2019年10月8日、法人向け通信サービスを展開する楽天コミュニケーションズが、同社のパブリッククラウドサービスである「楽天クラウド」のリニューアルを発表した。企業のクラウド利用の目的が、コスト削減・効率化から、俊敏性や柔軟性を持ったIT基盤構築へと変化してきたことを踏まえてのリニューアルだ。プラットフォームには「Red Hat® OpenStack Platform」と、「VMware NSX-T Data Center」が採用されている。
10月25日には東京・恵比寿で、この新クラウドサービスを紹介するセミナーが開催された。本稿ではこの内容をもとに、楽天コミュニケーションズがなぜRed Hat、VMwareを採用したのか、さらには新クラウドの技術的特長やユーザーにもたらされるメリットなどを紹介する。
顧客のDXを強力に支援するクラウドサービスを目指す
楽天グループでは国内外で70以上のサービスを展開し、それぞれ顧客データ、購買データ、消費行動データといった重要なデータ資産を蓄積しており、ブランド×メンバーシップ×データをビジネス戦略のコアとしている。
今回の新クラウドサービスは、それらの楽天グループ内で培われたノウハウや資産を法人向けサービスに活用し、ユーザー企業のデジタルトランスフォーメーション(以下、「DX」)を支援していくことを念頭に設計されている。現状はIaaSとしての提供に限られているが、将来的にはビッグデータや映像・画像の分析、シークレット管理、AIなどをSaaSとして提供することを視野に入れているという。
楽天コミュニケーションズ クラウドソリューションビジネス部 部長の山口 英治氏は、SaaSに注力する理由を次のように説明する。
「ビジネスを支えるシステムは、短期間に必要な機能や性能を必要なだけ利用できることが求められるようになってきました。このスピードに対応し、DXの価値をご享受いただくには、当社の既存サービスもIaaSのほかSaaSプラットフォームとして多くのパートナー様のソリューションを搭載いただき展開していくことが必要だと考えています。これらに楽天グループが持つノウハウやデータ資産を組み合わせることで、当社ならではのサービスにすることを目指しています」
下図は、楽天コミュニケーションズが目指すサービス体制だ。インフラからSaaSまで、幅広いサービスが準備中とされている。楽天グル-プのイントラネット用のデータセンターで利用されているネットワーク、サーバ、ストレージ、セキュリティポリシーを、楽天コミュニケーションズも共有できる構成になっており、ユーザー企業が得られるという付加価値もここから生まれる。
例えば、楽天はビッグデータから消費行動を分析し、マーケティングに活用するAIエージェントを2018年に開発しているが、楽天グループの店舗から収集・蓄積している実績データを利用して分析精度を上げ、SaaSとして提供していくことも検討している。楽天クラウドのユーザー企業は、確度の高いマーケティング分析結果という付加価値を享受できることになる。
また同社ではSaaSを展開するにあたり、マイクロサービスの可能性にも期待している。従来のようなモノリシック・アプリケーションに比べ、単一機能を持ったサービスをいくつも組み合わせるマイクロサービス・アーキテクチャを採用した方が、開発者の負担が抑えられ、各サービスへのニーズが高まったときのスケールアップ/アウトや、障害の切り分け、継続的なデリバリーもより容易になってくるからだ。
「DockerではOSを仮想化して、アプリやミドルウェアを部品化するという使われ方もしていますし、様々なサービスを呼び出すためのAPIも充実してきています。クラウドの普及により、ソフトウェア・ディファインド・ネットワーク(SDN)やサーバレス化も拡がってきました。こうした技術的な成熟・普及が進む中で、マイクロサービスに注力していくことは、我々のアドバンテージになると思っています」(山口氏)
世の中で求められる機能を、サービスに迅速に採り入れるために
楽天コミュニケーションズのこうした展望を支えるのが、今回採用された「Red Hat® OpenStack Platform」と「VMware NSX-T Data Center」だが、なぜこのソリューションが選ばれたのだろうか。
OpenStackは、クラウドインフラを構築するためのオープンソースソフトウェア(以下OSS)だ。特長としては、スケーラビリティを意識した疎結合なアーキテクチャ、様々な機能を持つコンポーネントをAPIで操作できること、ドライバやプラグインが豊富で外部コンポーネントとの連携が取りやすいことなどがある。
