• 病室にWiFiを

新型コロナウイルスのまん延で、私たちの生活は大きな舵取りを余儀なくされました。緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が発出されるなか、他者との接触や外出をなるべく控え、テレワークやオンライン授業などのネットワークを駆使した新たな働き方やコミュニケーションの習慣が広く世間に浸透しました。それに伴い、多くの企業や学校では動画通信を支えるネットワーク基盤としてのWi-Fi整備が飛躍的に進んでいます。

しかし、病院などの医療機関では電子カルテを活用するための業務用Wi-Fiが広く整備されている一方、患者さんが病室で使用できるWi-Fiの整備に関してはあまり進んでおらず、全国の病院の3割程度に留まっているという実態があります。

そのような実態を踏まえ、病室での患者用Wi-Fi整備を普及促進するための活動に従事している団体があります。フリーアナウンサーの笠井信輔さんなどによってつくられた 『#病室Wi-Fi協議会』です。

コロナ禍において患者さんや障がい者の方々がかつてない阻害的環境に直面しているなか、入院や療養で病院に長く滞在しなければならない患者さんとその家族、友人、関係者の方々のQOL(クオリティ オブ ライフ)の向上を目的とし、医療機関、特に病室でのWi-Fi環境整備を推進する活動に従事しています。協議会の活動は、病室Wi-Fiの整備にかかる費用が、厚生労働省の補助金の対象となったことに大きく貢献しています。

#病室Wi-Fi協議会の取組みについて、協議会の中心メンバーの一人であり、自身もがん治療のため長期の入院経験がある笠井さんにお話しを聞きました。

  • #病室Wi-Fi協議会 フリーアナウンサー 笠井 信輔 さん

    #病室Wi-Fi協議会 フリーアナウンサー 笠井 信輔 さん

―#病室Wi-Fi協議会とはどのような組織なのでしょうか。

#病室Wi-Fi協議会とは、2021年1月に設立した私を含む8人の有志で作った団体です。私は昨年、血液のがんである悪性リンパ腫で約4カ月半入院しました。入院中に新型コロナウイルスが世界的に流行し、家族や友人の面会が禁止になりました。お見舞いに来てくれる人がおらず、入院期間中の長い時間、とても孤独だと感じました。長く入院しながら家族や友人と面会できないことは、とてもつらく厳しい状況だと感じました。オンラインで家族や友人とつながることができたことで、私自身すごく救われました。

私が入院していた病院は非常に大きな病院でしたが、Wi-Fiの使用が禁止だったので自分のスマホのパケット通信で賄っていました。動画の通信ですので、通信容量も多くパケットは当然足りなくなり、月8000円から1万円くらいの追加料金を払っていました。入院費用に加え、オンライン面会のためにパケット代も多くかかる状況について、これってどうなのかなと問題意識を持ちました。

退院後、がんのチャリティ活動やボランティア活動といった啓もう活動をするようになり、周りの人に入院中Wi-Fiが使えなくて大変だった話をすると、『そうなんだよ、それって絶対問題だよ』と、賛同者がたくさんいることが分かりました。

もともと知り合いではなかった人間がイベントなどを通してつながり、仲間8人が集まって協議会を立ち上げることになりました。骨髄バンク設立の中心人物だった方や日本最大級のがん患者さんの団体の理事、慶応大学のICTに非常に詳しい教授、筋ジストロフィー患者であり患者さん団体の代表者の方々、永田町でロビー活動を長年取り組まれており過労死防止法の設立時に力を発揮した方、タイ在住の国連職員で障がい者関係の仕事をしている方、そしてフリーアナウンサーである私、皆それぞれ違った分野で活躍しているメンバーが参画しています。

皆さんがネットワークと行動力と発信力を持っており、それぞれの力を発揮して活動しています。私は『病室Wi-Fiアベンジャーズ』と呼んでいます。協議会としての代表はおらず、みんなが有機的に繋がっている感じです。毎週1回、火曜の20時にZoomで集まり、大体23時くらいまでああでもないこうでもないと会議をしています。初めの1時間はWi-Fi業界の方、あるいは医療関係の方をお呼びして、病室Wi-Fi整備の課題についてヒアリングをしています。そのなかで業界が抱えている問題だとかを洗い出して、ここが課題のネックになっている、ここを改善していかないといけませんよ、と私が講演などで情報発信して皆さんにご紹介しています。

