国内最大手のコンタクトレンズメーカーである「メニコン」は、役割が異なる3つのコールセンターで利用されていた個別のCRMシステムを「Salesforce Service Cloud」で統合した。他のコールセンターへの確認が必要な問い合わせに対する回答が迅速化されたほか、紙による情報共有が不要になったことでペーパーレス化が促進された。それぞれの担当者の負担は大きく軽減されたという。同社ではテラスカイと共に構築した新しい統合CRMシステムを、より広範な社内業務の情報共有基盤、さらに顧客とのコミュニケーションを深化するための基盤へ発展させていこうとしている。
われわれの生活にとって、身近な存在となった「コンタクトレンズ」。その草分けにして国内最大手のコンタクトレンズメーカーである株式会社メニコンは、1951年に日本で初めて角膜コンタクトレンズの実用化に成功して以来、視力矯正が必要な消費者のニーズを捉えた多様な製品を開発、発売してきた。同社は2001年にコンタクトレンズとケア用品の月会費制システム、いわゆる「サブスクリプションモデル」の先がけである「メルスプラン」を開始した。2021年3月期の段階で、会員は134万人を数え、「メルスプラン」は同社の主力事業のひとつとなっている。
メニコンが現在推進する中期経営計画「Vision 2030」では、「新しい『みる』を世界に」というスローガンのもと、コンタクトレンズとレンズケアを中心とした主力の「ビジョンケア」事業に加え、消費者の健康や生活を支える「ヘルスケア・ライフケア」事業の伸長を目指している。
株式会社メニコン カスタマーコミュニケーション部 部長の三浦和行氏は、「Vision 2030の実現にはこれまで以上に、個々のお客様との緊密な『つながり』が重要になります。コールセンターの役割も電話やメールによる問い合わせ対応にとどまらず、メニコンとお客様とのつながりを維持し、深めていくための総合的なコミュニケーションセンターへと変化していく必要があります」と語る。
同社では2020年9月、これまでコールセンター内で利用していた主に3つのCRM(顧客関係管理)システムを「Salesforce Service Cloud」で統合し、運用を開始した。このCRM統合は、同社が「顧客とのつながり」を深めていくうえで必須のプロジェクトだったという。
Windowsの刷新を機に懸案だったCRM統合に着手
メニコンでは、それぞれ役割の異なる3つのコールセンターを展開している。1つ目は、メーカーとして消費者からの問い合わせを受け付ける「お客様センター」。2つ目は、眼科や医療施設、販売店など、主に法人顧客を対象に商品受注を行う「受注センター」。そして3つ目が「メルスプラン」会員・取り扱い施設向けの問い合わせ窓口である「メルスセンター」だ。
これらのコールセンターは、役割や開設時期の違いからそれぞれ個別のCRMシステムを使って顧客データや取引先データの管理を行っていた。しかし、個人消費者と販売店、双方とのコミュニケーションが発生する「メルスセンター」の開設以降、センターを横断した情報共有の必要性が急速に増していた。
今回のCRM統合を現場の中心的な立場で推進してきたカスタマーコミュニケーション部チームリーダーの安田彩乃氏は、「新たなビジネスモデルを導入したことで、お客様とメニコンとの新たなコミュニケーションポイントが生まれたにもかかわらず、お客様に関するデータは個別に管理されており、スムーズな共有ができていない状況でした。他センターへの照会が必要な問い合わせは、すべて折り返し対応とせざるを得ず、回答に大きなタイムロスが生じていたのです」と以前の状況を振り返る。
安田氏によれば、センター間の情報共有にはFAXが使われるケースも多く、各センターが連携するほど紙資料は増加し、紙からシステムへの人手によるデータ転記や、作業ミスを防ぐための確認プロセスが必要なことによる業務効率の低下など、さまざまな問題が生じていたという。しかし、これらの課題を抜本的に解消するのは簡単ではなかった。システム刷新だけでなく、コールセンターをはじめとする関係部署での業務プロセス変更など、大規模な取り組みが必要だったためだ。
しかし2019年、コールセンターで利用していたWindows 7のサポートが2020年初頭に終了することに合わせて、その上で稼働していたCRMアプリケーションもリプレースすることになった。
「このチャンスを生かして、3つのセンターで利用可能な顧客情報を統合管理できるシステムを作りたいと考えました」(安田氏)
全社での情報共有を視野にSalesforceを選択
メニコンでは要件として、3つのコールセンターが共通で利用できるCRMシステムと、旧システムで個別に蓄積されている顧客データ、対応履歴、ナレッジを統合できる環境を求めた。新たなシステムの基盤としてSalesforceを採用することは、比較的早い段階でイメージしていたという。要件洗い出しの一環として社内のシステム利用状況を調査する中、既に営業部門においてSFA用途でSalesforceが導入されていたことが分かったためだ。今後、社内のより広い範囲で情報の共有と活用を進め、顧客とメニコンとのあらゆる接点を統合していくことを考えた場合、「Salesforce Service Cloudを利用するのは自然な流れだった」と三浦氏は語る。
