岡三証券 機関投資家営業部では、法人顧客のニーズに合わせたサービス提供、投資提案を強化することを目的に、顧客情報管理の基盤として「Salesforce Sales Cloud」を導入した。これまで、担当者個人や部署単位で管理されていた情報、ナレッジを集約。部署を超えて共有することで、顧客に対して組織としての戦略的なアプローチを行える環境づくりを目指す。
デジタル技術がビジネスにおける旧来の方法論やルールを激変する状況は今後も続いていくと思われるが、競争力を高め続けるためには自らもデジタルの力を最大限に活用し、新たなビジネス価値を生みだしていくことが重要だ。岡三証券は、2023年に創業100周年を迎える岡三証券グループの中核会社として、そうした取り組みを積極的に進める企業だ。顧客のニーズに合った資産運用を行うためのサービスを提供する同社では、中期経営計画に基づき、社員の働き方と、顧客とのコミュニケーションスタイル双方の変革を目指して、デジタル技術の活用に取り組んできた。
顧客情報の属人化が価値の高い提案の阻害要因に
証券会社にとって、顧客から集めた大規模な資金を運用する機関投資家に対する情報提供、投資提案は重要な業務だ。岡三証券で、機関投資家向けのセールスを統括する機関投資家営業部では、社会状況の変化に対応した顧客ニーズのより深い把握と、組織全体での提案力強化を目的として「Salesforce Sales Cloud」を導入した。執行役員 機関投資家営業部担当 兼 機関投資家営業部長 の犬井利充氏はこう話す。
「われわれの主要なビジネスは、エクイティリサーチセールスです。単にアナリストのレポートを伝えるだけではなく“リサーチ”を通じて、どれだけの付加価値をつけられるかが差別化のポイントになります。そのためには、お客様のことを徹底的に知り、それぞれの投資方針やスタイルに合った形に情報をカスタマイズして、提案をしていく必要があります」(犬井氏)
従来、こうした「顧客を徹底的に知る」ための情報管理が、属人的に行われていた。同社がSalesforceによる顧客情報の統合を目指した背景のひとつには、情報管理が属人的に行われていたことに対する危機感があったという。
「各担当者は、それぞれにスプレッドシートやスケジューラーなどを使って、お客様に関わる情報を管理していました。しかし、この方法だと異動や転職、退職の際に情報の引継ぎが十分になされず、お客様と築いた価値あるリレーションがなくなってしまうということが少なからず起こっていました。また、担当者や部署といった単位で情報が抱え込まれることで、社内の組織が連携して戦略的なアプローチや提案を行うことが非効率的におこなわれていました」(犬井氏)
顧客に対する活動やナレッジの属人化を避け、集約した情報をさまざまな部署で共有しながら、組織的に戦略を練ることができるような顧客情報管理の基盤が必要だったという。
金融業界のビジネス要件に精通したテラスカイが導入を支援
同社が新たな基盤に求めた要件は「非常に一般的なものだった」と犬井氏は言う。自社で取り扱うさまざまな金融商品や、アプローチする顧客、その関連情報やタスクといったアセットを、できる限りシンプルに一元管理できるようにしたいという希望があった。
「テラスカイの担当者は、同業他社でのSalesforceの導入実績が豊富ですし、証券業界特有のビジネス要件、さらに業界全体の情報化の動きも熟知していました。当然、われわれの『シンプルに一元管理をしたい』という要望についても、共通認識をもって進めてくれました。また、提案の際に提示されたデモの内容についても、お客様の大切な情報をどのように管理し、組織で共有していくかについて熟慮されたもので、今のわれわれに必要なものだと感じました。」(犬井氏)
Salesforceの導入プロジェクトは、2020年11月にスタート。2020年内にプロトタイプを作成して調整を進め、2021年2月に本番環境でリリースされた。
開発は主に、テラスカイが作成したプロトタイプを岡三証券側が精査し、自社での業務の進め方や、社内で使われている用語に合わせて修正していくという形式で進められたが、Salesforceの機能の把握には苦労したという。岡三証券 機関投資家営業部次長 兼 ホールセールス企画グループ長の忍足眞理氏はこう語る。
「正直なところ、最初はシステムの理解そのものが大変でした。Salesforceのそれぞれの機能や画面が、セールス担当者の実際の行動とどう結びつくのか、業務の中でどのデータをどう見ればいいのかといった部分から、ひとつずつ理解していきました」(忍足氏)
