自動車業界/産業機器業界が注目する、無料で使えるWebシミュレーションツール

デジタルテクノロジーの進化にともない、車載分野や産業機器分野における電子化は急速に進行し、近年では電子機器の設計で小型化・多機能化・高性能化が求められるようになった。
特に車載分野では電子デバイスや回路の数が爆発的な増加を続けており、部品選定から基板設計、試作、評価に至るまでの工程が複雑化し、開発期間の長期化が大きな課題となっている。

車載分野では開発期間の短縮と品質向上を図るため、シミュレーションを通じて“モノをつくる前”に製品の品質を検証する「モデルベースデザイン(MBD)」が浸透してきており、「シミュレーションの活用」が重要なキーワードとして注目を集めている。
たとえば回路の基板を試作する際、従来は試作基板を作成・検証し、問題があればさらに試作して……といったコストと工数のかかるフローで進めていたが、この部分にシミュレーションを活用することで、コストと工数を大幅に削減することが可能となる。

MBDの開発では、シミュレーションツールにインポートするための、デバイスの“動く仕様書”、すなわち「モデル」が必要になる。また、シミュレーションツールには高額な導入費用がかかる製品も多く、すべての企業の電子回路/システム設計者が利用できるわけではない。

こうした課題を解決するため、半導体・電子部品メーカーとして、実績の高い技術力をベースにビジネスを展開するローム株式会社が開発したのが、SiC(シリコンカーバイド)デバイスなどのパワーデバイス(パワー半導体)と駆動ICの一括検証が可能なWebシミュレーションツール「ROHM Solution Simulator」だ。

開発に携わったローム株式会社 システムソリューションエンジニアリング本部 ソリューションエンジニアリング課 グループリーダーの安武 一平氏は、その経緯をこう語る。

  • ROHM Solution Simulatorで回路検証を行う安武氏(右)と愛宕氏(左)

    ROHM Solution Simulatorで回路検証を行う安武氏(右)と愛宕氏(左)

「車載ユーザーを中心に、シミュレーションツールに関するニーズが高まっていることは以前より感じていました。実際、弊社独自の調査では、80%以上のお客様(車載に限らず)がシミュレーションを活用しているという結果が出ています。ただし、シミュレーションツールは導入に費用がかかってしまうケースも多く、使えるユーザーが限られるといった課題を抱えていました。そこで、Webにつながっていれば無料で使える『ROHM Solution Simulator』を開発し、誰もがシミュレーションの活用を行える環境を用意しました」

ROHM Solution Simulatorは、単なるシミュレーションツールではなく、ロームが強みとしているパワーデバイスと、それを駆動するためのICを組み合わせたパワーソリューション回路を筆頭に、ロームの多様な製品ラインナップを活かして、各種製品を組み合わせたソリューション回路を検証できる環境を提供していると安武氏。

「弊社が力を入れているSiCに代表される先進的なパワーデバイスと駆動のために必要となるゲートドライバーICを、同じ回路上でシミュレーションすることで、組み合わせた時の特性検証を実施できるため、設計の出戻り削減が期待できます」とメリットを挙げる。

一般的に回路設計・基板設計は「部品選定」→「回路設計」→「回路検証」→「基板設計」→「実機検証」といったフローで進められ、それぞれの工程で必要なツールは変わってくる。

ROHM Solution Simulatorはこのなかで「部品選定」から「回路検証」までをカバーするが、ロームはこの他にも各工程向けのツールを提供しており、回路・基板設計の工程をトータルで支援している。このため、ROHM Solution Simulatorは単体での利用はもちろん、ロームの提供するソリューションを統合的に活用するためのツールという位置付けになっている。

シミュレーションプラットフォームにSystem Vision Cloudを採用した理由

無料で使えるSaaS型のシミュレーションツールとなるROHM Solution Simulatorは、メンターが提供するクラウドベースのプラットフォーム「System Vision Cloud(SVC)」が、バックでソルバーとして機能している。このため、ROHM Solution Simulatorに用意されたボタンをクリックするだけで、SVCに回路を移行することが可能。SVC上で回路の変更を行ったり、追加した部品のモデルをインポートしてシミュレーションを実行することもできるなど、拡張性の高いシミュレーションツールに仕上がっている。

ロームがROHM Solution SimulatorのプラットフォームとしてSVCを採用した理由を、安武氏はこう述べる。

「SVCを選んだ最大の要因は、インターネットを介して無償でシミュレーションが行える開発プラットフォームだったことにあります。一般的なシミュレーションツールは、ダウンロードして導入し、ライセンスファイルを読み込んだりと複雑な作業・設定が必要となりますが、SVCを採用したROHM Solution Simulatorならば、追加の投資や面倒な設定なしで、手軽に部品選定と検証が行えるのがポイントです」

またSVCが、車載ユーザーの注視するMBDで重要となる「マルチドメインシミュレータ」で、回路の電気的なシミュレーションだけでなく、デバイスの発熱や機械(モーターの出力トルクなど)を同じ環境で一緒にシミュレーションできることも採用の要因になったと安武氏。安心感につながる技術力と将来的な拡張性を持ったプラットフォームと、SVCを高く評価する。

