パブリッククラウドにおけるストレージ刷新事例から学ぶ環境移行のチェックポイント
デジタルトランスフォーメンション(DX)が見据える領域は単なる“業務のデジタル化”に留まらず、デジタル技術を使ったビジネスモデルの変革にまで及んでいる。テクノロジーの進化によって、ビジネスで扱うデータは急激に増加しており、DXに取り組む企業にとってデータの蓄積・活用は不可欠なミッションとなった。そこで重要となるのがITインフラの整備、すなわち膨大なデータを効率的に管理するための仕組み作りだ。
本連載では、2019年12月10日に開催されたネットアップ主催の年次イベント「NetApp INSIGHT 2019 TOKYO」の講演やブース展示の内容から、DX時代に求められるデータ活用を実現するテクノロジーやソリューションを確認する。第1回となる本稿では『富士通パブリッククラウド、サービス無停止で全ストレージ刷新の舞台裏』の講演内容をレポート。富士通が運営するパブリッククラウドにおけるストレージ刷新の事例から、“業務に影響を与えない”データ移行のポイントをチェックしていく。
DXに必要な3つのキーメッセージと、実現に不可欠なソリューション
セッションの冒頭では、富士通株式会社 ストレージシステム事業部 第二OEMビジネス部 マネージャー 松村 忠氏により、富士通とネットアップが築き上げてきたOEMパートナーシップの歴史が語られた。1998年のOEM契約締結から21年間にわたってネットアップと連携してきた富士通は、OEM製品としてETERNUS NR1000 seriesを展開。これまで蓄積してきた豊富な経験やノウハウによる富士通独自の品質チェックに加え、官公庁や自治体などにおけるさまざまな導入・運用実績の元、顧客のシステムの早期立ち上げと安定稼働を実現してきたことが、数々の高い評価につながっているという。
富士通では「Human Centric Innovation:Driving a Trusted Future」をテーマに、DXの実現に必要な3つのキーメッセージを掲げている。
- カオス化する世界に信頼を取り戻す
- トラステッドなビジネスの共創
- トラステッドな未来を実現するテクノロジー
これらを実現するためには、トラステッド(信頼できる)エコシステムの形成と、ヒューマンセントリック(人間を中心とした)な組織作りにより、データから価値を創出することが重要と松村氏。デジタルビジネスプラットフォームに必要な要件として「高速処理」「クラウドインフラ」「大容量」を挙げた。松村氏は、富士通のストレージ「ETERNUS NR1000 series」とパブリッククラウドサービス「FUJITSU Cloud Service for OSS」の組み合わせが、これらの要件を満たすとし、本講演のメインテーマとなるパブリッククラウドのストレージ刷新事例へと話を繋げた。
ストレージに搭載されたvolume move機能でノンストップのデータ移行を実現
続いて登壇した富士通株式会社 クラウドサービス事業本部 クラウドストラテジー統括部 第一ビジネス戦略部 部長 谷内 康隆氏により、富士通パブリッククラウド ストレージ刷新事例の詳細が語られた。
富士通では2009年よりパブリッククラウドサービスを開始しており、現在は大きく分けて「FUJITSU Cloud Service for VMware」と「FUJITSU Cloud Service for OSS」の2つを提供している。特に後者はOpenStack テクノロジーをベースに、グローバルに展開しているトップベンダーの技術を積極的に活用。オンプレミスからの移行やハイブリッドクラウドの構築もスムーズに行えるように設計されている。富士通では自社の社内業務システムをクラウドに移行させるプロジェクトを進めており、既に7~800システムがFUJITSU Cloud Service for OSSで稼働しているという。
FUJITSU Cloud Service for OSSは、2015年9月よりサービス提供を開始し、現在東日本3リージョンと西日本3リージョンの6つの国内拠点で運用されている。東日本・西日本ともにリージョン3は新しいアーキテクチャーに刷新された第2世代で、今回は第1世代となるリージョン1、2のハードウェア更新時期に伴うプロジェクトとなる。パブリッククラウド環境のハードウェア更新(大規模データ移行)ははじめてで、オンプレミスの更新と比べてさまざまな課題をクリアする必要があったと谷内氏は語る。
「パブリッククラウドの導入で利用者が得られるメリットのひとつが『ハードウェアライフサイクルからの解放』ですが、サービスを提供するプロバイダ側は当然ながらハードウェアの更新を行う必要があります。多数の企業が利用しているパブリッククラウドでは、計画停止してからの移行という手法が取れないのが問題でした」
ストレージの刷新にあたって考慮しなければならない課題は多かったという。まずは利用者の業務に影響を出さずにデータ移行を行うこと。サービスが停止しないことはもちろん、レイテンシーが増加するなど性能にゆらぎが出ることも防がなければならない。さらにステージング環境ではパブリッククラウドの本番同等の規模、負荷の再現が行えずスケジュール予測が困難だったことや、ブロックストレージ(ベストエフォート型、性能確保型)とオブジェクトストレージが混在している複雑なストレージ構成なども、データ移行における課題となったと谷内氏。2018年から慎重にリスク調査とプランニングを行ったと当時を振り返る。
データの移行においては、種別ごとに最適な移行方式を選定したという。移行対象の大半を占めるブロックストレージでは、ETERNUS NR1000 seriesにも採用されているストレージ専用OS「ONTAP」に搭載された「volume move」機能を利用し、ノンストップでのライブマイグレーションを実現。クラスタが分かれていてvolume move機能が使えないオブジェクトストレージに関しては、OpenStack Swiftの機能を利用して無停止移行を実現したと谷内氏は語る。2019年2月から移行作業を開始し、ほぼ予定どおり10月末までにデータ移行が完了。サービスを利用している企業からのトラブル報告もなかったという。
谷内氏は、今回のストレージ刷新がトラブルなく完了した要因として、ONTAPのvolume moveを活用できたことに加え、ストレージシステム事業部やネットアップと連携して綿密なリスク調査と対処方法の検討を行ったことを挙げる。これまでのHDDとSSDハイブリッド構成からオールフラッシュ構成への切り替えが実現したことでサービスレベルが改善。レイテンシーは約1/4になった(加えてパフォーマンスの安定化も実現)。さらにボリュームごとのアクセス負荷の隔たりを平準化し、コントローラのCPU負荷も約2/3に軽減したという。オールフラッシュ化により、ストレージの故障が激減し、データセンターの面積も8割削減することに成功しており、運用コスト的にも大きなメリットが得られたと谷内氏は語る。
“ビジネスを止めない”データ移行のノウハウは、多様なシーンで活かされる
今回のセッションで紹介されたパブリッククラウドサービスのストレージ刷新事例では、サービスを止めない移行方法が重要となった。ビジネスの停止が深刻な損害をもたらす状況では、複雑化したマルチクラウド・ハイブリッドクラウド環境のデータ移行は慎重かつスピーディに行うことが求められている。本事例で得られたノウハウは、膨大なデータの活用が不可欠なDX時代にビジネスを展開する多くの企業にとって重要な気づきを与えてくれるはずだ。
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