社内でまとめた要件をもとに、いくつかの企業を比較検討した結果、同社が統合CRM構築のパートナーとして選択したのはテラスカイだった。
「テラスカイは、Salesforceのインテグレーションに多くの実績があり、コールセンター向けのシステムや、LINEのようなチャットツールを利用したコンタクトセンターのオムニチャネル化ソリューションにも精通している点で、われわれが将来的に思い描いている、お客様とのコミュニケーションの姿を実現してくれそうだと期待しました」(三浦氏)
また同社には、主に物流系で利用している基幹システム上のデータを、Salesforce上のデータとリアルタイムに同期したいという要望もあった。その実現において、データ連携サービス「DataSpider Cloud」と、Salesforceを組み合わせた仕組み作りの実績があった点も、テラスカイを選択した理由のひとつだという。
センター間の情報共有が迅速化しペーパーレス化も加速
メニコンとテラスカイによるCRM統合プロジェクトは、2019年8月にスタート。約3カ月の要件定義、約4カ月の開発フェーズを経て、2020年9月には、Salesforceによる新システムがリリースされた。
これと並行して、同社ではコールセンターにおける業務プロセスの再構築も進めていった。
「3つのコールセンターはそもそもの成り立ちが違うため、それぞれにとって重要な情報も異なります。その中から共通項を見つけ出し、標準化する作業は想像以上に大変でした。プロセスの標準化によって業務の進め方が変わる担当者に対して、『お客様のための改善』という目的であるということを担当者自身に認識してもらう、マインドセットの取り組みも必要でした」(安田氏)
新しい統合CRMの導入効果は、徐々に顕在化しつつある。目に見える大きな成果は、懸案であった「センターをまたぐ問い合わせ内容に対する回答の迅速化」そして「ペーパーレス化」の実現だ。
「各センターでの対応内容が、他のセンターからもリアルタイムで確認できるようになったことは非常に大きいと感じています。すべてのセンターが同じフォーマットで情報を蓄積、参照できるようになったため、会社として適切な回答や対応を完了するまでの時間が大幅に短縮されました」(安田氏)
新システムの稼働に伴い、FAXなどを利用した紙資料による情報連携も大部分が廃止された。紙への出力、FAX送信、人為的なミスを避けるためのチェック作業に必要だった時間が削減され、業務に関わる担当者のストレスも減った。全体で、約8割の紙資料が削減され、「チームによっては100%のペーパーレスが実現できている」と安田氏は喜びを口にする。
「SalesforceによるCRMの統合にあたっては、メニコン独自の業務ルールや手順が多いため、それを理解するだけでもかなりの労力だったと想像します。その中でテラスカイは、われわれが求める仕組みの実現に全力を注いでくれました。要求に対して、実現が難しい部分については積極的に代替案を提示してくれたこともあり、プロジェクトを進めていくうえで、大変心強く感じました」(安田氏)
現在同社では、Salesforceのローコード/ノーコード開発環境を生かし、新システムを運用する中でユーザーから寄せられたフィードバックに基づいた、レイアウトやビューの配置変更、表示項目の追加といったカスタマイズを、継続的に自社で行っている。ユーザーの改善要求へ社内で迅速対応できる環境は、新システムの利用促進の面でも良い効果を生んでいるという。
テラスカイは「“夢”を共有する」パートナー
メニコンでは、今回構築したSalesforceベースのシステムを、コールセンターのみにとどまらない「社内の情報共有基盤」として発展させていくと同時に、今まで以上に「顧客とのつながりを深めていくためのシステム」へと進化させていくことを検討している。
「社内に関しては、さまざまな部門の業務に関わる情報をSalesforce上で一元管理することで、業務効率や生産性を高められる余地が、まだ多くあると思っています。たとえば、よくある問い合わせのFAQ化やチャットボットによる申請作業の自動化なども考えられるでしょう」(安田氏)
三浦氏は今後の展望について、今回構築した統合CRMをコールセンターの混雑状況や営業時間にとらわれず、お客様とメニコンとのつながりを深めるための基盤にしていきたいという。
「新しい統合CRMは、メール、LINE、チャットボットを通じたノンボイス領域への展開、さらにボイスも含めて当社に寄せられるお客様のあらゆる“声”をデータ化、可視化し、客観的なエビデンスに基づいた商品やサービスの展開を可能にするためのプラットフォームへ育てたいと思っています。これらは“夢”として思い描いている段階ですが、テラスカイとは、われわれの“夢”を共有したうえで、新しい提案をもらいながら、一緒にメニコンのビジネスを創造するコンタクトセンターに成長させていきたいと考えております」(三浦氏)
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