多くの企業がテレワークを推進する中、「捺印」を必要とする旧来の業務プロセスが、その妨げとなるケースが増えており、新規顧客の利用申し込み契約、既存顧客の継続契約の電子化対策が急がれる。
2020年における新型コロナウイルスの感染拡大は、テレワークを一気に加速させた。公共交通機関による一斉通勤や、大勢の社員を一カ所に集めての業務を控えることが強く求められる中で、仕事の進め方そのものを見直す取り組みを開始した企業も多い。
新規顧客の利用申し込み契約、既存顧客の継続契約の電子化プロセスとは
テレワークの導入を急いだ企業で大きな障害となったのが、物理的な「印鑑」を必要とする承認や契約のプロセスだ。緊急事態宣言中にテレワークを実施した企業においても、担当者が「捺印のためにやむなく出社した」ケースは多かったという。こうした背景のもと、社内手続の簡素化に加え、企業間の契約においても「電子契約」を採用することで、捺印が必要な業務プロセスを減らそうという動きが進んでいる。
また、これまでは電子契約について定めた「電子署名法」の解釈にあいまいな部分が残されており、企業が電子契約を採用する際の懸念点となっていたが、2020年7月に法務省、総務省、経済産業省が「立会型の電子署名を使った場合でも契約は有効となる」ことを明示した文書を公開。これにより、契約当事者がそれぞれ電子署名を用意するタイプの厳密な電子契約だけでなく、サービス事業者の電子署名によって両者の契約手続を証明する形の電子契約サービスも、導入しやすい選択肢となっている。
急速に進んだ「テレワーク」が電子契約実現の契機に
タレントマネジメントシステムを提供するカオナビでは、日本での新型コロナウイルス感染者が増加傾向を見せ始めた3月末の時点から、全社員を出社禁止としテレワークに切り替えた。電子契約サービスの導入を検討したのも同じ時期だったという。
「カオナビの利用契約に電子契約サービスを使いたいという要望は以前からあったのですが、コロナ禍によって多くの企業がテレワークを始めたのをきっかけに、そのプランが一気に具体化しました」
そう話すのは、カオナビ コーポレート本部 情報システムグループ チームリーダーの生駒正道氏だ。電子契約の導入を急いだ背景には、以前の契約手続が担当者による「捺印」を前提としていたことがある。世の中ではテレワークを行う企業が増えたため、顧客企業の担当者が「契約書に印鑑を押せない」ケースが出てきており、その数はさらに増えていくことが予想されていた。
タレントマネジメントシステム「カオナビ」は、企業の人材情報をクラウド上で一元管理し、社員の顔や名前、経験、評価、スキル、才能などの人材情報を可視化することで、最適な人材配置や抜擢といった戦略的なタレントマネジメントの実現を支援するソリューションだ。特に、社員に対して定期的にアンケートを行って組織の状況や個人のコンディションなどを調査できる「パルスサーベイ」といった機能などは、多くの社員がオフィスに出社できなくなった企業の人事担当者にとって、社員の状況を把握するために有用となる。そこに魅力を感じた企業に対して「捺印がなければ契約が完了しない」という旧来の業務プロセスはやや不親切ともいえ、改善する必要が大いにあったというわけだ。
「まずは、新規のお客様との契約から電子化を進め、より迅速にサービスを利用してもらえる環境作りが必要だと考えました」と生駒氏は振り返る。
使い慣れたSalesforceとの連携が契約プロセス改善のカギ
電子契約サービスを検討するにあたって、知名度の高さと、実績の豊富さを挙げる弁護士ドットコムが運営する「クラウドサイン」を選定。また、同社は顧客の契約情報をSalesforceで管理していることから、二つのシステムを連携することで、社内の契約プロセスも改善できると考え、「クラウドサイン Salesforce版」の採用を決定した。
もともとSalesforceの導入には、北海道に本社を置くSalesforceのインテグレーター、株式会社キットアライブをパートナーとしていたことから、「クラウドサイン Salesforce版」の導入・開発支援についてもキットアライブに依頼した。キットアライブは「クラウドサイン Salesforce版」を開発したテラスカイのグループ企業だ。キットアライブとは主にリモートでのミーティングを重ねながら、法務要件の確認、契約プロセスの改善、システム要件の洗い出しを進めていった。