病室へのWi-Fi整備にはお金がかかります。経営難の病院も少なくありませんので、とにかく国から予算を出してもらおうということを第一の目標にして、必死になってロビー活動や陳情をしてきました。坂本哲志孤独・孤立対策担当大臣や三原じゅん子厚生労働副大臣に直接お会いしてお話ししたり、他の代議士の方々に陳情したりすることによって、補助金の制度化に本来1年ぐらいかかるところを、協議会の発足からおよそ3カ月間という短い期間で厚生労働省が予算をつけてくれました。

その情報がWi-Fi業界関係者にも伝わり、今ではいろんなお問合せをいただくようになりました。Wi-Fi業界の動きが6月頃から活発になってきて、そこからいくつもの課題や問題点が見えてきた、というのが現状です。

  • 笠井さん

―協議会の設立が1月で、補助金制度の対象となったのが4月です。動きとしてとてもスピーディですね。

私たち協議会が頑張ったというよりも、政治家や官僚の皆さんに頑張っていただいたからだと思います。本来、補助金なんて容易にはつかないんですよ。補助金は税金ですから、人のお金を投入するわけなので、そのためには社会的意義が無いといけません。社会的意義を洗い出すために、制度化するにはとても時間がかかります。官僚の皆さんはデータを集めるなどいろんな作業を経て、ようやく制度化されます。

コロナの時代になって、病室で患者さんが取り残されています。この1年間、全国の病院で直接の面会が禁止になっています。そんな状況をいち早く救わないといけない。早期に手を打つべきだと、政治家や官僚の方々が強く感じて動いていただいた結果、制度化されました。このスピード感で実施できたことは、今回の問題が国民にとって大きな問題だったということだと思います。

―笠井さん自身コロナ禍が始まる直前に入院されて、入院後約1カ月でコロナ禍が始まってしまいました。入院中はどのような気持ちだったのでしょうか。

とにかく病室にいて思ったのが、怒りとやるせなさでした。コロナがまん延し始めてしばらくして、小池百合子東京都知事が『不要不急の外出を避けてください』と訴えていたとき、一部の人がパチンコに行ったり飲みに行ったりしている様子がテレビで流れていました。1週間我慢して家にいたが家にずっといられるはずがない、ストレス発散だとインタビューで答えていて、本当に頭にきたんですよ。私自身、面会禁止の中で抗がん剤治療を受けてきつい思いをしていましたし、病院には同じような思いの患者さんがたくさんいました。一部のむやみに外出している人たちをみて、なんてわがままなんだろうとも思いました。

そういったなかで、私は“うちで過ごそう”という発信をして、ユーチューバーのHIKAKINさんも一緒になって活動してくれました。そのキーワードがSNSでトレンド1位になったりもしまして。そこで、病室にいても世の中につながることができるんだ、ということを強く感じました。世の中とつながっていられたのは、まぎれもなくネットの力です。私の場合はスマホのパケットを利用してですが、それこそパケットを気にせず使えるネットワークインフラとしてのWi-Fiの重要性を強く感じました。

“うちで過ごそう”という自分の発信した言葉がどんどん世の中に伝わっていくことが、逆に自分の励みになって、自分は孤独じゃないんだと、つながっているんだと。病室で一人でいるんだけれど連帯感を持つことができるのは、ネットワーク環境でつながっているからです。ネットワークにつながるためには、患者さんがいつでも自由に使えるWi-Fiが重要だと思いました。病室にWi-Fiが備わっていれば、長期で入院している患者さんの孤立を防ぐことができると感じました。

SNSでのつながり以外にもうひとつ、入院期間中に病室からテレビにオンライン出演する機会がありました。かつてはスマホを使ったテレビ中継に関しては、画像や音声が止まったり乱れたりするとたくさんのクレームが来ていました。スマホでのオンライン中継は利便性や簡便性、速報性といったメリットはありましたが、テレビ放送で使うには技術的にも高いハードルがありました。その一方で、通信の技術は進歩していきました。

そしてコロナ禍により、あらゆることをオンラインで解決していかないといけないということになって、テレビも例外ではありませんでした。当初は、外出や会う人の数と頻度を減らしてくださいとテレビで報道しているにも関わらず、テレビ局に人が集まるという矛盾がありましたが、そのうち番組の司会者やコメンテータがリモートで出演するようになりました。入院中にみていて、テレビ業界も変わってきたなと思いましたよ。そうなると、オンライン中継の画質が多少悪かろうが何だろうが、世間では認知されるようになったと思います。

この価値観の転換が何を生んだかというと、リモートを実施することが“良い”という風潮になったんです。私自身、入院中も退院後も仕事は当分できないと思っていました。そしたら、病室から出演してほしいと、今使っているパソコンでいいからと仕事の依頼が来たんです。いくつもの取材や出演依頼を、オンラインで対応しました。オンラインでつながることは、私のような病気によって外に出られない弱者を救うということなんだなと思いました。

