DX(デジタルトランスフォーメーション)への注目度が高まり続ける中、2021年6月15日、マイナビ主催・Sansan共催によるオンラインセミナー「中小企業経営者向けセミナー ~経営者が語る。DX推進を成功に導いた、デジタルで売上をあげる経営手段とは~」が開催された。
データ活用・分析によって老舗食堂のデジタルシフトに成功した有限会社ゑびや・株式会社EBILAB(エビラボ)代表取締役社長の小田島 春樹氏と、法人向けクラウド名刺管理サービス「Sansan」を提供するSansan株式会社 執行役員 Sansan事業部 SB営業部 部長の児玉 悠子氏が登壇。新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、企業を取り巻く環境は刻一刻と変化している。このような状況下でも、企業を成長させていくためには、状況を正確に把握し、最適な意思決定を行わなければならない。変化が激しく予測困難な現代社会を生き抜くための鍵はデータにあることを、多彩な事例を交えながら熱く語った。
データに基づき正しいアクションをとれば利益は必ず上がる
小田島氏の講演タイトルは「DX(データ経営)によって企業と人を元気にする変革ストーリー」。同氏は伊勢神宮参道で約150年前から飲食業を営む老舗食堂「ゑびや」を継承し、さまざまなデジタルツールを使って変革を実現してきた。 小田島氏が店を継いだのは10年ほど前のこと。伊勢神宮はいうまでもなく日本有数の観光地であり、当時のゑびやも観光地でよく見られる昔ながらの店舗だったという。「“THE 日本の家族経営の飲食店”というイメージそのものでした」と小田島氏は振り返る。
まだその頃は経営にさほどの厳しさを感じていなかったものの、人口減少をはじめとする環境の変化や災害リスクを考慮すると、このまま店舗運営を続けてもいずれ大変な状況になるのではと小田島氏は危機感を抱いた。
「地方はこれから売上が衰退していくという話をよく聞いていましたが、新しい考え方で事業を変えていけば、地方にも大きな可能性があるのでは、とずっと感じていました」
小田島氏はさまざまな施策を打ってみたが、その効果を客観的に測定する手法がないことが悩みだった。そこで自分たちのアクション効果を知るため、データ分析に行き着いたという。センサーなどでデータを集め、機械学習、AIを使った画像解析、RPAといったツールを導入。さらにはクラウドも採用し、店頭の通行量、入店率、購買傾向を施策ごとに測定・分析して、来店者や売上の予測や、業務の効率化などに活かしていった。
こうした取り組みにより、売上は1年で1.8倍と大きな成果を生み出した。売上アップだけでなく、社員の満足度向上につながる社内施策にもデータ活用を進めている。さらに小田島氏はEBILABを設立し、ゑびやで得たノウハウをもとに他社へのソリューション提供なども行っている。
「データを取れば会社の現在の状況を正しく認識できます。そして、そのデータに基づき新しいアクションを実行すれば、ほぼ間違いなく利益は上がると考えています。ただし、デジタルを導入すれば売上が即増えるわけではありません。データやITはあくまでツールなので、日々の取り組みを正しく検証するための仕組みとして、また、人でなくてもできる作業を代替して仕事を楽にするものとして考えたほうがいいと思います」
ゑびや・EBILABが地方においてもデータを基に魅力ある仕事を展開していることで、ここで働きたいという仲間が増えたという。「データを活用し、新しい取り組みを行うことで、現場の働き方も変えることができるため、みんな笑顔でいられます」と話し、講演を締めた。
ITツールを導入し、データを一元管理することがDXの第一歩
続いて児玉氏は「売上向上につながるDXのステップと顧客データ基盤の作り方とは」のタイトルで講演を行った。
児玉氏はSansanにおいて中小企業をターゲットとしたマーケットを担当する営業部隊を統括している。ちなみに同社は約7000社の企業に採用されている法人向けクラウド名刺管理サービス「Sansan」を中心に、請求書・契約書といったアナログの部分をデジタル化していくことも含め、企業のDXを支援している。
※出典:名刺管理サービスと営業サービス(SFA/CRM/オンライン名刺交換)の最新動向(2020年12月 シード・プランニング調査)
児玉氏は、まずこれからの企業経営に顧客データの活用が必須であることを強調。「これまでは経営者の勘と経験に頼った経営判断でしたが、今後の経営スタイルはデータを基に意思決定していく必要性が高まっています。 顧客が多様化した購買行動を行う中、どのタイミングでどの見込み客に対しどんな情報を届けるかをデータから判断することで、企業の成長につながっていきます」と語った。
BtoBビジネスにおける顧客は「業界」「企業」「事業所・部署」「役職・人」であり、売上向上を実現するにはそれぞれの単位で情報を捉え、顧客情報を把握する必要があると児玉氏は話す。
