自動車エレクトロニクスの進化はエンジンの効率化と共に歩み、排ガス規制と燃費の向上と、安全性の向上、快適性の向上は電気・電子の進化によって実現されてきた。その自動車エレクトロニクスの機能構造すなわちE/E(電気・電子)アーキテクチャはここにきて大きく変わりつつある。半導体メーカーのインフィニオン テクノロジーズ ジャパン株式会社 オートモーティブ事業本部の鰕名 孝行氏と稲木 洋行氏に、その詳細を解説してもらった。

  • インフィニオン テクノロジーズ ジャパンの鰕名 孝行氏

    インフィニオン テクノロジーズ ジャパン株式会社
    オートモーティブ事業本部
    ヴィークル ユーザーエクスペリエンス&E/Eアーキテクチャ
    プリンシパル エンジニア
    鰕名 孝行氏

  • インフィニオン テクノロジーズ ジャパンの稲木 洋行氏

    インフィニオン テクノロジーズ ジャパン株式会社
    オートモーティブ事業本部
    ヴィークル ユーザーエクスペリエンス&E/Eアーキテクチャ
    シニアスタッフエンジニア
    稲木 洋行氏

これまでエレクトロニクスの頭脳となるECU(電子制御ユニット)は、個別の機能ごとに装備されていた。高級車だと1台に80~100個ものECUが搭載されていると言われているが、これをある程度まとまった機能ごとにECUを統合しようという考えが生まれてきている。これが第2世代のE/Eアーキテクチャと言われる「ドメインアーキテクチャ」である(図1)。こうした考え方に至ったのは、ECUの配置と配線を最適化してコストを削減し、従来のECUの機能を統合して開発効率の向上を目指すためだ。

  • E/Eアーキテクチャの進化

    図1: E/EアーキテクチャはECUからドメインアーキテクチャ、そしてゾーンアーキテクチャへと進化する

当分はこの第2世代が主流になると考えられるが、あるアメリカのEV(電気自動車)メーカーが採用している「ゾーンアーキテクチャ」が第3世代のE/Eアーキテクチャと位置づけられそうだ。これはセントラルECUという装置(カーコンピュータ)を中心に置き、そこからゾーンと呼ばれるコンピュータに接続する手法である。このアーキテクチャが注目されているのは、ソフトウエアを中心とした機能開発が可能になり、クルマに搭載されているソフトウエアのアップグレードをOTA(Over-the-Air)で行えるためだ。

クルマのE/Eアーキテクチャを構成するECUは、マイコンやSoCを使用することによって機能の実装、拡張性、フレキシビリティなどを実現している。これにより、ソフトウエアで機能を追加したり性能を上げたりすることが可能になるが、数十個もある個々のECUのソフトウエアを全て個別にOTAで書き換えようとするのは限界があるだろう。そこで、セントラルECUやゾーンECUなど、比較的少数のECUのソフトウエアを書き換えるだけでクルマの機能をアップグレードできるようなゾーンアーキテクチャが、第3世代のE/Eアーキテクチャとして注目されているのである。

これからもE/Eアーキテクチャは、クルマのメガトレンド(自動運転、コネクティビティ、EV化、セキュリティ)に沿って進化していくだろう。自動運転やコネクティビティ、セキュリティなどの課題解決には、安心・安全の基本となるディペンダビリティ(Dependability)、すなわち信頼でき安心して任せられる能力をクルマに備えさせることが重要だ。つまりディペンダビリティを実現することが、グローバルなメガトレンド(気候変動、都市化、高齢化、デジタル化)の流れに即した社会的な要求にクルマが応えることとなる。

ディペンダビリティに対応

Infineon Technologies AGはパワー半導体で世界のトップに君臨する半導体メーカーであり、ディペンダビリティを実現するための半導体製品も多数提供している(図2)。

