東京電力パワーグリッド株式会社は、東京電力グループにおいて送配電事業を担っており、電気の効率的な安定供給に日々取り組んでいる。そんな同社が推し進めているのが、遠隔での自動検針などを可能にするスマートメーターの全利用者への設置である。3,000万台近く配備されるスマートメーターと、それらを管理するシステム「MDMS」を東京電力パワーグリッドはいかにして構築したのだろうか?
世界的にも特筆すべき大規模なスマートメーター基盤
生活に不可欠な電気やエネルギーの安定供給を使命とする東京電力グループにおいて、生命線ともいえる送配電事業を担う東京電力パワーグリッド株式会社。東京電力グループは2016年4月1日の電力小売全面自由化を機にホールディングカンパニー制へと移行しており、それに伴い設立された同社では、その膨大なインフラをしっかりとメンテナンスしながら、電気の安定供給をより効率的に行うことに日々注力している。
そのような東京電力パワーグリッドが業務の効率化と顧客サービス向上のために進める取り組みの一つが、営業エリア内の全利用者へのスマートメーターの設置だ。スマートメーターとは、使用電力量を確認する検針業務の自動化や、電気使用状況の見える化を可能にする電力メーターのことで、東京電力グループでは既に3,000万台近くを各利用者宅などに設置している。
従来の電力メーターでは、電気料金を確定するために検針員がすべての利用者宅を訪問し、電気使用量を確認する必要がある。近年はオートロックのマンションや敷地への出入りに対するセキュリティが強化された戸建住宅が増加していることから、検針業務の負担が大きくなっていた。また入転居時や契約容量の変更時には利用者の立ち会いが必要になるなど、効率化だけでなく顧客満足度の観点からも課題となっていた。
こうした背景から、遠隔での自動検針などを可能にするスマートメーターの設置が検討され、そのシステムの運用管理を担う「MDMS」(Meter Data Management System)と呼ばれる基盤の開発も2013年5月にスタートしたのだった。MDMSはスマートメーターの検針データを収集する通信システムと、電気料金を計算する料金システム等の間に位置し、複数のシステムと緊密に連携してスマートメーターシステムを構成している。
MDMS自体の機能は大きく3つからなる。まず1つめは、検針値を蓄積して常に利用できるようにするMDM(メーターデータマネジメント)機能。2つめは、設備情報を管理するMAM(メーターアセットマネジメント)機能。そして3つめが、ネットワークを管理するNM(ネットワークマネジメント)機能だ。
東京電力パワーグリッド スマートメーター推進室 室長である藤木武博氏はこう話す。「電力自由化から5年が経過しようとしており、お客様の間でも自由化がだいぶ定着したという感を抱いています。自由化に伴い小売業者に対して電力の確定値を渡すというニーズが生まれ、そのためにもスマートメーターの設置が求められることになりました。また、スマートメーターはお客様の利用状況を30分値で細かくデータを見られるため、節電の工夫も可能になっています」(藤木氏)
世界的にも特筆すべき規模のスマートメーターシステムにおいて、その肝となる大量のデータを処理して他システムと連携するMDMS。その開発のパートナーとなったのが、NTTデータである。本システムの開発においては、NTTデータが培ってきたシステム横断的なプロジェクトマネジメント力が大きな強みを発揮している。
「当社のMDMSは、極めて大規模なシステムであり、かつお客様の検針値を基に料金を請求する業務に密接に関連する重要なシステムでもあります。そのためNTTデータならではの、大規模な基幹系システムの豊富な開発実績、そうした経験・ノウハウが生かされた開発体制やプロジェクトマネジメント力を評価しました」(藤木氏)
NTTデータ ユーティリティ事業部 第一統括部 開発担当 部長の牛尾悠介氏はこう振り返る。「MDMSの開発プロジェクトが発足した2013年当時、これだけ大規模な自動検針のためのシステムは国内には存在しませんでした。ローンチまでの期間を考慮して、最初は海外で実績のある国際標準に準拠したパッケージシステムの導入を提案させていただきました」(牛尾氏)