電子契約サービスを導入するにあたり、カオナビでは顧客とPDFで共有する契約書の作成プロセスについても改善を図った。従来は顧客との契約を各営業部員が進め、最終的な契約書の内容確認は、数名の契約事務担当者が中心となって進めていた。その担当者は顧客から返送された契約書に記入された内容、捺印の有無などを確認し、不備が見つかった場合には顧客に個別に連絡をとり、内容を修正してもらうといった対応を行っていたという。
「新規契約と契約内容の変更について、多くの契約書が届きます。契約事務担当者は、その内容を締め日までに確認しなければなりません。全社的にテレワークを実施するようになってから、この業務を行う担当者の負担が特に増しており、進め方をより効率的なものにする必要がありました」(生駒氏)
そこでカオナビは、Salesforceの機能である「Salesforce Experience Cloud(旧:Community Cloud)」を活用して、顧客側が契約書に記入すべき情報を事前にWebフォームから入力してもらえるようにした。必要となる情報をあらかじめ取得しておくことで、顧客と共有するPDFの契約書にその内容も含めておける。さらに「クラウドサイン Salesforce版」によって、契約内容の確認はWeb上で完結し、結果はSalesforce上に保存される。
こうした仕組みによって、顧客がPDFを紙に印刷し、必要事項を手書きすることによって生じる情報の不足や不備の修正、物理的な印鑑による捺印、契約事務担当者によるシステムへの再入力といった手間が削減された。
「クラウドサイン Salesforce版とExperience Cloudとの連携部分については、社内で数名の営業担当者、事務担当者に要件を確認しながら作り込み、本稼働が近づくにつれて段階的に全担当者に展開するというステップを踏みました。その際は、電子契約による効率化のメリットを活かしつつ、お客様や契約事務担当者が戸惑わないよう、既存の契約プロセスから大きく逸脱しないような流れにすることを意識しました」(生駒氏)
開発は約2カ月で完了し、カオナビでは2020年8月より、新規契約における契約書の取り交わし業務について、クラウドサイン Salesforce版による電子契約を開始した。
顧客と社員の双方から高評価 適用範囲の拡大も視野に
カオナビはその後、電子契約の範囲を新規契約だけでなく、既存顧客との継続契約にも拡大した。新たなシステムを直接利用している営業担当者、契約事務の担当者、そして顧客のいずれからも、おおむね好評を得ているという。
「営業担当者からは、お客様が『契約に印鑑が不要なのは便利だ』と評価してくださっていると聞いています。また、社内的にも事務担当者による契約書の確認や修正依頼にかかっていた時間が大きく削減されました。リリースの段階では新規のお客様が電子契約を行えるようにすることを優先しましたが、さらなる機能強化を続けています。契約継続手続のほか、今後は解約などでも電子契約を利用できるようにする計画です。電子契約サービスをご利用いただくことがお客様と当社の双方にとってメリットがあることを、お客様に対しても積極的に訴求したいと考えています」(生駒氏)
カオナビは、2020年11月に本社オフィスを東京都港区虎ノ門へと移転した。新たな本社オフィスは「OFFICEから(T)OWNへ」をデザインコンセプトとしており、コロナ禍以降のニューノーマル時代に社員自ら「リモートワーク」か「出社」かの勤務スタイルを選択し、生産性を高められる環境づくりを目指しているという。
顧客との契約プロセスの改善と、社員による業務効率の向上の双方を視野に入れて構築された「クラウドサイン Salesforce版」による業務環境は、同社が標ぼうする新しいワークスタイルの実現をシステム面からサポートする仕組みの一部になっていく。
「現時点ではまだ、社員が手作業で行わなければならないプロセスも残っていますが、今後はそれらについても順次自動化していき、営業事務をさらに効率化していきたいですね。また、合わせて導入したExperience Cloudについても、お客様と当社との接点として、より価値の高い使い方を模索したいと考えています」(生駒氏)
そうした取り組みの中で、テラスカイ、キットアライブ両社とのパートナーシップにも期待を寄せているという。
「クラウドならではのスピード感で進化するSalesforceや、その周辺ソリューションを十分に使い倒し、お客様にとって魅力のあるサービスと、社員が生産性を最大限に高められる業務環境を作っていきたいと考えています。その実現に向けて、キットアライブさまとテラスカイさまには今後も強力な支援を期待しています」(生駒氏)
[PR]提供:テラスカイ