2019年7月5日、ネットアップは、「次世代のIT基盤を考える-クラウドとオンプレミスの融合、その先をめざして-」と題したセミナーを、東京・日本橋で開催した。デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が求められる現代、ストレージ製品やデータ管理ソリューションの分野で世界有数の同社が、どのようなパートナーと手を結び、どのような方向性で、DX時代のIT基盤を推進しているのか、その内容を紹介する。
DXはすでに起きつつあり、問題は各企業・組織が「いつどのように進めるか」
セミナーは、南山大学 理工学部 ソフトウェア工学科 教授 青山 幹雄氏による、「DX(デジタル変革)とは何か ~『2025年の崖』を越えて、デジタル競争の勝者となるために~」と題した基調講演にて幕を開けた。
青山氏は冒頭「DXが起こるかどうかではなく、すでに起きつつあるもので、いつ、どのように推進するかが課題となっています」と語り、その背景を次のように説明する。
「レガシーなシステムを使い続ければ、2025年にはシステム運用のコストが企業予算の6割にもなってしまいます。また2025年にはいわゆる『2025年の崖』が存在し、それまでに国を挙げて変革を進めていく必要があるのです」
実際、ドイツのIndustry(Industrie)4.0や、アメリカでのIIC(Industrial Internet Consortium)設立などは、各国が力を入れて推進しており、日本でも昨年、経済産業省が青山氏を座長とする「DXに向けた研究会」を起ち上げている。
一方、民間からは、ライドシェアのUberやLyftなどが台頭してきた。これらは所要時間や最短ルートを割り出せる高度なデータ解析能力をコアとし、さらに「移動したい顧客」と「移動手段を持つ個人・組織」をマッチングすることでビジネスを成立させている。
新ビジネスを生むには、顧客視点で設計したシステム(SoE)が必要
「社会のほとんどのビジネスは、人と人、人と組織、組織と組織、システムとシステムを結びつけることで成り立っています。こうした結びつけを行うビジネスモデルを、データを活用し上手く実現したのがUberの配車モデルです」(青山氏)
Uberの例から言えるのは、製品・サービスを提供する事業者は、自社内からユーザーにいたるまで、エンド・ツー・エンドの接点を持つこと(コネクティビティ)が重要であるということだ。幅広く接点を持つことで、これまで気づかなかったことが見えるようになり、それが新たなビジネスを生むチャンスになる。
「例えば米大手銀行では、スマホアプリで顧客と直接つながることで、顧客のライフサイクルにわたって資金管理を支援する新たなビジネスを生み出したという例もあります。そのためには、従来のSoR(System of Records)、つまり記録を取るためのシステムではなく、SoE (System of Engagement)、顧客視点から設計されたシステムへの投資を増やしていく必要があるのです」(青山氏)
経営者、業務部門、IT部門が三位一体となってあたることが必要
青山氏はDXの成功事例に共通するのは、「DXを推進しようという、経営者の強いリーダーシップ」「業務部門の協力の下、デジタルを活用して業務を(再)設計すること」「IT部門のサポート」の3点にあると分析する。
「経営者、業務部門、IT部門(IT基盤)が、三位一体になることが重要です。DXは企業そのものの変革でもありますから、すぐには成果が出ないかもしれませんし、失敗することもあるかもしれません。それでもDXへの移行を継続できる企業文化を育てることが必要でしょう。日本企業のいいところは、チームワークがあるということです。DXへと方向性を変えるのは難しくても、一度、変わってしまえばそこに向かって突き進んでいくチーム力があると、私は期待しています」と、講演を締めくくった。
ハイブリッドクラウド環境でのAI利用を現実のものとする、FlexPod AI
続いて登壇したシスコシステムズの葛貫 信次氏からは、「シスコのHybridCloud・AIの取組みとFlexPodAIのご紹介」と題し、同社のハイブリッドクラウドおよびAIへの取組みや新製品である「FlexPod AI」が紹介された。
FlexPod AIのベースとなっているFlexPodは、サーバーとしてCisco UCS、スイッチにはCisco Nexus、ストレージはネットアップ製品、そして管理ツールがパッケージ化されたハイパーコンバージドインフラストラクチャ(HCI)で、発売から10年が経ついま、市場の中で最も支持されている製品だという。
葛貫氏は「『オンプレミス(プライベートクラウド) vs クラウド』という考え方ではなく、双方の利点を活かせるハイブリッドクラウドが、これから目指すべき所ではないか」と強調する。
