半導体等装置関連事業と、電子デバイス事業という2つのセグメントを中心にグローバルでビジネスを展開するフェローテックグループ。コロナ禍における巣ごもり需要やデジタル機器の普及などを背景とした半導体市況の活況を受けて、業績も好調だ。
半導体等装置関連事業では、世界トップシェア65%の真空シールのほか、月産能力42万枚(6インチ)、同45万枚(8インチ)、同3万枚から近く10万枚に増産(12インチ)のシリコンウェーハ、中国に特化しシェア60%の装置部品洗浄、石英やセラミックスなどの半導体製造装置向け治具・消耗品材などが拡大中だ。また、電子デバイス事業では、世界トップシェア36%のサーモモジュールや同80%の磁性流体が自動車や半導体、医療バイオ、家電、スマホなどの用途に拡大しているほか、世界の消費電力削減のトレンドを受け、パワー半導体用基板が電車やEV、太陽光発電、通信基地局、サーバ・PC機器など向けに拡大している。
現在、同社の製品は、欧米を中心に海外向けが8割超を占める。しかし、近年は、日本やアジア諸国の部品メーカーなどからも熱い視線が注がれ始めている。その理由の1つが中国におけるプレゼンスの高まりだ。フェローテックは、中国展開を積極的に進めてきており、中国が掲げる産業政策「中国製造2025」を受けて、中国メーカーや中国進出企業から多くのニーズが寄せられはじめているのだ。
日本企業は中国ビジネスの展開で多くの辛酸をなめてきた。参入できても撤退する事例も数多い。フェローテックはなぜ中国ビジネスで地歩を固められているのか。また、今後、どのような展開を図ろうとしているのか。フェローテックホールディングス代表取締役社長の賀賢漢氏に話を聞いた。
コロナ禍で半導体製造装置や電子デバイスの需要がひっ迫
──新型コロナウイルス感染症(COVID-19)はフェローテックのビジネスにどんな影響を与えましたか。
まず、海外との往来が厳しく制限されたことで、お客様とのコミュニケーションがとりにくくなりましたね。私は1年の半分以上、北米、ヨーロッパ、アジア、ロシアをまわっていて、日本には月に数回しか滞在していませんでした。感染が拡大してからは2020年3月以降、ずっと中国内の拠点に留まって仕事をこなしています。半導体のビジネス自体は、飲食業やサービス業、アパレルなどの製造業に与えたような打撃を受けたわけではありません。むしろ、世界的にデジタル化が加速したことで、ロジック、メモリーのいずれも需給がひっ迫しました。半導体メーカーやファンドリー企業の設備投資も堅調です。当社も製造の多くを中国で行っていますから、むしろこの機会に中国で工場の生産稼働を高めることができたと思っています。
──フェローテックはさまざまな製品を提供していますが、特に何が伸びたのでしょうか。
ほとんどの製品が伸びています。2020年は半導体製造装置、電子デバイスがそれぞれ前年比プラス成長となり、2021年も引き続き10%前後のプラス成長を見込んでいます。たとえば、コア技術の1つである磁性流体は自動車スピーカーや高音質ヘッドホン、スマホのバイブレーションなどに採用されていますが、これらの需要の伸びを受けて、採用も広がっています。サーモモジュールは、5G通信基地局の設置数拡大もあり、通信機器用途が伸長。またPCR検査機にも採用されていますが、コロナ禍で需要が拡大しました。
──もともとは米国企業でしたが、どのように事業を拡大してきたのですか。
米国の親会社の日本法人として1980年に創業しています。その後、1999年に親会社を逆買収するかたちで事業のグローバル化に拍車がかかり、その後も積極的なM&Aで成長してきました。1992年という比較的早い段階から、中国に進出し、事業を拡大したことも特徴です。現在の当社の主力製品群に、半導体製造装置向けの治具・消耗材である、石英、セラミックス、シリコン、CVD-SiC(窒化ケイ素)があります。これらは、日本を中心に素材や生産技術の開発を進め、中国を中心に大きく事業成長してきたという経緯があります。このほか、シリコンウェーハ、装置部品洗浄など、製造だけでなく、新しいサービスも中国を基盤に行っています。
新興市場「科創板」への子会社上場を目指す
──中国は、2025年までに半導体、部材、製造装置を70%まで引き上げる「中国製造2025」を唱えています。どう見ていますか。
最先端分野の半導体製造装置を中国国内で内製化するのはまだまだハードルが高い目標です。ただ、政府の方針に基づき、各省や市政府などでハイテク分野のプロジェクトが活性化しています。株式市場でも、2019年7月に上海で新興の「科創板(スターマーケット)」での取引が開始されました。政府系や民間系ファンドによる資金面でのサポートもあり、半導体分野でも、IC/部材/製造装置メーカーなどのプロジェクトを後押ししています。
