2020年9月14日にPythonエンジニア育成推進協会が実施する「Python 3エンジニア認定基礎試験」と「Python 3エンジニア認定データ分析試験」の合計受験者数が1万人に達した。これは民間のIT試験では異例のスピード到達だ。データ分析やAIなど幅広い分野で活用できるプログラミング言語「Python」の人気の高まりを受け、マーケティング担当者などシステムエンジニア以外の職種の人が受験者の半数を占めるという。
機械学習やAI、Web開発、クラウドまで幅広い分野で選ばれるPython
「3年強という短い期間で受験者数が1万人を突破した民間のIT試験は、過去に聞いたことがありません」(吉政氏)
Pythonエンジニア育成推進協会 代表理事の吉政忠志氏は胸を張る。そもそもPythonエンジニア育成推進協会とは、2016年4月21に発足したPythonのエンジニアを育成するための団体だ。2017年6月に「Python 3エンジニア認定基礎試験」(以下、基礎試験)を開始し、2020年6月には「Python 3エンジニア認定データ分析試験」(以下、データ分析試験)もスタートした。受験者数は急速に増加し、同年9月には早くも両試験の合計受験者数が1万人を突破している。
「機械学習とAI(人工知能)、ビッグデータというそれぞれ大きな需要を持つ分野がほぼ同時にブレイクし、その中心的なプログラミング言語としてPythonが採用されたことが受験者数急増の大きな理由と考えています」(吉政氏)
実際に機械学習やAI分野におけるPythonの利用率と普及率は高く、「最新の調査だと6割ぐらいのようだが、実はもう少し割合が高いと考えている人が多い」と吉政氏は語る。
「なかでもPythonは機械学習やAIだけでなく、Web開発やクラウドまで幅広い分野で使えるため、選ばれることが多いのです」(寺田氏)
Pythonは機械学習やAIだけでなく、Web開発やクラウドまでさまざまな分野で使えるため、幅広く選ばれることが多くなってきている。特に、ネットワーク・サーバ管理分野でもPythonエンジニアが多く求められており、吉政氏も「以前行ったアンケートの結果、Pythonエンジニアに関する求人の7割を機械学習エンジニアとネットワークエンジニアがほぼ同率で占めていました」と語る。このことからもPythonがさまざまな分野で利用されるプログラミング言語であることが理解できるだろう。
試験の実施でデータ分析に関わる人を増やして未来のスーパーエンジニアを生む
Pythonエンジニアの間では「Pythonをつくるときにはこうあるべきだ」「Pythonを書く人はこういう考えたほうがいい」という“哲学”が共有されている。その哲学は「Pythonic」と呼ばれており、同協会はPythonicの推進を自らの重要なミッションとして掲げている。
そうしたPythonエンジニア育成ための指標として、Pythonエンジニア育成推進協会は試験を重視している。「基礎試験」はPythonの文法基礎を問うものだ。主教材である『Pythonチュートリアル 第3版』(Guido van Rossum著、鴨澤眞夫訳)の掲載内容を出題範囲とし、Pythonに関する一般的な知識も求められるという。
他方、「データ分析試験」はPythonを使ったデータ分析の基礎や方法を問う試験で、『Pythonによるあたらしいデータ分析の教科書』(寺田学、辻真吾、鈴木たかのり、福島真太朗の共著)が主教材となる。Pythonでデータ分析を行うシステムエンジニアと一緒に働ける人を明確にすることを目的としている。寺田氏も「Pythonを使ってチームでデータ分析を行う際、新たなメンバーをジョインさせるときに、データ分析試験に合格していることが共通の言葉を理解できる人材としての基準になります」と語る。
さらにデータ分析の現場では、データ分析のアルゴリズムを作り、高度な問題を解決できる人だけが求められているわけではない。その前工程で膨大なデータを加工し、分析可能な形に整える人も必要となる。
「大学などでは少数の高度な人材の育成が行われていますが、私たちはデータ分析に関わる人材を数多く増やすためにデータ分析試験を実施しています。この試験をきっかけにして機械学習のエンジニアを目指したり、アルゴリズムを勉強したりする人が増えることを期待しています」(寺田氏)
受験者の半数はマーケティング担当者やAI市場にチャレンジする非エンジニア
同協会の試験を受験する人はエンジニアに限らない。実は受験者の半数はエンジニアではない人たちだという。
「非エンジニアの方たちは大きく2つのタイプに分けられます。1つは、たとえば企業のマーケティング担当者でデータ分析を行いたいといったような、ほかの分野でプロフェッショナルな方たち。もう1つは、将来AIエンジニアなどになることを目指してPythonを学んでみようという方たちです。機械学習やAIの市場はとても大きいので、仕事探しを有利に進めるうえでもPythonを学ぶことには十分な意義があると思います」(吉政氏)
非エンジニアの受験者が多い理由として、Pythonが初学者にも学びやすい言語であることが挙げられる。しかもプロフェッショナルとしてその道を極められるのが強みだ。
寺田氏も「データ分析の前に必要なデータ加工の作業は、Python以外のプログラミング言語でも行えます。それにもかかわらず多くの人がPythonを選ぶのは、その先の利用価値が大きいからです」と語る。たとえば機械学習を行う場合、Pythonならばデータ集めだけでなく、機械学習の実行までのすべてを1つの言語で行える。学びやすいだけでなく、奥深さもあるというPythonの特徴が、多くの人の支持を集めているのだ。