コロナ禍の影響で、これまで自宅に引きこもっていた人、体に障害があって表に出られなかった人、あるいはなんらかの思いを抱えていて会社に行けなかった人などが、家に居ながら仕事をできる。わざわざ外出して会社に出向き仕事をすることよりも“良い”となったんですよ。自分がそういう立場に置かれて、リモート環境の普及はとても大切なことだと気付きましたし、救われたと感じました。家にいながら働けるという価値観の大変動が、ICTの発展がこういったところに寄与するんだなと痛感しましたし、自分も働くことができるという力をいただいたと思っています。

  • 笠井さん2

―#病室Wi-Fi協議会としていろんな患者さんからお話を聞く中で、Wi-Fiが使えずに困ったことや、使えてよかったという話があればお聞かせください。

協議会の方にメールやSNSで山のようにご連絡をいただいていますが、まず私たちは全国の600名のがん患者の方々にアンケートをとりました。電波環境協議会が調査をしているように、現状では全国の9割の病院が電子カルテの稼働等に用いる目的で業務用のWi-Fiを設置しています。一方で、患者さんに開放しているWi-Fiの整備率は3割程度に留まっています。その3割の病院も患者さん全員に開放しているわけではなくて、特別室とか個室だけで使えるというのが現状です。ですから、実質的に患者さんの数でいえば、入院中にWi-Fiを使える人は3割に満たないのです。

我々のアンケートでも、やはり3割程度の方しか病院で無料Wi-Fiを使えていないということが分かりました。病室でWi-Fiを使えなかった残り7割の人にWi-Fiが使えずどうしたのかと聞くと、4割の人が我慢したと言うんですよ。誰とも会えず孤独なのに。家族に対して入院費で負担をかけているのに、パケットを追加してほしいとかポケットWi-Fiを契約してほしいとか、とても頼めないと我慢しているんです。

あるお母さんは、今学校の連絡網はLINEを利用しているそうなのですが、自分が入院していて子どもたちのラインの連絡が途絶えてはいけないので、なるべくパケットを使わないようにしているということでした。また、小児病棟では、これまでは24時間面会できていたのがコロナの影響で面会時間が制限されてしまい、子どもたちは孤独なわけですよね。そんななかで看護師さんたちが食事を与えているのですが、親御さんたちは、これまでのように食事の様子や面倒をみることができず、本当に食べているのかな、とすごく心配になっているんです。これがWi-Fiがつながっていると、目の前にタブレットを置いて子どもが食べている様子をずっとみていられます。おしゃべりをしながら、画面越しにお互いの様子が分かります。

Wi-Fiがつながる、つながらないという差は、とても大きいと思います。病院と自宅で離ればなれになっていても、一緒の空間で過ごしているような感じになれる……Wi-Fiがつながっていればそのようなことが実現できます。病室に患者さん用のWi-Fiが無かったら、患者さんは24時間の通信量を負担しないといけません。総額いくらになるか分からないですよ。これは入院してから、初めて実感することだと思います。

あと、入院中の子どもの心の支えも大切です。YouTubeでアニメをみたい、お笑いをみたい、ユーチューバーをみたい、それが子どもたちの助けになっています。テレビを見ればいいじゃないかと言われるかもしれませんが、病院ではテレビをみるにもカードを購入しないといけません。

産婦人科では、子どもが生まれて誰もお見舞いに来られない状況下で、お母さんが孤独を感じています。産まれてきた赤ちゃんを家族の誰にも見せてあげられないのは辛いと思います。Wi-Fiが整備してある産婦人科では、前述の小児病棟と同じくスマホやタブレットで家族とつながり、赤ちゃんが生まれてきた喜びを家族で共有できます。Wi-Fiの有無で、患者さんの環境は全然違うものになります。実際に入院して体験してみないと気付かない、なかなか実感できない辛さ、有難さなんです。

(後編に続く)

7月30日(金)15:30~開催
笠井さんも登場するWi-Fi導入支援ウェビナーについてのお知らせ

『補助金でWi-Fi整備! 患者様向けWi-Fi導入支援セミナー』
登壇者:#病室Wi-Fi協議会 フリーアナウンサー 笠井 信輔さん ほか

▼申込フォームはこちら
https://www.furunosystems.co.jp/special/medical_webinar/


◇#病室Wi-Fi協議会の情報はこちら
https://wifi4all.jpn.org/hospital/index.php

◇フルノシステムズの病室向けWi-Fi専用ページはこちら
https://www.furunosystems.co.jp/channel/medicalwifi/

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