少子高齢化に伴う労働力不足を解消する手段として、近年大きな注目を集めるRPA(ロボティクスプロセスオートメーション)。2019年2月14日に発表された矢野経済研究所の調査報告によると、2021年にはRPAの市場は100億円超の規模になると予想されている。 本稿では、2019年8月29日に開催されたウェブセミナー「失敗法則から導くRPA導入の方法論」の事例講演「製造現場による経験から学ぶRPA活用事例(東芝メモリ)」の内容を参考に、スムーズにRPAを導入するための方法と、具体的な導入効果について紹介する。
増加し続ける情報登録作業の負荷軽減の手段としてのRPAの活用
世界で初めてフラッシュメモリを開発した東芝メモリ。同社は2019年10月より、新社名「キオクシア株式会社」として新たなステージへの挑戦をスタートする。 そんな東芝メモリでは、「製品の高度化と生産規模拡大によって、システムに必要なマスタ(情報)を登録する作業に大きな 負荷が掛かる」という課題を抱えていた。これを解消するために、同社は「情報の一元管理とシステム間の情報伝達の整流化を行うシステムを構築し、登録作業の省力化と業務プロセスTAT(*1)の短縮を図る」ことを目標 として掲げ、その手段としてマスタ登録作業の自動化を検討することとなった。 ただし、作業を自動化するためには、(1)手動で必要なデータを集め、(2)登録できるように編集し、(3)間違いがないかを目視で確認して、(4)手動でシステムに登録するという手順を踏まなければならない。連携するシステムも多く、中にはブラックボックス化しているレガシーなシステムも存在している。これらをシステム化するには、検証作業も含めると膨大なコストと時間が掛かってしまう。そこで小川氏をはじめとするIT推進部が考えたのが「RPA技術の活用」だった。
*1 ターンアラウンドタイム(Turn Around Time):着手してからアウトップットが行われるまでにかかる時間。
3つのステップで導入パッケージを選定
現在、RPAに対する一般的な認識としては以下のようなものが挙げられる。
- PC上で人がやる作業を記録してノンプログラミングでロボットを作成
- 既存システムへの大きな変更点を必要としないため投資抑制が可能
- ノーミスによる作業品質の向上、処理スピード向上による業務効率化
これらの特徴を十分に活かすことができれば、大規模なシステム改修を行わずともマスタ登録作業の自動化を実現することが可能となるだろう。 ただ、現時点におけるRPAは黎明期のソリューションであり、パッケージベンダーのサポート体制は盤石と呼べる段階とはいえない。そこで小川氏らは、選定に万全を期すために、以下に挙げる3つのステップで調査を行った。
Step.1一次調査 市場シェアなどの情報を基に選定候補となり得るパッケージソフトと販売ベンダーをピックアップ。(主なチェック項目:製品機能、サポート体制、市場シェア、コスト)
Step.2二次調査(シナリオ検証) 一次調査を通過したパッケージソフトとベンダーについて、利用シーンを想定したシナリオによる機能確認を実施。
Step.3三次調査(最終評価) 一次、二次調査に加え、ミーティングなどから得られた情報を基に、57の評価項目で採点を実施。
最終的には、三次調査にて高得点を得たパッケージの中から、東芝グループ で導入が進んでおり経験による支援が得られる点も考慮され、導入パッケージが選定されることとなった。
RPA導入によりマスタ登録作業の負荷が大幅に削減
十分な検討を実施した上で導入された東芝メモリのPRA。しかし、すべてが順風満帆とはいかず、導入に際してはいくつかの「苦労」があった。 「ノンプログラミングであるとはいえ、初めての技術なので、スキルの習得にはそれなりの時間を要しました。また、外部も含めてエンジニアも少なく、情報の収集や問題の解決にも苦労しました」(小川氏) 運用体制の構築も手探り状態。対象システムの仕様変更でロボットが機能不全に陥ったり、ロボットへの作業指示を間違えたりと、初めてだからこそ起こった様々な苦労があった。また、前述したようにRPAは黎明期の技術であるため、ベンダーもSIerもRPA関連のエンジニアも少ないため、議題解決のノウハウ蓄積にも時間を要したとのことだ。
これらの苦労を乗り越えて導入したRPAによって、同社はマスタ登録工数を50%、登録TATを35%、それぞれ削減することに成功した。
これまですべて手動で行ってきた「データ収集」「編集」「チェック」「登録」のうち、「データ収集」と「チェック」の一部、および「登録」を自動化。
導入後にユーザーから挙げられた声では「省力効果」と「TAT短縮効果」、そして「抜け漏れ防止」に対して高い評価が寄せられた。一方で「データの一部だけを修正することができない」「一つの案件に対して複数人で並行作業することができない」など、柔軟性に対する課題の声が寄せられたとのことだ。 「利用者からは、非常に作業が楽になったとの声が届いています。ですが、柔軟性の課題については、今後の改善を検討する必要があるでしょう」(小川氏)
RPA導入にて得られた教訓
今回のRPAの導入を通じて、小川氏は以下のような教訓を得たそうだ。
●金融業や保険業での大規模な人員削減効果は、自社(製造業)には当てはまらない。スムーズなRPA導入を実現するためには、業務(ユーザー)側と一体になり、スモールスタートでの成功事例を積み重ねることが重要。
●RPA活用により見落としや誤入力などの人的ミスを防止できること。そしてRPAによって削減できた時間を、より高度な作業に利用し、業務の質を高め、生産性の向上を図ること。RPAの導入に際しては、この2つを優先することが大切。
なお東芝メモリでは、下図にある「3つのフェーズ」と「3つのアプローチ」をRPA推進活動として取り組み、業務の自動化を推進しているとのことだ。
「RPAを使っていく時には、コンプライアンスとセキュリティ、そして誤作動や誤処理による事故の回避を検討しておく必要があります」と小川氏は語る。そのための手段として以下に挙げた4点についての、統制が重要になるとのことだ。
- 導入統制(ガイドライン/ルール):ドキュメント統制、審査プロセス導入
- デリバリ統制)継続的デリバリ基盤):コードチェック、自動テスト、デブロイ
- 利用統制(RPA申請基盤):利用ボットのアサイン、稼働状況の把握
- 運用統制(分析・監視基盤):アクセスログ監視分析
「"時々、承認の作業までをRPAにやらせたい"という意見を聞きます。ですが、承認は人がやるべき作業です。もし自動化できるのなら、そもそもその承認自体が不要ということになります。人がやるべきこと、自動化しても問題ないこと、それを明確に分類する。それがコンプライアンスにも繋がります。今回紹介した私たちの経験が、皆さんの参考になれば幸いです」(小川氏)
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