トヨタコネクティッドとNTTデータは2020年4月、モビリティサービスの領域において業務提携を開始した。自動車業界は技術の進化と地球環境への配慮、価値観やライフスタイルの多様化で劇的な変化にさらされている。「MaaS」や「CASE」といった新領域が注目される中、トヨタ自動車のモビリティサービス・プラットフォーム(MSPF)開発やコネクティッドカーから収集されるデータ活用を担うトヨタコネクティッドと、NTTデータがタッグを組むことで、モビリティの新ビジネス創出に取り組むことになった。両社が掲げる2025年の大目標と、新ビジネス創出に向けた取り組みの現在地に迫る。

業務提携1年未満ですでに多くのプロジェクトが始動

――トヨタコネクティッドは2020年10月に創業20周年を迎えました。このタイミングにおける両社の業務提携のきっかけと、めざすところを教えてください。

小笠原:当社はクルマ自体を製造している会社ではありません。それはトヨタ自動車の仕事であり、当社はクルマが社会で活用される領域において、移動に関する社会課題の解決にモビリティサービスを通じて貢献していくことをめざしています。そのためにはITの力が必須ですが、当社はサービスカンパニーですから先進技術を常にキャッチアップできるわけではなく、人材の面でもリソースが不足しています。ただ、そもそもこれからは自社単独で事業を進める時代ではないので、パートナーとしてNTTデータのITに関する技術や知見・経験に期待しました。

もともとは研究開発でNTTデータとつながりのあったトヨタ自動車からの紹介が契機で、2019年9月から業務提携の話がトントン拍子に進み、半年後の2020年4月には業務提携開始というスピード展開になりました。

西沢:当社としても、MaaS(Mobility as a Service)やコネクティッドの領域でよいパートナーと共にビジネスを拡大していきたいという思いがありました。トヨタコネクティッドとの出会いの中で、当社がご協力できるところがあるのではないかという話になり、業務提携は自然の流れでスムーズに進みました。

――両社の協業の現状と、進行中のプロジェクトを教えてください。

小笠原:私が所属する戦略本部で協業の全体推進をしています。NTTデータからの出向メンバーを含めた推進チームを立ち上げ、情報共有や具体的な取り組み策定を進めています。もちろんNTTデータからは出向メンバー以外にも多数のメンバーに参画いただき、さまざまなサポートをいただいているので、協業開始からまだ1年経っていないものの、すでにかなりの数のプロジェクトが動き出しています。

西沢:いま進めている代表的なプロジェクトとしては、コネクティッドカーから収集する位置情報やクルマの駆動データを活用する「Fleet Management」や「Location Based Service」が挙げられます。また、車内からコールセンターにアクセスし、オペレーターのアドバイスを受けられるテレマティクスサービスの刷新も実施しています。そのほか、グローバルの調査やデジタル化に向けたR&Dなど、まさに多岐にわたるプロジェクトが動いています。

協業によるこうしたプロジェクトは、もちろんうまくいくこともあればいかないこともあります。現在はいわば出会って半年で結婚し、それぞれの家庭の味を調整し合っているような段階ですから、お互い、ズレがあって当たり前。最初の1年は、そこを突き詰めるための時期だと考えています。そして、その段階は着実に歩んでこられたと認識しています。

  • トヨタコネクティッド 先行企画部 部長 小笠原 渉氏

    トヨタコネクティッド 先行企画部 部長 小笠原 渉氏

  • NTTデータ 製造ITイノベーション事業本部 第五製造事業部 部長 西沢 昌哉氏

    NTTデータ 製造ITイノベーション事業本部 第五製造事業部 部長 西沢 昌哉氏

2025年までにコネクティッド市場のリーダーをめざす

――そうした数々のプロジェクトの先にある、最終的に実現したい大目標はどういったものですか。

西沢:業務提携の中で語っている最もハイレベルな表現は「2025年までにコネクティッドマーケットのリーダーポジションを両社で取る」というものです。「コネクティッド」は、日本語でいうと「つなぐ」。何と何をつなぐのかといえば、クルマとITだけでなく、トヨタコネクティッドとNTTデータのそれぞれの強みをつないでいくことも含まれます。たとえば、いまクルマは個人所有されないケースも増えてきました。そうなると、シェアサービスも実はコネクティッドの領域で、そこを起点に保険、決済など多彩な業界ともつながっていきます。NTTデータの強みである多様な顧客ともつながり、コネクティッドといえばこの2社だと世の中に認知されるように取り組んでいきたいですね。

