かねがねDX(デジタルトランスフォーメーション)が求められてきたなか、新型コロナウイルスのパンデミックが発生し、ビジネスをめぐる世界はいま不確実性をいっそう増している状況だ。いわゆるウィズコロナとその後のアフターコロナ、そしてニューノーマル時代の到来に向け、デジタル化によるデータ活用の加速がどの企業でも重要なテーマとなっている。

2020年12月3、4日の両日、「マイナビニュースフォーラム 2020 Winter for データ活用 ニューノーマルに備えるデータ戦略」が開催された。ここでは同フォーラムの初日に行われた『経営層も熱狂させるAI活用 〜成功の鍵は「UX First」~』の模様をレポートする。

AI開発のPoCフェーズでよく見られる問題点

本プログラムは、富士通クラウドテクノロジーズ株式会社のデータデザイン部 データディレクター、林真亜子氏による講演だ。富士通クラウドテクノロジーズはパブリッククラウドサービス「ニフクラ」を開発・提供していることで知られる。もともとはISP事業を展開するニフティを前身とし、2017年分社化により設立された企業である。

富士通クラウドテクノロジーズ株式会社 データデザイン部 データディレクター 林 真亜子 氏

富士通クラウドテクノロジーズ株式会社
データデザイン部 データディレクター
林 真亜子 氏

同社では「ニフクラ」に加えてAIソリューションも手掛けており、林氏はAI開発に携わっている。林氏はまず、AIの重要性が叫ばれながらも活用がなかなか進まない、もしくは取り組みを始めても失敗するケースが多々見られる現状について次のように整理した。

「デジタル化はもはや当たり前で、いまはその先、デジタル化によってビジネスモデルを変化させていく段階に入っています。AIの導入事例が増え、情報取得の手段も充実して、誰もがAIを勉強でき、利用できる時代になっています。にもかかわらず、AIの知識が不足していると多くのユーザーが感じている。その原因は、AI活用を自社の課題に結び付けられないからだと考えられます。また、AI導入について経営層の理解を得られないという課題も出ています」(林氏)

AI開発の道のりは長く、一般的な開発フローではPoCに多くの時間を費やすため、導入まで最短でも半年程度の期間を要することが問題だと林氏は指摘する。そのうえでPoCのフェーズにフォーカスし、AIベンダーに丸投げするとPoCは失敗しがちになると述べ、こう続けた。

  • AI開発の道のりは長い

「AI開発には、ユーザー企業側のドメイン知識とベンダー側のAI知識の双方が必要です。一般的にベンダーは顧客の業界の事情に詳しいわけではないので、業界に関する専門知識や用語をユーザー側からベンダーにインプットしなければなりません。また、PoCのフェーズではベンダーからAIモデルの精度などに関するレポートが納品されますが、ユーザー側はそのレポート内の数字のみに目が行きがち。しかしPoCのそもそもの目的はまさに実証であり、このテーマに投資していいのか検証するためのものです。ですから、この段階でAIモデルの精度(=数字)だけに固執してしまってもスピード感が落ち、結局のところ投資できるかできないのかを判断するに至りません」(林氏)

PoCで出されるAIモデルの数字に振り回されると、数字を上げるためにさらなる予算を要求することになる。それでは経営層にAI導入の意義を理解させることは難しく、結果的に計画が頓挫する“PoC死”のケースが多くなってしまうという。

迅速に開発したプロトタイプを現場で使うことの重要性

では、AI導入を成功させるにはどうすればいいか。林氏は、PoCでは細部にこだわらず、まずは「動く」「触れる」プロトタイプを少しでも早く開発することが必要だと説く。

「プロトタイプを現場で使うことで、現状と理想のギャップが見えてくるため、それを成長させていくという明確なゴールが生まれます。そうすればゴール達成に向けてどのようなアクションを起こせばいいのかがわかり、経営層の理解も得やすくなります。さらに重要なのは、業務を行うユーザー自身がプロトタイプを実際に動かしてみることで、AIの知識が身につくうえ、主体的に試行錯誤でき、改善への大きな一歩を踏み出せます」(林氏)