つまり大手パブリッククラウドが提供しているサービスの中から、必要な機能・性能を持ったサービスと、オンプレミスに置いたデータおよびアプリをAPIで連携させて使うという方法だ。
特にFlexPod AIでは、こうしたハイブリッドな環境を構築することに適し、近年注目を集めているオンプレミスのAIサービスに特化していることが特徴だ。シンプルでパワフルかつ、フレキシブルな環境をFlexPodの中で実現することを目的に設計されている。GPUはMLに必要なパワーを確保するためにNVIDIAの新製品V100を8個搭載、メモリはDIMMに加え3D XPoint、記録メディアはHDD、Flash、さらにNVM Express (NVMe) にも対応している。
シスコでは、用途に応じたそれらの適切な組み合わせサポートや、動作検証済みの各種AI/MLソリューションの提供も行っており、ハイブリッド環境でAI活用を進めるのに心強い味方となってくれそうだ。
ユーザー視点から開発されるネットアップのデータ管理サービス
続いて登壇したのはネットアップの井谷 寛氏だ。「ハイブリッドクラウド環境を実践するNetApp既存インフラの限界と次世代インフラに必要なもの」と題し、同社が提供する、ハイブリッド環境でのデータ管理ソリューションについて解説を行った。
まずは昨今広く利用されるようになったKubernetesに焦点を当てた「Kubernetes Service」だ。各ハイパースケーラー(AWS、Azureなど)の認証情報を登録しておけば、クラウド上に簡単にKubernetesのクラスタをつくれる。また、オンプレミスにあるネットアップ製HCIに置かれたKubernetesの制御も行えるので、ハイブリッド環境での活用が容易となる。
管理ツールとしては「Cloud Insight」が提供されている。複数のサービスを利用するハイブリッドおよびマルチクラウド環境では、障害発生時、原因究明に手間取ることが予想されるが、Cloud Insightがそれを容易にしてくれる。監視ツールとしてだけではなく、インスタンスの起動時間やサイズ、CPU使用率、課金情報など、多彩な切り口でクラウドインフラを分析できるため、コストの予測・削減にも役立つ。
同社のソリューションは、そもそも自社がハイブリッド環境を利用するにあたって「足りない」と感じた部分を補うために開発されたもので、それだけにユーザー目線から生まれた、“痒いところに手が届く”内容のものになっていると言えるだろう。
仮想環境構築の柔軟性を高める、VMware Cloud on AWS
最後に登壇したヴイエムウェアの奥村 奈緒美氏からは、「注目!VMware Cloud on AWS の最新情報と主なユースケースのご紹介」と題し、「VMware Cloud on AWS(VMC)」について紹介が行われた。
これはAWSが提供するベアメタル上に、vSphere、NSX、vSAN(サーバー、ネットワーク、ストレージ仮想化のコンポーネント)を搭載した、ホスト専有型のクラウドサービスだ。ユーザーの既存環境がvSphereで構築されていれば、アプリやデータの相互移行、AWSサービスとの連携が容易に行える。
「一貫性のあるアーキテクチャによる、一貫性のある運用が可能なのがVMCのメリットです」と、奥村氏は言う
オンプレミスとVMCとの接続方式には、通常のインターネット接続のほか、IPsec-VPNやAWS Direct Connect、VMware Hybrid Cloud Extensionなどが用意されており、ユーザーの要望・要件にあったものを選べるようになっている。
ユースケースはデータセンターの拡張や、既存環境のクラウド移行が多いとのことだが、その移行方法にも従来のvMotionの他、2方式があり、自由度が高い。現在はダウンタイムゼロで、仮想マシンの大規模な移行を可能にするCloud Motion with vSphere Replicationのプレビューも進められているという。
奥村氏からは大容量ストレージオプションや、AWS Direct ConnectとVPNによる接続回線冗長化などの新機能も紹介された。さらに、ネットアップとはCloud Volumesから切り出したボリュームを、VMCに割り当てて管理・運用する機能連携も予定されているという。
セミナー終了後には、参加者から登壇した各氏に質問が寄せられ、DX時代のビジネスやIT基盤に対する関心度の高さが感じられた。クラウドファーストな現在、パブリッククラウドに注目が集まりがちだが、オンプレミスやプライベートクラウドのメリットを見直し、それらとパブリッククラウドのハイブリッド構成を目指すことが、DXへの確実な近道と言えるかもしれない。
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