AI、IoTなどデジタルテクノロジーの劇的な進歩によるイノベーション創出を背景に、近年では日本でも多くの企業が競争優位のための経営戦略として、DX(デジタルトランスフォーメーション)を進めようとしている。その多くが、AIとデータを起点とした改革だ。
そこで本記事では、AI・データ活用の分野で市場を牽引している、NTTデータ、インフォマティカ・ジャパン、DataRobot Japanの3社が集結。AI・データ活用における課題や将来像などについて、座談会形式で語り合った。
成功例を導き出すことが、AI・データ活用の実現に向けた第一歩
谷中 氏:現在、AI・データ活用に向けて積極的に取り組む日本企業が増えてきました。その内容についても、2年ほど前までは大半が現場のPoC(概念実証)レベルでしかなかったものが、現在は全社的な取り組みへと変化しつつあります。AI・データを取り扱う人材や活用スキルの不足、データ資産の不足や分散、データ自体の品質低下などの課題をクリアし、データ活用を起点とした意思決定、ビジネス変革を本気で実現しようとする企業が徐々に増えてきましたね。原沢さんはどんな風に感じていますか。
原沢 氏:確かにAI・データ活用という言葉自体は話題になっていますが、まだ“AIを本当に使いこなせている企業”がそれほど多くない印象ですね。問題点としてはデータ・サイエンティストの不足があると思います。
谷中 氏:やはりデータ・サイエンティストの不足は感じられているのですね。お客様と接していて、人材以外の面で気になる点などはありますか?
原沢 氏:人材よりもさらに基礎的な部分として、「AIでなにができるのか」「なにをしたいのか」という具体的なビジョンが見えていない企業が多いように思えます。「AIを活用しなければ取り残されてしまう」といったイメージや焦りが先行している感じですね。そもそも、そこにつけ込もうとしAIを謳っている企業はいっぱいありそうです。弊社では、それらの企業とは少し違ったアプローチをしていて、日頃からお客様に「実証実験やPoCはやめて、最初からビジネスに役立つものを作り上げましょう」「まずは目的やゴールがなにかを明確にしましょう」とご提案しています。これは単純にソフトウェアを提供するのではなく、AI・データをどのようにビジネスに役立て、お客様の“Success”につなげていけるかを最優先した結果です。実際、日本市場に進出して約3年で150社以上の大手企業のお客様に利用いただいている実績がございますが、いずれも実証実験やPoCではなく、あくまでもビジネスのゴールに向けたライセンスを購入していただいているお客様です。
吉田 氏:企業の中では、目的が手段に、その逆で手段が目的になってしまうことは多いですよね。でも、結局のところ「なにをしたいのか」が重要なわけです。 弊社でも、AI・データ活用を実現する上では“優れたAI”だけでなく、そのAIに取り込むための“優れたデータ”もまた必要不可欠という観点から、“AI needs Data, Data needs AI”をキーワードとしてビジネスに取り組んでいます。 目的やゴールが明確になっていれば、少人数・小規模のプロジェクトでもまったく問題はありません。まずは“ひとつの成功を導き出す”ことがなにより重要です。
谷中 氏:成功例をひとつ導き出せれば、そこから拡大・拡散ができますからね。ひとつの成功例から専門部署の立ち上げなどが始まり、様々な分析ニーズが集まってくるようになる。そうすると必要なデータをどうやって効率よく手に入れるかが重要になり、だんだんセルフ化・民主化が進む流れになっていきます。データ分析が日常的に行われ、文化として馴染んでいる企業でない限り、最初から全社的な取り組みを行うのは簡単ではありません。多くの企業の場合、ふだんの業務でそこまで分析に触れる機会が少ないので、まずは社内の体制も含めて変えていく必要があるということですね。
トップベンダーが語る”民主化”に向けての取り組み・重要性とは…
谷中 氏:AI・データ活用による全社レベルでのビジネス変革を進めるには、データ・サイエンティストのようなスキルを持っていないユーザーも育成すると同時に、業務部門においても扱いやすいデータの事前作成や、業務部門がセルフサービスでデータ活用ができることを組織の文化として根付かせ、成熟度を上げていくことが重要です。これが最近話題になっているAI・データの民主化ですね。
原沢 氏:AIが必要とするデータの観点でも、データの民主化による「必要なときに、必要なデータが、必要な人に行き渡る」という構図は、企業にとってまさに理想的です。最近ではベンダー側だけでなく、お客様側からもこの民主化というキーワードが出るようになってきましたね。 たとえばAIの機械学習を行う場合、従来は社外もしくは社内のデータ・サイエンティストに任せるしかありませんでした。そこで弊社では、アナリストなどのビジネスユーザーがシチズン・データ・サイエンティストとして、より簡単に扱える機械学習の自動化プラットフォームを提供することで、AIの民主化をサポートしています。
吉田 氏:AI・データの民主化に向けて、弊社では「3つの“I”プラスワン」でお客様をサポートしています。3つの“I”とは、まず不純物の多いデータを使える情報にするInformation、そして情報を扱いやすいように統合するIntegration、さらにAI活用で情報から新たなビジネス価値をもたらすIntelligenceです。これらを結ぶプラスワンとして、データインテグレーションベンダーのInformaticaがお役に立てれば幸いです。 民主化に対する取り組みといえば、NTTデータさんも部署を新設されましたよね?
