いま日本の地方自治体においては、職員定数の削減に伴う労働力不足が深刻な課題として浮上している。新型コロナウイルス感染症の影響も重なり、自治体のさまざまな業務の共通化やデジタル化に向けた流れが加速している。NTTデータは2020年、自治体DXを推進する共同利用型プラットフォームのサービスを開始。トライアルを経て、本格導入を決定した自治体も登場している。本稿ではトライアルに参加した行方市、つくば市の声も交え、この取り組みをクローズアップする。
自治体業務の共通化やデジタル化を実現するプラットフォーム
全国の自治体には、もともと業務の共通化やデジタル化へのニーズが存在していた。しかし、同一業務でもシステムや紙書類、業務フローなどが共通化されていないため、各自治体個別での効率化に留まり自治体全体で相乗効果が出せていないのが実態だ。また、新型コロナウイルス対応において、自治体間でデジタル技術やデータの横断的な活用が十分にできていないことも浮き彫りになった。
NTTデータでは、以前からRPAツール「WinActor(ウィンアクター)」や自治体等向けAI-OCRサービス「NaNaTsu AI-OCR with DX Suite」を提供し、各自治体の業務効率化をサポートしてきた。
ただ、課題もあった。NTTデータで自治体向けRPAやAI-OCRのサービス企画を担う橘 俊也氏は、次のように話す。
「RPAやAI-OCRは、すでに多くの自治体に導入されています。ですが、業務部門で使いこなせない、IT部門による現場の管理が大変、費用対効果が出せないなどの課題で、他部署や全庁展開に繋がらないということが多くございました」(橘氏)
こうした課題を解決し、さまざまな自治体の多様な部門がRPAやAIを共同利用できる状況をめざしてNTTデータがこのほど新たにスタートしたのが、「スマート自治体プラットフォーム NaNaTsu(ななつ、以降NaNaTsu)」である。
このNaNaTsuというプラットフォームは、「WinActor」や「NaNaTsu AI-OCR with DX Suite」を環境構築不要かつ管理の手間なく利用できるようにするものだ。RPAツールを利用するには、前提として業務の自動化シナリオ作成が必要となるが、NaNaTsuのプラットフォームにはさまざまな業務フローや帳票様式などを共通化した自動化シナリオが予め用意されている。この自動化シナリオを活用することで、自治体ごとに1からの業務構築の手間をかけずにすぐに自動化ができ、自治体間を超えた業務共通化の土壌も作っていける。
また、NaNaTsuのプラットフォームはLGWAN-ASPサービスとして提供されるので、どの自治体でも同様のサービスを安全に享受することが可能。さらには「使いたいときに、使いたいだけ」の価格体系を採用しており、まずはスモールスタートしたい、特定業務の繁忙期の数カ月だけ導入したい、といった柔軟なニーズに対応できる点もポイントとなっている。同プラットフォームは2020年8月からトライアル提供を開始し、10月に商用化されている。直近ではコロナウィルスワクチン接種業務の自動化に注力している。
トライアルに参加し効果を実感した茨城県行方市 -共同利用により74%も削減-
茨城県行方市は、2020年11月から年末にかけてトライアルに参加した。その背景にあった課題について、総務部収納対策課収納グループ係長の矢畑惠市氏はこう語る。
<NaNaTsuとの出会い>
「行方市では、市税・保険料といった公金徴収業務へのスマートフォンアプリ収納サービス導入、市の産業の柱でありながら担い手不足に悩む農業分野でのロボットやドローン活用をはじめ、住民サービスにおけるICT推進に力を入れてきました。しかしながら、役所内の仕事については、デジタル化がまだほとんど進んでいないのが現状です」(矢畑氏)
以前から市の経営戦略で公金の徴収一元化を進めていたものの、そのために必要な事務の標準化がほとんど進まない状況だった。
その背景として「組織の風土が変化を望まず、現状維持をよしとする空気も少なからずありました」と矢畑氏は率直に告白する。
行方市でも人口減少に伴い市役所の人員が削減されている。2020年4月には矢畑氏が所属する収納対策課で課員が2人減り、業務を回すのが難しくなっていたという。
