2019年12月、文部科学省からGIGAスクール構想の方針が発表された。この施策の中で注目すべきは、ICT環境整備の抜本的充実を目指した生徒ひとり1台の端末整備だ。全国の教育機関はいま、この取り組みを早急に進めている。
端末は、授業や学校活動のなかでいつでも快適に使えるものであってこそ、文科省の提唱する「誰一人取り残すことのない、個別最適化された学び」が実現する。そのために必要となるのが通信ネットワーク環境と言えるだろう。
2020年11月10日、このICT環境整備を学ぶオンラインセミナー「WIRELESS NAVI 2020 ~ICT授業を止めない、快適なネットワークづくり! withコロナ時代に先進学校から学ぶ~」が開催された。先進的な取り組みが語られた全5プログラムについて、ご紹介したい。
本稿では、各セッションの概要について簡単に紹介する。本稿末尾にあるリンクをクリックすれば、当日のセッションを全編、動画として見られるようになっているので、興味のある方はそちらを閲覧していただきたい。
【基調講演】これからのハイブリッド授業とWi-Fi整備、気づきのポイント!
基調講演を行ったのは、青山学院中等部の安藤昇氏。
安藤氏は、趣味で続けてきた映像制作のノウハウを活かしたオンライン授業を展開している。またYouTubeで「GIGAch」というチャンネルを展開しており、その取り組みはコロナ禍で広く注目を集めている。
オンライン授業の展開には映像や音声を再生して行う「オンデマンド型」、課題を提示し授業再開後に試験を行う「自己学習型」、Web会議システムを用いる「リアルタイム型」の3つがある。安藤氏はこれらすべてを利用し、受講者を飽きさせないハイブリッド型の授業を目指しているという。
主体的・対話的で深い学びをオンラインで実現するために、安藤氏はさまざまな試みを行っている。一例として「spacial.chat」を利用したグループワークや、自分をキャラクターに置き換えることができる「FaceRig」の活用、「マインクラフト」を使っての三密を意識した新たな街づくり、といった事例を紹介した。
そして「これからの教員の4つの心掛け」を挙げる。1つ目は「普段からオンライン授業を意識した対面授業をする」こと。これによってオンライン授業でもなんとなく反応がわかるようになるという。2つ目はオンラインにシフトした時の教育方針を常に考える「インストラクショナルデザイン」だ。
3つ目は「ネオ・デジタルネイティブ世代を意識した教育設計」。SNSやシェア、つまりAIを使いこなすネオ・デジタルネイティブ世代を意識した教育設計を心がけなければいけないと語る。4つ目は「鈍感力も身に着ける」ということ。誰でも授業が見れるオンラインでは他の授業と比較されるが、他の先生を気にしないようにすることが大切だという。
続いてWi-Fi整備のポイントを語る。1つ目は「回線のスピードではなく、生徒一人当たりの帯域を担保してもらおう」。2つ目に「接続人数ではなく、通信できる人数を担保してもらおう」。そして3つ目として「個人情報保護条例」を挙げ、クラウド活用時の注意について説明した。
そして最後に「タブレットを徹底活用するには家庭に持ち帰れることが重要。家庭のWi-Fiの整備が大事」と語り、これから水道・ガス・電気・ネットが必需品になると持論を述べた。
Wi-Fiの整備について詳しく知りたい方々には、ぜひ動画をご確認いただきたい。
【事例セッション1】田舎だからこそ取り組みたいICT教育
1つ目の事例セッションでは、近畿大学附属豊岡高等学校・中学校の奥田幸祐氏が、地方都市に位置する同校の事例について話した。
校長の一声でICTへの取り組みを始めた同校は、まずハード整備として新しい教室と図書室を整備。そしてソフト面では「G Suite」を導入する。同校が端末として選択したのはChromebookだ。当初はiPadの導入を予定していたそうだが、家庭の負担額、G suiteの活用、支援員が常駐できない、ブラウザベースの実現といった実情を踏まえたという。
ただし「Chromebookではできないことも多い」と奥田氏は述べる。たとえば画像や動画編集には向いておらず、インターネットに接続しなければ魅力が半減するといった点がある。こういった背景から、同校はまずネットワークの構築に力を入れる。
当時の同校における課題は「アクセスポイントが古い」「アクセスポイントが1フロアに1個」「アクセスポイントの管理」の3点だ。これを解決するために、まずフルノシステムズの無線LANアクセスポイント「ACERA」シリーズを導入。続いて管理ソフトウェア「UNIFAS」を導入し、教員でもネットワークの管理を可能とした。そしてネットワークの再構築とともにRADIUS認証を導入し、Chromebook活用の基盤を作った。
Chromebookによって教育現場は大きく変化したという。まず、Classroomによって掲示板が、Google ドライブによって校務データがクラウド化された。アンケートはGoogle フォームによって可視化。YouTubeを利用することで体育祭のライブ配信が可能となり、コロナ禍においては、Google Meetでオンライン面談や遠隔授業を実現している。
奥田氏は「田舎は課題が山積みというよりは学びの宝庫ではないでしょうか。田舎だからこその学びをICTで」と提唱する。そして最後に「ICT整備はゴールではありません。アンテナを巡らせて、先生方が何を必要としているのかを探ったことが当校のICT教育における改革です」と語った。
【事例セッション2】見えてきたGIGAスクールの学び
2つ目の事例セッションでは、岡崎市教育委員会の川本祐二氏が、愛知県三河地方の中枢中核都市である同市のICT教育の日常化を実現するための取り組みについて話した。