「これらの情報はいままで営業担当が対面で取得し、属人的に管理していました。これからは情報があらゆるチャネルで取得できるようになり、獲得できる情報もチャネルごとで異なっていきます。そのため、情報が分散し、顧客データの分析は難しくなるでしょう」と指摘した。
顧客データを分析・活用するには、分散する多様な情報のデータ化が必要になってくる。社内には多様かつ大量のデータが紙やExcelなどさまざまな状態で存在しているため、まずは獲得した顧客情報を正確にデータ化することが必須。そして、その貴重な情報源の一つが名刺であり、まずは、机の中に大量に眠る名刺の情報をデータ化することを児玉氏は推奨する。
具体的な進め方としては、まずITツールを導入し、データを一元管理していく。これによりデータ活用の基盤が整い、データ分析やそれを基にした業務フローの効率化なども可能になる。つまり、これがDXの第一歩だという。
この一元管理で重要なのが、データを常に最新へアップデートし、活用できる状態にしておくことだ。「Sansan」を使えば、紙の名刺のデータ化はもちろんオンライン名刺交換機能もあり、データの一元管理に加えて最新情報への自動アップデートも可能。中小企業でもデータ活用を簡単に始めることができ、それを基にした経営判断や業務効率化・自動化、データ分析のさらなる高度化も実現可能であると、児玉氏は語った。
対談セッション-DXを浸透させ、成功に導くために
最後のセッションは両氏が質問に答える形で進められた。
最初の質問は「中小企業において、なぜDXは浸透しないのか」。小田島氏は「デジタルを使うことが習慣化していないところが問題。当社もデータ分析をするにあたり、スタッフがどうすればデータを毎日見るようになるか模索し、朝礼でデータを発表する、大型モニターでデータを流し続けるといった施策を行った結果、習慣化していきました。データに自然に触れる仕組みがあれば浸透しやすいと思います」と語り、児玉氏も「日常の運用にデータに触れる機会を取り入れ、現場を巻き込んでいくとDXは浸透していきます」と応じた。
次の質問は「経営者目線でのDXの捉え方や意識すべきことは」。小田島氏は経営者の立場から「経営者自身のマインドを変える以外にないと思います」と答えた。児玉氏は「経営者に意識してほしいのは、DXをすれば何かが変わるのではなく、文化を変えていくという強い思いこそが重要だということ。これまでの経験や勘、熱意はもちろん大事ですが、データを使えばさらなる武器を身につけられます」と話した。
3つ目の質問は「データを活用するべきだと思ったきっかけ」。小田島氏は、講演で話した施策の効果測定というポイントに加えて「コロナ禍の状況で、データがなければ何が起こっているか把握できないことを改めて実感しました。コロナ以前の来店客は40歳以上が多かったのですが、コロナ以降のデータを見るとほとんどが30歳以下。想定していたマーケットがガラッと変わったことに気づいたのです。データというファクトがあれば、思い込みで間違った方向に進まずに済みますし、状況によって取り組みを変えることもできます」と語った。
続く質問は「現場目線でのDXの捉え方や意識すべきこととは」。まず児玉氏が「現場はみな自分がやりやすい形で情報を管理していきますが、データは一元管理しなければ事業の推進に役立てることができません」と話し、小田島氏は「経営者側で現場に意識をさせないことは大事で、最初にお話ししたように自然なものとして習慣化することがやはり大切。Sansanで名刺管理を始めると、とにかく楽ですから、リアルのフォルダで紙の名刺を管理するスタイルに戻るのは無理でしょう」と話した。これについて児玉氏は「名刺フォルダは持ち歩けませんが、Sansanならスマホ1つで何千枚もの名刺を持ち歩き、検索もできるので、それだけでも便利と言っていただけることが多いですね」と応じた。
このあとコロナ禍での対応についても質問が出た。小田島氏は、第1波から第4波までの各タイミングで実施したデータ活用のさまざまな取り組みについて詳細に解説。児玉氏もコロナ禍を契機としたSansanの事業を説明した。リモートワークが浸透した状況でSansanの利用率も増えたとのこと。「対面でなくても顧客情報を収集できることで、ユーザー企業に喜んでいただきました」と話した。
最後に、コロナ後に向けて小田島氏は「当たり前であったことが当たり前でなくなり、新しい価値観が生まれてきます。そこで大事なものは、やはりデータ。データをしっかり使っていくことが、これから事業を成長させる秘訣になると思います」と話した。そして、児玉氏は「まずはデータ化のためのIT投資の優先順位を高め、経営判断のベースづくりにすぐ着手してほしいですね」と強調し、セッションは終了した。
●Sansan – 法人向けクラウド名刺管理サービス
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