2010年に米 Rackspace社とNASAが共同開発プロジェクトを起ち上げて以来、開発はオープンコミュニティで行われており、全世界460社以上のエンジニアが、40万件以上の貢献をしてきたという。それだけ世に求められる新しい技術の投入や改善がOpenStackでは実施されているということだ。
つまりこれをプラットフォームに採用すれば、次々に登場する新しい技術や機能が自動的に「楽天クラウド」に取り込まれ、ユーザーのニーズに合わせたサービスを迅速・柔軟に提供することができることになる。さらにRed Hatが信頼性の高いサポートを提供していることも、採用の重要なカギとなっている。
「『楽天クラウド Red Hat® OpenStack Platform』は、DXを推進する中堅・中小企業のお客様および各種SaaSサービスプロバイダーを対象として提供する法人向けパブリッククラウドサービスです。『Red Hat® OpenStack Platform』を採用したことで、多くのお客様に高品質な開発環境を提供し、柔軟で拡張性の高いクラウドネイティブなインフラストラクチャーを構築していただけることになります。また楽天コミュニケーションズはRed Hatの認定クラウド&サービスプロバイダーとしての緊密な協業により、ユーザーが総運用コストを削減して、オープンソーステクノロジーに基づく真にオープンなハイブリッドクラウドを実現できる、新しい高付加価値サービスを提供できると確信しています」と山口氏は語る。
楽天コミュニケーションズ システム技術部 クラウドエンジニアリンググループ マネージャーの森本 信次氏は、採用理由を次のように語る。
「Red Hatは、将来性のあるOSSを厳選し、高い品質と手厚いサポートとともに市場に投入することで定評のある企業です。OpenStackについても開発コミュニティへのコミットの約20%が同社によるもので、OpenStackのエキスパート企業と言えます。そのRed Hatが厳選したOSSであれば、他のOpenShift、Ansible などのRed Hatの製品も含め企業ユースとして安心して採用できるという判断に結びつきました」
場所やハードウェアに依存しないクラウド時代のネットワーク
一方、ネットワーク仮想化プラットフォームとして採用された「VMware NSX-T Data Center」は、VMwareが「ヴァーチャルクラウドネットワーク」のコンセプトのもとに開発した製品だ。従来のネットワーク機器が担ってきた機能を仮想アプライアンスにすることで、ソフトウェアによるネットワークを迅速かつ柔軟に構築できる。
ハードウェアに依存したネットワーク(アンダーレイネットワーク)を最小限に抑え、その上にソフトウェアによるネットワーク(オーバーレイネットワーク)をつくることで、クラウド時代のネットワークが実現するという。
「必要なネットワークをボタン一つで仮想的に起ち上げ、不要になったら捨てることも可能です。また、これまでのネットワークは、場所に紐付いたゲートウェイでセキュリティを担保していましたが、VMwareのオーバーレイネットワークには、セキュリティもビルトインされており、マルチクラウドやハイブリッドクラウドなどの複雑なネットワーク環境においてもシステムやネットワークの変更または拡張をスピーディかつセキュアに実施することができます」(森本氏)
山口氏も「VMware NSX-T Data Center」のセキュリティを高く評価している。
「リージョン間のプライベート接続が可能で、マルチクラウドやハイブリッドクラウド、コンテナも含めた仮想環境を非常にセキュアに構築できます。GUIによるトラブルシューティング機能や、ベンダーフリーでの接続が可能なこと、他社製品に比べて多くの仮想マシンを集約できるというのもポイントでした」
また「VMware NSX-T Data Center」を導入したことで、楽天クラウドでは閉域モバイル接続が可能となり、ユーザー企業の社員は外出先からでも、社内のデータにセキュアにアクセスできる仕組みが整えられるという。
―― IaaSとしての俊敏性・柔軟性を備え、SaaSにより、楽天グループのシナジーによる大きな付加価値の提供を目指す楽天クラウドは、DXやビジネスの競争力強化を目指す企業にとって、注目すべきパブリッククラウドと言えるだろう。
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