「税収は貴重な財源ですから、徴収率を下げないように、人が減っても業務をこなせるような工夫を必要としました。課員で知恵を出し合い、極限までの効率化に取り組んできましたが、やはり限界があります。そのとき課員がNaNaTsuのプラットフォームの記事を目にしました」(矢畑氏)
<想像を超えた効果>
まずは収納対策課が他部門に先立ち、RPAとAI-OCRの実証実験として今回のトライアルに申し込んだ。
「それまでは、基幹システムでできないことはデジタル化をあきらめ、手作業で取り組んでいました。NaNaTsuのプラットフォームを導入することでそうした業務を置き換えることができ、さらにその先に広がりも見えるのではないかと期待してスタートしました」と矢畑氏は振り返る。
同課主事の藤田彩海氏が、トライアル開始後の進め方と成果について話す。
「私が担当する口座振替業務で実験的に採用し、AI-OCRで読み取った情報をRPAで口座振替システムに自動入力する流れで進めました。RPAが動いている間、職員は別の業務を行うことができ、効率化を実感しました。手作業での時間と比較したところ、約74%も削減できました。74%という数字は想定していたよりもはるかに大きかったですね」(藤田氏)
トライアルは2020年内で終了し、2021年3月から正式導入。まずは同じ収納対策課の業務でデータ入力自動化に利用していく予定だ。ちなみに、トライアル開始前は多くの部門で様子見の空気が強かったものの、現在は人事、税務などの部門が両ツールの組み合わせによる業務効率化に興味を示しているとのことだ。
トライアル期間中のNTTデータのサポートについては、藤田氏がこう振り返る。
「市役所での設定中、基幹システムが誤作動を起こし、RPAの作業が止まってしまったことがありましたが、NTTデータの担当者がエラー原因と改善策を丁寧に説明してくれたので、その後にエラーが発生したときは私たちだけで対処できました。不明点についても技術者とテレビ通話で相談できたので、手厚くサポートしてもらえたと感じています」(藤田氏)
<自治体間共同利用への期待>
住民サービス向上をめざすうえで、行方市は今後、NaNaTsuのプラットフォームをどのように活用していきたいと考えているのだろうか。矢畑氏は次のように期待を語る。
「事務作業を効率化できれば人員が減っても住民サービスの質を維持できるので、まずは各部門への展開が第一。その上で、NaNaTsuは共同プラットフォームであり、参加するさまざまな自治体間で共同利用できるところが最も期待している点です。1対1のやり取りでなく、1対何十という枠組みの中で情報交換できるので、RPAの自動化シナリオや新たな使い方を一緒に開発していくことで、相乗効果により事務の一層の効率化とコスト削減を図れるでしょう」(矢畑氏)
自治体同士 手を携えて業務改善を -一緒に育てるプラットフォームへのつくば市の期待-
一方、茨城県つくば市は、2017年からNTTデータとRPAの共同研究を実施。2018年以降、RPAとAI-OCRをいち早く本格導入するなど、自治体DXの実現に向けて積極的に取り組んでおり、現在は23の部署で両ツールが動いているという。そして2021年2月からはNaNaTsuのプラットフォームも導入した。
つくば市はこのプラットフォームをどう活用していこうと考えているのか。同市役所で業務改善に関する推進役の立場にある総務部ワークライフバランス推進課の三輪修平氏は、次のように語る。
「全国の自治体は人口減少・人手不足など同様の課題を抱えていますし、行っている業務も基本的に共通しており、やり方が若干異なるだけです。自治体は民間企業ではないので、どこが真っ先に効率化したなどと競う必要はありません。むしろ一緒になって取り組んでいくことが、今後きわめて大事になってくるでしょう。ある部署の業務について、他の自治体がICT活用で効率化していることがわかれば、別の自治体でもその情報を参考にできます。しかも同じ基幹システムを使っている場合なら、つくば市で開発したものを提供し、反対に他自治体で作ったものをいただくなど、ギブ・アンド・テイクで業務改善を進めていくことができ、お互いが幸せになれます。そのためのプラットフォームとして、NaNaTsuはいいサービスになるのではないかと期待しています」(三輪氏)