──中国で今後、どのような取り組みを実施していきますか。
フェローテックのような半導体関連部品を製造する日系企業に対しても、各省の市政府および政府系・民間系のファンドなどからさまざまなサポートが提供されています。これまでは日本国内の金融機関での借り入れを中心に設備投資資金を調達してきましたが、今後は、その軸足を中国国内での資金調達に移すことを考えています。具体的には、各子会社で、第三者割当増資を実施して、成長資金を確保していきます。また、科創板などへの株式上場(IPO)を行うことで、資金調達を図っていきます。
──上場する子会社はどの領域の企業なのですか。
装置部品洗浄(銅陵)、パワー半導体基板(東台)、石英坩堝&シリコンパーツ(銀川)に関する各子会社は科創板への上場を、半導体ウェーハ(杭州)については、中国国内での株式上場を目指しています。これらにより、さらなる事業成長の確立を盤石にし、フェローテックグループとしての企業価値向上につなげていきます。
中国ビジネスを成功させるポイントは
──米中の貿易摩擦についてご意見を伺えますか。
今後も継続する課題です。米国政府の輸出制限などにより、中国国内の半導体プロジェクトでも最先端分野には一部影響が出ています。中国企業はサプライチェーンの見直しを行い、当社のように中国国内に拠点を持つ日系企業にはその面がプラスに働くことも少なくありません。貿易摩擦というより、技術競争の面もあり、当社にとってはチャンスです。また、当社は米国にも有力な顧客がおり、米国の販売拠点を通じて、大変良好な関係を築いています。現地からタイムリーな報告を受け、今後も顧客と良好な関係が維持できるよう企業として取り組んでいきます。
──中国ビジネスを成功させるポイントは何だとお考えですか。
まず、半導体製造装置と電子デバイスという、中国企業が得意ではない分野で参入したことです。製造業でも一般向けの消費財や耐久財は、価格競争が激しく参入企業にとっては大きな課題になります。また、高度な知識やスキルを持った人材が求められる分野であることもポイントです。いまアメリカ帰りのエンジニアが続々と中国に戻ってきていますが、彼らが活躍できる場がまだ多くはない。逆にフェローテックがそうした人材を積極的に採用することで、ともに成長していくことができると考えています。
──商慣習や文化の違いがハードルになるとも言われます。
中国の商習慣や文化はより理解する必要があるでしょう。また、人脈も非常に重要です。フェローテックはユニークな会社で、企業文化のなかに、米国、日本、中国の文化が流れ込んでいます。ベンチャーのように常に新しいことに挑戦するマインドも持っています。中国ビジネスでは、そうした強みがうまく働いていると思います。
ベンチャー企業として、これからもチャレンジを続けていく
──賀社長はそもそもどういう経緯でフェローテックに入社されたのですか。
上海財経大学を卒業して、大学で2年教鞭をとっていたのですが、教えること以外にも経験を積みたいと思い、博士になるために、1988年に日本に留学し、早稲田大学と日本大学それぞれの大学院で学びました。そのまま経済学の博士号を取得しようと思ったのですが、博士号を取得できるのは45歳だと言われてしまいます。そこで日本で就職しようと1992年にフェローテックに入社したのです。1993年から正社員になると、すぐにビジネスのおもしろさに目覚めました。それから28年間ずっとフェローテックですね。
──人材育成についての考え方を教えてください。
まず重視しているのは、社員と会社の利益は共存するということ。もう1つは社員に利益を還元するということ。社員が働きやすい環境を提供すれば、満足度が上がり、会社の利益も上がります。これは、フェローテックグループ全体に対しての考え方ですので、日本や欧米、中国、その他アジアの子会社も含みます。たとえば、中国の子会社の例として紹介すると、社員食堂で毎日の食事を無料で提供したり、デジタル経営を掲げて社員が効率良く働くことができる環境の整備に取り組んでいます。博士号取得者向けの研究開発センターや社員向けの大学を作る取り組みも進めています。中国企業の多くが取り組んでいないことに取り組むことで、よい人材が当社に集まってきてくれます。
──今後の展望、意気込みをお聞かせください。
半導体等装置と電子デバイスに加えて、自動車関連を強化していきます。サーモモジュールの温度管理技術や、パワー半導体基板のインバーターのような絶縁基板としての役割など、非常に高いポテンシャルがあります。これらを中長期で新たな柱にしていきます。日米中のスピリットを持ったベンチャー企業として、これからもチャレンジを続けていきます。
[PR]提供:フェローテックホールディングス