近年の製造業界は従来の大量生産だけでは顧客ニーズに対応しきれなくなっており、企業規模を問わず、マス・カスタマイゼーションの実現に向けた製造プロセスの革新が求められている。そうした中で、Formlabsは6月1日にレーザー焼結(SLS)方式の3Dプリンタ「Fuse 1」を日本国内で発売した。同社はこれまで「Form 3」をはじめとした光造形(SLA)方式の3Dプリンタを主力として展開してきたが、「Fuse 1」は、どのような市場に向けた製品なのだろうか。製造業のニーズをふまえつつ、探っていこう。

  • 「Fuse 1」製品写真

光造形(SLA)方式とレーザー焼結(SLS)方式の違い

そもそもSLA方式は、紫外線(UV)を当てると硬化するUV硬化性樹脂(レジン)に対し、UVを照射することで一層ずつ物体を形作っていく造形技術だ。SLA方式を採用したFormlabsの「Form 3」や「Form 3L」は25~300ミクロンの積層ピッチを実現しており、高精細な出力が大きな特徴となっている。ただし、SLA方式の3Dプリンタで使用するレジンはエンドユースを前提とした素材とは言い切れないため、用途としては主にエンジニア、デザイナー、製造業におけるプロトタイピングで、本格的な生産にはあまり使用されていない。

一方でSLS方式は、レーザーを照射してナイロン粉体(パウダー)を加熱することで融合(焼結)させ、それを積層させることで立体物を造形する。⾼品質な熱可塑性プラスチックとして実績のあるナイロンを使用できるため、従来の製造⽅法で作られたものと同等の機械的特性を実現し、試作品のみならず最終製品としても安心して製造できる。素材のコスト面では、ナイロン粉体はレジンと比較すると安価で、さらに粉末を加熱するという仕組みであるため、余ったナイロンパウダーは再利用できるのだ。

また、SLA方式の高精細な出力には劣るものの、パーツは周囲の粉体に支えられているため、サポート材(支持材)の必要なく自由なデザインが行える。プリント速度も速く、多くの部品を緊密に配置できるため、造形エリアを最大限に活用すれば、大量生産も可能だ。

光造形(SLA) レーザー焼結(SLS)
  • 素材はUV硬化性樹脂(レジン)
  • UVを照射し硬化させる造形技術
  • 複雑な形状であっても精度の高い一体成形が行える
  • 主な用途はプロトタイピング
  • 素材はナイロン粉体(パウダー)で、コストが安価
  • ナイロン粉体(パウダー)を加熱し焼結させる造形技術
  • 大量生産が可能
  • 耐久性に優れ、最終製品として販売できる

マス・カスタマイゼーションに求められる3Dプリンタとは

いまや消費者のニーズが多様化し、従来のような大量生産だけでは顧客の要望に応えることが難しくなっている。こうした背景から生まれたのが、マスプロダクション(大量生産)とカスタマイゼーション(特注生産)をかけ合わせた「マス・カスタマイゼーション」という発想だ。この発想自体はすでに30年ほど前からあり、PCメーカーのBTO、スポーツ用品メーカーのカスタムシューズなどがその代表例といえる。海外に工場を構えるなどのタフな製造プロセスで、これまでは大手企業が中心となってマス・カスタマイゼーションを実現してきた。

企業規模を問わず、新しいものづくりの在り方が求められる中で、3Dプリンタを用いてこのマス・カスタマイゼーションをさらに革新していこうという動きがある。これを実現する手段として注目を集めているのが、SLS方式などの3Dプリンタなのだ。耐久性が高く、素材コストも安価なため、大量生産に向いており、比較的自由な造形が可能といったSLS方式の特徴は、マス・カスタマイゼーションの実現にうってつけだと言える。

ただし、SLS方式の3Dプリンタは本体価格が高く、ある程度規模が大きい企業でなければ導入が難しい。さらに造形後の後処理やナイロンパウダーの回収には別途設備が必要となるため、取り扱いには専門知識が求められ、設置には必然的に大規模な施設が求められることになり、多大な初期投資を必要としていることが課題だった。