  • PoCの中で早期にプロトタイプを開発するメリット

林氏は講演冒頭で、AIを勉強できる環境は充実しているのに知識不足を実感するユーザーが多いのは、自社の課題に結び付けられないことが原因だと語った。現実にプロトタイプを動かしてみれば、自社の業務とリンクさせることができ、AI導入を自分ごとと捉えられ、AIの知識も身につけられるというのが林氏の提案する考え方だ。 そのうえで、AIを現場に導入していくには業務プロセスを一から設計し直す必要があるとし、「既存業務を従来のプロセスのままAIに代替させようとしても、そこにAIがきっちりはまるケースはほとんどありません」と強調した。

続いて林氏は、AI導入で業務プロセスを変え、成功した事例を紹介。

ある食品メーカーでは、製造した食品を詰めた段ボール箱の破損状況を検査員が目視でチェックしていた。ここで、まず判定基準が検査員によって異なるという1つ目の課題が生まれていた。さらに、2つ目の課題として、納品先で段ボール箱に傷がついていると指摘され、中身の製品には問題がないにもかかわらず受け取り拒否が発生し、倉庫に持ち帰って箱詰めをし直し再配送するという手戻りの手間が生じていることが挙げられた。

  • 段ボールの破損判定1

「この企業は段ボール箱の破損判定にAI導入を考えました。破損を画像からAIで検知するモデルのプロトタイプを作り、現場の作業員が撮影した箱の写真をもとにAIが出荷の可否を判定するという業務プロセスを新たに設計したわけです。撮影することで、まず1つ目の課題である判定基準の標準化を実現できました。

  • 段ボールの破損判定2

一方、2つ目の課題についてですが、『AIで判定したから問題はない』と主張しても、受け取る側の気持ちとして納得感は生まれません。そこでこれまでの画像からよく似た事例をレコメンドし、過去には同様の状態で受け取っているので今回も受け取ってほしいと、受け取る側の納得感を生むための改善を目指して現在取り組みを継続しています」(林氏)

AI導入時に大切なのは、使う人間の気持ちに寄り添うこと

さらに林氏は事例をもうひとつ例示する。こちらはドライバーの安全運転評価にAIを導入するという事例だ。

「従来はドライブレコーダーの映像を見て管理者が評価していました。この作業に膨大な時間を要していたため、評価をAIに代替させようと考えたわけです。しかしながら、ドライバーの心理としてAIに評価されるというのは抵抗があることも理解できます。この部分を重視し、AIに任せるのは膨大な映像から危険運転のシーンを切り出すことのみに限定して、評価自体は人間が行うようにしました。これによって映像をチェックする時間を大幅に削減しつつ、ドライバーには評価に関する安心感をもたらすことができました」(林氏)

  • ドライバーの安全運転判断
  • ドライバーの安全運転判断

これらの事例に共通するのは、納得感、安心感といった人間の気持ちである。「大切なことは、AIは誤判定をするもので人間がそれまで行ってきた作業の100%をAIに代替させることはできないため、それを見越した設計をすること、そしてその際には現場の気持ちをしっかり酌むこと、つまりユーザー体験を重視することなのです」と林氏。

AIという技術を押し付けるのではなく、納得感、安心感に代表されるユーザー体験にフォーカスし、使う人の気持ちに寄り添った“UXファースト”の取り組みこそが重要になるという指摘だ。

  • 成功のカギは「UX First」

同社では静止画・動画データの解析だけでなく、数値や文書データを扱うAIモデルも開発している。紹介されたのは、店舗の来客数予測やアンケート解析を行うプロトタイプだ。

「現場の気持ちを知るためにも、まずはプロトタイプを作り、現場で利用したうえで改善する。そしてそのサイクルを高速に回していく。こうした取り組みによって、AI導入を成功に結び付けることができます。富士通クラウドテクノロジーズはUXファーストの立場から、ユーザー企業のさまざまなシーンに対応するAI開発・活用をサポートし、AIの発展に貢献していきたいと考えています」と林氏は話し、講演を締めくくった。

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