新型コロナウィルスの影響で、ECサイトや食品のデリバリーを利用する消費者が増えている。これを機にEC事業に乗り出したり、既存のECサイトを充実させたりと、取り組みを強化している企業も多いだろう。そこで考えなければならないことのひとつに決済手段がある。実店舗でのキャッシュレス化の波にも乗り、ECサイトでも利用可能な決済手段が続々と登場するなか、事業者はどんな決済サービスを選ぶべきなのか。

今回は、Webやフリーペーパーを通じてEC業界に特化したメディア「ECのミカタ」の運営を行っているMIKATA株式会社の代表 小林 敬介氏と、決済代行会社として豊富なペイメントサービスを提供するSBペイメントサービス株式会社の長田 直樹氏、大場 絵理香氏を招いてオンライン対談を実施。これからのECサイトにおける決済手段選びに必要な考え方を語ってもらった。

  • 対談の様子

顧客層を鑑み、決済手段はクレジットカードを含め5~6種類がベター

――コロナをきっかけにEC事業に関心を示す企業は増えていますか?

ECのミカタ 小林 敬介氏(以下、小林氏):増えているようですね。4月に入って、当社が運営している情報サイト「ECのミカタ」のアクセス数は伸びていますし、飲食店のようにこれまでEC事業を行っていなかった業種の方から「なるべくコストをかけずにEC事業を展開したい」とか、決済手段をどうしたらいいのかとか、相談されることも増えてきました。

――用意すべき決済手段は?

小林氏:私が答えるとしたら、クレジットカード決済、後払い(コンビニ決済)、あとはID決済といったあたりですね。

  • 小林 敬介氏 MIKATA株式会社 ECのミカタ事業本部 代表―1983年 神奈川県横浜市育ち。新卒にて、コンビニチェーンに就職後、2009年 株式会社Ryo-MA(現MIKATA株式会社)に転職。ミカタ事業立ち上げメンバーとして、EC業界メディア立ち上げに関わると共に、EC事業者10万社に配布する業界専門誌「ECのミカタ通信」の企画編集なども務める。広告サービス、セミナーイベントなど新規事業立ち上げに貢献する。2017年 子会社化したソイコム株式会社の代表取締役に就任する。ECのミカタの媒体ユーザーでもあるネットショップ事業者の課題や悩み、成長ハードルを身をもって体験。2019年12月 ECのミカタ代表取締役就任。EC通販事業を行うソイコムの経験を生かし、ECのミカタ事業の成長のため、さらなる変革に挑む。

SBペイメントサービス 長田 直樹氏(以下、長田氏):今までのEC利用者は、ECサイトでクレジットカードを使うことに抵抗がなかった方々ですが、コロナで外に出られなくなって、これまで実店舗で品物を見て買っていた方や、クレジットカードを持っていない若い方が、ECサイトを利用する機会も増えてきています。そういう方々は、ECサイトで注文した商品を手にしてから後で支払う「後払い(コンビニ払い)」を利用することが多いですね。日本のEC化率は年110%(※1)ほどで成長していますが、それに比例して後払いを利用する方の数も増えているということです。

ですから日本に根付いた後払い(コンビニ決済)、ECサイトでの決済の基本であるクレジットカード決済は外せませんね。あと、新しいものだと、ID決済(AmazonPayやPaypalなど)とQRコード決済(PayPayなど)も有効な決済手段となりつつあります。

小林氏:決済手段がいろいろあって、ECサイトの運営側が「どこまで決済手段を用意すれば良いのか分からない」という話も聞きます。「あれもこれも使えます」という状態にしてしまうと、消費者が選ぶのに手間取って、ECサイトとしてのユーザビリティが落ちてしまったり、ECサイトの運営側の面倒も増えたりしますよね。

長田氏:ええ、いくつもの決済サービス提供企業と個別に契約をしていると、入金経路が複数になって、運営側の業務工数がかさんでしまいます。ですが、我々のような決済代行会社を利用していただければ、複数の決済手段があっても契約や入金を一本化でき、運営に掛かる工数も削減することができます。

――窓口さえ一本化できていれば、決済手段はいくらあっても良いのでしょうか?