こうしたSLS方式の課題改善に取り組んだのが、Formlabsの「Fuse 1」だ。

Formlabs「Fuse 1」のエコシステム

「Fuse 1」はSLS方式の3Dプリンタで、ナイロン製品の⽣産をすぐに開始できるコンパクトな製造システムを目指して開発された。最大の特長は、造形物やナイロンパウダーの後処理を行う専用のパウダー回収ステーション「Fuse Sift」だ。これによって造形準備から後処理、ナイロンパウダーの再利用までを一気通貫で実現できる。

  • 左:「Fuse 1」、右:「Fuse Sift」

    左:「Fuse 1」、右:「Fuse Sift」

パウダー回収ステーション「Fuse Sift」は、プリントしたパーツの安全な取り出しと仕上げ、ナイロンパウダーの回収・リサイクル、そしてパウダーの配合と保管、再利用の機能を搭載した強力な補助装置だ。一般的なSLS方式の3Dプリンタではパウダーが飛び散ることが多いが、「Fuse Sift」を利用することでパウダーが飛び散ることを防ぎ、パウダー管理が容易となる。

なお、「Fuse 1」で保証されているナイロンパウダーの未使用素材率は最低30%(Nylon 12 Powderの場合)で、つまり70%までリサイクルパウダーを使えるので、無駄なく素材を利用できる。造形物の特性は保証されないものの、30%以下の未使用素材率でも造形自体は可能なため、耐久性が求められない試作モデルなどの場合はこの方法を試してみてもいいだろう。

また、これらのすべての操作は「Fuse 1」と「Fuse Sift」のタッチスクリーンで行うことが可能。プリント操作やメンテナンスはタッチパネルに表示される手順に従えばいいので、専門知識がなくとも簡単にSLS方式の3Dプリンタを扱えるだろう。

  • 「Fuse Sift」のタッチパネルでリサイクルパウダーと未使用パウダーの配合が行える

    「Fuse Sift」のタッチパネルでリサイクルパウダーと未使用パウダーの配合が行える

SLA方式より大幅に下がる素材コスト

これまでのSLS方式の3Dプリンタの概念をひっくり返す「Fuse 1」だが、コスト面でのメリットも非常に大きい。導入時にはシステム全体で430~450万円ほどと、SLA方式と比べると初期費用はかかるものの、そのあとのプリント費用を抑えることができるので短期間に投資回収が可能だ。

製作サンプル

たとえば、右の写真のようなサンプルを製作するケースで比較してみよう。同社がSLA方式用に用意している「Grey Resin」は1Lで20,680円(価格は全て税込)。「Grey Resin」をパーツごとに96.79ml、34.14ml分使用し、計130.93mlで作るとなると、2,708円が素材コストになる。しかも、サポート材として使った素材は捨てることになる。

一方、SLS方式用の「Nylon 12 Powder」は75.5gで78,100円。これを56.5g(0.40kg×14%)、19g(0.15kg×13%)使用し、計75.5gで作ると、素材コストは983円となり、しかもサポート材が不要なため捨てる部分がない。素材コストを約60%削減できるわけだ。

SLA方式と同じ用途で「少数の試作品が作れればいい」のであれば高価に感じるかもしれないが、自社での生産まで見据えるのであれば、格安の設備といえるはずだ。

モノ作りの現場を変える「Fuse 1」

「Fuse 1」は従来の3Dプリンタの用途である「試作」と、製品を製造するための「生産」の間を埋める新たなソリューションとなり、マス・カスタマイゼーションの実現に向けた新しい製造プロセスを確立する存在になるだろう。将来的に自社生産を見据えている中堅・中小企業にとって、これまで手が届かなかったSLS方式の3Dプリンタ導入のハードルを下げる製品といえる。またスモールスタートが可能な点や、需要によってスケールアウトできる点は特に受託出力を事業とする企業にとってはメリットを感じやすいだろう。すでに生産設備を持っている大企業は、社内工場に導入してみるのも面白いかもしれない。

Formlabsは、未来に向けたモノづくりを行う製造業に対し「Fuse 1でモノの作り方を変えてほしい」と話す。本機の詳細を知りたい方は、ぜひFormlabsに問い合わせてみてほしい。

  • 製造サンプル

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