デジタルトランスフォーメーション(DX)が推進され、ビジネスや社会のデジタル化が加速している現在、5G(第5世代移動通信システム)の導入を軸に、ネットワークインフラのさらなる高度化・強靱化に取り組む企業が増えてきている。2021年4月21日に開催されたWebセミナー「5G時代の通信インフラにイノベーションを ~総務省と先進企業のキーパーソンが語るネットワーク新戦略~」では、“Beyond 5G”をテーマとした総務省の基調講演を皮切りに、NTTドコモをはじめ通信業界をリードする企業のキーマンが登壇した。

本稿では、総務省 総合通信基盤局電波部電波政策課 企画官 柳迫 泰宏氏による基調講演と、株式会社NTTドコモ 無線アクセスネットワーク部 無線アクセスネットワーク部長 平本 義貴氏の特別講演を中心にレポートしていく。

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Society 5.0時代に向けたデジタル変革のカギを握る“Beyond 5G”の重要性

基調講演では、総務省から柳迫 泰宏氏が登壇。「Beyond 5G推進戦略 ― 6Gへのロードマップ ―」と題し、総務省を中心に産学官の連携で取り組まれている“Beyond 5G”、いわゆる「6G」の推進戦略について語られた。

「国際競争力の強化を図るためには、Beyond 5Gの早期かつ円滑な導入と、国内企業による国際的なプレゼンスの確保が必要となります」(柳迫氏)

  • 総務省
    総合通信基盤局電波部電波政策課
    企画官
    柳迫 泰宏氏

総務省では、2020年6月に「Beyond 5G推進戦略― 6Gへのロードマップ ―」を公表し、現在は戦略の実施フェーズにあるという。

「社会全体でのデジタル変革のカギを握るのは、IoTやAI、それらの技術を支える情報通信インフラである5Gや、その先にあるBeyond 5Gといえます。具体的なデジタル変革のイメージは、医療分野での『遠隔治療』や農業分野での『自動オペレーション』、さらに防災・減災における『災害時のリアルタイムの状況把握や災害対応の最適化』などさまざま。こうしたデジタル社会を実現するためには、5GやBeyond 5Gをはじめとする情報通信インフラの整備が不可欠です」(柳迫氏)

「高速・大容量」「低遅延」「多数同時接続」を実現した5Gがもたらすもの

講演では、急速に普及が進められている5Gに至るまでの移動通信システムの進化について語られた。1979年にアナログ方式の自動車電話として導入された第1世代の移動通信システムからおよそ10年毎に進化し、30年間で第1世代の約10万倍の最大通信速度を実現していると柳迫氏。5Gの普及が進むことで、“これまで考えられなかった使い方で世の中を変えていくはず”と期待する。

また、5Gが社会から注目されるポイントとして、低遅延と多数同時接続の2つの特長を挙げる。低遅延によって、遠隔からのロボット操作や自動運転、医療機器などのリアルタイム操作・制御の実現が期待され、また、多数同時接続によって、身の回りのあらゆる機器やセンサーがインターネットに接続されて、高度なデータ収集や分析を可能にすることが期待されるという。

「4Gまではスマホ向けサービスが中心でしたが、5Gではあらゆる産業用途での大きな需要が見込まれています」(柳迫氏)

総務省では、5Gなどの技術を活用した課題解決の実現に向けた実証として「高精細・高臨場感の映像コンテンツ伝送」「工場での産業用ロボット制御」「5Gを活用した遠隔診療」「工事現場における建機の遠隔操縦」などを推進し、5Gの活用モデルを具体的に示すことで、地域課題をはじめとするさまざまな課題解決モデルの創出や、新たな市場創出に取り組んでいると話す。

さらに総務省では、5Gを含む情報通信基盤を日本全国津々浦々まで行き渡らせるべく、2019年6月に「ICTインフラ地域展開マスタープラン」を策定。5G基地局や光ファイバーの全国展開を加速するため、マスタープランの改定を進め、2020年12月には「ICTインフラ地域展開マスタープラン3.0」の策定・公表を行っている。

「現在の日本における5Gの整備は、世界最高水準を目指して急速に進められている状況です。総務省としては、世界最高水準の5Gネットワークを実現して、あらゆる分野・地域において5Gが浸透し、徹底的に使いこなせている環境を世界に先駆けて実現したいと考えています」(柳迫氏)

