新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けてリモートワークの普及が進む一方、VPNを含む社内ネットワーク環境がボトルネックとなるケースが増大している。デル・テクノロジーズが実施した「中堅企業IT投資動向調査2021」によると、本年度のIT投資でネットワーク環境の刷新や見直しを検討・計画している企業は40.1%(昨年対比11%増加)に上った。

そこで4月22日に開催されたオンラインイベント「中堅企業異業種交流会2021 春」では、直近の課題として注目の集まっているネットワークをテーマに、基調講演およびユーザー企業によるパネルディスカッション、参加者による情報交流会が行われた。

基調講演では、デル・テクノロジーズ 上席執行役員 広域営業統括本部長 瀧谷 貴行氏と広域営業統括本部 西日本営業部長 木村 佳博氏が、中堅企業IT投資動向調査2021の結果について考察。コロナ禍が世界経済や各企業経営に打撃を与えるなか、DXの推進が業績回復の一手となっている状況を説明した。また、ヴイエムウェア ネットワーク&セキュリティ技術統括部 統括部長 大平 伸一氏は、2020年に発表となった同社のプラットフォーム「VMware SASE(Secure Access Service Edge)」について紹介した。

そして、パネルディスカッションでは、中堅企業のネットワークに関する課題と対策について、3名の情報システム部門担当者が自社の状況を事例に語った。 本稿では、このパネルディスカッションの様子をお届けする。

アクセス集中、セキュリティ、アプリの多様化……在宅勤務体制ならではの課題

パネルディスカッションに登壇したのは、不動産鑑定を手掛ける大和不動産鑑定の久野 貴史氏、臨床検査薬メーカーのシノテスト 芦田 久氏、BIツールなどを提供するウイングア―ク1stの行本 年延氏。3名とも各社で情報システム部門を担当する。それぞれ業界の異なる事業会社において、どのような課題がコロナ禍によって浮き彫りになったのだろうか。

ウイングアーク1stでは、コロナ禍以前から2020年の夏には通常通りの出社、勤務が難しくなることを想定し、2020年の夏に合わせて、全社在宅勤務に向けた体制整備を情報システム部門主導で進めていたが、2020年2月26日に同社CFOより原則在宅勤務指示が発令された際には準備が間に合っておらず、行本氏は「全社就業人口750名が同時接続できるVPN環境・回線をどう整備するか」、「安定的で高速な接続環境を750名の自宅にどう準備するか」、「顧客向けの資料印刷や受領資料の破棄方法など紙媒体のセキュリティをどう確保するか」というVPN・回線・自宅ネットワーク・セキュリティの4つが主な課題だったと整理した。

  • ウイングア―ク1st株式会社
    行本 年延氏

一方、約20年前からビデオ会議システムを導入し、12年ほど前から段階的にVDI導入を進めてきたシノテストでは、「テレワークへの移行は比較的スムーズだった」と芦田氏は振り返る。ただ、コミュニケーションの手段に問題が発生したという。

「既存の社内ビデオ会議システムは個人で使うことを想定したものではなかった。VDI環境でWeb会議を行ううえで、Zoom、Webex、Teamsなど対外的に使われるオンライン会議ツールが変化していく状況にどう対応するかが今の課題」と語った。

  • 株式会社シノテスト
    芦田 久氏

大和不動産鑑定でも、2020年6月に向けて、Microsoft 365の導入やリモートアクセス環境の整備など在宅勤務の体制を整えているところだったが、1度目の緊急事態宣言後に在宅勤務への移行が経営層から提案されたことにより、2020年3月に前倒しで全社展開することになったという。しかしながら、「ハブ&スポーク型ネットワークを採用していたので、アクセスが集中し遅延が発生した」と、久野氏は当時の課題について紹介する。

  • 大和不動産鑑定株式会社
    久野 貴史氏

各社が講じた対応策とは

それぞれの企業は、顕在化した課題に対してどのような対策を講じただろうか。

行本氏は、あくまで応急処置的な対策であると前置きしたうえで、VPNに関しては、ベンダーとデータセンターに交渉し、回線の増設、デモ機の設置および本番機への移行を行ったことについて紹介した。回線に関しては、実際の通信量のデータをもとに試算を行い「社員1人あたり2日に1回遅いと感じる」程度を最低条件として設計したという。

また、トラフィックを分析したところ、宛先別平均通信量は、ほとんどの職種・職位でMicrosoft 365などの社外システム、Zoomの順に高くなっていることがわかった。行本氏は「職位・職種による違いを分析して状況がわかれば、ローカルブレイクアウトを含めさまざまな施策を考えることができる」とその意義について説明する。

