AGCは現在、日本を含むアジアの全事業部門(カンパニー/SBU)でのSalesforce実装プロジェクトに取り組んでいる。日本を代表するグローバル企業であるAGCは、カンパニーごとに事業領域やビジネスモデルが異なり、全部門でのSalesforce導入は容易ではない。AGCでは、「CoE(Center of Excellence)」の考え方を取り入れ、システム全体の統率、標準化を目標に「標準CRM構想」を固めてから、各部門への導入を進めている。今回の事例は、複数の事業部門を抱える企業やグローバルで事業展開する企業にとって、CRM/SFAを全社展開する際の大きなヒントになることだろう。

デジタル化による業務の高度化を進める中でスマートセールスを推進

AGC株式会社 情報システム部 ITコンピテンスセンターデジタル・イノベーショングループ リーダー 土屋 創氏

AGC株式会社 情報システム部 ITコンピテンスセンターデジタル・イノベーショングループ リーダー 土屋 創氏

1907年に創立し、100年以上の歴史を持つAGC株式会社。同社を中心とするAGCグループは、ガラスと電子、化学品、セラミックスの事業領域で世界トップレベルの技術を備えるグローバルな素材メーカーだ。そしてITに関する中期計画として、「デジタル化による業務の高度化」を推進している。

AGCは、2017年に経営企画部門にDX推進部(当時の組織名はスマートAGC推進グループ)を設置し、トップダウンによる全社的なデジタル化の加速・推進体制を整えた。製造業としてデジタル技術活用の必要性が高いモノづくりの分野(スマートファクトリー)、研究開発の分野(スマートR&D)から取り組みを始め、その後、顧客エンゲージメント向上に向けたスマートセールスやスマートマーケティングの分野などにも拡張してきた。Salesforce実装プロジェクトの開始当時はDX推進部に所属していた情報システム部 ITコンピテンスセンターデジタル・イノベーショングループ リーダー 土屋 創氏はDX推進部についてこう説明する。

「DX推進部はAGCグループのDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する旗振り役のような部署で、その中にスマートセールスやスマートマーケティングによる新たな顧客価値を提供するビジネス創出も含まれています。Salesforce実装プロジェクトにおいては、カンパニー制のため縦割りになりがちな部門間の横ぐしを通して推進する役割を務めました」(土屋氏)

AGCグループでは、各事業部門の運営をグローバルグループ一体で行っており、一部の事業部門では既に「Salesforce」が導入、運用されていたが、多くの事業部門ではまだ導入されておらず、営業情報の共有はメールやExcelファイルが主だという。そのため、営業案件の進捗状況や、顧客とのビジネスの経緯などを一元的に管理できず、営業情報を十分に活用できないという課題をもっていた。

顧客への価値貢献を生み出していくためには、顧客理解と適切なアプロ―チが重要なファクターとなってくる。

経営企画本部DX推進部 企画・管理グループ マネージャー 寺内量則氏は、当時AGCグループにおけるデジタル化の実装を担う情報システム部に所属しており、多くの未導入の事業部門へのSalesforce実装についてDX推進部とともに検討を開始した。

ガイドラインの策定で力になったテラスカイの経験とノウハウ

AGC株式会社 経営企画本部 DX推進部 企画・管理グループ マネージャー 寺内量則氏

AGC株式会社 経営企画本部 DX推進部 企画・管理グループ マネージャー 寺内量則氏

Salesforce実装にあたっては多角的に事業を展開し市場を拡大する、AGCグループならではの成長戦略を念頭においた。AGCグループが戦略事業と定めているモビリティ、エレクトロニクス、ライフサイエンスという領域では、将来、事業部門を横断したビジネスの展開が十分に考えられる。つまり事業部門ごとの要件に合わせてそれぞれSalesforceを導入してしまうと、将来、そうした枠を超えたビジネスを目指すときにうまく機能しなくなる恐れがある。そのためSalesforceの実装において、事業領域やビジネスモデルが異なっていても基本的な要件が共通化されたCRMを求めた。異なるビジネスモデルをもつ事業部門でも、AGCグループのCRMシステムは統率を持って運用されるのが理想。このような目的で、2018年1月に「標準CRM構想プロジェクト」が立ち上がった。

そこで、まずはシステム要件をどこまで許容するかを決めたガイドラインを策定することにした。「ところが、私たちはガイドラインの具体的な内容のイメージを持っていませんでした」と寺内氏は打ち明ける。

ガイドライン策定から伴走するSalesforceのインテグレータとして採用したのが、テラスカイだった。テラスカイはSalesforceの導入実績が豊富なだけでなく、大手企業などで部門を横断したSalesforceの構築における経験も豊富というのが理由だ。