2024年4月時点で5Gの基盤展開率は98%の予定であり、これが実現すれば世界最高水準の5Gインフラが整備されることになるという。

製造業界をはじめ、さまざまな分野が注視する「ローカル5G」

日本における5Gサービスでは、地域や産業の個別のニーズに応じて、地域の企業や自治体などさまざまな主体がスポット的に柔軟に構築できる自営の5Gシステムである「ローカル5G」という制度が展開されている。「携帯電話事業者による5G展開が進んでいないエリアでも5Gシステムを先行して構築できる」「携帯電話事業者のサービスと比較して、他の場所の通信障害や災害などの影響を受けにくい」といった特徴を持つ。建物内や敷地内で自営の5Gネットワークを活用することができるため、建設現場での遠隔制御、工場のスマートファクトリー化、農場の自動管理、自治体による河川などのインフラの自動監視などへの活用が期待されている。講演で語られたローカル5Gの分野別導入検討比率では、製造業を中心に、官公庁・自治体、流通・食品、エンターテインメント・メディア、建設・不動産など多様な分野から注目されていることがうかがえた。

5Gの先にあるBeyond 5Gの推進で、国際的な競争力を高める

基調講演の後半では、Beyond 5Gの推進について最新の状況が解説された。2020年10月公表の「5G必須特許の保有数」では、日本全体では13.8%の保有率があり、技術そのものは世界に肩を並べると柳迫氏は解説する。その一方で、グローバル市場における基地局シェアは日本全体で1.5%に止まっており、無線機器市場における日本企業の存在感は限定的なものであることが浮き彫りになっているという。

海外の企業は、知財の取得時点からグローバル市場の展開を見据えていたが、我が国の企業は、各社が個別に開発した製品を国内市場に展開することを重視したため、国際展開につなげられなかったと考えると柳迫氏は話す。こうした経験を踏まえ、Beyond 5Gの研究開発においては、研究開発の初期段階からグローバル展開を意識し、海外パートナーとの連携による研究開発や国際標準化活動を強力に推進することが重要と分析する。

こうした状況のなか、総務省は2020年1月からBeyond 5G推進戦略を策定するための懇談会を開催。Beyond 5Gの統一的な基準や定義が定まっていなかったため、戦略策定にあたっては「2030年代に実現すべき社会を支える通信インフラの機能は何か」という観点でBeyond 5Gに求められる機能を検討し、7つの機能を導き出したと話す。

Beyond 5G推進戦略は、研究開発戦略、知財・標準化戦略、展開戦略の3つを柱として構成され、2020年からの5年間を「先行的取組フェーズ」、そこから2030年までの5年間を「取組の加速化フェーズ」と位置付けて推進していく。

柳迫氏は「Beyond 5Gの推進にあたっては、Beyond 5G推進コンソーシアムにおける産学官の連携が極めて重要になると考えています。Beyond 5Gに関心のある皆様には、ぜひ参画していただきたいと思っております」と語り、基調講演を締めくくった。

日本最大の移動体通信事業者が考える5G時代のネットワークとは

続いてのセッションでは、NTTドコモの平本 義貴氏が登壇し「5G時代のネットワーク ~ネットワークのオープン化とAI活用~」をテーマに、NTTドコモの最新の取り組みについて話が展開された。

NTTドコモでは、高速・大容量な5Gエリアの拡大を推進し、新たに5G用に割り当てられた新周波数の展開を加速させている。2023年3月末までに3万2千局、人口カバー率約70%までのエリア拡大を目指しているという。

  • 株式会社NTTドコモ
    無線アクセスネットワーク部
    無線アクセスネットワーク部長
    平本 義貴氏

平本氏は5Gの導入意義について「5G単独ではなく、IoT、AI、AR/VR、クラウドに5Gを加えた5本の柱でDXを実現し、顧客に対する新たな価値の創出や、社会課題の解決を進めていくこと」と定義すると話す。NTTドコモは5G法人向けソリューションの創出にも積極的に取り組んでおり、「ドコモ 5G オープンパートナープログラム」として、3,500社を超えるパートナーとの共創で新たなサービスの創出について検討を続けている。すでに映像伝送、XR・遠隔操作、ロボティクスなどの分野でソリューションを共創しており、順次商用化を進めているという。

オープン化を活用して、顧客のニーズに応じたネットワークを構築する

5Gの普及が加速している状況のなか、通信キャリアや企業のニーズが拡大していると平本氏は語り、いかに効率的に柔軟なネットワークを構築するかが、NTTドコモにとっての大きな課題になっていると解説する。

「高速・大容量通信を実現するためには帯域幅が重要となり、28GHz(400MHz幅)や4.5GHz/3.7GHz(100MHz幅)といった新しい周波数帯を使う必要があります。その一方で、これらの高い周波数には『電波が届きづらい』という特性があり、この周波数帯を用いて面的にネットワークを構築すると基地局の数が増加し、投資コストが増大するといった課題も顕在化してきます」(平本氏)

