを簡単に行うことができ、追加修正も容易です。貸別荘の管理システムはスタッフ2人が中心になって構築できました」(小竹氏)

小竹氏はkintoneを導入したことによる効果として「業務スピードの向上」や「データ活用の展開」を挙げる。

「ワークフローをkintoneに移行した事例が典型的ですが、さまざまな業務同士がつながることで業務をこなす時間が短縮されたと感じています。これまでスプレッドシートで対応していたものがアプリケーションになり、データとプロセスのなかで情報が動くことで、自動化、スピード化が進みました。また、情報が連携しているので、たとえば社内公募の仕組みを使って、タレントマネジメントの仕組みを作るといった展開も行いやすくなっています」(小竹氏)

アプリ数は800件に到達、内製化を加速させた3つの取り組みとは

開発の内製化が加速するきっかけとなったのが、実は2年前に行なったルール整備の取り組みだ。

「ガバナンスの整備、プラグインの活用、社内ビジネススクールの活用という3つの施策を進めました。まず、kintoneを活用していた他社から話を聞いて、星野リゾート流のルールとして整備し直したのです。また、従来はスタッフだけで開発できない部分をエンジニアに依頼していましたが、プラグインを活用することで、社内スタッフだけで開発に取り組めるようにしました」(小竹氏)

さらに小竹氏は、社内ビジネススクールを活用し、コミュニティベースで自ら学ぶことができる環境作りにも注力したという。

「ノーコードツールといっても、マニュアルを渡して誰でもすぐに開発できるわけではありません。IT部門が開発を後押ししながら、自主的な開発を進め、それを情報として共有し、コミュニケーションできるようにすることを心がけました」(小竹氏)

こうした取り組みのかいがあって、kintoneによるアプリケーション開発は社内に急速に広まった。現在、kintoneは全部署の全スタッフがいつでも利用できるようになっており、これまでに作成されたアプリ数は800件、ID数は2,400件に達している。

kintone導入当初は3名だったIT部門のスタッフも、現在はプロジェクト推進チーム、エンジニアチーム、運用チームという3つのチームでそれぞれ10名超、合計30数名規模の組織に成長している。実際にどのようにkintoneが活用されているのかについて、小竹氏はこんなエピソードを明かす。

「新たに開業する施設で人材を社内から募集したいという場合、従来はメールやスプレッドシートなどで希望者とやり取りしていました。ただ、コミュニケーションが煩雑になったり、連絡ミスが起こりやすくなったりすることが課題でした。そこで人事部と協力して社内公募システムをkintoneだけで開発。エントリーから申請受付、連絡などが1つのシステムで実施できるようになったのです」(小竹氏)

一歩ずつ着実にIT化の取り組みを実行し、事業を拡大し続けてきた星野リゾート。久本氏によると、全スタッフIT人材化の効果を、現場も実感してきていると話す。

「導入から7年経った今、現場の潜在力を最大限に引き出せるところまでたどり着きました。情シスが作ったアプリを使うより、自分たちでアプリを作った方が何倍にも効果を高められることを現場が実感しています。今後、ローコード、ノーコードが市民権を得ていくなかで、現場の意識やムードはより醸成されていくと考えています。むしろこれからがスタートです。kintoneを使って、現場の力を最大化していきます」(久本氏)

現場のスタッフ自らが「開発者」となり、よりよいサービスを展開していく星野リゾート。その企業努力は、今後のさらなる変革の大きな後押しとなることだろう。

  • 株式会社星野リゾートの久本氏と小竹氏の写真

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[PR]提供:サイボウズ