ロームがSVCをプラットフォームとしてROHM Solution Simulatorの開発を決定したのは、2019年の9月となる。それ以前から、ロームとメンターはさまざまなツールで連携しており、今回のROHM Solution Simulatorにおいても、メンターの優秀なエンジニアから手厚いサポートを受けたという。開発が完了し、サービス提供が開始されたのは2020年2月27日。メンターの支援もあり、キックオフから半年ほどでリリースに至っている。

開発にあたって苦労したポイントとして、安武氏とともに開発に携わったローム株式会社 システムソリューションエンジニアリング本部 ソリューションエンジニアリング課 愛宕 崇之 氏が挙げるのは「シミュレーションの高速化」だ。

「回路トポロジーによっては回路の規模が大きくなってしまうため、シミュレーションに1時間以上かかってしまうケースがありました。このため、一部のデバイスモデルの記述言語を『SPICE』から『VHDL-AMS』に変え、シミュレーション時間を50%ほど短縮することに成功しています」と愛宕氏は説明する。ここでも、SPICEモデルとVHDL-AMSモデルに対応し、ユーザーのニーズに合わせて選択できるSVCの特徴が活かされている。

ROHM Solution Simulator使用イメージは、ソリューション回路を選んでデバイスを選択(抵抗値など数値の変更も可能)、回路上でシミュレーションを実行して各ノードの波形などをモニタリング。ROHM Solution Simulatorの回路上にあるデバイスには、サンプル注文のページへのリンクが用意され、使えると判断できたデバイスは簡単にサンプルを注文することが可能となっている。必要に応じてSVCにエクスポートし、自由度の高い環境でシミュレーションを行うこともできる。

  • 検証からサンプル注文まですばやく簡単に実施

「パワーデバイスのソリューション回路は、パワーエレクトロニクスの分野で一般的なAC-DC、DC-DC、DC-ACなどさまざまな回路トポロジーがあります。ROHM Solution Simulatorではサービス開始時に44の回路(パワーデバイスのソリューション回路以外も含めるとリリース時に59回路)を用意し、お客様の要望に応えています」と安武氏。IC単品に関しても、DC-DCコンバータやLDO、LEDドライバーといったものを単品評価できる回路を取り揃えていると語る。

安武氏は、回路トポロジーの一例として、EVで使われるオンボードチャージャーのソリューション回路や、10月20日にリリースしたばかりの、ADAS/インフォテインメント機能に必要な電源ツリーを評価できるシミュレーション回路(要MyROHMへのログイン)を挙げる。ROHM Solution Simulatorから SVCにエクスポートし、「基板パラメータ(寄生成分)」を組み込むことで、実機と同様の波形を再現。さらに寄生成分の抽出を重要なものだけに絞り込むことで、高い波形再現性を担保しながらシミュレーション時間の短縮を実現できることも確認している。

  • ソリューション回路シュミレーション事例
  • 回路トポロジーを豊富に準備

    EVで使われるオンボードチャージャーのソリューション回路。
    回路のブロック図(左上)と対応したハーフブリッジのシミュレーション回路(下)、
    実測可能な評価キット(右上)を連動して解析を行うことが可能となる

ユーザーの要望に応じてソリューション回路を追加

2020年2月末からサービス提供が開始されたROHM Solution Simulatorは、ロームのWebサイトに用意された数多くのリンクからアクセスすることができる。回路の追加は継続して実施されており、2020年11月現在で104のソリューション回路が用意されている。ユーザーの要望に応じた回路の追加はメールマガジンなどで告知しており、利用者も順調に増加しているという。

  • ROHM Solution Simulatorへのアクセス

リリースしてからユーザーは増え、同じ回路でパラメータ変更をして複数回シミュレーションを実施するなど、リアルな設計に活用いただけていると安武氏。「ユーザーから、回路の動作だけでなく温度も一緒にシミュレーションしたいといった要望も多いため、使える回路ラインアップの拡充だけでなく、このような新しい機能の追加にも取り組んでいく予定です。
今後も、お客様のニーズにこたえられるシミュレーションを提供していくので、ご期待ください」と展望を語る。

System Vision Cloudとは

SystemVision Cloud(SVC)は、最先端のマルチドメイン・シミュレーションの実行を支援するクラウドベースのソフトウェアサービスである。ウェブブラウザからアクセス可能なため、時間と場所を問わずに解析を実行できるほか、暗号化されたVHDL / AMSモデルとSPICEモデルをサポートする。

SVCからは、メンターが提供する主力プリント基板(PCB)設計ツールであるXpeditionへと回路トポロジーをインポートできるため、顧客の設計データを基板設計フローへスムーズにつなぐことが可能だ。加えて、電気回路だけでなく、機械や熱の回路モデルにも対応し、回路図の入力、グラフィカルな波形表示、調整可能なパラメータ変更など、非常に使い易い機能を備えている。

◎System Vision Cloudの公式ホームページはこちらから

車載分野をはじめ、電子回路に携わるすべての設計者にとって、ROHM Solution SimulatorとSystemVision Cloudの連携により実現する「シミュレーションの活用」には、今後も注視していく必要がありそうだ。

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