Infineon Technologies AGは、現在では世界No.1の自動車向け半導体メーカーのポジションにある。2020年度で言えば市場規模350億ドルのうち13.2%を占めており、センサーではBoschに次ぐ2位、MCUではルネサスとNXPに次ぐ3位、パワー半導体では1位のポジションにある*。元々Infineonは生い立ちからパワー半導体廻りやセンサーに強いメーカーではあったが、2020年のCypress買収によって旧Spansionの車載向けFlashや(その元は旧富士通の)車載向けMCU、さらにCypressのPSoC MCUやUSB/Wirelessなどのラインアップを手に入れた形になり、現在では自動車向けにも幅広い製品ポートフォリオを提供できる状況になっている。
*出典: Strategy Analytics 「Automotive Semiconductor Vendor Market Shares」2021年4月
コアレス電流センサー「TLE4971」
そのInfineonが今回投入するのが、ホール素子を利用したコアレス電流センサーであるTLE4971ファミリーである。インフィニオン テクノロジーズ ジャパン株式会社のオートモーティブ事業本部でヴィークル モーション担当シニア マーケティング エンジニアを務める菅原 一誠(すがはら・いっせい)氏 に、その詳細を解説してもらった。
ご存じの通り昨今の車には(HV/HEVなどとはまた別に)多数のモータが搭載されており、しかも省電力化の流れでDCブラシモータからBLDC(DCブラシレス)モータに移行しつつある。ところがBLDCモータはギアが噛んだなどの理由で急停止してしまうと、大電流が流れる恐れがある。もちろんBLDCモータのコントローラは通常停止用の保護回路を備えているが、急停止の場合には制御が間に合わない場合があるのだ。こうしたケースでは素早く電流を遮断しないと、火災の発生などに繋がる危険性がある。同様のことはバッテリーの保護回路にも言える。最近は途上国向けに電動バイクなども増えてきたが、こうしたものにも過充電/過放電防止回路は当然必要である。もちろん高価な4輪のEV/HEVには当然のように装備されているが、安価な2輪向けなどにはまだ十分でないことも多い。
メリットは大きく3つ
TLE4971はこうした用途に向けた、25A~120Aのレンジの電流値測定が可能なセンサーである。元々は2019年に産業機器向けにTLI4971としてラインナップされた製品のAutomotive Grade版という位置づけになる。このTLE4971の最大の特徴はホール素子を利用しての電流測定を行っていることである。これによるメリットは大きく3つある。
(1)非接触かつコアレスにより小型・軽量かつ低発熱、簡単マウント
従来、電流測定といえば電流経路にシャント抵抗を挟んでの電圧降下測定、あるいは電流経路を囲むように磁気コアを配し、電流に応じて発生する磁場から電流値に比例する生成電圧を測定する方法が一般的であるが、前者は電流値が増えると発熱も大きいし、また電流回路と測定回路の絶縁を行う必要があるから色々面倒である。一方後者は磁気コアそのものが結構な体積と重量になるうえ、磁気コアの中心を通るように電流経路を通す必要があるから、どうしてもパッケージの大型化は避けられない。
これに対してTLE4971は電流経路を挟み込むように2つのホール素子を配し、ここから電流値を測定する方法なので、電流経路と測定回路が1つのパッケージに収まり、それ以外のシャント抵抗や磁気コアの必要がない。そのためパッケージも小型化できるし、軽量である。
発熱要因も電流経路を繋ぐ内部配線の配線抵抗(225μΩ)だけなので、圧倒的に低発熱である。実装も簡単で、電流経路を一カ所カットして、そこにTLE4971を実装するだけである。
(2)ホール素子利用による優れた特性
電流センサーの目的は、動作電流の測定そのものというニーズももちろんあるが、同じくらいに過電流検出のニーズが高い。このためには、閾値を超えたら直ちにこれを検知できる必要がある。