谷中 氏:2018年4月にAI&IoT事業部を新設しました。お客様の民主化を支えるためには、AI・データに関するテクノロジーを事業に組み込んで変革を目指す姿を描く「コンサルティング」、複数のテクノロジーを組み合わせたデータ分析基盤やAI技術の導入、実装、AI・データ活用組織の立上げ支援を行う「インテグレーション」、そしてお客様組織の中でテクノロジー導入成果を最大化するための活用や人材育成を、お客様と共に並走して支援する「カスタマーサクセス」の3つが重要であると考え、これらをワンストップで提供できるのがAI&IoT事業部です。
テクノロジーの進化が民主化の追い風に
谷中 氏:このまま民主化が進めば、業種・業界を問わず、より多くの企業でAI・データ活用が加速していくはずです。データ・サイエンティストの不足に関しても、近年では大学でデータ・サイエンスを学べる環境が増え始めているなど、その歩みは着実に前進していると感じますね。テクノロジーの進化という点では、最近、3つ着目しているものがあります。1点目として、産業界では特に異常系のデータを中心に、少ないデータの中でどう精度の高いAIのモデルを作れるかが課題となっています。この課題を解決するために、Small Data(Big Dataの逆)という領域のR&Dが進んでいます。2点目はSmall AIと呼ばれるもので、エッジデバイスでの小さなAIをどう精度を劣化させずに動作させるかという技術開発が進んでいます。3点目はAIのモデルの運用で、最近では100や1000もあるモデルの精度を人手で維持するのは困難という課題も出てきています。機械学習ライフサイクルを自動化するMLOps(Machine Learning Operations)のような取り組みも、民主化を加速する要素のひとつでしょう。
原沢 氏:機械学習の自動化という観点では、時間の経過とともに劣化する予測モデルを最適なタイミングで自動的に評価・更新する、NTTデータさんの分析オペレーション自動化フレームワーク「AICYCLE®」など、すでに実用段階まで到達していますね。まだMLOpsがここまで有名でなかった2017年当時、実に画期的な取り組みだと感じたのを覚えています。 あとはIoTなどデータ収集の面でもさらなる自動化が進めば、より円滑なAI・データ活用が期待できそうです。
吉田 氏:弊社では約25年にわたり、データ活用をひたすらに追及してきました。今後はデータマネジメントの中でも特にデータガバナンスに注目し、企業のデータガバナンスを支援する機能を強化していく予定です。一方でDataRobotさんも、AI活用の分野におけるプロフェッショナルです。こうした私たちの技術力を最大限に活かすオーケストレーションとして、NTTデータさんの活躍には今後も期待しています。
谷中 氏:弊社としてもぜひ、AIとデータマネジメントでリーダーポジションに位置する両社と協業しながら、今後も引き続きテクノロジーと人材・組織の両面からお客様のAI・データの民主化を支援していきたいと思います。本日はありがとうございました。
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