筑波大学 理工学群 社会工学類はグローバルビジネスに通用するデータサイエンティストの育成に力を入れており、その趣旨に賛同するSAS Japan、有限責任監査法人トーマツ、ウエルシア薬局の3企業が同校の支援を行っている。
同校ではSASの分析ツールを活用した「ビジネスデータ分析コンテスト」を毎年実施しており、本年も優秀チームの表彰とプレゼンテーションが2019年2月12日、SAS Japanオフィスにて開催された。本稿ではその模様をレポートする。
学生チームが現実の企業の課題発見と解決に取り組む、マネジメント実習
イベント冒頭、筑波大学 理工学群 社会工学類 准教授の岡田 幸彦氏が登壇。社会工学のコンセプトについて「社会問題×数理的アプローチ=ソリューション力」と説明し、なかでも経営工学主専攻は「数学力、IT力、現場力を身につけた科学的社会人の育成がミッション」であると語った。
同校はその中でも"現場力"を磨くための場として、日本初の産学連携実習であるマネジメント実習を実施しており、SAS Institute Japan、ウエルシア薬局、有限責任監査法人トーマツがこれに協力している。
マネジメント実習では毎年、学生がチームを組んで現実の企業の課題発見と、データを用いた解決に取り組んでいる。3回目となる本年度も、SASの分析ツール・環境を用いて、ウエルシア薬局140店舗×3年分の実際のデータから分析を行った。
学生たちに課せられたミッションは、「ウエルシア薬局の茨城県内店舗の合計粗利/年を最大化することに貢献する来年度の事業計画」を考えること。
班ごとにレベニュー・グロース(最適販売戦略)かオペレーティング・レバレッジ(無駄撲滅)の2部門から選択して、課題の特定とデータ分析による解決を試みた。
マネジメント実習がスタートしたのは10月。まず有限責任監査法人トーマツのデータ分析の専門家が集まる組織であるデロイトアナリティクスが、課題解決に向けたアナリティクスについての講義を行い、学生たちは課題を共有。その後、ウエルシア薬局の現地調査を経て11月に中間プレゼン。さらにPOSデータの解析を行い、最終プレゼンを12月に行った。その結果、約50名の学生から選ばれた6班が今回の表彰&発表会に招かれたというわけだ。
この日、発表された各賞は、総合優勝となる「筑波大学サービス工学大賞」に加えて、「デロイトアナリティクス賞」が2チーム、「ウエルシア賞」が3チーム、「SAS Institute Japan賞」が2チームである。
表彰式後、入賞を果たした各チームは分析内容をウエルシアホールディングス株式会社 業務部長 小沼 健一氏に向けてあらためてプレゼンテーション。その内容について小沼氏から詳細なフィードバックが送られた。
これは単に分析・提案をして終わるコンテストや授業とは一線を画しており、企業が支援しているからこそといえる。データサイエンティストを目指す学生にとっては、在学中から本物のビジネスの視点を学ぶことができる良い機会である。
総合優勝は、「欠品」を定義し、それをなくす解決策を提案
筑波大学サービス工学大賞(総合優勝)
●テーマ「欠品」
POSデータから「それまで売れていたのに、あるとき急に売れなくなっている商品」に着目し、これを欠品と定義。欠品をなくすための解決策も合わせて提案。
講評
ウエルシアホールディングス株式会社 業務部長 小沼 健一氏:
欠品状態を数学的に定義した上で、減らすための提案も具体的理論で導き出した。ユーザである我々にとってその提案も決して突飛でなく、実現可能性を十分に感じさせるものである。
有限責任監査法人トーマツ・ デロイトアナリティクス マネジャー 前嶋 陽一氏:
このモデルは昔から難しい問題。データで最適化していこうという流れは10年くらい前からあるが、グループを作って融通し合うというのは、大きな打ち手の一つで良い案。
SAS 製薬・流通営業本部 本部長 岡 克彦氏:
小売業の永遠のテーマに鋭く切り込んだ。SASも同じようなテーマでお客様にご提案しているが、それに負けないくらい良い内容だった。
SAS Institute Japan賞①
●テーマ「チラシ」
広告戦略の無駄削減を目指して地域に根ざしたチラシを提案。店舗同士の距離や周辺情報などを加味して売上との関係を調査し、地域の特性ごとにチラシの内容を変える。
講評
ウエルシアホールディングス株式会社 業務部長 小沼 健一氏:
チラシの効果とかかるコストのバランス、また変化していく地域事情への対応、特に広範囲に展開する小売業にとって悩ましい問題であり、これらへのしっかりした提案である。
SAS Institute Japan賞②
●テーマ「新規出店」
今後出店する際はどこにどんな形態で出店するのがベストなのか。地域の人口特性や最寄り駅からの距離、営業時間などの要素をもとに開店に向いた場所と店舗形態を考案。
講評
ウエルシアホールディングス株式会社 業務部長 小沼 健一氏:
提唱された地域は、土地勘がある我々も注視していた。多様なデータと分析を駆使した提案であり、その手法は本件のようなテーマにも十分応えられることを証明したと言える。
デロイトアナリティクス賞
●テーマ「男性化粧品の適正割引率」
最近市場が急成長しているという男性化粧品に着目し、最適な割引を考えることで粗利の最大化を目指した。分析では年齢層が高くなるほど割引率の高いものが売れるという結論を導き出した。
講評
ウエルシアホールディングス株式会社 業務部長 小沼 健一氏:
複数のマーケットデータからPOS単品データまで丁寧にドリルダウン
した。データ分析の基本に忠実に行動したことで、強い説得力を得たといえる。
ウエルシア薬局賞①
●テーマ「テスター」
店舗に設置してあるテスターが粗利にどれほど効果的なのかを分析し、粗利最大化を目指した。
講評
ウエルシアホールディングス株式会社 業務部長 小沼 健一氏:
テスターという、本来は販売促進コストに着目したことに驚きを隠せない。今後業界として踏み込める要素を多分に感じさせる、たいへん参考になる提案である。
ウエルシア薬局賞②
●テーマ「高齢社会」
調剤薬局のインフラとしての役割という視点から、ウエルシア薬局の戦略を提案した。特に提携中のTポイントの還元率が上がるシニアズデーに注目し、これが粗利に与える影響を分析。高齢者の顧客をより取り込み、粗利を最大化する戦略を立案。
講評
ウエルシアホールディングス株式会社 業務部長 小沼 健一氏:
既存の販売促進策について、SAS社の分析ツールを駆使し多様な角度から効果を検証し、一定の方向性を提案したことは、実務に十分応えるものである。
商品を買う人、売る人の思いがPOSデータに
全員の発表を終え、ウエルシアホールディングス株式会社の小沼氏は、改めて今回の取り組みを振り返り総評を行った。
「ドラッグストアに従事する我々は、薬の販売からスタートした、地域のお客様の要望に応え続けてきた商店の集合体です。我々で生み出されるPOSデータは単なる数字の羅列ではなく、商品を買う人、売る人の思いが込められています。そう考えると、データの取り扱いも、必然的に変わってくるのではないでしょうか。」
実店舗のリアルなデータを用いたアナリティクスにより、課題を発見・解決するという今回の取り組みは、未来のデータサイエンティストである学生たちが社会で活躍するための基礎となるはずだ。
[PR]提供:SAS Institute Japan