モデルベース・エンジニアリングまたはモデルベースデザインという言葉が頻繁に開発現場で使われるようになった。英語の頭文字をとって、MBEまたはMBDと言われることが多い(以下、MBEと呼ぶ)この手法は、もともとは防衛システムの構築のために、アメリカ軍が提唱した大規模システムの構築手法だ。MBEは多くの要素を含んでおり、近年話題になることも多いモデルベース・システム・エンジニアリング(以下MBSEと記す)は、MBEの一部分で、特にシステムを記述する部分を表している。デジタルツインという言葉も一般的になってきた。ここで言うツインは、そのまま双子のことを指すが、実設計とデジタルで表されたモデルが双子の関係として表現され、バーチャルでシミュレーションすれば実設計、実製品でどうなるかが解析できるというコンセプトである。
ではなぜ、MBEやMBSEが最近特に話題となっているのだろうか? MBSEでは、システムをモデル化し分割する。ソフトウェアの世界では、一部の変更が他に影響しないよう、カプセル化する技術が急速に発展した。モジュールやブロック単位で開発を行い、開発が終わった部分から次々にリリースするアジャイル開発が一般的な開発手法となっている。この流れはハードウェア開発にも適用され、さらにハードウェアを実際に試作する前にデジタルツインを利用することで、設計・試作のサイクルを削減し、サイクル時間を大幅に縮めることを可能とした。MBSEは、システムレベルでは抽象度の高いモデルを使い仕様の検証を行い、そこで成立していることが確認できた後にサブシステムレベルに分解し、今度はサブシステムレベルで検証を行う…というように、各段階で仕様と動作をシミュレーションにより検証しながらシステムを分解していく手法である。この方法により、システム設計のレベルでは、細部を気にせずに設計し、細部の設計段階では、システムレベルで決められた仕様を守ることでシステムレベルまで気にせずに設計することが可能になった。
ならば、究極的なMBEの価値はどこにあるのだろうか? 設計期間の短縮や信頼性の向上は、MBEの導入による効果だが、MBEの真の価値は、データによる定量的な意思決定を可能にすることにある。複数の組み合わせがある場合、最適な組み合わせをKPIにより決めていく必要があり、「いつもやっているから、これまでの経験から」といような定性的なものから、シミュレーションによる定量的なデータによって判断していくことがMBEにより可能になる。新しいシステムを作るときには、既存の経験やノウハウがない、または不足していることが通常だが、このような場合において、デジタルツインをバーチャルの領域で作成し、そこで検証をしていくことにより定量的な判断が可能となるのだ。MBEは、システム設計だけではなく、システムの検証と、さらに下流での詳細設計とその検証を含む。
新型コロナ感染症(COVID-19)のパンデミックは、人々の生活を大きく変容させ、世界の企業活動にも大きな影響を与えている。会社によっては、リモートワークを推進し、エンジニアは自宅から設計業務を続ける必要がでてきた。これまでも、業務効率の改善や、働き方改革の一環としてリモートワークはビジネス活動におけるテーマであり続けてきたが、今回のパンデミックはこの10年の動きを半年に縮めるような加速をもたらしている。毎日顔を突き合わせて、詳細設計をしているエンジニアがシステムのレベルを気にかけ、他のブロックの詳細設計をしているエンジニアとすり合わせをしながらの設計は困難になった。MBEは、リモートワークのような新しい働き方によくマッチしている。 MBEは、設計段階だけの話ではない。製品のライフサイクルを考えると、設計構想に始まり、設計、製造、市場、リサイクルまでが1つのライフサイクルとなる。MBEにおいては、設計のみならず、製造や市場に出てからも、データによる意思決定をサポートする。
MBEを実現するには、上流で行った設計や解析結果に基づいて次の工程でさらに詳細設計をすることが求められるが、例えばシステム設計の結果を見ながら回路図を再入力すると、入力ミスや時間と浪費など様々な問題が発生する。そこで、上流から下流工程、さらには製造工程まで、さらに、設計工程と検証工程をシームレスにつなぐ必要がある。このデジタルデータの流れをデジタルスレッドと呼ぶ。製品に対する要求仕様を作成したのち、各要求がどの工程で実現されているかという要求のトラッキングはMBEを実現する上で必須だが、これもデジタルスレッドが実現できてこそ、といえる。
これまで議論してきたように、MBEにおいては、設計がデジタルでシームレスにつながるデジタルスレッドと、バーチャルの領域でのデジタルツインと、その間を結ぶデジタルスレッドの3つが基本的な構成要素となっていることがわかる。今後、デジタルスレッドの実現のため、インタフェースの標準化が進むと思われるが、シーメンスおよびその傘下であるメンターは、MBEに対応するほぼすべてのソリューションを持っていることから、デジタルスレッドの構築に最も有利な位置にいると言えよう。
なおメンターは、MBEとそれを実現するデジタルツインの視点から、プリント基板設計向けのDDRxやSerDesにおける最新技術トレンドや、最新ソリューションを解説する「PCB Week 2020」ライブ・ウェビナー・シリーズを開催する。開催期間は、9月15日から18日までの4日間であり、毎回テクニカルなテーマに沿ったセッションが企画されている。機会があればぜひご参加願いたい。
[PR]提供:シーメンスEDA