アサヒビールやアサヒ飲料などを傘下に持つアサヒグループ。研究開発から調達、生産、物流、マーケティング、販売に至るまで、近年ではさまざまなイノベーションに取り組んでいる。こうしたなか、グループ各社に対してITサービスを提供しているアサヒビジネスソリューションズは、AIやRPAなどの新技術を活用したアサヒグループの新しい成長戦略を支援している。
今回は、アサヒビジネスソリューションズでグループ各社のRPA導入・運用業務を担当する内山 瑠以氏(所属、肩書は取材当時)に、アサヒグループにおけるRPAの活用状況と、RPAが果たすワークライフバランス実現に向けた可能性について話を聞いた。
導入から約1年でグループ企業4社に展開、156のロボットが稼働
アサヒグループ全体として生産性を向上し働き方改革を実現するうえで、RPAによる業務の自動化は必至だった。アサヒビジネスソリューションズは、RPAの製品選定の段階からUiPathの導入に携わったという。
選定理由について内山氏は「開発標準という視点で考えると、部品が豊富なUiPathは魅力的でした。すでにクライアント型のRPAを導入している事業会社もありましたが、将来的にサーバー型のRPAを導入してグループ全体で統合していきたいというニーズがあったので、ロボット処理を一元管理する『UiPath Orchestrator』の活用も見据えていました。コスト面に関しても比較したうえで、UiPathに決めました」と説明する。
導入はまずアサヒグループの管理・間接業務全般を担うアサヒプロマネジメント(APM)から開始し、PoCを実施しながらさらに各グループ企業へ展開していく流れで進めていった。現在はAPMのほか、アサヒ飲料、アサヒビール、アサヒホールディングスの計4社に導入されている。RPAの提案から実装までに掛かった時間は、半年〜1年ほど。ロボットの開発ペースも非常に早い。
「2018年の夏にAPMに導入し、2018年内にはほかの3社に展開しました。2019年8月末時点においてグループ全体で156のロボットが稼働しています。UiPathの拡張性の高さはもちろん、直感的に操作できる点は高く評価されています」(内山氏)
グループ全体で3万時間超の業務を削減、横展開でさらなる効率化を進める
特に事業の根幹となる販売業務におけるRPA導入の効果は抜群であった。内山氏によると、営業やマーケティング系業務は特に扱うデータ量が膨大で、データのダウンロードに時間が掛かってしまうことが課題だったという。そこで、データのダウンロードから、データの加工、終了時のメール発信までをロボットで自動化した。メールの通知が来れば、Excelシートにデータが整理されている状態になっている。
また、ロボットの導入台数がグループのなかで最も多いアサヒ飲料では、在庫のマイナスチェックを行ったり、補充量を管理したりと、多くの業務に日々RPAを活用している。物流業務は、営業やマーケティング系の業務と比較し、扱うデータ量自体は少ないが、処理の回数は圧倒的に多い。10分〜15分に1回はロボットが稼働している状態だという。
さらに同社では、各外部サイトからデータを収集、集計し、レポートにしたうえで本社・支社担当へ発信するという業務があったが、これもRPAによって自動化された。同レポートは担当者が従来1日から2日ほど掛けて作成していたというが、ロボットを使えば深夜0時から稼働させると翌朝にはレポート作成が完了しているようなスピード感で作業が進む。これによって提案資料の作成時間が減るだけでなく、支社への迅速な指示や情報共有にも繋がっている。
グループ全体のRPA導入効果について内山氏は「2019年8月末時点で、3万時間超の業務を削減することができました」と説明する。さらに物流・生産系などグループ内で共通のシステムを利用している一部の業務では、UiPath Orchestratorを活用し横展開を開始しているという。
「今後はほかのグループ会社にも展開し、さまざまな拠点や工場などでもRPAの活用を進めていきたいですね。そのために、私たちも開発の効率化や運用改善を進めていますが、まずは一度使ってみてもらわないとRPAの良さはユーザーに伝わらないと思っています。ロボットが動作する様子や他部署での活用事例を動画にまとめて発信したり、ポータルサイトを作成して各社の様子や動きをグループに共有したりしていくことで、今後さらにRPA活用のメリットを伝えていく予定です」 (内山氏)
ワークライフバランスを実現し、女性活躍にも一役買うRPA