規模の拡大に伴いパッケージからスクラッチ開発へ
パッケージを中心に構成したMDMSのシステム構築は予定通りに進み、2015年2月にサービスを開始した。MDMSが順調に稼働を続けていたが、スマートメーターの利用件数も増え続けていく中で、さまざまな課題が生じるようになっていった。また、データ数に基づいた利用契約だったこともあり、1,000万台規模となってくると運用保守コストも含め割高になっていたのだ。
NTTデータ ユーティリティ事業部 第一統括部の統括部長 富山雄祐氏はこう話す。「どんどんスマートメーター化が進んでいく中でMDMSの重要度も上がり続けていきました。そうなるとトラブル発生時の対応スピードが大事になってくるため、システムの“中身”がわかり、自由度も上がるオープンソフトウェアをベースとしたスクラッチ開発へ移行することを提案させていただきました」(富山氏)
NTTデータは、初期構築においては確実にローンチするために実績を重視してパッケージシステムを採用していたが、東京電力パワーグリッドが抱える課題にともに取り組む中で、その最適解として、スクラッチ開発を提案したのだ。2021年2月がパッケージシステムのハードウェアとソフトウェアの利用契約期限であり、それよりも前の2020年9月にオープンソフトウェアを活用したシステムへと切り替えるべく開発を進めていった。
東京電力パワーグリッド システムグループ マネージャー 御代川啓明氏は言う。「その方向性を決めたのが2018年の9月頃であり、翌10月にはオープンソフトウェアをベースとしたシステムの開発に着手し、そこから約2年間かけて私のグループを中心に入れ替え作業を進めてきました。MDMSには30分ごとに膨大な数のスマートメーターから新たなデータが送られてきますので、予備時間も考慮して10分程度で処理が完了するようNTTデータに注力してもらいました」(御代川氏)
富山氏もこう続ける。「本格的な開発に着手するまでに実機で検証して、東京電力パワーグリッド様に“これで行けます”と示すことで、早い段階で目線を合わすようにしました。やはり電力というのは社会インフラですので、最初のシステムと同じ処理結果になるかの確認や、運用性が大きく変わっていないか検証するための期間を長めにとったのが開発のポイントでした。東京電力パワーグリッド様と密にコミュニケーションをとりながら、新旧システムの同一性の確認を進めていきました」(富山氏)
スマートメーターの新たな可能性を創出していく
新システムへの移行が完了した2020年9月から、これまでMDMSは安定して稼働し続けているという。
「安定しているのももちろんですが、予定通りにシステムを入れ替えることができたのもNTTデータの力によるところが大きいと感謝しています。新しいMDMSはスクラッチ開発なので、たとえばビッグデータ活用など、今後の機能追加のニーズなどにも柔軟に対応できることを期待しています」と御代川氏は言う。
そして最後に藤木氏は次のように展望を語った。「現在、電力の30分値をさまざまな社会問題の解決に活用できないかと、各種サービスを提供している複数の企業や地方自治体、そして国と提携して取り組んでいます。30分値と他のデータを掛け合わせることで、さらなる価値を創出できると期待しています。MDMSを基盤にしながら、スマートメーターの新しい可能性を切り拓いていきたいですね」(藤木氏)
■お客様プロフィール
東京電力パワーグリッド株式会社
東京電力グループにおいて、送配電事業を担う東京電力パワーグリッド株式会社。東京電力グループは2016年4月1日からホールディングカンパニー制へと移行しており、それに伴い東京電力パワーグリッド株式会社が設立。首都圏を中心に電気の安定供給を担う。年間停電回数は0.07回/年(2014年度)、停電時間は4分/年(2014年度)と、世界トップクラスの安定性を誇る。
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