長田氏:いえ。消費者の側からみても、ECサイトに5~6種類くらいの決済手段があれば、選択肢が豊富だと感じてくれるのではないでしょうか。10ではちょっと……、あり過ぎという印象を持ちます。

それよりも、どの決済手段を選ぶかは、顧客層によって決めるべきで、30~40代がメインならクレジットカード決済やID決済。10代や20代前半の若年層が多いならPayPayやLINE PayのようなQRコード決済を用意する。「いくつ用意するか」よりも、「顧客にとって何が最適か」で決済手段を用意することが大切です。

  • 長田 直樹氏 SBペイメントサービス株式会社 営業本部 営業推進部 部長―2004年4月 ソフトバンク(株)入社。入社後、人事本部にてグループの新卒採用企画に従事。2009年10月よりソフトバンクグループで教育サービスを手がけるサイバーユニバーシティ(株)にて営業や事業開発を担当し、2014年よりSBペイメントサービス(株)にて営業推進部 部長として決済サービスの営業推進やサービスの企画に従事。

決済手段が少ないと、消費者は別のECサイトへ行ってしまう

――決済手段の数はコンバージョンレートに影響するでしょうか?

長田氏:当社でEC利用者約2,000人を対象としたアンケートを実施したところ「よく利用する支払方法がない場合はどうしますか」という質問に、60%以上の人が「他のネットショップで同じ商品を探して購入する」と回答しました。

プライベートブランドのように、そのECサイトでしか買えないものは別ですが、決済手段が少ないと他のECサイトに乗り換えられてしまう可能性があるということですね。

小林氏:キャッシュレス決済を利用する人の裾野は広がっていますからね。ポイント還元制度やコロナ禍がキャッシュレス化を後押ししているいまだからこそ、企業や店舗もちゃんと対応しないとダメだという空気になってきていると思います。

長田氏:決済手段を選定する際には、自社のECサイトとターゲットが同じか近いメジャーなECサイトを参考にするのが良いと思います。自社が30~40代の方をターゲットにしているなら Yahoo!ショッピングやAmazon、アパレルサイトなどお洒落が好きな方がターゲットならZOZOTOWNというように、メジャーなECサイトが扱っている決済手段と合わせておけば、利用者が不便を感じることは少なくなるでしょう。

――最近ではPayPayなど、新しいサービスがどんどん生まれて「どれを導入すべきか」と悩む事業者も多いと思います。こうした動きも踏まえ、対応できるサービスを増やしていくべきなのでしょうか?

小林氏:いえ。あれやこれやと導入を進める前に少し慎重になって周りをみるのがいいかもしれませんね。我々メディアも新しい決済サービスが出ると「出ました!」と煽りがちですが、だんだん淘汰されていって、どのサービスが残るかは2~3年かからないうちに決まるんじゃないでしょうか。決済サービス会社は競ってキャンペーンをやって、シェアを取り合っていますからね。まさに体力勝負という感じです。

長田氏:そうですね。そのサービスを使える経済圏とセットで提案できなければ、残ってはいけないだろうと思います。たとえば弊社も一員であるソフトバンクグループはPayPayを展開していますが、同じグループ内にはYahoo!ショッピングやZOZOTOWNなど幅広いシーンでPayPayによる決済が利用できる仕組みをつくっています。決済サービス単体ではなく、グループの経済圏全体で収益を生み出すという構造なんですね。決済サービスを提供している会社のなかで、そこまでできるところは多くはないでしょう。

小林氏:確かにEC事業というのはショップ、システム、決済、配送などが揃わないと成り立たないビジネスですよね。そう考えると世の中で今、どんなシステムや決済サービスが流行っているのかを考えるより、未来を描きながら、自社は何をしたいのか、そのためにはどの決済手段を選ぶべきかを十分に考えることが重要ですね。