投資コストを考慮しながら顧客のニーズに応えるためには、従来の周波数帯と組み合わせてネットワークを構築する必要があると平本氏。かなり複雑な構成となるため、効率的に構築・運用していくための手法が求められると課題を口にする。平本氏は、こうした課題を解決する手法として「ネットワークのオープン化・仮想化」と「AIによるネットワーク最適化」の2つを挙げる。

「ネットワークのオープン化では『親局・子局間インタフェースのオープン化』と『親局装置内インタフェースのオープン化(仮想化適用)』という2つの観点から取り組んでいます。前者は異なるベンダーの製品を接続することを可能にし、後者はソフトウェアとハードウェアの分離を実現します」(平本氏)

これら2つのオープン化を実現するため、NTTドコモはAT&TやChina Mobile、Deutsche Telecom、Orangeなどグローバルなキャリアと連携し、2018年2月にO-RANアライアンスという団体を設立。「装置間インタフェースのオープン化」「基地局装置への仮想化適用」「無線アクセスネットワークのインテリジェント化」を目的として活動を続けている。

「従来からのクローズドインタフェースでは、同一ベンダー製品の組み合わせにしか対応できませんでしたが、装置間インタフェースをオープン化すれば、最適な製品を組み合わせることで顧客のニーズに応えるネットワークを構築できるようになります。また、基地局装置の仮想化は、『通信混雑時のつながりやすさ向上』『通信サービスの信頼性向上』『サービスの早期提供』『コストの削減やメンテナンスの効率化などネットワーク設備の経済性向上』といったメリットをもたらします」(平本氏)

AIを用いたネットワークの最適化と、エリア最適化業務の自動化

O-RANアライアンスでは、無線アクセスネットワーク(RAN)のインテリジェント化構想も進められている。具体的には、「AI/機械学習を活用したRANの自動化・性能向上」「AI/ビッグデータを活用した無線リリース制御の高度化」などが検討されているという。

「移動通信ネットワークの標準仕様となる3GPPにおいても『SON』という形で自動化が進められていますが、こちらはあくまでもデータ収集に関する規定がメインです。O-RANアライアンスでは、3GPPを補完する形で、AIを活用した自動化のためのアーキテクチャを規定する検討が進められています」(平本氏)

NTTドコモでは、O-RANにおける「AIによるネットワーク最適化」と併行して、現在の業務にAIを活用するための取り組みも進めている。

「2020年3月から、エリクソン・ジャパンと共同で開発したAIをエリア最適化業務に導入しています。『データ分析』→『問題抽出』→『要因分析』→『対策立案・実行』といった、これまで人の手で行ってきたノウハウをAIに移植することで、エリア最適化業務の効率化・自動化を目指しています」(平本氏)

平本氏は、高度化を続けるネットワークを効率的に構築・運用しながら5G時代のさまざまなニーズに応えることが携帯電話事業者の課題であり、NTTドコモでは、解決のための手法としてネットワークのオープン化・仮想化およびAIによる最適化に取り組んでいるとまとめ、特別講演を終えた。

通信業界を牽引する多様な企業の取り組みからイノベーションが生まれる

今回のWebセミナーでは、この他にも株式会社ブロードバンドタワー 執行役員Cloud&SDN研究所 所⻑ 西野 大氏による「ネットワーク装置のディスアグリゲーションとオープン化の潮流」をはじめ、ヤフー株式会社 サイトオペレーション本部 インフラ技術1部 ネットワーク開発 高橋 翔氏の「ヤフーが IP Clos Network に 3rd partyトランシーバを導入・運用して学んだこと」、株式会社インターネットイニシアティブ 金田 克己氏の「データセンターネットワークのオープン化」、株式会社KADOKAWA Connected KCS部 Network&Facility課 東松 裕道氏の「コンテンツ配信ネットワークOptics完全オープン化」といった数々のセッションが展開され、最後に株式会社マクニカ 技術統括部の木川 拓也氏による「通信インフラの最新技術動向とマクニカの使命」の講演で締めくくられた。

5G時代の通信インフラに関する興味深い取り組みや最先端技術を知ることができ、通信業界はもちろん、5G、Beyond 5Gに関わるすべての企業・団体にとって、重要な“気づき”を与えてくれるセミナーとなっていた。

IIJ、ヤフー、KADOKAWA、ブロードバンドタワーに学ぶ。
先進4社はネットワークのオープン化で何を得たか?

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