現時点でNaNaTsuではRPAとAI-OCRの共同利用サービスを用意し、RPAの自動化シナリオやOCR帳票定義を順次提供していく予定だ。自治体DXの観点からこのプラットフォーム上で試していきたいことについて、三輪氏はこう話す。
「自治体の困りごとはRPAとAI-OCRだけで解決するものではありません。例えば電話での市民対応にはかなりの時間を要しますので、そうした業務についても今後、NaNaTsuのプラットフォーム上のソリューションで解決していければ、全国の自治体が助かると思います。NTTデータからは自治体業務のさまざまな分野で自治体と協力しながらDXを推進していくと聞いているので、今後も一緒になってプラットフォームを成長させていきたいと考えています」(三輪氏)
ちなみにつくば市では、今後本格化する新型コロナウイルスのワクチン接種に関してもAI-OCRの活用を検討しているとのことだ。
自治体と伴走する気持ちでプラットフォームを育てていく
冒頭でNTTデータの橘氏が課題として指摘したように、技術やツールを提供するだけでは活用も展開もなかなか進まない。また、RPAやAI-OCRを導入する主担当になった人は、周囲に助けてくれる人がいなくて孤独である人も多い。NaNaTsuでは、そんな孤独を解消できるよう自治体職員と伴走する思いをベースにサポートを行っていると橘氏は話す。
すでに一つの仕組みとして、参加自治体が自治体同士やNTTデータと情報交換を行えるコミュニティ機能を用意している。NaNaTsuのサービス販売を担う早川知里氏は「コミュニティを、自治体のパワーをフル活用できる場として育てていきたい。また、対話形式の支援が必要な人向けのリモートサポートも併せて提供している。こうしたさまざまな仕掛けによって自治体も当社も成長し、サービスを継続的に強化できるプラットフォームにしたいと思っています。それが“伴走する”ということです」と強調した。
NaNaTsuのこれからについて、早川氏は「最終的には、自治体ごとにちらばる業務ノウハウをプラットフォーム上で集約し、その業務ノウハウをもとにAIを活用した高度なサービスに仕立てて提供していきます。一層の業務効率化を図り、人的資源を行政サービスの更なる向上に繋げていくという自治体DXの推進をしていきたいと思います」と話す。
その“これから”は、実は自治体にとどまらず、広く社会のニーズに応えることも視野に入っている。「金融機関をはじめ多くの民間企業が自治体と同じような課題を持ち、業務にも共通化できる部分が多くあります。そうした共通部分を業界ごとにうまく捉え、さまざまなユーザーと一緒にプラットフォームを育てることで、スマートな社会づくりに貢献していきたいですね」と橘氏は締めくくった。
■お客様プロフィール
行方市
茨城県南東部、霞ヶ浦・北浦の2つの湖に挟まれた地域にある行方市は、2005年、旧行方郡の麻生町・玉造町・北浦町が合併して発足した。人口は約3万2000人。基幹産業は農業で、特産のサツマイモをはじめ、さまざまな野菜やイチゴの栽培が盛んであるほか、海には面していないものの2つの湖で漁業が行われている。
■お客様プロフィール
つくば市
茨城県南部にあり、1987年に旧筑波郡の谷田部町・大穂町・豊里町、及び旧新治郡桜村の3町1村の合併で発足。その後も周辺自治体を編入して市域を拡大した。人口は約24万6000人。北部に日本百名山の筑波山が位置する。1960年代から筑波研究学園都市としての開発が進み、現在も数多くの大学・研究機関が立地する。
- 「NaNaTsu」は日本国内における株式会社NTTデータの商標です。
- 「DX Suite」は日本国内におけるAI inside 株式会社の登録商標です。
- 「WinActor」は日本国内におけるNTTアドバンステクノロジ株式会社の登録商標です。
- その他の商品名、会社名、団体名は、各社の商標または登録商標です。
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