「最近はRPA(Robotic Process Automation)でのPythonのニーズも高まっています。今はまだExcelしか使えないけれど、機械学習まで行えるPythonを学んでみようと考える人が増えているのです。そこで自分の学習段階を確認するためにPythonエンジニア育成推進協会の試験を利用している方が多いと感じています」と寺田氏は話す。
独学と認定スクール利用の2つの学習方法にはそれぞれメリットがある
Pythonエンジニア育成推進協会の試験に合格するためには、どのような学習の仕方があるのだろうか? それには独学することと認定スクールを利用して学ぶことの2つの方法があると吉政氏は言う。前述の通り、同協会の試験には主教材がある。試験は必ず主教材から出題されるので、主教材を理解できれば胸を張って試験に臨むことができるはずだ。
「ただ、主教材は初学者には難しいかもしれません。『基礎試験』の主教材はプログラマー向けに書かれたものなので、プログラミングを知らない方が読むと難解でしょう。『データ分析試験』の主教材は少し初学者向けに書かれた部分もありますが、それでも難しいと思います」(寺田氏)
主教材を読んでも理解できない方は、初学者向けに書かれた本を読んだり、Python学習者向けの動画を視聴したりするといい。初学者向けの本を選ぶなら、Pythonの分野で名前がよく知れた人が書いた解説書が無難とのことだ。また、動画の教材として注目したいのは、日本のMOOC(Massive Open Online Course)を推進する団体『JMOOC』が提供するPythonの講座である。
「『JMOOC』では、私が講師を務めた講義『Python入門 2020』も用意されています。Pythonについて一通り説明していているので、興味がある方は視聴してみてください」(寺田氏)
もう1つの学習方法が、認定スクールを利用することだ。Pythonエンジニア育成推進協会は「認定スクール」制度を設けており、2020年7月8日現在で12社が認定されている。
「自分に合ったスクールをよく見極めたうえで受講することをお勧めします。動画と違い、教室で講師の話を聞いたり、質問したりすることができるので、Pythonicに関する感覚的なことも学びやすいはずです。ある調査によると、最も短時間で学習できる方法はスクールに通うことだというので、予算がある方はぜひ検討してみてほしいですね」(吉政氏)
Pythonは10年、20年、30年という長い期間、利用され続けていくプログラミング言語だという。吉政氏もあらためて「機械学習やデータ分析の要素は今後、すべての業務システムで利用されてもおかしくないので、Pythonおよびその周辺の知識やノウハウは、エンタープライズのITで必須の知識になるはずです」と、エンジニアとして生きていくうえでPythonを学ぶ意義を語った。
より実践的なPython試験の実施を計画して受験者数の増加を加速
Pythonエンジニア育成推進協会は、より実践的な試験として「エンジニア認定実践試験」と「データ分析試験NumPy & pandas実践(仮)」の2つの試験の実施を計画している。Pythonを実際に現場で使えることを目指すのが「エンジニア認定実践試験」で、2021年前半にβ試験を実施する目標を掲げているという。また、「データ分析試験NumPy & pandas実践(仮)」は、データ分析試験をより実践的にするものだ。
「Pythonでデータ分析を行ううえで「NumPy & pandas」はとても重要なツールです。これらをデータ分析の現場で使えるようになる試験をつくろうと思っています。こちらの実施時期は未定です」(寺田氏)
Pythonエンジニア育成推進協会の試験の活用を検討する企業に向けて、吉政氏はこう話す。
「売上の約4%を社員教育に当てているシステム開発会社の障害発生率は、そうでない会社の半分以下という調査データがあります。若手社員だけでなく、ベテラン社員にも当協会の試験を受験していただき、基礎知識を再確認してもらうことは障害発生率を低下させるための有効な手段になるはずです」(吉政氏)
また、吉政氏は「10年後、20年後にITシステムがどう変わっているのかはわかりませんが、データ分析の必要性はなくならないでしょう。データ分析に欠かせないPythonの知識と現場のノウハウを身に付けていれば、必要とされ続けるエンジニアになれるでしょう」と個人で受験を検討する人たちにもエールを送る。
幅広い分野で活躍するPythonは、今後も利用者が増えていくことが期待される。それに伴い、Pythonエンジニア育成推進協会の「Python試験」の受験者数もより加速していくことだろう。
Pythonエンジニア育成推進協会が
実施する試験について
「Pythonハッカーガイドブック」が発売中!
著作者名:Julien Danjou
翻訳者名:株式会社クイープ
監訳者名:寺田学
発行:マイナビ出版
本体価格:2,992円
ページ数:328ページ
ISBN:978-4-8399-6868-7
発売日:2020年05月29日
寺田氏が監訳した『Pythonハッカーガイドブック 達人が教えるデプロイ、スケーラビリティ、テストのコツ』が2020年5月に出版された。こちらは「初学者にはかなり難しい内容」(寺田氏)だというが、ぜひ本書でPythonの奥深さを感じ取っていただきたい。
[PR]提供:Pythonエンジニア育成推進協会