アサヒグループでは、在宅勤務のトライアルを早期から開始して制度インフラの整備を進めたことも奏功し、結婚や出産を理由に退職する女性従業員の数が減少しているという。現在、グループ各社で在宅勤務が可能となっていることもその理由のひとつだろう。ワークライフバランスをさらに充実させるために、RPAはどう貢献できるだろうか。内山氏はRPA開発者の立場からこう答える。
「たとえば何らかのインプットをもとにアウトプットを作成して各担当に報告するような業務の場合、育児のために時短勤務を行う女性社員などは、インプットが遅れてしまうことで勤務時間内に業務を完了できないケースもあったようです。しかし、RPAによってそこを自動化できたことで、時短勤務内に外的要因で業務が間に合わない場合も、代わりにロボットが実行してくれるので、時間が来れば退社できるようになった、という話は聞いています。お子さんの都合で急な休みを取らなければならない場合にも、ロボットを活用することで柔軟に対応できます」(内山氏)
また、在宅勤務制度の活用が進んでいる状況においては、RPAのメリットがより活きてくる。アサヒグループでは、ほとんどの社員がモバイル端末を持っており、場所・時間に捉われず仕事ができるようになっている。内山氏のチームにも、同制度とRPAを活用して柔軟な働き方を実現しているメンバーがいる。
「開発担当のメンバーに時短勤務の社員がいますが、彼女は会社でロボットを稼働させておいて、帰宅後にその結果を確認するという仕事の進め方をしているようです。開発担当側としても柔軟な働き方ができるようになっていることを実感しています。PCに付きっきりになって働かなくてもよいということは、業務時間が限られている人にとってはRPAの一番のメリットになると思います。またロボットの稼働をスケジュールして自分の仕事配分を管理・調整することで、より働きやすくなると思います」(内山氏)
チームを開発と運用に分けることで、時短勤務でもロボットを開発可能に
アサヒビジネスソリューションズにおけるRPAの導入・運用業務は、内山氏をプロジェクトリーダーとして、開発チームと運用チームに分けた体制で進められている。内山氏は「もともとは開発と運用は一緒に進めていましたが、最近チームの立て直しを行い、業務の役割分担を見直しました。RPAの導入はシステムの開発・保守で案件を20本同時に進めているような感覚なので、チームメンバーの得意・不得意をみながら業務を割り振っています」と説明する。
RPAの開発チームへ異動する前は約8年間、情報インフラ部でサーバーやデータベースの設計・構築から保守運用を担当していた内山氏。その際に各関係者との調整を行っていた経験がいまの仕事にも活きているという。「人材と業務の特性をどちらもみなければならないという発想は、いまのチーム作りにも生きていると思います」(内山氏)
チームには、産休明けのため自宅でロボットの開発を行っている女性もいるという。また開発当初から、東京本社だけでなく大阪や名古屋の拠点でもロボットの開発が行われている。この背景について内山氏は「開発から運用まで一連で行おうと思うと、どうしてもユーザーとの接点が出てくるため、遠隔や在宅での対応は難しい面がありますが、開発だけに特化して担当するのであれば自宅での作業や開発拠点を分けることも可能です」と説明する。適切な体制を整えれば開発者の働き方を柔軟にできるという意味でも、RPAはワークライフバランスの実現に貢献しているといえるかもしれない。
最後に、RPAの活用を検討している企業へのメッセージを内山氏からいただいた。
「定例業務で時間が掛かっているものは基本的にRPAが活用できる場合が多いです。ただし、RPAの導入にあたっては定例業務をきちんと手順化して標準化しておくことが大前提。それさえできていれば、裏でロボットに仕事をしてもらうことで、自分のペースで仕事ができるようになるほか、新しいことにチャレンジするための時間が創出されます。自分のタイミングで休みたい人、時短勤務を利用している人、ほかの新しい業務に取り組む時間が欲しい人などには必須のテクノロジーではないでしょうか」(内山氏)
製品情報
本稿で取り上げたRPA製品の詳細は、下記UiPathのホームページよりご覧いただけます。
マンガで解説「UiPath RPA」
https://www.uipath.com/ja/rpa/robotic-process-automation
動画で解説「UiPath Orchestrator」
https://www.uipath.com/ja/product/orchestrator
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