――未来のモビリティ社会の共創をめざす両社提携において、象徴的拠点となる「Global Leadership Innovation Place」(GLIP)が2020年7月に東京・お茶の水に生まれました。その背景と狙いを教えてください。

小笠原:20周年を迎えるにあたって創業の原点を振り返ると、当社はもともとトヨタ自動車ではできないことにチャレンジするために設立された会社で、いわば出自にはベンチャー的なところがあります。そして実際にさまざまな“新しいこと”にチャレンジしてきました。ただ近年は、会社の規模が大きくなったことも影響しているのか、社内で保守的な雰囲気を感じる機会も増えてきました。そこであらためてベンチャー的な取り組みを推進し、イノベーション創出を実践しようという思いで「GLIP」を開設しました。

「GLIP」は共創によるイノベーション実現をめざす場です。ワーキングスペースや実証実験向けの車両を置いたガレージを設置し、出会いの場づくり、ワークショップなども実施することで、多彩なスタートアップ企業や事業会社とつながり、新たな価値創造を追求しています。もちろんここでもNTTデータとの協業は重要で、我々だけではできない部分をその技術と知見、パワーを借りながら、新ビジネス創出に向けて活動しています。

  • 共創の象徴的拠点となる「GLIP」
  • 共創の象徴的拠点となる「GLIP」
  • 共創の象徴的拠点となる「GLIP」

西沢:「GLIP」ではビジネスアイデアを生み出すプログラムにトヨタコネクティッドと共に取り組んでいます。アイデア創出だけでなく、実車での検証環境が用意されているので、デジタルとリアルの融合を図ってビジネス展開まで一気通貫でスピーディーに実現できる、自動車業界における新規ビジネスのショールームのような空間になると捉えており、それを両社で実現していきたいです。

小笠原:これまでの取り組みで、リアルな場所として活用されているのはもちろん、バーチャルな、概念やブランドとしての「GLIP」というものも少しずつ形作られてきていることを実感しています。

イノベーション創出に向けた共創の場・GLIPがオープン

――「GLIP」の場では、「つながる」「共有する」「創る」の3つをテーマに活動しているそうですが、具体的取り組みやコミュニケーションについて教えてください。

田端:「つながる」に関しては、トヨタコネクティッドとスタートアップ企業との出会い、マッチングの場として「GLIP」でミートアップイベントを開催しました。さらに、集まった企業のみなさんと、今後のモビリティ社会に向けてどのような価値を共創できるかを継続的に議論するなど、アイデアの種をまく部分でも一緒に取り組んでいます。

池谷:そのミートアップイベントに参加したスタートアップ企業とともに、公共交通系データとクルマの車両データを掛け合わせた交通サービスの試験研究の検討を始めるなど、アイデアを実ビジネスに繋げるための取り組みが進んでいます。

  • NTTデータ 製造ITイノベーション事業本部 コンサルティング&マーケティング事業部 主任 田端 志織氏

    NTTデータ 製造ITイノベーション事業本部 コンサルティング&マーケティング事業部 主任 田端 志織氏

  • トヨタコネクティッド 先行企画部 池谷 淳氏

    トヨタコネクティッド 先行企画部 池谷 淳氏
ワークショップの様子

ワークショップの様子

山元:「創る」についても、2030年の未来を見据えたトヨタコネクティッドとNTTデータのシナジーによる共創を見える形にするため、両社からメンバーを募った「新規ビジネス創発ワークショップ」を運営しています。新しい事業の可能性を探ることに加えて、両社の信頼関係を深めることも目的のひとつにしていますが、顔を突き合わせて議論を繰り返すことで両社の信頼関係が深まり、本当の意味での共創への足がかりができたと考えています。