  • Infineonが持つゾーンアーキテクチャ対応の各種半導体IC

    図2: Infineonが持つゾーンアーキテクチャ対応の各種半導体IC

事故のないクルマ作りにはディペンダビリティを高めることが欠かせない。Infineonではセンサー機能に使用されるICとして、横からの急な飛び出しに対処するためのV2X(Vehicle to Everything)と呼ばれるコネクティビティICをはじめ、センサーからのデータを収集・管理・処理するためのコンピュートと記憶IC、さらにクルマを制御するためのモータ駆動のパワーICなどを揃えている。また、データがサイバー攻撃などで書き換えられないようにセキュリティを担保するICなどもラインナップされている。

上述のE/Eアーキテクチャ変化を推進する大きなモチベーションの一つとして自動運転が挙げられる。自動運転の開発においてはセンサーや演算能力に注目が集まりがちだが、もちろんそれらの電気/電子製品は適切に電源供給がなされなければ想定通りに動作しない。ディペンダブルな電源分配、加えて機器の小型化/軽量化などによって、従来メカリレーやヒューズで構成されてきたリレーボックスなどの電源分配ユニットは、半導体スイッチを搭載し機能安全も考慮したePDC(electronic-Power Distribution Center)に置き換わっていく。

リレーやヒューズを半導体スイッチに置き換える

半導体スイッチのメリットとしては、まず小型化が挙げられる。リレーと比較し圧倒的に小型/軽量な半導体スイッチはECUそのものの小型化/軽量化を実現し、車内の省スペース化および車両レベルのCO2削減に貢献する。

次に保護機能/診断機能がある。たとえば負荷短絡時に安全に電流を遮断することでシステムを保護し、システムは故障個所と故障モードを認識できる。過電流保護には古くからヒューズが使用されてきたが、その溶断時間は数百ms以上と比較的長く、その間の電源電圧降下などによって安全上重要なシステムに障害を与えかねない。一方半導体スイッチの場合は100us以下といった短時間で異常箇所を高速に遮断して電源電圧の降下を最小限に抑えるため、今後訪れる自動運転時代におけるディペンダブルな電源供給には欠かせない存在となる。

また、過電流保護時にヒューズは物理的に溶断するため部品の交換が必要になるのに対し、半導体スイッチはマイクロコントローラなどからの電気的な信号によりリセットすることで、部品交換することなく復帰することが可能だ。また繰り返し動作によってメカリレーがショートするなどの摩耗故障に至るのに対し、半導体スイッチははるかに高い繰り返し耐久性を持っている。これまでリレー/ヒューズボックスは主にヒューズ交換などのメンテナンス作業を配慮して配置する必要があったが、メンテナンスフリーの半導体スイッチを使用することで車内の配置自由度が高くなるとともに、前述のゾーンアーキテクチャの実現の可能性も高められる。

すでに灯火系や小型ヒータなどは半導体スイッチが使用されていることが多い。半導体の微細化に伴う小型化/低価格化がさらに進むことにより、中長期的にはより大電流の負荷駆動や電源分配用途にも半導体化が促進されるものとInfineonは予想している。

第3世代のE/Eアーキテクチャに向けた配電システム

Infineonのスマート・ローサイド&ハイサイドスイッチは半導体スイッチとしてすでに多くの車載用途に使用されている。最新のハイサイドスイッチ「PROFET™+2 12V」は過電流保護/過熱保護などの各種保護機能および診断機能を兼ね備えており、Infineonが誇る微細化技術により世界トップクラスの小型化を実現している。またSPIハイサイドスイッチ「SPOC™+2」は4-6チャネル出力を1パッケージ化したマルチチャネル製品で、SPIによるIOポートの削減といったさまざまな利点に加え、機能安全分析レポートの提供が可能となっている(ISO 26262 ready: Infineonの機能安全への取り組み)。

Infineonはゾーンアーキテクチャに適したePDCに必要なスマート・ローサイド&ハイサイドスイッチやLIN/CANトランシーバマイクロコントローラモータコントロールICパワーMOSFETなどをラインナップしている。第3世代のE/Eアーキテクチャに向けて準備を整えるためにも、こうした製品群に注目していく必要があるだろう。

[PR]提供:インフィニオン テクノロジーズ ジャパン