TLE4971は、Step応答で90%到達まで3.3μs、100%到達まで6μsと極めて短い応答時間(実測値)を特徴としており、これは利用するホール素子の優れた特性に起因する部分である。電流値そのものはアナログ回路の帯域幅210KHz(Typ) のアナログ出力となっているが、これもデジタル出力にするとI2CやSPIでも間に合わない(サンプリング速度よりも出力バスがネックになる)という事情による。
加えて過電流検知機能を内部に搭載しているのも特徴で、こちらは電流値の測定よりもさらに高速な1.5μsでの検出が可能である。この過電流検出の出力は、設定閾値の参照とコンパレータのみを経由して出力されるので、最小限のレイテンシで過電流対処が可能となっている。従来だとこうした機能は外部に検出回路を用意する必要があったが、TLE4971ではOCD1/2というピン出力を電流遮断回路に直接接続できるので、BOMコストや実装面積削減にも効果がある。
もう一つの特徴は、TLE4971は測定する電源ラインを挟み込むように2つのホール素子を配して、この差分を取る形で測定を行う仕組みを取っていることだ。
これにより、測定対象以外の配線の影響は、差分の段階で消えることになる。要するにシールド等を別途用意する必要もなく、目的の配線の電流だけを正しく測定できる仕組みになっているわけだ。
(3)プログラマブルでキャリブレーションも容易
過電流検知の閾値や内部のゲイン設定は、TLE4971内部のEEPROMに格納されて参照される形になっているが、これはユーザーからカスタマイズすることが可能である。工場出荷時にはある程度ニーズに合わせた初期設定が格納されているが、用途に応じてこれを変更することで、実際の利用シーンに合わせた測定が可能になっている。
またキャリブレーションが容易なのも特徴である。出力そのものは、例えば120Aフルスケールなら出力電圧は10mV/A、25Aフルスケールなら48mV/Aで、Voq~Voq±1.2Vまでの範囲で直線的に変化する形であるが、この出力精度は25℃、0Hrの場合に2.25%(感度誤差2%+オフセット0.25%)とされる。設計の際には経年変化も加味する必要があるため3.45%(全Life Timeにおける誤差)を利用する必要があるが、これはキャリブレーション無しの数値であり、キャリブレーションを施すことでより精度を上げることができる。
ここで磁気コアを使った測定方法だと、磁気コアのヒステリシス特性を考慮する必要があるのでキャリブレーションが非常に面倒になるのだが、TLE4971は直線的に変化するので、電流が0に近い時とほぼフルスケールの2点で測定を行い、これを基にキャリブレーションを行うだけで精度をさらに引き上げることができる。また、オフセットおよび感度に関しては温度変動やストレスに起因する誤差が生じるが、TLE4971は内部に温度センサーとストレスセンサーを搭載しており、これを利用して誤差の補正が可能となっている点も高精度測定の一助となる。
なお、電流値の出力に関しては、Single-ended/Fully-Differential/Semi-differentialの3種類が選択可能で、ユーザーのニーズに合わせて選べるようになっている点も便利だ。
電流監視を安価かつ高精度に
冒頭にも書いたが、TLE4971は120Aまでの範囲の電流測定に特化した製品である。この120Aという制限は、パッケージの熱容量に起因する。配線抵抗は225μΩと低いが、それでも120Aを流し続けるとそれなりに発熱が大きくなる。実はこれを超える電流の測定に向けては別の製品(ホール素子を別体式とすることで、パッケージの熱容量の問題から解放する構成)が用意される予定だ。TLE4971はその下のグレードにあたり、120Aまでの電流監視を安価かつ高精度に行うためのソリューションとして、4輪車内の広い範囲のモータ制御や電動バイクなどに幅広く利用可能な製品となる。同社ではこれとは別に特定用途(例えばLi-Ionバッテリーのセル監視や充放電管理)向けソリューションも豊富に用意されており、これらと組み合わせることで包括的な電流監視システムが効率的に構築できるであろう。
[PR]提供:インフィニオン テクノロジーズ ジャパン