セールス担当者が使う際に戸惑いが生じないように、Salesforce上のプロトタイプで使われている用語と、岡三証券の社内で使っている用語を結びつける過程にも苦労した。
「Salesforceの用語も、私たちが社内で使っている用語も、独自のものです。用語の定義が違えば、システムとしての仕様にも違いが出てきます。このギャップを埋めながら、現場ができるだけ違和感なく使い始められるよう、調整を進めました。そのことがスムーズなリリースを実現できた理由のひとつです」(忍足氏)
現場の反応を通じて継続的に改善-「良い変化」の兆候も
Salesforceによる新たな顧客情報管理基盤が稼働を開始して数カ月。Salesforceの開発しやすさを生かし、現場ユーザーからのフィードバックをもとに、UIや機能の改良を続けている。
「慣れていない仕組みに対して“使い勝手が悪い”“今までのやり方のほうがラク”といった反応は、どうしても出てきてしまいます。ただ、基本的にわれわれのチームにおいては “だから使わない”という選択肢はないと明言しており、どうすれば使いやすくなるのかを考えて、提案するところまでをセットにするよう呼びかけてきました。そうして出てきた改善案は、とりまとめてテラスカイに修正を行ってもらい、早ければ週単位のタイムスパンで改善案が本番環境に反映されます。このようなスピーディーな改善が、新しいシステムを積極的に使っていこうとする現場のモチベーションにも、つながっていると思います」(犬井氏)
現場においてSalesforceへの情報入力が習慣化し、蓄積されるデータが増えていくに従って、チーム内にも良い変化が起こり始めているという。
「現状、この顧客情報管理システムは機関投資家営業部内だけで利用している段階ですが、若いセールス担当者の中には“先輩がどんな行動をしているのかを学んで自分のセールススタイルに生かしたい”と、積極的にデータを参照している人もいます」(忍足氏)
犬井氏は「システムの導入そのものが目的にならないよう、常に注意をしてきました」と、これまでの取り組みを振り返る。
「目的は“システムを導入すること”ではなく、システムを活用することで、お客様である投資家が“岡三証券は役に立つ”と感じてくれる組織にしていくこと。ひいてはそれが、運用会社からの評価を上げることにもつながるのです。この顧客情報管理システムは、その中心になる仕組みとして、引き続き発展させていきたいと考えています」(犬井氏)
システムと知見を全社で共有し顧客への価値提供の基盤に
今回構築された顧客情報管理システムは、今後も継続的に改善や機能追加が行われる計画だ。直近では、社員が日常業務のツールとして利用している「Microsoft 365(Outlook/Exchange)」との連携を視野に入れているという。
「Outlookとの連携が可能になれば、現場での使い勝手や、データの分析にも良い影響があると考えています。利用頻度やデータ量が増えれば、そこから生まれる“気づき”の質や量にも変化が生まれるはずです。その次のステップとして、このシステムと、活用のための知見を、部署だけでなく全社へと広げていきたい。使う部署が増えれば増えるほど、データから得られる価値も大きくなっていくはずです」(忍足氏)
岡三証券では、SalesforceのSFA(営業支援システム)としての活用を見込み、証券会社がビジネスのパフォーマンスを図る際に極めて重要な指標であるブローカーポイント*1との連携についても開発済みだ。将来的にデータが蓄積されたら、セールス担当者が顧客ごとに最適な金融商品を提示したり、アクションプランを提示したりできるといったように、SFAとしての活用に期待も高まる。
犬井氏はSalesforceを「業務変革のエンジン」と捉えている。
「世の中が急速に変化する中で、より詳細に投資家のニーズを知り、組織として戦略的にビジネスを展開していくことが求められています。今回、Salesforceで構築したシステムは、組織が戦略的な動きをできるように変えていくエンジンになると思っています。このシステムからうまく“気づき”を吸い上げて、効果的に活用する方法を確立したいと考えています」(犬井氏)
(*1)機関投資家からの評価指標となるポイント。ブローカーポイントの上昇は、取引量の増加、ひいては手数料収入の増加につながる。
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