「1つの事業部門に対してSalesforceを入れていくだけなら、どんなパートナーを選んでも大差なくできるでしょう。しかし、今回のプロジェクトは、複数の業界や事業へのSalesforceの豊富な導入経験と知識を元に提案してくれるインテグレータが絶対条件でした。だからこそテラスカイをパートナーとして採用したのです。 具体的には、部門横断的なCRM構築となるため、個別要件が発生し過ぎると混乱が生じてしまいます。そうかといって、活用ができないと問題です。そのため、まずカスタマイズ可能な範囲を定義するガイドラインを策定し、そのあとに各事業部門への実装をサブプロジェクトとして順次進めていくことに決めました。」(寺内氏)

「Salesforceに関する知見を備えた技術者が数多くいるのも採用の決め手のひとつでした」と土屋氏は話す。

2018年6月から2カ月ほどかけてSalesforceを実装する際のルールとなるガイドラインの策定に費やした。

「テラスカイの担当者からは、ガイドラインで定めておくとSalesforceの実装がスムーズに進むポイントや、定めておかないとトラブルに発展する恐れがある事項などを丁寧に教えてもらいました」(寺内氏)

たとえばアクセス権限に関して適切なアドバイスがあったという。「誰にどこまでアクセス権限を渡すかによって情報共有の範囲が大きく変わるので、よく検討する必要があります。テラスカイの担当者は私たちが想定していないようなケースまで例に挙げてくれたのでとても助かりました」と寺内氏は振り返る。

実装を目的とするのではなく、全体のシステム統率を見据えた「CoE」の考え方

CoE(Center of Excellence)とはITプロジェクトにおいて得られた知見やベストプラクティスを社内の他プロジェクトに適用し広げていくという仕組みや組織を言う。専門知識を持った人材を組織横断的に配置することで、各プロジェクトを横断的に管理し、システム全体の統率、標準化を図ることを目標にする。

デジタルトランスフォーメーションを推進する際、大胆な組織改革も起こり得る。AGCの「標準CRM構想」は、せっかく導入したシステムが成長の足かせにならぬよう、システム全体の統率を図ることを念頭にしていた。実際に、情報システム部が中心となってガイドラインを策定し、情報システム部、DX推進部、各事業部門のスタッフを含めてチーム形成しSalesforceの実装に取り組んでいる。

ガイドラインの策定後はサブプロジェクトとして、各事業部門のシステム要件に合わせてSalesforceを順に実装していくことになる。対象となるのは日本を含むアジア地域の営業拠点を構える事業部門だ。

各事業部門へのSalesforceの実装開始から本稼働までの作業は、それぞれおよそ3カ月で行われ、現在では事業部門傘下の6つの事業本部にSalesforceが実装済みだという。これはかなりスムーズな導入といえる。土屋氏はガイドライン策定の成果をこう語る。

「私はアドバイザー的な立場で見ていましたが、テラスカイさんと寺内が『ここは標準化でこういう縛りを掛けているから』とか『そこまでやると保てない』といったことを話し合いながら進めており、ガイドライン策定の成果を傍目で感じていました」(土屋氏)

DX推進部は、先行して実装した事業部門の実例を紹介するなどして各事業部門のモチベーションを高める活動を行い、数年ほどかけて対象の全事業部門にSalesforceを導入していく方針だ。

「Salesforceを実装する前のシステム要件の整理は社内のメンバーで行っています。システム化の対象範囲を定めたり業務内容をシステム要件に落とし込んだりする際に苦労したことはありますが、ガイドラインの存在と、テラスカイのサポートにより、Salesforceの実装に関しては、困ることはほとんどありません」(寺内氏)

Salesforceの導入で、スマートな営業スタイルへさらなる前進

すでにSalesforceを導入した事業部門では、確実に導入効果が生じている。利用者アンケートでは、顧客やプロジェクトごとのビジネス経緯が把握でき、営業担当者のアクションや、顧客情報の引き継ぎが向上したという声が寄せられている。

今後は営業活動にマーケティングオートメーションを取り入れることや、蓄積したデータの活用にも取り組んでいく。「Salesforceで集めたデータを分析・活用して、ぜひ顧客エンゲージメントの向上を目指したいですね」と土屋氏は話す。

「標準CRM構想」を基軸にしたAGCグループのCRM実装プロジェクトは現在進行形だ。引き続き各事業部門への実装を進めていき、実装済みの事業部門に対してはSalesforceの活用がさらに広がるように機能を追加したり、運用方法の向上を図っていくという。

そしてその先に見据えているのが、AGCグループにおけるDXの推進である。このたびのプロジェクト自体はIT関連の中期計画の一部だが、これはDX実現に向けた基盤づくり、そしてDX実現によるお客様への付加価値の提供を目指した取り組みへと結びついていく。

[PR]提供:テラスカイ