さらに、自宅ネットワークに関しては、通信会社と提携し、光回線の初期工事費の会社負担と、社用端末によるテザリングの実質無制限化を実施。セキュリティは、まず紙媒体の扱いに着目し、出力から廃棄までのライフサイクルマネジメントを見直した。具体的には、コンビニなどで印刷できるネットワークプリントサービスと、機密文書をまるごと回収・溶解できるリサイクルサービスを導入したという。

オンライン会議ツールなど体外的なコミュニケーションに利用するアプリが変化していく状況への対応を課題にあげていた芦田氏は、「クラウドアプリに応じてシステムを変える必要があり、従来の管理手法では対応が不可能。ローカルブレイクアウトも1つの解決策だが、日々利用されるアプリが変わっていくなかで、動的にネットワークの仕組みを変化することが求められるようになるのでは」と、柔軟性の高い設計を実現することの重要度を訴えた。

アクセス遅延を課題にあげていた久野氏は、VeloCloudを導入し、Microsoft 365に対してローカルブレイクアウトを設定したこと、Horizon Cloudにより、AzureでVDI環境を構築したことを紹介し、「突貫工事的なところもあり、物理PCから仮想マシンへの移行の手間がかかると考えたため、まずはリモートデスクトップを実現できるだけの環境の整備を提案。現状では約1/3の環境をAzure上に展開している」と語った。

これからの企業ネットワークはどうあるべきか

パネルディスカッションの最後に、企業ネットワークの将来的なあるべき姿へと話題が移る。

久野氏は、あくまで個人の考えと前置きしたうえで、「不動産鑑定評価書という紙媒体を扱うことが多くそのチェック等が大変だったため、このペーパーレス化を進めていきたい」と展望する。ただし、紙媒体がデータ化されることでネットワークに負荷がかかるため、通信量の増加を見込んだ対策が必要となる。また、5Gの普及を見据え、「ハブ&スポーク型ではファイアウォールがボトルネックになりその恩恵が受けられない。VeloCloudの多重回線のメリットを享受するために、ボトルネックが生じないネットワークの構築が求められる」と語った。

芦田氏は、「セキュリティと利便性の両立」をキーワードにあげる。特に製造業において、工場のライン作業で用いられるソフトウェアは10-20年という長期スパンで利用されることが前提という独特の難しさがある。こうした現状を踏まえて芦田氏は、対外的なソリューションに関しては柔軟に対応していきたい考えを示した。

行本氏は、ネットワーク構造の抜本的見直しを今後の課題としてあげ「旧世代型のハブ&スポーク型ネットワークの安定という性質は維持したまま、状況変動型ネットワークという新世代型のインフラにどう移行するかを、技術だけでなく制度設計までふくめて検討していきたい」とした。また、在宅勤務前提のセキュリティを考えていく必要性についても言及。「これまでは社員がオフィスにいることを前提とした物理的なセキュリティに頼ってきた。しかし、アクセスがオフィスを超えて広がり続けるなか、セキュリティは今後、非常に大きくかつ差し迫ったテーマとなっていく」と語った。

最後に、次世代型のネットワークと、セキュリティの課題にアプローチする最新技術として、キャリア毎の回線を含むネットワークの回線状況と使用しているアプリケーションを可視化してコントロールできるSD-WANのソリューションについて、ヴイエムウェア大平氏がデモを交えて紹介した。

コロナ禍だからこそ積極的な情報交換を

第二部では、パネルディスカッションに登壇した3社と様々な業種の参加企業を交えた異業種交流会が開催された。そこでは、コロナ禍で直面した各社の課題や対策に関する生の声を聴くことができた。コロナ禍で急遽在宅勤務できるようにすることを迫られたときに、予算も十分に無い中でどのように動いたかということや、在宅勤務の生産性の実態、また、ビジネスへの影響をどう最小化したかなど、各社知恵を絞って実施してきた方策について、活発な意見交換が行われた。 参加者からは「他社のコロナ渦における課題や対応が聞けて、共感できることや参考にできることが多かった」、「非常に近しい事例などあり大変参考になった。まだやれることがあったと気づかされた」など、好評の声も多くあった。

コロナ禍を受け、リアルでの情報交流の場が大きく減る一方で、情報の重要性は増している。同業種間だけでなく、異業種での情報交換が新規アイデアとなるケースも多数生まれている。「中堅企業異業種交流会」は今後も定期的に開催される予定だ。ぜひ積極的に参加してみてほしい。

[PR]提供:デル・テクノロジーズ