同市は、GIGAスクール構想の方針が掲げられる以前からタブレット端末によるICT教育を進めてきた。そのうえで一人一台環境を目指して策定されたのが、岡崎版GIGAスクール構想だ。個別最適化学習をキーワードに、端末を生徒個人に紐づけて貸与する「Myタブレット」を推進し、iPadを採用している。
また「GIGAスクール構想は、学習系だけでなく、校務系との一体的な整備にこそ真のポイントがある」と川本は述べる。同市はICTによって働き方改革を目指す「Okazakiスマートワーク」を推進しており、教職員も利用するこれらのシステムを校務系・学習系と連動させ、業務改善や時間短縮を実現してきたという。
同市が目指すのは、ICT教育の日常化だ。そのために同市はセンターサーバを中心に、市内全67校をスター型で結んだ集約型イントラネットを構築した。また無線LANアクセスポイントや充電保管庫等を教室に設置し、いつでも利用できる環境を整備。これらはフルノシステムズの管理ソフトウェア「UNIFAS」で一括集中管理されている。
各教室で利用されているのが、画面ミラーリング機能を備えたフルノシステムズの無線LANアクセスポイント「ACERA 1150i」だ。また職員室では校務系・学習系ネットワークの一体整備を進め、タグVLANによって両立を図っている。持続的な活用のために、ICT支援員やベンダーと協働するメンテナンス体制も確立させた。
このようなICT基盤のもと、同市は「タブレット端末×Office365」「Office365×学習専用ソフト」「既存の学び×GIGA環境の学び」という3つの運用を行っている。
川本氏は最後に、同市でのICT活用の様子を動画で紹介。Teamsを使ったオンライン職員朝礼や職員会議のペーパーレス化、小学校のプログラミング授業や動画編集の様子、中学校でのスクールタクトを活用した授業の様子などを伝えた。
授業の様子を実際にご覧になりたい方は動画をご視聴いただきたい。
【事例セッション3】無線LANについて知りたい! 無線LANトラブルシューティング&先進学校Wi-Fi事例
3つ目の事例セッションでは、株式会社フルノシステムズの中山裕隆氏が、これまでの構築経験をもとに、無線LANのトラブルと導入事例について話した。
中山氏はまず、無線LANが繋がらないトラブルについていくつかの可能性を述べとともに、無線LANのアンテナの強さと電波の特性、透過性について、基本的な情報を伝える。ここでのポイントは「電波の強さが通信の安定につながるとは限らない」こと。そしてチャンネル設計と電波調査の重要性について話した。
こういった観点のもとで学校Wi-Fiを導入した事例として、中山氏は小金井市教育委員会の事例を挙げる。
同市が求めたのは、1クラス約40人の子供が端末を安定して同時接続できるWi-Fi環境だ。また、Chormebookとその他ICT/IoT機器とのスムーズな連携も求められた。中山氏は小学校9校、中学校5校に対し、ACERA 1110をそれぞれ18台ずつ設置。これらを無線ネットワーク管理システム「UNIFAS」を用いて集中管理するシステムを構築した。
最後に、導入前に抑えるべき5つのポイントを挙げる。1つ目は機種選定で、台数を増やしたいのか、安定性を高めたいのかに応じ、環境に合った機器を選ぶこと。2つ目はセキュリティで、暗号化すればするほど速度は低下することを踏まえた設定を行うこと。3つ目は監視機能。どういったソリューションで管理するかを検討すること。4つ目は無線LANのエリアをどこまで広げるか、将来を見据えて考えること。5つ目はトラブルは必ず発生するので、サポートがしっかりした会社を選ぶことだ。
【パネルディスカッション】
すべてのセッションを終えたのち、安藤昇氏、奥田幸祐氏、中山裕隆氏によるパネルディスカッションが開催された。
「教育とは?何をゴールと捉えているのか?」という質問に対し、安藤氏は「これまで教育は大学が目標だったが、これからは大学の後の人生をどうやって歩んでいくかを学ぶ場」と回答。さらに「時代とともに生徒も変わっている?」という質問では、いまはAIやプログラムを教える中で学生が先生を超えていきます。先生と生徒で学びあう場になっている」と教育現場の変化を語った。
「これからの時代に必要な環境について」という質問では、まず安藤氏が「コロナ禍によって見直されたものの1つがオンライン授業。各家庭でも学べることは学べるし、大講義室や一斉授業はオンラインでできる。学び合いや実習の大切さががよくわかるようになりました」と話す。
続いて奥田氏は「コロナ禍でオンラインが当たり前になり、私学・自治体のスキルが大きく上がりました。ある程度整備が進めば、どの学校も同じような環境ができるでしょう。そうなったら、どういう学びを提供できるかがカギになると思います」と述べた。
話題は学校ICTの導入に関する話に発展。安藤氏は導入のポイントとして「お金を動かせる人を探す」ことを挙げる。それに対して中山氏はベンダーとして「PCと車はお金をかけただけ速くなります。インフラも端末も同じです。我々も限られた資源の中で頑張りますが、お金は貯めておいてほしいと思います」とコメントした。
最後の質問は「未来の教育はどうあるべき?」という内容。奥田氏はこれに対し、「生徒にインターネットからの情報の引き出し方を教えないといけないかなと思います。それを教えるためにも、教員は勉強を続けないといけないでしょう」と話した。
以上、各セッションの概要をお読みになって、全編を聞いてみたいと思われるものがあったら、以下のリンクから動画を視聴していただきたい。GIGAスクール構想の実現や、セキュリティの確保などについて、参考になることがあるはずだ。
●「WIRELESS NAVI 2020 ~ICT授業を止めない、快適なネットワークづくり! withコロナ時代に先進学校から学ぶ~」再配信
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