池谷:私もワークショップに参加していますが、両者がフラットに和気あいあいと会話できる雰囲気があり、良い意味で打ち解けることができたと考えています。両社の共創活動から生まれた新規事業の取り組みのひとつが、決裁段階で承認されなかったことがあったのですが、一緒に取り組んでいたNTTデータのメンバーが私以上に悔しがってくれたことがとても印象に残っています。その姿を見て、この先も一緒に仕事をしたいという信頼感が生まれました。

田端:最初に打ち解けられないといつまでも共創が進まない状態になってしまいますが、現在はお互いのアイデアや知見を持ち寄り、それぞれの視点で議論できるようになっていると感じます。一回やって成功するわけではなく失敗もたくさんありますが、両社のメンバーがフラットに議論を繰り返すことが大事になると考えていますので、この取り組みを継続していきたいですね。

杉浦:NTTデータのメンバーは多様な分野で現場に関わってきた経験があるため、それぞれの分野に対する知識だけでなく、そこにどのような課題があるのかというところまで掘り下げた発言をする機会が多く、私としては引き出しの多さに驚きと共感、そして一緒に取り組んでいきたいというワクワク感が芽生えています。今回の取り組みを通じて、たとえばトヨタコネクティッドの現場から考えるやり方、NTTデータの技術やビジネスモデルから考えるやり方など、お互いの異なる文化が交わることで固定観念にとらわれないポジティブな考え方ができているのは非常にありがたいですね。

  • NTTデータ 製造ITイノベーション事業本部 第五製造事業部 課長代理 山元 真澄氏

    NTTデータ 製造ITイノベーション事業本部 第五製造事業部 課長代理 山元 真澄氏

  • トヨタコネクティッド 事業部 コネクティッドサービス事業室 事業企画G 杉浦 兼久氏

    トヨタコネクティッド 事業部 コネクティッドサービス事業室 事業企画G 杉浦 兼久氏

  • ワークショップの様子

    ワークショップの様子

モビリティ社会の未来を見据えて一緒に歩む

――最後に、業務提携や「GLIP」を踏まえて今後の取り組みをどう進めていきたいか、展望をお聞かせください。

小笠原:冒頭の話に戻りますが、やはり当社としてはモビリティに関する社会課題の解決がすべてです。そのためにはITが重要な要素となりますが、我々だけではできない部分については引き続きNTTデータの力を借り、社会課題解決を加速させていくべきだと考えています。協業が始まる前のNTTデータのイメージは、やや堅くドライなイメージを抱いていました。ところが、いざ取り組みを始めるとイメージが一転し、いまは泥臭く人間味のある人たちが多い会社だと思っています。先ほども言ったように当社はもともとベンチャーの風土があり、やはり泥臭く現場力を培ってきました。当社とNTTデータは、そういった部分でも通じるところがあるのかもしれません。

西沢:モビリティ社会の未来に向かい、これからも両社がそれぞれの得意技を活かしていく必要があると思います。フラットな立場で支え合いながら、また言うべきことをきちんと言い合いながら、一緒に汗をかき、進んでいきたいと考えています。

会社紹介

トヨタコネクティッド株式会社

2000年、トヨタ自動車の豊田章男社長とトヨタグループの情報・メディア事業を推進していた友山茂樹氏の発案により、顧客向けITを推進する戦略ビジネスユニットとして設立されたガズーメディアサービスを前身とする。2017年に現社名へ変更。トヨタのコネクティッド戦略におけるサービス運営を担い、「モビリティサービス・プラットフォーム」(MSPF)の構築、カーシェア・ライドシェア、テレマティクスなどモビリティに関わる多彩なサービスを提供する。2020年には創業20周年を迎え、2021年1月15日、友山氏の後を受けて山本 圭司氏が新社長に就任した。

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