顧客体験の向上とECサイト運営業務の効率化に役立つAI不正検知

――SBペイメントサービスでは、AIを活用した不正検知を2020年11月から開始されましたが、これも選ばれるペイメントサービスになる大きな要素となりそうですね。

SBペイメントサービス 大場 絵理香氏(以下、大場氏):はい。外部企業と連携して不正検知を提供している事業者はほかにもありますが、今回、我々はAIを活用した不正検知サービスを国内の決済代行会社として初めて自社提供することとなりました。(※2)

  • 大場 絵理香氏 SBペイメントサービス株式会社 企画推進本部 事業企画室 チームリーダー―2005年4月ソフトバンク(株)入社。入社後、情報システム本部にて新規事業開発、法人事業統括にて顧客満足度調査やBtoB/BtoCの市場調査などのリサーチ業務を担当。2016年よりSBペイメントサービス(株)の事業企画室に所属し、新規事業や中長期事業の企画に従事。今回「AI不正検知」のサービス企画を担当。

――仕組みを教えてください。

大場氏:自社に蓄積された年間数億件を超える決済データから、あらゆる不正パターンを機械学習し「モデル」を作成しています。このモデルを使用して人間では見分けがつかない不正パターンとの類似性をスコアとしてリアルタイムに算出し、”疑わしさ”を判定します。

この”疑わしさ”のスコアが高ければ、管理画面で商品の発送を停止する、利用者に本人確認を行うなどの不正利用対策が打てます。ルール判定機能もあるため、スコアによって「取引をブロック」「3Dセキュア認証(※3)をかける」などの振り分けを自動で行うことも可能です。

  • SBPS_対談(小林氏)_006
  • SBPS_対談(小林氏)_007
  • (上)SBペイメントサービスが提供するAI不正検知の仕組み(下)同ダッシュボード

小林氏:消費者の行動がビッグデータとして蓄積されているからこそ、こうしたAI活用ができるわけですね。

大場氏:はい。EC事業者のなかには、カスタマーセンター部門が兼業で不正利用対策を行っているところが多く、不正が疑われる利用者への対応に時間を取られていると聞いています。自動化が進めば、本来カスタマーセンターが行うべき顧客への接客に時間を充てることができるようになるでしょう。

小林氏:不正かどうか疑わなければならないというのは、気持ちの良い作業ではありませんから、不正利用対策に携わる人の精神面にもメリットがありそうですね。

大場氏:そうですね。機械が判定すれば、担当者の気持ちが落ちることもなくなるでしょうね。 またAI不正検知には、お得意様をホワイトリストとして登録できる機能もついています。実はお得意様と不正利用者の間には「短期間に何度も購入する」という共通点があるんです。

そこでハッシュ値に変換したクレジットカード番号やEC事業者が決めた顧客IDなどを条件に、お得意様を判定から外すこともできるような機能もつけています。お得意様に3Dセキュアの認証を求めてしまうなんてことは避けたいですからね。

長田氏:高精度の不正検知で、EC利用者には快適なショッピングを楽しんでいただき、EC事業者側では不正のリスクと、対策にかかる負担を削減していただく。その両立を目的としたサービスです。

今後、EC利用率がますます増えれば、不正利用の割合も増えていくことは明らかです。ノーガードでEC事業に取り組めば、大きな損害を被る可能性もありますから、ぜひ当サービスをご活用いただきたいですね。

――EC事業の展開にあたっては、決済サービスをどれにするかということに加え、それらをセキュアに、そして快適に利用できる環境についても考慮しておく必要があるというわけですね。本日はありがとうございました。

(※1)経済産業省「令和元年度内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業(電子商取引に関する市場調査)」より

(※2)「AI不正検知」はクレジットカード決済での注文で利用できます。その他の決済手段での注文では利用できません。

(※3)インターネット上で行うクレジットカード決済をより安全に行うための本人認証サービス
参照:本人認証サービス(3Dセキュア)とは

Information

今回取り上げたSBペイメントサービス株式会社が提供する各種決済サービス、AI不正検知の詳細は、下記HPにてご覧いただけます。

SBPS_対談(小林氏)_008


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